神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです

珂里

文字の大きさ
上 下
72 / 73

毎日が幸せなんです

しおりを挟む
そよそよと穏やかな風が吹き抜ける庭の木陰で、私は先程届けられた手紙を読んでいた。

バッサリ切ってしまった髪も、今ではすっかり長くなり、サラサラと風に靡いている。


コトネオールから戻った私は、お父様、お母様からの溺愛&過保護ぶりが加速して、暫くはなかなか家から出して貰えない日々が続いた。

まあ、ラントおじ様やエリーゼおば様、お祖父様やお祖母様達が引っ切り無しに会いに来てくれていたから、どっちみち出掛けられなかったと思うけどね。


リスターも成人してからはウチに住むようになっていたし。

勿論、部屋はまだ別々だけど。
結婚するまではね!!

リスターはお父様について、領地運営とか色々勉強しているみたい。

あ、成人してから正式に騎士団にも入団したんだよ!


リスターが優秀過ぎてヤバイ。


龍斗さんは相変わらず私の護衛として側にいてくれている。

コトネオールで、ずっと私を守ってくれていた龍斗さんに対するお父様とお母様の信頼度がハンパなくて。

「アヤナを任せられるのはリュートしかいない。」

って、なんか龍斗さんに嫁に出すみたいな言い方をお父様がするものだから、リスターがちょっと……かなり嫉妬していたけどね。

龍斗さんは龍斗さんで、私の嫁入り道具だって言っていたのは本気だったみたいで、このまま独身で私の側にいるって断言していた。

「彩菜とリスターの子供が産まれたら、子守もしてやるよ。」

元気な子を産めよ~って笑っている龍斗さんを見ていると、そんな未来も幸せかもなぁって思う。

龍斗さんが思い描く幸せな未来に、私と私の家族がいる事が嬉しいから。

「いっぱい産むからよろしくね!」って言ったら、龍斗さんは嬉しそうに目を細め、いつものように私の頭をガシガシと撫でてくれた。



「手紙、なんだって?」


不意に声をかけられ、後ろを振り返る。

ストールを手にしていたリスターは、私と目が合うと柔らかく微笑み、肩にストールを掛けてくれた。

そして隣に座り、私の腰を優しく抱くと頬にチュッとキスをする。


「コトネオールでの事、悪かったって。リスターと末長くお幸せにって書いてあるよ。」


「ふん、何それ。言われなくても、ずっと幸せに決まってるし。ねえ?」

「あははっ。そうだねー。」


テックから届いた手紙。

これはコトネオールを去ってから初めての手紙だ。


こっちに戻ってきた事は、多分お父様かラントおじ様が報せてるはずだけど、あれから向こうからは何も連絡は無かった。


もうすぐ私が成人するので、リスターと結婚するとパルラに手紙を書いたのは少し前の事。

そして今日、パルラのお祝いの手紙と共に入っていたのは、テックからの手紙。


それは謝罪とお祝いの言葉だった。

何度も何度も書かれていた謝罪の言葉にテックの気持ちが込められていて、涙がこみ上げてくる。


もういいんだよ。

2度と会う事は無いかもしれない。けれど、今でもテックは私の大事な友達だから。

いつか、また手紙を書こうと思う。


しんみりしていた私の頭を、リスターがそっと撫でてくれる。

愛しそうに私を見つめて微笑むリスターに、私は飛び切りの笑顔を向けて抱きついた。

「ねえリスター。私は今、毎日がとっても幸せだよ。」

「ふふっ。僕もだよ。アヤナさえ側にいてくれれば、それだけでこれからも、ずっとずっと僕は毎日幸せだから。」


リスターは、いつも私に沢山の愛を伝えて、そして与えてくれる。

私も、リスターに沢山の愛を伝えたい。


抱き締め返してくれているリスターを、私は更にギュッと抱き締めた。


「おーい、お前らー。いつまでそこでイチャイチャしてるんだよ。フローラさんが呼んでるぞー。」

玄関の方から、龍斗さんが大きな声で私達を呼ぶ。

「やれやれ、しょうがないな。」

リスターが残念そうに肩を竦め、立ち上がった。

「アヤナ、行こう。」

「うんっ!」

リスターが差し出した手をしっかりと握り、私も立ち上がる。


手を繋ぎリスターと並んで歩き出した私の頬を、穏やかに吹く風が優しく撫でて通り過ぎていく。



『彩菜』

懐かしい声に呼ばれた気がして、私は立ち止まり空を見上げた。


「どうしたの?」

急に立ち止まった私に、リスターが不思議そうに首を傾げる。

「今、声が……。」

「声?」

「……ううん、なんでもない。」

私は空を見上げたまま、手のひらを空に伸ばした。



ーーパパ、ママ。私は幸せだよ。



心の中で、そう報告をして。



ジッと見守ってくれていたリスターと、私は再び歩き出した。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話

みっしー
恋愛
 病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。 *番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

魔力を持たずに生まれてきた私が帝国一の魔法使いと婚約することになりました

ふうか
恋愛
レティシアは魔力を持つことが当たり前の世界でただ一人、魔力を持たずに生まれてきた公爵令嬢である。 そのために、家族からは冷遇されて育った彼女は10歳のデビュタントで一人の少年と出会った。その少年の名はイサイアス。皇弟の息子で、四大公爵の一つアルハイザー公爵家の嫡男である。そしてイサイアスは周囲に影響を与えてしまうほど多くの魔力を持つ少年だった。 イサイアスとの出会いが少しづつレティシアの運命を変え始める。 これは魔力がないせいで冷遇されて来た少女が幸せを掴むための物語である。 ※1章完結※ 追記 2020.09.30 2章結婚編を加筆修正しながら更新していきます。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...