神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです

珂里

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笑顔で、いってきます

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コトネオールへ出発するまでの1週間、私は荷物を纏めたり、親しい人に別れの挨拶をしたり忙しかった。

龍斗さんはお城に通って国書にしたためる内容を王様とラントおじ様と話し合って決め、コトネオール側にそれを承諾させていた。

周りのみんなには、やっぱり国書には期待出来ないって言われていたけど、龍斗さんは「御守りみたいなもんだから。」って言って不敵な笑みを浮かべている。


私は出発の日まで、お父様とお母様と一緒のベッドで眠った。

たわいもない話しをして、眠くなったらお父様とお母様に抱き付いて寝る。

そんなささやかな、だけど、私にとっては物凄く幸せな日々は、あっという間に過ぎてしまった。





「アヤナちゃん、体には気をつけてね。」

「私達は気儘な隠居生活だから、コトネオールに会いに行くよ。」

「無理しちゃ駄目よ。何かあったら1人で抱え込まずにリュートに相談しなさい。」

「…………会いに行く。」

港には、私と龍斗さんを見送る為に大勢の人が来てくれている。

お祖母様とお祖父様達も来てくれた。

「ありがとうございます。楽しみにしていますね。」

感謝の気持ちも込めて、1人ずつ抱擁していく。

ラントおじ様、エリーゼおば様、フレイお兄様も忙しい中駆けつけてくれている。
エリーゼおば様は泣き過ぎて顔が涙でグシャグシャだった。まあ、それでも綺麗なのは変わらないんだけど。
美人恐るべし!!

「アヤナちゃんがいない生活なんて考えられない!耐えられないわ!!」

「母上、落ち着いて……。アヤナが困ってしまうよ?」

泣き噦るエリーゼおば様の背中を摩りながら、フレイお兄様が宥めている。

「エリーゼおば様。私もおば様とお喋り出来なくなるのは凄く寂しいです。帰ってきたら、沢山お土産を持って会いに行きますね。そうしたら、またいっぱい、いっぱいお話しして下さい。」

私はニッコリ笑ってエリーゼおば様をギュッと抱き締め、フレイお兄様を見た。

「フレイお兄様も、忙しいのにありがとうございます。お兄様がビックリするくらい綺麗に成長して戻ってきますから、楽しみにしていて下さいね!」

「ふふっ……。それは楽しみだね。早く帰って来ておくれよ?」

眉尻を下げ目に涙を溜めるお兄様にも、私はギュッと抱き付いた。

「……アヤナ。」

抱き付いているフレイお兄様の後ろで、ラントおじ様が両手を広げてジッと私を見ている。

この光景も、暫くみら見られなくなるんだなぁ。

私も笑みを零しながら両手を広げてラントおじ様に飛びつくと、おじ様はガシッと私を抱き留めてくれた。

「……アヤナにばかり苦労をかけてすまない……。」

ラントおじ様は相変わらずの無表情だけど、掠れた声がなんだか辛そうで。
私はおじ様を見上げて満面の笑みを向けた。

「ラントおじ様、私はとっても幸せですよ!」

だから大丈夫。心配しないでね。

そう思ってニコニコしていると、おじ様はフッと表情を和らげて目を細めた。

おおーっ!!今、一瞬笑ったよね?最後にいいもの見させてもらいました!


「アヤナ、そろそろ行くよ。」

船の入り口で、テックとパルラ、宰相のルイスさんが待っている。


「お父様、お母様、それでは行ってきます!」

私はお父様とお母様に向き直し、笑顔で旅立ちの挨拶をする。


今日、私は笑顔でみんなの前から旅立つ事を決めていた。

これは、悲しい別れじゃない。私が色んな意味で成長する為のものだから。

お父様とお母様も、笑顔で送り出してくれる。
2人とも、堪えきれない涙が頬を伝っているけれど、何度も拭いながら、それでも私の事を思って、笑ってくれている。


お父様、お母様、泣かないで。

私は必ず帰ってくるから。


2人にギュッと抱き締められて挨拶を終えると、リスターが私の手を取りテック達の待つ方へ歩き出した。

後ろから、龍斗さんも付いてくる。

「アヤナをよろしくお願いします。」

船の入り口に着き、リスターがルイスさんに頭を下げて言った。

「お任せください。」

それに応えて頭を下げるルイスさん。
リスターは、テックに目を移すと、ニッコリ微笑んだ。

「アヤナは僕の婚約者だから、なるべく早く僕に返してね?」

「…………アヤナ、もう船が出発する。そろそろ乗るよ。」

テックはリスターを無視するように私に乗船を促し、手を差し出す。


一瞬、テックをギロリと睨んだリスターは、繋いでいる手を自分に引き寄せて私の唇にキスをした。

リスターの大胆な行動にパルラは顔を真っ赤にし、ルイスさんは目を丸くして驚いている。

テックは凄まじい形相でリスターを睨み、龍斗さんは苦笑しながらテックの肩をポンポンと叩いて宥めていた。

みんなの前でキスをされた私の顔も真っ赤になっているだろう。

でも、リスターはそんな周りの状況を気にする事無く、私の頬を愛しそうに優しく撫でて、テックに見せつけるように左手薬指にもキスをした。

「アヤナ、好きだよ。ずっと待ってるからね。」

「うん。私も大好き。行ってきます!」

私がコクコクと頷き笑顔で言うと、リスターも優しく微笑んでくれた。

それからリスターはテックを一瞥した後、龍斗さんに私を託して頭を下げる。

「リュートさん、アヤナをよろしくお願いしますね。」

「ああ。任せておけ。アヤナがお前のところに戻るまで、俺が全力で守ってやるよ。」

龍斗さんはニッと笑い、私の頭をガシガシと撫でた。




私達は船に乗り込み、動き出した船上から、港で見送ってくれている人達に手を振って最後のお別れをしている。

段々と遠ざかる私を見て、遂にお母様は耐えかねて泣き崩れてしまった。

お母様を支えるお父様の肩も大きく揺れていて、泣いているのが分かる。

その2人の横には、リスターが寄り添ってくれていた。

ありがとう、リスター。私が戻ってくるまで、お父様とお母様をお願いね。

私は笑って大きく手を振った。もう離れ過ぎて表情は確認出来ないけれど、リスターも手を振り返してくれている。




その姿が小さくなってやがて見えなくなるまで、私は手を振り続けた。
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