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突然の異世界 〜龍斗〜
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その時は、ある日突然やってきた。
「じゃあなー、龍斗。また明日。」
「おー、また明日。」
俺は高校の部活帰り、バレー部の仲間達数人とコンビニに寄って買い食いした後、家路についていた。
もう、すぐそこの角を右に曲がれば家が見える距離。俺はいつも通りに道を歩き、いつも通りに角を曲がった。
本当に、いつもと変わらない部活帰りの風景だったのに。
ーー角を曲がると、そこは異世界だった。
中世ヨーロッパ風な街並みに金、銀色の髪の外国人に聞き慣れない言葉。
なんで?さっきまで家の近所を歩いていたじゃないか。
後ろを振り返っても見慣れない街並みが広がっている。
俺は、自分の身に何が起きたか分からずに呆然とその場に立ち尽くした。
『きゃー!!何この人!?髪が真っ黒よ!っひぃっ!!目まで黒いわ!!気持ち悪い!!』
俺の近くで大声がして振り返ると、顔面蒼白な女の人が俺を指差して何やら叫んでいる。
たちまち俺の周りには人が集まりだして囲まれてしまった。
言葉が通じなくてもヤバイ雰囲気なのが伝わってくる。
ーー逃げなくては。
俺は本能的にその場から逃げ出すが、数人の男に取り押さえられボコボコにされた。
隙をみてなんとか逃げ出すも、殴られ、蹴られた顔や全身が痛くて走りながら涙が止まらなかった。
ここは何処なんだ?なんで俺がこんな目に遭う!?
帰りたい、帰りたい、帰りたい!!
俺は混乱しながら町中を逃げ回り、なんとか帰り道が見つからないかと走り続けた。
そして三日三晩、ろくに飲まず食わずで帰り道を探した俺は、朦朧とする頭でぼんやりと理解した。
ーー俺は、帰れないんだ。
絶望と悲しみが襲い、俺は意識を手放した。
目が覚めると、俺の手足は縄で縛られ、床に寝転がされていた。
部屋?が薄暗くてよく見えないが、鼻をつくような悪臭が漂っている。あまりよろしくない状況なのだろう。
まあ、ここへ来てから良い状況になったことは無いのだが。
何処からか聞こえてくる足音がだんだんと近づいて来る。蝋燭が灯され、その明かりで小太りの気持ち悪い中年男の顔が浮かび上がった。
『目が覚めておったのか。見れば見るほど不気味な奴だのぉ。……でもまぁ、不気味なものを好む変人もいるからのぉ。そいつらには高値で売れそうか?』
中年男は何やらブツブツ言っているが、嫌な予感しかしない。
どうやって逃げようか考えていると、急に後ろから羽交い締めにされ、髪をブヂブヂと毟り取られた。
「っ!!痛っ!!」
あまりの痛さに身を捩りながら悶えていると、体を何度も蹴られ激痛が走る。
『闇市へ連れて行け。逃すなよ。』
引き摺られながら部屋を出て荷馬車のようなものに乗せられた。
静かな山道を走る荷馬車の中は、卵の腐ったような異臭がして吐き気がするし、さっき髪の毛を毟り取られた部分が痛くて冷や汗が止まらない。
ヤバイ。逃げなくては。
俺は見張り2人の隙をついて動いている荷馬車から転がり落ち、必死に逃げた。
だが、手足を縛られボロボロの体では素早く逃げられる筈もなく、あっという間に捕まってしまった。
見張りの男の1人は俺が逃げ出したことに激怒していて、俺の髪を鷲掴みにすると、そのままズルズルと引き摺り歩く。
『調子に乗りやがって。お前なんて、俺がここで殺したっていいんだぜ?』
唾を吐きながら喚き散らす男に引き摺られて来たのは、まさに崖っ淵という場所だった。
『雇い主には狼にでも襲われたって事にしといてやるよ。安心して俺に殺されな。』
男が俺の体を持ち上げ、崖から放り投げた。
ーーおい、嘘だろ。
俺の体が宙を舞い、霧がかかって見えない地面目がけて落下する。
俺はやがて訪れる衝撃と痛みを覚悟しながら目をギュッと閉じた。
が、トスンと背中に軽く何かが当たる感じはしたものの、一向に地面に叩きつけられるような衝撃がこない。
恐る恐る目を開けると、俺はもう地面に仰向けで寝そべっていた。
ーーなんで?
あの高さから落ちたはずなのに……。
ゆっくり体を起こし確認するが、どうやら無事らしい。
取り敢えず命拾いした俺は森を彷徨い食糧を探した。街に戻る気になれず、暫くは森で生活しようと決意する。
木の実や果物らしき物を食べ、川の水を飲んで数日過ごし、体の回復を待った。
そんな中で俺は自分の体の異変に気づく。
どの高さから飛び降りても難なく着地でき、擦り傷一つ負うことが無いのだ。
そして試しにジャンプをしてみれば、俺の背丈の何倍もある木を軽々と飛び越えられた。
崖から落とされて無事だったのも、たぶんそのせいなのだろう。
おそらく、重力のかかり具合がこの世界と地球とでは違うのだ。
勉強があまり……かなり苦手だったから詳しくは分からないが、そういう事なんだと思う。
体力の回復した俺は、自分の能力を生かしてこの国を旅して回ることにした。
何処かに日本へ帰る方法があるかもしれない。もしくは、帰る手掛かりが何か掴めるかも……。
淡い期待を胸に抱いて、俺は森を後にしたのだった。
「じゃあなー、龍斗。また明日。」
「おー、また明日。」
俺は高校の部活帰り、バレー部の仲間達数人とコンビニに寄って買い食いした後、家路についていた。
もう、すぐそこの角を右に曲がれば家が見える距離。俺はいつも通りに道を歩き、いつも通りに角を曲がった。
本当に、いつもと変わらない部活帰りの風景だったのに。
ーー角を曲がると、そこは異世界だった。
中世ヨーロッパ風な街並みに金、銀色の髪の外国人に聞き慣れない言葉。
なんで?さっきまで家の近所を歩いていたじゃないか。
後ろを振り返っても見慣れない街並みが広がっている。
俺は、自分の身に何が起きたか分からずに呆然とその場に立ち尽くした。
『きゃー!!何この人!?髪が真っ黒よ!っひぃっ!!目まで黒いわ!!気持ち悪い!!』
俺の近くで大声がして振り返ると、顔面蒼白な女の人が俺を指差して何やら叫んでいる。
たちまち俺の周りには人が集まりだして囲まれてしまった。
言葉が通じなくてもヤバイ雰囲気なのが伝わってくる。
ーー逃げなくては。
俺は本能的にその場から逃げ出すが、数人の男に取り押さえられボコボコにされた。
隙をみてなんとか逃げ出すも、殴られ、蹴られた顔や全身が痛くて走りながら涙が止まらなかった。
ここは何処なんだ?なんで俺がこんな目に遭う!?
帰りたい、帰りたい、帰りたい!!
俺は混乱しながら町中を逃げ回り、なんとか帰り道が見つからないかと走り続けた。
そして三日三晩、ろくに飲まず食わずで帰り道を探した俺は、朦朧とする頭でぼんやりと理解した。
ーー俺は、帰れないんだ。
絶望と悲しみが襲い、俺は意識を手放した。
目が覚めると、俺の手足は縄で縛られ、床に寝転がされていた。
部屋?が薄暗くてよく見えないが、鼻をつくような悪臭が漂っている。あまりよろしくない状況なのだろう。
まあ、ここへ来てから良い状況になったことは無いのだが。
何処からか聞こえてくる足音がだんだんと近づいて来る。蝋燭が灯され、その明かりで小太りの気持ち悪い中年男の顔が浮かび上がった。
『目が覚めておったのか。見れば見るほど不気味な奴だのぉ。……でもまぁ、不気味なものを好む変人もいるからのぉ。そいつらには高値で売れそうか?』
中年男は何やらブツブツ言っているが、嫌な予感しかしない。
どうやって逃げようか考えていると、急に後ろから羽交い締めにされ、髪をブヂブヂと毟り取られた。
「っ!!痛っ!!」
あまりの痛さに身を捩りながら悶えていると、体を何度も蹴られ激痛が走る。
『闇市へ連れて行け。逃すなよ。』
引き摺られながら部屋を出て荷馬車のようなものに乗せられた。
静かな山道を走る荷馬車の中は、卵の腐ったような異臭がして吐き気がするし、さっき髪の毛を毟り取られた部分が痛くて冷や汗が止まらない。
ヤバイ。逃げなくては。
俺は見張り2人の隙をついて動いている荷馬車から転がり落ち、必死に逃げた。
だが、手足を縛られボロボロの体では素早く逃げられる筈もなく、あっという間に捕まってしまった。
見張りの男の1人は俺が逃げ出したことに激怒していて、俺の髪を鷲掴みにすると、そのままズルズルと引き摺り歩く。
『調子に乗りやがって。お前なんて、俺がここで殺したっていいんだぜ?』
唾を吐きながら喚き散らす男に引き摺られて来たのは、まさに崖っ淵という場所だった。
『雇い主には狼にでも襲われたって事にしといてやるよ。安心して俺に殺されな。』
男が俺の体を持ち上げ、崖から放り投げた。
ーーおい、嘘だろ。
俺の体が宙を舞い、霧がかかって見えない地面目がけて落下する。
俺はやがて訪れる衝撃と痛みを覚悟しながら目をギュッと閉じた。
が、トスンと背中に軽く何かが当たる感じはしたものの、一向に地面に叩きつけられるような衝撃がこない。
恐る恐る目を開けると、俺はもう地面に仰向けで寝そべっていた。
ーーなんで?
あの高さから落ちたはずなのに……。
ゆっくり体を起こし確認するが、どうやら無事らしい。
取り敢えず命拾いした俺は森を彷徨い食糧を探した。街に戻る気になれず、暫くは森で生活しようと決意する。
木の実や果物らしき物を食べ、川の水を飲んで数日過ごし、体の回復を待った。
そんな中で俺は自分の体の異変に気づく。
どの高さから飛び降りても難なく着地でき、擦り傷一つ負うことが無いのだ。
そして試しにジャンプをしてみれば、俺の背丈の何倍もある木を軽々と飛び越えられた。
崖から落とされて無事だったのも、たぶんそのせいなのだろう。
おそらく、重力のかかり具合がこの世界と地球とでは違うのだ。
勉強があまり……かなり苦手だったから詳しくは分からないが、そういう事なんだと思う。
体力の回復した俺は、自分の能力を生かしてこの国を旅して回ることにした。
何処かに日本へ帰る方法があるかもしれない。もしくは、帰る手掛かりが何か掴めるかも……。
淡い期待を胸に抱いて、俺は森を後にしたのだった。
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