神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです

珂里

文字の大きさ
上 下
60 / 73

お祝いするんです

しおりを挟む
「おばさーん、これいくら?」

私は言いながら、たっぷりとタレのついた肉の串焼きを指差した。

「はいはーい。っと、アヤナ様じゃないですか。今日は王子様と姫様は一緒じゃないんですかい?」

「うん。今日は龍斗さんと買い物に来てるの。」

「あー、そうか。姫様の結婚が決まったばかりだから、皆さん忙しいんですねぇ。」

肉屋のおばさんはテキパキと紙の包みに肉の串焼きを入れていく。

「はい、お代はいりませんよ。姫様の結婚祝いってことで持ってってくださいな。」

「えー?ダメだよ、おばさん。しっかり稼がないと!それに、私が結婚するわけじゃないのに結婚祝いって可笑しいじゃん!」

「そうそう。お金は俺がちゃんと持ってるから払わせてよ。」

私とおばさんが話しているところへ、龍斗さんがヒョイっと顔を出して割って入る。

龍斗さんはおばさんが返事をする前にお金を台の上に置き、お肉を受け取った。

おばさんがヤレヤレといったように肩を竦める。

「王子様とアヤナ様が結婚される時には是非ご馳走させて下さいね。」

「あはは。おばさん、私とテックは婚約者じゃないからね。結婚なんてしないよ!」

「おやおやそうなんですか?じゃあ婚約祝いが先ですねぇ。」

私がいくら否定しても、おばさんはテックと私が結婚するのを当然だと思っているらしく、真剣に聞いてくれない。

私は否定するのを諦めて、龍斗さんとベンチのある広場へと向かった。


お肉を齧りながら難しい顔をしていると、龍斗さんが苦笑しながら私の頭をポンポンと叩く。

「おばさん達が勘違いするのは分からなくもねえだろ。」

「う~ん……。」

そうなんだよねえ……。

コトネオールに来て2年。

私と龍斗さんはテックとパルラがこの国に慣れるように尽力してきた。
最初の頃、公務や人前に出るような時には離れていたのだけれど、そういう時にこそ辛いからと、いつの間にか一緒にいさせられている。

そのおかげで、この国の人達にはすっかりテックのお相手として誤認されてしまっているのだ。

私は王族の2人とは違って、割と行動の自由がきくので( ルイスさんは厳しいけどね )、龍斗さんとよく町に出掛けるんだけど……だいたいさっきのような反応をされる。

パルラの結婚が決まってからは余計にだ。
その都度否定しているのだけれど、焼け石に水状態だった。

「テックの態度がちょっとなぁ……。あれは誤解されても仕方ない。」

龍斗さんも困り顔でお肉に齧り付く。

そう、1番の原因はテックの態度だと思うんだよね。
一緒に行動している時に、やたらと私を隣に置きたがる。手を繋いできたり、腰に腕を回してきたり、肩を抱いてきたり……その度に龍斗さんが引き離してくれるんだけど。

最近は益々私にべったりな感じがする。

パルラが結婚しちゃうから寂しいのかな?なんて思ったりもして、強く拒否も出来ないから困っている。

そして困った私が龍斗さんにべったりになって……なんだか変な状況に陥っていた。

ハァ~。

どうしたもんかと、深く溜め息を吐く。

お肉を食べる手が止まってしまった私の頬を、龍斗さんが思い切りつねってグイグイと引っ張ってきた。

「いひゃい!りゅーひょひゃん、いひゃい!!」

つねられてるから、上手く話せないじゃん!

「せっかく今はパルラの結婚祝いを買いに来たんだから、溜め息吐くの禁止な。楽しく買い物しようぜ。」

龍斗さんがニッと笑って、私の頬をつねっている手を離した。

そうだった!

私はつねられて赤くなった頬を擦りながら、急いでお肉を自分のお腹に収めていく。

「ご馳走さまでした!!」

私は元気よくベンチから立ち上がり、龍斗さんの腕を掴んで歩き出した。


今日は何も考えず、パルラの気に入ってくれる物を選ばなくては!!









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

魔力を持たずに生まれてきた私が帝国一の魔法使いと婚約することになりました

ふうか
恋愛
レティシアは魔力を持つことが当たり前の世界でただ一人、魔力を持たずに生まれてきた公爵令嬢である。 そのために、家族からは冷遇されて育った彼女は10歳のデビュタントで一人の少年と出会った。その少年の名はイサイアス。皇弟の息子で、四大公爵の一つアルハイザー公爵家の嫡男である。そしてイサイアスは周囲に影響を与えてしまうほど多くの魔力を持つ少年だった。 イサイアスとの出会いが少しづつレティシアの運命を変え始める。 これは魔力がないせいで冷遇されて来た少女が幸せを掴むための物語である。 ※1章完結※ 追記 2020.09.30 2章結婚編を加筆修正しながら更新していきます。

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話

みっしー
恋愛
 病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。 *番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった

今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。 しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。 それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。 一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。 しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。 加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。 レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...