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第一部

2章-2

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 アデライードは時々カテリアーナの下にやってきては虐げる。

 言葉の暴力であったり、物理的な暴力であったり様々だ。

 見張りの兵士が話しているのを聞いて知ったのだが、アデライードは癇癪かんしゃく持ちらしい。

「アデライード姫は憂さ晴らしにカテリアーナ姫を虐げてるんだろうな」
「仮にも妹姫だろ? ひどくないか?」
「バカ! カテリアーナ姫に同情するとくびになるぞ」
「そりゃそうか。『取り替え姫』だもんな」

 カテリアーナは心身ともに疲れ果てていた。

 一番こたえるのは、食事量が少ないことだ。育ち盛りのカテリアーナには毎食パンと水だけでは足りないのだ。

「あ~あ。お腹空いたなあ」

 ごろんと寝返りをうつと、明り取りの窓に黒い影が見えた。カテリアーナはばっと飛び起きる。

 黒い影はにゃあと鳴き、カテリアーナの下に飛び込んできた。

「ノワール! ああ、ノワール!」

 カテリアーナは半年ぶりに会ったノワールを抱きしめる。

「よくここが分かったわね。ノワールはすごいわ!」

 カテリアーナの部屋は塔の最上階なので、かなりの高さがあるはずだ。

 だが、猫は身が軽いと聞く。侵入経路はそれなりにあるのだろう。

 ノワールはカテリアーナの腕から飛び降りると、扉まで行きカリカリと爪で掻く。

「扉を開けろと言っているのかしら?」

 扉を開けてやるとノワールは駆け出す。

「ノワール! どこに行くの? 待って!」

 カテリアーナはノワールの後を追う。

 やがてノワールは一つの部屋の前で止まり、扉に前足をかける。

「ここに何かあるの?」

 息を切らせながら、ノワールに尋ねるとうにゃんと鳴く。

 カテリアーナは深呼吸をして息を整えると、扉を開く。


 部屋の中に入ると絵画がたくさん置いてあった。王宮で使われなくなったものを収納してあるのだろう。絵画はどれも古い。

 ノワールは正面にかけられた肖像画に近づくと、にゃあと鳴く。

 その肖像画には少女が描かれていた。青いドレスを着て、微笑む少女は可憐でどこか懐かしい感じがする。淡い金色の髪、カテリアーナと同じエメラルドグリーンの瞳。

「もしかしておばあさま? これはおばあさまの少女の頃の肖像画なのかしら?」

 クローディアはラストリア王国の王女だった。しかし、クローディアには兄弟姉妹がおらず、王位を継承するには婿を取るしかなかったのだ。しかもラストリア王国は女性君主を認めていない。

 隣国の王子を婿に取ったが、前国王は体が弱くカテリアーナの父が七歳の時に亡くなってしまったのだ。

 ノワールへ顔を向けると、カテリアーナに抱っこしろと言わんばかりに両前足をあげてくる。何ともあざと可愛い様にカテリアーナはノワールを抱き上げた。

「甘えたいの? ノワール?」

 しかし、抱き上げられたノワールはカテリアーナを足場に肖像画へ飛びつく。

「ダメよ、ノワール!」

 ノワールを止めようにも肖像画のてっぺんにいるので、カテリアーナでは届かない。

「何か、足場になる台かはしごはないかしら?」

 カテリアーナは周りを探すが、それらしいものは見当たらない。

 部屋をうろうろとしていると、カタンと何かが落ちる音がした。

 振り返るとクローディアの肖像画が外れて下に落ちている。

「ノワール、このいたずらっ子さん。ダメじゃない」

 ノワールがにゃんと鳴き、石壁を見る。
 
 ノワールが立っている場所へ行くと、石壁に鍵穴があるのが見えた。ちょうど部屋の扉のようにカテリアーナでも手が届く場所にある。

「何かしら? 奥に続き部屋でもあるのかしら?」

 ノワールがカテリアーナがかけている鍵のペンダントをうにゃんと前足で差す。

「え? この鍵を使えというの?」

 にゃんとノワールが鳴く。まるで「そうだ」と言っているようだ。

 意を決してカテリアーナはペンダントを鍵穴に差し込む。

 かちゃりと音がしたかと思うと、石壁が開いた。
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