神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです

珂里

文字の大きさ
上 下
56 / 73

友達は大切なんです

しおりを挟む
人の姿も港も見えなくなり、目の前には陽の光がキラキラと反射して輝く水面が広がるだけになってしまった。

それでも、私は動く事が出来ずにいた。

風に吹かれてボ~ッと海を眺めていると、隣で船の手摺りに肘を突きながら、私と同じく海に目を向けている龍斗さんが深く息を吐く。

「彩菜」

不意に名前を呼ばれて、私は顔だけ龍斗さんの方へ向ける。
龍斗さんは、いつになく真剣な表情で私を見ていた。

『これからは、何かあったら俺を頼れよ。イヤ、何か無くても、不安に思ったり心配事があれば、どんな些細なことでも俺に言えよ?勝手に1人で悩みを抱え込むんじゃねえぞ。』

『ふふっ。龍斗さん、お父さんみたいだね。』

『おうよ。コトネオールにいる間、俺は彩菜の親代わりだからな。父親にも、母親にでもなってやるよ。』

風に靡いて乱れる私の髪を、龍斗さんが優しく梳かして目を細める。

『……取り敢えず、あのルイスって宰相は気を付けろよ。いつも飄々とした態度で、何考えてるのか全く読めねえ。テックの為なら何でもやりそうだしな。』

『そう?王太子が発見されたから、嬉しくて大切にしてあげたいだけなんじゃないの?あんなに綺麗な王子様とお姫様が現れたら、私だって嬉しいし、優しくしてあげたいもんね!』

龍斗さんが眉尻を下げて、残念な子を見るような目で私を見つめる。

ーー何でよ!?

『皆が皆、彩菜みたいな考えの奴ばっかりだったら、この世界は平和なんだろうなぁ。』

『……馬鹿にしてるでしょ。』

『してないしてない。』

私がプクッと頬を膨らませると、龍斗さんはクックッと笑って膨れた頬を楽しそうに突く。

『まあ、用心するに越した事はねえから、これから2人で話す時は日本語で話そうと思うんだけど、いいか?』

『うん、龍斗さんがそう思うなら、私もそれがいいと思う。』

何に用心するのか私にはよく分からないけど、龍斗さんがそう言うのなら、多分それが正解だと思うから。

ニッコリ笑って即答する私を見て、龍斗さんが目を瞠り『俺に対する信頼感ハンパねえ。』と、破顔する。

『……彩菜は本当に出会った頃から変わらねえなあ。彩菜の目には、俺はどんだけ良い人間に映ってるんだよ。俺のこと好き過ぎるだろ。』

『えー?好きに決まってるじゃん。龍斗さんはもう、私の家族なんだから。信頼しない方がおかしいよ。』

当たり前でしょー?って首を傾げると、龍斗さんは嬉しそうに笑って私の頭をガシガシと撫でた。


「とっても楽しそうだね。」

後ろから声がして龍斗さんと同時に振り返る。後ろの通路を、テックとパルラが並んでこっちに来ていた。

「思いのほか、アヤナが元気で安心したよ。ずっとここに居ては冷えるから、そろそろ中に入らない?」

私に向かって差し出されるテックの手を、龍斗さんがヤンワリ押し退けて私の肩を抱く。

「そうだな。そろそろ部屋に入るか。俺と彩菜の部屋は一緒なんだよな?」

「もちろん。来る前に出された条件通りにしてあるよ。」

「じゃあ行くか~。」

龍斗さんが私の肩を抱いたまま、手をヒラヒラさせて部屋に向かう。

「リュートさん。」

後ろから、再びテックに呼び止められた。
後ろを振り向いて見たテックの顔は、辛そうに歪んでいる。

「怒ってる?俺が強引にアヤナを連れて行こうとしてるから……。俺達、どうしても心細くて……悪いと思ってるけど、力を貸して欲しいんだ。」

「怒ってねえよ。」

「本当に?俺はリュートさんも好きだから、アヤナと一緒に来てくれて嬉しいんだ。だから、リュートさんに嫌われると悲しい……。」

「だからっ!怒ってねえし、嫌ってもいねえよ。ある意味、お前達も被害者だからな。」

龍斗さんはテックのおでこに手を伸ばして軽くデコピンをした。
テックはおでこを摩りながらホッとした表情を見せる。

「まあ、お前達のお国事情にアヤナを巻き込んだのは気に食わねえけど。行くからにはテックとパルラがコトネオールに早く馴染めるように精一杯協力させてもらうさ。お前達も、王族なんて大変だと思うが、頑張れよ!」

「「うん!!」」

ニッと笑って2人の頭をガシガシ撫でる龍斗さんに、2人は安堵の表情を見せると、嬉しそうに微笑んだ。

2人とも、龍斗さんが大好きだもんね。
ずっと緊張したような2人の硬い表情が和らいでよかったよ。


私もニッコリ微笑む。

「何が出来るか分からないけど、2人の力になれるように、私も頑張るからね。みんなで一緒に頑張ろう!!」

私が拳を突き上げ、オーッ!って気合いを入れたら、みんなに笑われた。

何さっ!私は真剣だぞっ!!

プンプンと怒って今度は両手を突き上げれば、またみんなに笑われる。


船には、暫く私達の笑い声が響いていた。



これから、どんな事があるか想像もつかない。考えれば考えるほど大きな不安が押し寄せてくる。


ーーでも、笑う事でみんなが少しでも元気になれるのなら、私は笑っていよう。





ここまで来たからには、お友達が笑顔でいられる未来の為に、一生懸命頑張るぞー!!



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします

宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。 しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。 そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。 彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか? 中世ヨーロッパ風のお話です。 HOTにランクインしました。ありがとうございます! ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです! ありがとうございます!

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話

みっしー
恋愛
 病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。 *番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

魔力を持たずに生まれてきた私が帝国一の魔法使いと婚約することになりました

ふうか
恋愛
レティシアは魔力を持つことが当たり前の世界でただ一人、魔力を持たずに生まれてきた公爵令嬢である。 そのために、家族からは冷遇されて育った彼女は10歳のデビュタントで一人の少年と出会った。その少年の名はイサイアス。皇弟の息子で、四大公爵の一つアルハイザー公爵家の嫡男である。そしてイサイアスは周囲に影響を与えてしまうほど多くの魔力を持つ少年だった。 イサイアスとの出会いが少しづつレティシアの運命を変え始める。 これは魔力がないせいで冷遇されて来た少女が幸せを掴むための物語である。 ※1章完結※ 追記 2020.09.30 2章結婚編を加筆修正しながら更新していきます。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

処理中です...