神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです

珂里

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変装してみました

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空は青く澄み渡り、よく晴れている。

青空に浮かぶ雲を見ながら、私は窓枠にもたれかかり、ボーッとしていた。

「……綿菓子食べたいな~。」

「こっちの世界には綿菓子なんてないからなぁ。」

ボソッと呟く私の横から、龍斗さんがひょこっと顔を覗かせて空を見上げる。

「ないと思うと、余計に食べたくなるんだよね~。」

窓枠にもたれかかって項垂れる私の髪が、風に揺れてサラサラと靡く。

陽の光を浴びてキラキラと眩しい私の髪は、黒色ではなく、今は金色に染まっていた。

龍斗さんが眩しそうに目を細めて、私の頭をガシガシと撫でる。

「後ろから見ると、全く誰だか分からねえなぁ。」

「アハハッ。そう言う龍斗さんだって金髪じゃん!一見しただけじゃあ龍斗さんだって分からないよ~!」

「彩菜は髪もバッサリ切っちまっただろ。後ろ姿は完璧な男の子だぜ?」


ーーそうなのだ。私は髪を金色にしただけでなく、腰まであった長さをショートにまで切ってしまったのだ。

ズボンを履いて、胸の膨らみが分からないように上に少し大きめのシャツを着てしまえば、女の子には見えないだろう。


……自分の女子力の無さに泣けてくる。


「リスターに嫌われないかなぁ。」

短くなった後ろの髪の毛を弄りながら呟く私を、龍斗さんはジト目で見てくる。

「リスターが彩菜を嫌うなんて100%無いね。」

「うぅ……そうだといいなぁ。早く伸びるといいけど……。」

「帰る頃には少し伸びてるだろ。こんな王都から離れた町でも、まだ捜索隊がチラホラいるからな。もうちょっと少なくなったら港町に戻って船に乗るぞ。」

「はーい。」




あの崖から落ちた日、龍斗さんは私を抱っこしたまま難なく着地し、2人とも怪我1つしなかった。

龍斗さんは前日に荷物を崖下に隠して置いたらしく、それを持って王都から遠く離れたこの町までやって来た。

黒髪だと目立ってしまうから、着いてすぐに2人で髪を金色に染めた。
龍斗さんは髪の毛まで切る事はないと言ってくれたけど、絶対に国へ帰りたい私が、自分で決めて切ったのだ。

髪の毛はまた伸びてくるしね。

そう思っていたのだけれど、リスターに会った時の事を想像すると、ちょっぴり不安になってしまう。

2年以上会っていないのに、髪をバッサリ切ってしまった私を見て、リスターはどう思うだろう。

今みたいな、ズボンを履いて男の子に変装した姿は見せたくない。

家に帰ったら、リスターに会う前にドレスに着替えて、目一杯可愛くしてもらおう。それでリスターに会いに行くんだ。



ーーもう少しで会える。

それだけを励みに、窮屈な潜伏生活に耐える日々を送っていた。

深い溜め息を吐く私に苦笑しながら、龍斗さんが出掛ける支度をしている。

「買い出しに行くけど、彩菜も気分転換しについて来るか?綿菓子は無理だけど、何か甘い物でも買ってやるよ。」

「……行く。」

私もモゾモゾと窓枠から身を起こし、出掛ける支度をする。


私達が泊まっている宿は、店が立ち並ぶ大通りから少し奥に入った路地沿いにあり、すぐに買い物が出来てとっても便利。

あまりウロウロ出歩かなくていいので、潜伏生活にはピッタリの場所だった。

早々に買い物を済ませ、私のオヤツを物色していると、風に乗って何やら甘い匂いが漂ってくる。

「龍斗さーん。こっちからいい匂いがするよ~。」

私はクンクンと匂いのする方へ鼻を利かせて歩き出した。


すると、フード付きの外套を羽織った背の高い人に、すれ違いざまに腕をグイッと掴まれた。

「きゃっ!!」

「彩菜!!」

咄嗟に、龍斗さんが掴まれていない方の腕を掴んでくれたけど……私と龍斗さんは顔面蒼白だった。


捜索隊にバレた!?なんで!?

どうしよう、連れ戻されちゃう!!!

ギュッと目を瞑ると……私の耳には痺れるくらいカッコ良く、甘い声が聞こえてきた。



「見つけた……。僕の……僕だけのお姫様。」



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