神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです

珂里

文字の大きさ
上 下
21 / 73

盗賊さんに試されました

しおりを挟む
盗賊さんの顔がフードに隠れて分からないけど、多分、私は今盗賊さんと睨み合っているはず。

睨んでるって言っても、私は顔面真っ青の冷や汗ダラダラの手足ガクガクで、かなりヤバイ状態なのは盗賊さんにはバレバレだと思う。

暫く私と睨み?合った後、盗賊さんはニヤッと笑うと口を開いた。

『そんなに怖がるなよ。俺は日本人だ。』

被っていたフードをバサリと取ると、そこには久しぶりに見る、私以外の黒目、黒髪があった。

私が呆然としていると、盗賊さんは私の目の前で手を振り振りする。

『おーい、聞いてるかー?』

ハッと我に返った私は、まじまじと盗賊さんを見つめた。

黒髪は少しクセがあるのか、ゆるゆるとウェーブがかっていて毛先がはねている。
黒い目は二重で大きく、ちょっと垂れ目な感じがする。鼻筋も通っていて、いわゆるイケメンだ。
年も若いのかな。見た感じだと二十代くらいなような?

「……にほんじん?あやなとおなじ?」

『おう、そうだよ。って言うかお前、日本語忘れちまったのか?久しぶりに日本語で話しが出来ると思って楽しみにしてたのに。』

『は、話せるよ!盗賊さんは、私が日本人だって知ったから色々調べてたの?私を盗賊さんの仲間にする為に連れて行くの?』

勝手に人のこと調べて、勝手に連れて行くなんて、そんなの許さないんだからね!!

私がプルプル震えながら睨むと、盗賊さんは可笑しそうに声を出して笑った。

『だからそんなに怖がるなって。お前が辛い目に遭ってるんだったらここから連れ出してやろうと思ってたけど、すげぇ大切にされてるみたいだからやめとくよ。』

『……盗賊さんは、どうやってへ来たの?』

『ふっ。俺も同じ事が聴きたくて、お前に会いに来たんだ。』

屋根に強制連行されて抱っこから解放された私は、盗賊さんと少し距離をとっていた。
そんな私を手招きすると、自分がドスンと座ったその横をポンポンと叩いて、そこに私に座るよう指示をした。

『もうすぐお前の仲間が屋根まで登って来るだろ。それまで腹を割って話しをしようぜ。』

盗賊さんは日本語で話せて嬉しいからか私に優しくて、なんだか悪い人には思えない。
私は黙って首を縦に振ると、ちょこんと盗賊さんの隣に座った。

盗賊さんを見上げると、盗賊さんは目を細めて私の頭をガシガシと撫でた。

『お前、素直だなー。可愛いじゃねぇか。』

『お前じゃないよ。彩菜だよ。』

『ははっ、悪いな。彩菜だな。俺も、盗賊さんじゃねぇよ。龍斗って言うんだ。よろしくな。』

……盗賊さんとよろしくしていいんだろうか……。

『俺は高校2年の時だな。部活からの帰り道、家まで後少しってところの路地を曲がったら……そこはもう別世界だった。信じられるか?毎日登下校で通る、普通の道だったんだぞ?』

『私もそうだったよ。いつもの公園で、いつもみたいに友達とかくれんぼしてたらにいたの。たまたまとーさまが……騎士団長が私をみつけてくれたから良かったけど、そうじゃなかったらと思うと怖くてたまらないよ。』

膝を抱えて顔を埋める私の頭を、盗賊……龍斗さんはまたガシガシと撫でてくれた。

『俺はこっちに来てからの10年間、この黒髪黒目のおかげで結構大変な目に遭ってきたからな。彩菜がそうなってなくて良かったよ。』

『大変な目って?』

『……子供には聞かせられないような事ばっかりだからなぁ……。まぁ、そのおかげで自分の能力にも気づけたんだけど。』

『能力?あっ!さっきのジャンプ!?あれすごいね!ジャンプっていうより飛んでるくらいの感じだったよ!』

興奮しながら言う私を、龍斗さんは眉尻を下げながら見つめる。

『やっぱり本人はまだ分かんねぇよなぁ……。でも、騎士団長なら何か気付いてんじゃねぇのか?お前、団長によく抱っこされてるだろ?何か言われた事ないのか?』

『とーさまだけじゃなくて、いろんな人が抱っこしてくれるよ。とーさまとかーさまにはいつも可愛いって言われてる~。』

やだ~、恥ずかしい~。

私が照れ照れしていると、龍斗さんが苦笑しながら私の頭をポンポンしてきた。

『彩菜が可愛いのは認めるけど、そうじゃなくて、抱っこした感想……重いとか軽いとかそういうのあるだろ?』

『う~ん……あっ、よく軽いって言われるかも!ちゃんと食べてるかって。いっぱい食べないと大きくなれないぞって。だから最近はご飯おかわりもして頑張って食べてるの!』

『……そうか。偉いな。』

「アヤナから離れろ!!」

私の頭を、龍斗さんが撫でながら褒めてくれているところへ、ダナンさんが息を弾ませながら現れた。すぐ後に続いてリスターも到着する。

「ダナンさん、リスター!」

私が立ち上がって2人に駆け寄ろうとするのを、龍斗さんが私の手首を掴んで阻止する。

『龍斗さん!』

『悪いけど、彩菜の為にももう少し俺に付き合ってもらうぜ。』

龍斗さんはそう言うと私を抱き上げて屋根の端まで移動した。

私の為ってどういうこと!?

「待て!アヤナをどうする気だ!?」

ダナンさんが顔を青くして叫んだ。

「アヤナー!!」

下の方からとーさまの声がする。
龍斗さんに抱っこされたまま下を見ると、とーさまが私の方を見上げながら庭を勢いよく駆け抜けて来るところだった。

「とーさま!!」

叫ぶ私を、龍斗さんが屋根の一番端にそっと下ろす。
龍斗さんを見上げると、申し訳なさそうに眉尻を下げて私を見ていた。

『ごめんな。ちょっと怖い思いをさせるけど許せよ。きっと大丈夫だから。』

そう言うと、龍斗さんは私の肩をグイッと力強く押したのだった。

「えっ……。」

「「「アヤナー!!」」

とーさま、リスター、ダナンさんの声が重なって私の名前を叫んでいる。

私の体は後ろに倒れ、宙へ投げ出された。
落下する直前に目が合ったリスターは……髪を振り乱し、今にも泣き出しそうに顔を歪めて、必死に私に向かって手を伸ばしていた。

私も手を伸ばすけど、リスターの温かな手に届くことはなかった。


私、死んじゃうのかなぁ。


屋根の上から、私の姿が消えた。



ドサッ



「アヤナ!アヤナ!!誰か医者を!!早く!!!」


地面に横たわる私を抱き寄せて叫ぶとーさまの悲痛な声が、騒然とする庭に響いていた。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話

みっしー
恋愛
 病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。 *番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

魔力を持たずに生まれてきた私が帝国一の魔法使いと婚約することになりました

ふうか
恋愛
レティシアは魔力を持つことが当たり前の世界でただ一人、魔力を持たずに生まれてきた公爵令嬢である。 そのために、家族からは冷遇されて育った彼女は10歳のデビュタントで一人の少年と出会った。その少年の名はイサイアス。皇弟の息子で、四大公爵の一つアルハイザー公爵家の嫡男である。そしてイサイアスは周囲に影響を与えてしまうほど多くの魔力を持つ少年だった。 イサイアスとの出会いが少しづつレティシアの運命を変え始める。 これは魔力がないせいで冷遇されて来た少女が幸せを掴むための物語である。 ※1章完結※ 追記 2020.09.30 2章結婚編を加筆修正しながら更新していきます。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

処理中です...