神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです

珂里

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お家に帰れません

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なかなか泣き止まない私に、男の人はオロオロしながらもずっと側についていてくれる。
せっかくカッコイイのに眉を下げて慌てる姿が何だか可笑しくて、きっと悪い人ではないんだと思うと少しホッとした。

男の人は泣き止んできた私の頭をポンポンと優しく撫でると、自分を指さして

『ロイス』

と言った。名前かな?
もう一度自分をさして

『ロイス』

と言ったから多分間違いない。私がコクンと頷くと、今度は私を指さしてきたから

「彩菜」

泣き過ぎてヒックヒックしながら答えると、ロイスさんはもう一度私の頭を優しく撫でる。

『アヤナ』

私の名前を呼ぶと、ロイスさんは私の両脇に手を入れてヒョイと抱っこをしてくれた。
どこだか分からない場所にひとりで不安だった私は、人の温もりが恋しくて思わずギュッと抱きついてしまった。

ロイスさんは私の背中をトントンして安心させようとしてくれている。それが嬉しくて、私は更にギュッと強く抱きつくとロイスさんの胸に顔を押し付けてまた泣いた。

私はロイスさんの温もりと歩く振動、そして泣き疲れたせいもあって、抱っこされながらいつの間にか寝てしまっていた。




「……う~ん……。」

目が覚めると、私は広い部屋の天蓋付きベッドの上にいた。
とてもグッスリ眠れた気がする。なんか朝っぽいし。結構寝てたんじゃない?
このベッド、すごくフカフカで気持ち良かった。……ここ何処なんだろう?

私がキョロキョロしていると、扉がガチャリと開いて綺麗な女の人が入って来た。
腰くらいまである長い銀髪に青い目の美人さんだ。でも誰だろう?
すぐ後ろからロイスさんが部屋に入って来て安心した私はロイスさんに両手をサッと差し出した。

「ロイスさん!」

思わず抱っこをせがんでしまった私にロイスさんは少し驚いていたけど、すぐに顔を綻ばせて私をベッドの上から抱き上げてくれた。

『ふふっ。すっかり懐かれているわね。こんなに可愛い子に甘えてもらえて羨ましいわ。』

『可愛いな。』

2人がなんて言っているか分からないからロイスさんの首にぎゅ~ってしがみ付いたら、2人に背中を優しくトントンされた。

チラッと女の人を見ると、女の人も気付いてニッコリと微笑んでくれた。
うん、良い人そうだ。

『私はフローラよ。よろしくね、アヤナ。』


「……フローラさん?」

私が名前を呼ぶと、フローラさんは嬉しそうに頷いて私の頭をそっと撫でてくれた。



その後は、お医者さん?みたいな人が来て私の身体をチェックすると、ロイスさんとお話しして帰って行った。問題無かったらしい。

部屋に朝?昼?ご飯らしき物が運ばれてきたからロイスさんとフローラさんと一緒に食べた。
2人はきっと夫婦なんだね。お部屋も広いし、お金持ちなのかな。あ、このご飯も美味しい。
2人と目が合ったからニコッて笑うと2人共とっても嬉しそうに私の頭を撫で撫でしてくれた。


食べ終わってからロイスさんに抱っこされて家の外に出ると、絵本でしか見たことの無い馬車がいてロイスさんと2人で乗る。どこに行くのだろう。
窓の外を見るとフローラさんが心配そうにこっちを見ていた。

初めての馬車にドキドキしながら暫く乗っていると、街から離れた場所でゆっくり止まった。

ロイスさんが馬車を降りて私を抱っこしてくれる。私が抱っこをせがんでから、ロイスさんは移動するときには私を抱っこするのが当たり前になってしまった。……なんかゴメンナサイ。

『アヤナ、言葉が通じないから言っても分からないと思うが、あそこは昨日アヤナを発見した森だよ。何か手掛かりがないかもう一度一緒に探してみよう。』

ロイスさんが私の目を見て真剣に話している。
何を言っているのかさっぱり分からなかったけど、ロイスさんが指差した先に森が見えた。たぶん昨日、私があそこにいたんだよね。一緒に行こうって事なのかな?ママの所に帰れるのなら、どこにでも付いていくよ!
私はコクコクと頷いた。

『団長。なるべく自分達から離れないでくださいね。』

後ろから突然男の人の声がする。
私はビックリして思わずロイスさんの首にしがみ付いてしまった。
ロイスさんは私を落ち着かせるために背中を撫でてくれている。

『驚かせてしまったかな?昨日、私が森にいたのは街から逃げた盗賊を捕まえる為だったんだよ。盗賊は捕まえたから大丈夫だと思うんだけど、念のためにね。』

『団長、その子言葉分かるんですか?』

『分からないよ。でも話してあげていると落ち着くのか、じっと大人しく聞いてくれるんだ。可愛いだろう?アヤナ、こいつらはダナンとカールだ。アヤナを守ってくれるから安心していいよ。』

ロイスさんの声を聞いていたら、名前らしき単語?が出てきた。この人達の名前だよね。

「ダナンさん、カールさん。」

2人はロイスさんより若い感じがする。昨日ロイスさんが着ていたのと同じ鎧を着て、腰に剣がぶら下がっている。ホントに絵本から出てきたみたいにカッコイイ。昨日のロイスさんのがカッコ良かったけど。

私が2人の名前を呼んでニッコリすると、ダナンさんとカールさんは少しの間固まっていた。……なんで?

『……団長、ヤバイですね。メチャ可愛いじゃないですか。』

『団長にしがみ付きながら上目遣いとか庇護欲そそり過ぎでしょう。』


何を話してるか分からないけど、早く森に入ろうよ!
私が森を指差すと、3人はやっと動き出してくれた。

森に入って暫く歩いた所で、ロイスさんが私を下ろしてくれる。たぶん、昨日はここに座っていたんだろうな。

辺りを見渡してみるけど、大きな木が沢山ある以外、何も無い。

ロイスさんと手を繋いでウロウロしてみるけどやっぱり何も無い。

どこかに遊んでた公園への入り口が無いか木の裏や地面をキョロキョロ探してみたけれど、やっぱりどこにも何も無い。

それでも諦められなくて、私は森の中を歩き続けた。

「ママー!どこにいるのー?彩菜はここだよー!ママー!!」

ロイスさんは手を繋いで、何も言わずに私にずっと付き合ってくれている。

森の中を叫んで歩き続ける私に、ロイスさんとダナンさん、カールさんはずっと付き合ってくれた。


「うぅっ……、うぇっ……。」

涙で視界がボヤけて危うく転びそうになったところを、ロイスさんが抱き上げて助けてくれた。そしてそのまま、私の背中をあやす様にトントンと優しく叩いてくれる。

本当は、歩いてる途中に気付いていた。もうママのところには帰れないって。だけど諦められなくて、認めたくなくて、ずっと歩き続けてた。


涙がどんどん溢れてくる。私はロイスさんの肩に顔を押しつけて声を殺して泣いた。
私に付き合ってずっと一緒に歩いてくれてた3人に、泣き叫んでこれ以上迷惑をかけないように。

声を殺して泣く私を3人が悲痛な面持ちで見ていたことなんて、ロイスさんの肩を涙でグショグショにしながらも顔を押しつけたままだった私は全然知らなかった。




ーー木戸彩菜きどあやな、5歳。お家に帰れませんでした。









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