9 / 40
第一部
2章-2
しおりを挟む
アデライードは時々カテリアーナの下にやってきては虐げる。
言葉の暴力であったり、物理的な暴力であったり様々だ。
見張りの兵士が話しているのを聞いて知ったのだが、アデライードは癇癪持ちらしい。
「アデライード姫は憂さ晴らしにカテリアーナ姫を虐げてるんだろうな」
「仮にも妹姫だろ? ひどくないか?」
「バカ! カテリアーナ姫に同情するとくびになるぞ」
「そりゃそうか。『取り替え姫』だもんな」
カテリアーナは心身ともに疲れ果てていた。
一番こたえるのは、食事量が少ないことだ。育ち盛りのカテリアーナには毎食パンと水だけでは足りないのだ。
「あ~あ。お腹空いたなあ」
ごろんと寝返りをうつと、明り取りの窓に黒い影が見えた。カテリアーナはばっと飛び起きる。
黒い影はにゃあと鳴き、カテリアーナの下に飛び込んできた。
「ノワール! ああ、ノワール!」
カテリアーナは半年ぶりに会ったノワールを抱きしめる。
「よくここが分かったわね。ノワールはすごいわ!」
カテリアーナの部屋は塔の最上階なので、かなりの高さがあるはずだ。
だが、猫は身が軽いと聞く。侵入経路はそれなりにあるのだろう。
ノワールはカテリアーナの腕から飛び降りると、扉まで行きカリカリと爪で掻く。
「扉を開けろと言っているのかしら?」
扉を開けてやるとノワールは駆け出す。
「ノワール! どこに行くの? 待って!」
カテリアーナはノワールの後を追う。
やがてノワールは一つの部屋の前で止まり、扉に前足をかける。
「ここに何かあるの?」
息を切らせながら、ノワールに尋ねるとうにゃんと鳴く。
カテリアーナは深呼吸をして息を整えると、扉を開く。
部屋の中に入ると絵画がたくさん置いてあった。王宮で使われなくなったものを収納してあるのだろう。絵画はどれも古い。
ノワールは正面にかけられた肖像画に近づくと、にゃあと鳴く。
その肖像画には少女が描かれていた。青いドレスを着て、微笑む少女は可憐でどこか懐かしい感じがする。淡い金色の髪、カテリアーナと同じエメラルドグリーンの瞳。
「もしかしておばあさま? これはおばあさまの少女の頃の肖像画なのかしら?」
クローディアはラストリア王国の王女だった。しかし、クローディアには兄弟姉妹がおらず、王位を継承するには婿を取るしかなかったのだ。しかもラストリア王国は女性君主を認めていない。
隣国の王子を婿に取ったが、前国王は体が弱くカテリアーナの父が七歳の時に亡くなってしまったのだ。
ノワールへ顔を向けると、カテリアーナに抱っこしろと言わんばかりに両前足をあげてくる。何ともあざと可愛い様にカテリアーナはノワールを抱き上げた。
「甘えたいの? ノワール?」
しかし、抱き上げられたノワールはカテリアーナを足場に肖像画へ飛びつく。
「ダメよ、ノワール!」
ノワールを止めようにも肖像画のてっぺんにいるので、カテリアーナでは届かない。
「何か、足場になる台かはしごはないかしら?」
カテリアーナは周りを探すが、それらしいものは見当たらない。
部屋をうろうろとしていると、カタンと何かが落ちる音がした。
振り返るとクローディアの肖像画が外れて下に落ちている。
「ノワール、このいたずらっ子さん。ダメじゃない」
ノワールがにゃんと鳴き、石壁を見る。
ノワールが立っている場所へ行くと、石壁に鍵穴があるのが見えた。ちょうど部屋の扉のようにカテリアーナでも手が届く場所にある。
「何かしら? 奥に続き部屋でもあるのかしら?」
ノワールがカテリアーナがかけている鍵のペンダントをうにゃんと前足で差す。
「え? この鍵を使えというの?」
にゃんとノワールが鳴く。まるで「そうだ」と言っているようだ。
意を決してカテリアーナはペンダントを鍵穴に差し込む。
かちゃりと音がしたかと思うと、石壁が開いた。
言葉の暴力であったり、物理的な暴力であったり様々だ。
見張りの兵士が話しているのを聞いて知ったのだが、アデライードは癇癪持ちらしい。
「アデライード姫は憂さ晴らしにカテリアーナ姫を虐げてるんだろうな」
「仮にも妹姫だろ? ひどくないか?」
「バカ! カテリアーナ姫に同情するとくびになるぞ」
「そりゃそうか。『取り替え姫』だもんな」
カテリアーナは心身ともに疲れ果てていた。
一番こたえるのは、食事量が少ないことだ。育ち盛りのカテリアーナには毎食パンと水だけでは足りないのだ。
「あ~あ。お腹空いたなあ」
ごろんと寝返りをうつと、明り取りの窓に黒い影が見えた。カテリアーナはばっと飛び起きる。
黒い影はにゃあと鳴き、カテリアーナの下に飛び込んできた。
「ノワール! ああ、ノワール!」
カテリアーナは半年ぶりに会ったノワールを抱きしめる。
「よくここが分かったわね。ノワールはすごいわ!」
カテリアーナの部屋は塔の最上階なので、かなりの高さがあるはずだ。
だが、猫は身が軽いと聞く。侵入経路はそれなりにあるのだろう。
ノワールはカテリアーナの腕から飛び降りると、扉まで行きカリカリと爪で掻く。
「扉を開けろと言っているのかしら?」
扉を開けてやるとノワールは駆け出す。
「ノワール! どこに行くの? 待って!」
カテリアーナはノワールの後を追う。
やがてノワールは一つの部屋の前で止まり、扉に前足をかける。
「ここに何かあるの?」
息を切らせながら、ノワールに尋ねるとうにゃんと鳴く。
カテリアーナは深呼吸をして息を整えると、扉を開く。
部屋の中に入ると絵画がたくさん置いてあった。王宮で使われなくなったものを収納してあるのだろう。絵画はどれも古い。
ノワールは正面にかけられた肖像画に近づくと、にゃあと鳴く。
その肖像画には少女が描かれていた。青いドレスを着て、微笑む少女は可憐でどこか懐かしい感じがする。淡い金色の髪、カテリアーナと同じエメラルドグリーンの瞳。
「もしかしておばあさま? これはおばあさまの少女の頃の肖像画なのかしら?」
クローディアはラストリア王国の王女だった。しかし、クローディアには兄弟姉妹がおらず、王位を継承するには婿を取るしかなかったのだ。しかもラストリア王国は女性君主を認めていない。
隣国の王子を婿に取ったが、前国王は体が弱くカテリアーナの父が七歳の時に亡くなってしまったのだ。
ノワールへ顔を向けると、カテリアーナに抱っこしろと言わんばかりに両前足をあげてくる。何ともあざと可愛い様にカテリアーナはノワールを抱き上げた。
「甘えたいの? ノワール?」
しかし、抱き上げられたノワールはカテリアーナを足場に肖像画へ飛びつく。
「ダメよ、ノワール!」
ノワールを止めようにも肖像画のてっぺんにいるので、カテリアーナでは届かない。
「何か、足場になる台かはしごはないかしら?」
カテリアーナは周りを探すが、それらしいものは見当たらない。
部屋をうろうろとしていると、カタンと何かが落ちる音がした。
振り返るとクローディアの肖像画が外れて下に落ちている。
「ノワール、このいたずらっ子さん。ダメじゃない」
ノワールがにゃんと鳴き、石壁を見る。
ノワールが立っている場所へ行くと、石壁に鍵穴があるのが見えた。ちょうど部屋の扉のようにカテリアーナでも手が届く場所にある。
「何かしら? 奥に続き部屋でもあるのかしら?」
ノワールがカテリアーナがかけている鍵のペンダントをうにゃんと前足で差す。
「え? この鍵を使えというの?」
にゃんとノワールが鳴く。まるで「そうだ」と言っているようだ。
意を決してカテリアーナはペンダントを鍵穴に差し込む。
かちゃりと音がしたかと思うと、石壁が開いた。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
辺境伯へ嫁ぎます。
アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。
隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。
私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。
辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。
本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。
辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。
辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。
それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか?
そんな望みを抱いてしまいます。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 設定はゆるいです。
(言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)
❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。
(出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)
捨てられた侯爵夫人の二度目の人生は皇帝の末の娘でした。
クロユキ
恋愛
「俺と離婚して欲しい、君の妹が俺の子を身籠った」
パルリス侯爵家に嫁いだソフィア・ルモア伯爵令嬢は結婚生活一年目でソフィアの夫、アレック・パルリス侯爵に離婚を告げられた。結婚をして一度も寝床を共にした事がないソフィアは白いまま離婚を言われた。
夫の良き妻として尽くして来たと思っていたソフィアは悲しみのあまり自害をする事になる……
誤字、脱字があります。不定期ですがよろしくお願いします。
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる