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不機嫌な王子の扱い方 2 〜メイソン〜
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「私の話す内容が頭に入らないようでしたら意味がありませんので、今日はもう終わりにしましょう。」
束になった書類をバサリと机に置いて、突っ伏している王子を見る。
王子は突っ伏したまま私を見上げて睨んだ後、すぐに目を伏せて黙り込んでしまった。
王子は日々の勉強に加え、最近では週に2日程、国王の行う公務や執務内容等を教え込まれるようになり、その担当を私が任されたのだ。
ーーこれは、もう無理かな。
そう思い、机に散らばった数枚の紙を纏めていると、王子がムクッと体を起こして椅子に座り直した。
「…………やるよ。」
私の手から纏めた書類を奪い取ると、眉間に皺を寄せながらパラパラとめくり始める。
「…………最初からやる気を見せていただかないと迷惑なんですけど。やるからには、こっちに集中してくださいね?」
「…………いつも、ちゃんとやってんだろうが。」
私の冷ややかな視線に、王子はジロリと睨んで返す。
ーーそうなのだ。この王子、態度こそ悪いが、いつも私の話しをちゃんと聞いている。
なんなら、執務内容に疑問を感じれば、自ら質問してくるくらいなのだ。
王子に勉強を教えている他の教師達も、皆同じ反応だった。
"真面目に授業を聞く優秀な生徒です"
と。
私が不思議そうにみているのに気付いて、王子が眉間に皺を寄せる。
「なんだよ。」
「…………いえ、その太々しい態度とは違って、いつも授業は真面目に聞いておられるので感心していたのですよ。」
「感心している顔じゃあ無かったけどな。」
王子はジロリとまた私を睨んでから、手元の書類に目を移した。
「…………どうせ、俺はもう、ここからは逃げられないんだろう?だったら最大限それを利用するまでだ。利用するには、それを十分に理解しておかないとな。俺が優秀であればあるほど、誰も文句を言えなくなる。」
"そうして、俺がユーカを守るんだ"
王子から、そんな意志がひしひしと伝わってくる。
真剣に書類に目を通す王子を見て,私は、ふといつだったかユーカと会話した内容を思い出した。
あれは、まだ王子とユーカが城に来て間もない頃。
当初からユーカにベッタリとくっついていた王子の姿を見かねて、私がついユーカに口出しをしてしまった時のことだ。
「あまりにベタベタされて迷惑なら、ちゃんと言った方がいい。」
ユーカがエマと2人で散歩しているところを捕まえて私がそう言うと、ユーカは眉尻を下げながら首を横に振った。
「迷惑なんて、思ったことないです。……だってあれは、サイラスが私の為にしてくれていることだから。」
「ユーカの為?」
私は意味が分からず首を傾げる。
そんな私を見て、ユーカは微笑みながら頷いた。
「森に居た頃は、こんなにもサイラスがベッタリ私にくっ付いてた、なんて事ありませんでした。……きっと、サイラスは私に居場所を作ってくれているんだと思うんです。ただの、ちんちくりんな幼女が、それでもサイラスには……王子には必要な存在なんだとアピールして、このお城に居る理由を与えてくれているんです。」
ユーカの言葉を聞いて、私は目を丸くしたのを、今もハッキリと覚えている。
この少女は、まだこんなに幼いというのに、そんな事を考えていたのか、と。
「王子が私なんかにベッタリしている姿を見て、メイソンさんに不快な思いをさせているんだったら本当にごめんなさい。」
私が愕然としているのを見て、何を勘違いしたのか私が怒っていると思ったユーカは、何度も頭を下げて謝っていたのだが、それを、今ふと思い出したのだ。
私の視線に気付いた王子が、私を見て再びジロリと睨む。
「何ジロジロ見てんだ。さっさと始めろよ。」
この、ユーカ以外どうでもいいというような王子の態度の悪さにも、最早イラつく事さえ無くなった自分に、思わず苦笑する。
慣れとは恐ろしいものだ。
どんなに機嫌が悪くても、ユーカの為に勉強しようとしている王子の姿を見て、微笑ましいと思うなんて。
「そうですね。では、さっさと始めましょうか。」
私はニッコリと笑って書類を手に取ると、内容説明を再会した。
私が話し始めると、王子の目つきが変わり、真剣に聞く体勢になる。
そんな王子に、私は目を細め、改めて心の中で強く誓った。
ーーこの不機嫌な王子の為に…………お互いを強く想い合う王子とユーカの為に、私は全力でチカラになろう、と。
束になった書類をバサリと机に置いて、突っ伏している王子を見る。
王子は突っ伏したまま私を見上げて睨んだ後、すぐに目を伏せて黙り込んでしまった。
王子は日々の勉強に加え、最近では週に2日程、国王の行う公務や執務内容等を教え込まれるようになり、その担当を私が任されたのだ。
ーーこれは、もう無理かな。
そう思い、机に散らばった数枚の紙を纏めていると、王子がムクッと体を起こして椅子に座り直した。
「…………やるよ。」
私の手から纏めた書類を奪い取ると、眉間に皺を寄せながらパラパラとめくり始める。
「…………最初からやる気を見せていただかないと迷惑なんですけど。やるからには、こっちに集中してくださいね?」
「…………いつも、ちゃんとやってんだろうが。」
私の冷ややかな視線に、王子はジロリと睨んで返す。
ーーそうなのだ。この王子、態度こそ悪いが、いつも私の話しをちゃんと聞いている。
なんなら、執務内容に疑問を感じれば、自ら質問してくるくらいなのだ。
王子に勉強を教えている他の教師達も、皆同じ反応だった。
"真面目に授業を聞く優秀な生徒です"
と。
私が不思議そうにみているのに気付いて、王子が眉間に皺を寄せる。
「なんだよ。」
「…………いえ、その太々しい態度とは違って、いつも授業は真面目に聞いておられるので感心していたのですよ。」
「感心している顔じゃあ無かったけどな。」
王子はジロリとまた私を睨んでから、手元の書類に目を移した。
「…………どうせ、俺はもう、ここからは逃げられないんだろう?だったら最大限それを利用するまでだ。利用するには、それを十分に理解しておかないとな。俺が優秀であればあるほど、誰も文句を言えなくなる。」
"そうして、俺がユーカを守るんだ"
王子から、そんな意志がひしひしと伝わってくる。
真剣に書類に目を通す王子を見て,私は、ふといつだったかユーカと会話した内容を思い出した。
あれは、まだ王子とユーカが城に来て間もない頃。
当初からユーカにベッタリとくっついていた王子の姿を見かねて、私がついユーカに口出しをしてしまった時のことだ。
「あまりにベタベタされて迷惑なら、ちゃんと言った方がいい。」
ユーカがエマと2人で散歩しているところを捕まえて私がそう言うと、ユーカは眉尻を下げながら首を横に振った。
「迷惑なんて、思ったことないです。……だってあれは、サイラスが私の為にしてくれていることだから。」
「ユーカの為?」
私は意味が分からず首を傾げる。
そんな私を見て、ユーカは微笑みながら頷いた。
「森に居た頃は、こんなにもサイラスがベッタリ私にくっ付いてた、なんて事ありませんでした。……きっと、サイラスは私に居場所を作ってくれているんだと思うんです。ただの、ちんちくりんな幼女が、それでもサイラスには……王子には必要な存在なんだとアピールして、このお城に居る理由を与えてくれているんです。」
ユーカの言葉を聞いて、私は目を丸くしたのを、今もハッキリと覚えている。
この少女は、まだこんなに幼いというのに、そんな事を考えていたのか、と。
「王子が私なんかにベッタリしている姿を見て、メイソンさんに不快な思いをさせているんだったら本当にごめんなさい。」
私が愕然としているのを見て、何を勘違いしたのか私が怒っていると思ったユーカは、何度も頭を下げて謝っていたのだが、それを、今ふと思い出したのだ。
私の視線に気付いた王子が、私を見て再びジロリと睨む。
「何ジロジロ見てんだ。さっさと始めろよ。」
この、ユーカ以外どうでもいいというような王子の態度の悪さにも、最早イラつく事さえ無くなった自分に、思わず苦笑する。
慣れとは恐ろしいものだ。
どんなに機嫌が悪くても、ユーカの為に勉強しようとしている王子の姿を見て、微笑ましいと思うなんて。
「そうですね。では、さっさと始めましょうか。」
私はニッコリと笑って書類を手に取ると、内容説明を再会した。
私が話し始めると、王子の目つきが変わり、真剣に聞く体勢になる。
そんな王子に、私は目を細め、改めて心の中で強く誓った。
ーーこの不機嫌な王子の為に…………お互いを強く想い合う王子とユーカの為に、私は全力でチカラになろう、と。
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