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第一部
4章-7
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カテリアーナはイアンに訪ねたいことがあった。
「ねえ、イアン。カルス様のことをマッドサイエンティストと呼んでいたわよね? どうしてなの?」
「あのカルスってやつはな。薬学と魔法の実験をするのが好きなんだが……ふぎゃ!」
イアンがカテリアーナの後ろを見て急に悲鳴を上げたので、振り返るとカルスが立っていた。絶対零度の冷気を纏っているかのように見える。いい笑顔をしているのが、なおさら怖さを引き立てていた。
「私が何ですか?」
「何でもありません! すみません!」
イアンの全身の毛が逆立っている。余程怖かったのだろう。
「それより、君はこの方への言葉遣いに気をつけろ」
「カティか? 何者なんだ?」
「気安く我が妃を愛称で呼ぶな」
いつの間にかイアンの後ろにフィンラスが立っていた。不機嫌そうにイアンを見ろしている。
「妃!? カティじゃなくてカテリアーナ……様が? 国王陛下の妃!?」
前にはカルス、後ろにはフィンラス。国のトップに睨まれて、イアンは今にも気絶してしまいそうだ。
「前門の虎、後門の狼」とはまさにこのことだ。
気絶しそうなイアンに助け舟を出そうと、カテリアーナはコホンと可愛らしく咳払いをする。
「まだ妃ではありません。それに愛称で呼ぶのを許したのはわたくしですわ」
「今さら敬語を使う必要はないぞ。俺の正体はバレたのだから」
フィンラスはノワールと同一人物だった。ノワールの姿の時、カテリアーナは友人だと思っていたので親しい話し方をしていたのだ。カテリアーナは開き直ることにした。
「ノワール。じゃなかった。フィンラス様」
「フィルでいい。俺の愛称だ」
「では、フィル。聞きたいことが山ほどあるわ」
「王都までの道のりはまだ遠い。何でも答えてやろう」
ふと、ツリーハウスから嫌な視線を感じたカテリアーナは反射的に弓に矢を番え、放った。
「カティ! どうした? なぜ矢を放った?」
フィンラスの問いには答えず、カテリアーナはイアンに目を向ける。その視線は鋭い。
「イアン。マタタビモドキは持っている?」
「ああ。一瓶だけは懐に持っているぜ」
「残りは?」
「ツリーハウスの中だ」
カテリアーナは弓を背負うと駆け出し、ツリーハウスに登っていく。
「わあ! すごいな。木に登るお姫様なんて初めて見たよ。フィルが言っていたとおりお転婆姫だね」
拍手をしながらカルスがツリーハウスをするすると登るカテリアーナを見守っている。
「感心している場合か? 追うぞ!」
フィンラスはノワールの姿に変化すると、カテリアーナの後を追う。
ツリーハウスに入ると、カテリアーナは周りを注意深く観察する。
「先ほどまで人がいた気配があるわ」
「そのようだな。人間か妖精か分からん匂いが残っている」
遅れてフィンラスが中に入ってくる。鼻をひくひくとさせていた。匂いを嗅ぎ分けているのだ。
「カル。追えるか?」
「いえ。途中で匂いが途切れています。おそらくケットシーの能力を知っているのでしょう」
カルスとイアンもカテリアーナを追って、ツリーハウスに入ってきたのだ。
イアンは奥の貯蔵庫に入っていくと、ガサガサと木箱を漁っている。
「ない! 新種のマタタビがなくなっている」
フィンラスはしばらく思案する。何者かがマタタビモドキを盗んだのだ。明らかに証拠隠滅をするためだと推察できる。
「こやつらをこのまま放置しておくと危険そうだな」
「そうですね。ごろつきといえども我が国の国民です」
フィンラスとカルスの物騒な会話を聞いて、イアンが体を震わせている。
「俺たち、消されるってことか?」
「その可能性が高いのよ。イアン、一緒に王都へ行きましょう。仲間たちも連れて」
カテリアーナとしては、このままイアンたちを放置するという選択肢はない。もふもふを殺めるなどもっての外だ。
◇◇◇
エルファーレン王国の国王一行がルゥナの森を去ってくのを男は木の上から見つめ、舌打ちをする。
ルゥナの森とソゥレの森の猫たちは全て連れていかれた。
「猫のくせに中々切れる国王だ。妖精の国で賢王と呼ばれるだけのことはある。それに『取り替え姫』め! 忌々しい小娘だ」
完全に気配を消していたのに、カテリアーナは矢を放ってきたのだ。怒りを紛らわせようと男は爪を噛む。
「決めた! 生かしておこうと思ったが『取り替え姫』は消えてもらおう」
男はにたりと微笑む。
「ねえ、イアン。カルス様のことをマッドサイエンティストと呼んでいたわよね? どうしてなの?」
「あのカルスってやつはな。薬学と魔法の実験をするのが好きなんだが……ふぎゃ!」
イアンがカテリアーナの後ろを見て急に悲鳴を上げたので、振り返るとカルスが立っていた。絶対零度の冷気を纏っているかのように見える。いい笑顔をしているのが、なおさら怖さを引き立てていた。
「私が何ですか?」
「何でもありません! すみません!」
イアンの全身の毛が逆立っている。余程怖かったのだろう。
「それより、君はこの方への言葉遣いに気をつけろ」
「カティか? 何者なんだ?」
「気安く我が妃を愛称で呼ぶな」
いつの間にかイアンの後ろにフィンラスが立っていた。不機嫌そうにイアンを見ろしている。
「妃!? カティじゃなくてカテリアーナ……様が? 国王陛下の妃!?」
前にはカルス、後ろにはフィンラス。国のトップに睨まれて、イアンは今にも気絶してしまいそうだ。
「前門の虎、後門の狼」とはまさにこのことだ。
気絶しそうなイアンに助け舟を出そうと、カテリアーナはコホンと可愛らしく咳払いをする。
「まだ妃ではありません。それに愛称で呼ぶのを許したのはわたくしですわ」
「今さら敬語を使う必要はないぞ。俺の正体はバレたのだから」
フィンラスはノワールと同一人物だった。ノワールの姿の時、カテリアーナは友人だと思っていたので親しい話し方をしていたのだ。カテリアーナは開き直ることにした。
「ノワール。じゃなかった。フィンラス様」
「フィルでいい。俺の愛称だ」
「では、フィル。聞きたいことが山ほどあるわ」
「王都までの道のりはまだ遠い。何でも答えてやろう」
ふと、ツリーハウスから嫌な視線を感じたカテリアーナは反射的に弓に矢を番え、放った。
「カティ! どうした? なぜ矢を放った?」
フィンラスの問いには答えず、カテリアーナはイアンに目を向ける。その視線は鋭い。
「イアン。マタタビモドキは持っている?」
「ああ。一瓶だけは懐に持っているぜ」
「残りは?」
「ツリーハウスの中だ」
カテリアーナは弓を背負うと駆け出し、ツリーハウスに登っていく。
「わあ! すごいな。木に登るお姫様なんて初めて見たよ。フィルが言っていたとおりお転婆姫だね」
拍手をしながらカルスがツリーハウスをするすると登るカテリアーナを見守っている。
「感心している場合か? 追うぞ!」
フィンラスはノワールの姿に変化すると、カテリアーナの後を追う。
ツリーハウスに入ると、カテリアーナは周りを注意深く観察する。
「先ほどまで人がいた気配があるわ」
「そのようだな。人間か妖精か分からん匂いが残っている」
遅れてフィンラスが中に入ってくる。鼻をひくひくとさせていた。匂いを嗅ぎ分けているのだ。
「カル。追えるか?」
「いえ。途中で匂いが途切れています。おそらくケットシーの能力を知っているのでしょう」
カルスとイアンもカテリアーナを追って、ツリーハウスに入ってきたのだ。
イアンは奥の貯蔵庫に入っていくと、ガサガサと木箱を漁っている。
「ない! 新種のマタタビがなくなっている」
フィンラスはしばらく思案する。何者かがマタタビモドキを盗んだのだ。明らかに証拠隠滅をするためだと推察できる。
「こやつらをこのまま放置しておくと危険そうだな」
「そうですね。ごろつきといえども我が国の国民です」
フィンラスとカルスの物騒な会話を聞いて、イアンが体を震わせている。
「俺たち、消されるってことか?」
「その可能性が高いのよ。イアン、一緒に王都へ行きましょう。仲間たちも連れて」
カテリアーナとしては、このままイアンたちを放置するという選択肢はない。もふもふを殺めるなどもっての外だ。
◇◇◇
エルファーレン王国の国王一行がルゥナの森を去ってくのを男は木の上から見つめ、舌打ちをする。
ルゥナの森とソゥレの森の猫たちは全て連れていかれた。
「猫のくせに中々切れる国王だ。妖精の国で賢王と呼ばれるだけのことはある。それに『取り替え姫』め! 忌々しい小娘だ」
完全に気配を消していたのに、カテリアーナは矢を放ってきたのだ。怒りを紛らわせようと男は爪を噛む。
「決めた! 生かしておこうと思ったが『取り替え姫』は消えてもらおう」
男はにたりと微笑む。
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