神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです

珂里

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あっという間に時は流れ、私は10歳になりました。

こちらの世界に来てから早いもので5年が経ち、日本で暮らしていた頃と同じくらいの時間をこちらの世界で過ごした。

最近では、日本での暮らしが夢だったのではないかと思うくらいに、昔の記憶が朧気おぼろげになって思い悩んだりもしたけれど……。

龍斗さんがいつものように私の頭をガシガシと撫でながら

「大丈夫。それは今が幸せだからそう思えるんだぜ。」

って笑って言ってくれたから、それもあまり悪い事じゃないのかな、なんて今では思う。

「彩菜が今までも、これからもずっと父さんと母さんを大好きなら、それでいいじゃねえか。」

うん、そうだね。それはずっと変わらないから。

パパ、ママ、大好き。

この思いだけでも届くといいのに。




私は10歳になって、心も体もすくすくと成長したお陰か、何とか伯爵令嬢らしくなってきたんじゃないかと……自分では思ってます!

そして私より成長が著しいのが、なんといってもリスターなのだ!!

昔からカッコ良かったのに今では更にカッコ良くなっちゃって、私は気が気じゃない。
背なんてお父様と頭一つ分も変わらないくらいに高くなってるのに、まだまだ伸びるんだって。
美少年から美青年に成長途中のリスターは、なんだかとっても魅力的で、すごくドキドキする。

でも、そう思っているのは私だけじゃないみたいで……。騎士団の訓練に今も参加しているリスターを見る為に、訓練場には女性の見学人が増えているらしい。

リスター本人は無視しているみたいだけど、キャーキャーと歓声が煩いんだって。
情報源はダナンさんと龍斗さん。2人はこの状況が面白いのか、ニヤニヤとしながら私に報告してくれる。

ダナンさんと龍斗さんって、ちょっと性格が似てるんだよね……。

「なんでお城の中にあるのに、見学客がいっぱい来るの~?」

私はブーッと膨れてダナンさんと龍斗さんに文句を言う。

最近では、ほぼ毎日2人がお母様とのティータイムの時間に訓練から戻って来ては報告してくれるから、4人でお茶をするのが日常になりつつあった。

「しょうがないだろ。訓練場は国民にも騎士団に親しんでもらう為に一般開放しているんだから。」

「……そうだけどさ~。」

「そんなに心配しなくても大丈夫さ。あいつ、彩菜以外の女に興味ないからな。まあ、見物客も、そんなリスターにお構いなしにキャーキャー煩えんだけどよ。」

それが心配なんですけど!

私はテーブルに肘をついて手に顎を乗せると、深くため息を吐いた。

「ふふっ。お行儀が悪いですよ。そんなに不貞腐れないの。」

お母様に注意されて私の機嫌は益々悪くなる。

「だって……リスターは私のなのに。」

口を尖らせてブツブツ文句を言う私は、後ろから近づく人影に全く気付かなかった。

「嬉しいな。僕はアヤナだけのものだし、アヤナも僕だけのものでしょう?」

急に声がしたかと思えば、尖らせたままの私の唇にチュッとリスターの唇が触れた。

「リスター!」

私はリスターに会えた嬉しさと、キスされた恥ずかしさで顔が赤くなる。
リスターは蕩けるような笑顔で私を見つめて髪を梳く。

「アヤナは今日も可愛いね。大好きだよ。」

「……お前なぁ、見てるこっちが恥ずかしいわっ!」

「じゃあ見ないで下さい。」

リスターは、小言を言う龍斗さんを見向きもせずに、うっとりと私を見つめていた。

「もしかして……もしかしなくてもやきもちを妬いてくれてるのかな?」

「当たり前だよ!リスターはどんどんカッコ良く成長しているのに、私は全然で……後をついて行くのに必死で……でも、リスターの横に私以外の誰かが並ぶのなんて絶対に嫌なんだもん!!」

私が目をウルウルさせながら言うと、リスターは何回も私の唇にキスを落として悶えていた。

「ヤバイ……!アヤナが可愛すぎてヤバイ!」

「……リスター。アヤナはまだ10歳だからな?ちゃんと加減しろよ?」

「大丈夫ですよ。結婚するまではキスだけで我慢しますから。」

ねっ?と、首を傾げて微笑むリスターに、私もよく分からないけど同意する。

加減て何を加減するの?

私の眉間に寄った皺を楽しそうに指で伸ばしながら、リスターがチラリとダナンさんと龍斗さんを見た。

「近頃、2人の姿が訓練終わりにすぐ消えるなと思っていたら、僕より先にアヤナに会いに来ては不安にさせるような事を吹き込んでいたんですね。」

「いやいや、俺達は事実を報告してるまでたぜ。」

「報告して、アヤナを不安にさせて、僕達を別れさせようとでも?僕はそんな事で絶対に別れませんけどね。」

ニッコリ笑って断言してくれるリスターに嬉しくて、私はまたウルッとしてしまう。

「私、もっともっと頑張ってリスターの隣にいても恥ずかしくないよう、ちょっとでも綺麗になるから!」

目を潤ませながら見つめる私を、リスターは私の頬を撫でながら見つめ返した。

「相変わらず、アヤナは自己評価が低すぎるね。君は今でも十分綺麗だから、これ以上頑張らないで?」

ダナンさんと龍斗さんもウンウンと大きく頷いているけど、それは身内贔屓ってヤツですよ?

私が疑いの目を向けていると、リスターは眉尻を下げながら苦笑しつつ私をギュッと抱き締めた。

「大好きだよ、アヤナ。僕の……僕だけのお姫様。ずっと側にいてね。」


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