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本編

僕の弱点?

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「じゃあ行ってくる。誰が来ても会う必要はないから」

 そう言うと雅は僕の頭を一撫でして部屋を出ていった。

「千晴様、お茶と一緒に召し上がりませんか?」
「え、どうしたのこれ」
「ご主人様が千晴様のお好きなお菓子をと、手配されていたものが先程届きました」
「そうなの? 雅が選んでくれたんだ」

 木製のサービングワゴンに載せられた大きなお皿には、可愛いケーキやプチタルトやチョコレート等が綺麗に並べられている。
 お菓子が盛られているお皿は、お花と果物と一緒に可愛いリスが描かれている。なんとなく僕の好みに合わせているのかなと思うのは自信過剰だろうか?
 サービングワゴンはマホガニー材の落ち着いた艶が美しい天板に金で装飾がされていて、天板を支える脚の部分はツイストレッグになっている凝ったデザインで、こっちは部屋の雰囲気にも合っているし雅の好みの様な気がするから、これを考えるとお皿のデザインが可愛すぎる気がするんだよね。

「凄いね、どれも美味しそう」

 雅いつの間に手配してくれてたんだろ、結婚の話といい雅は僕の為に考えて動いてくれてるんだと実感してしまう。

「凄く美味しそうだし食べるの楽しみだけど、雅がいる時に食べたいから紅茶だけお願いします」

 嬉しいって、雅にお礼言ってから食べよう。
 その方がきっともっと美味しいもん。

「畏まりました」
「折角用意してくれたのにごめんね」
「いいえ、千晴様がご主人様を深く思われてのこと、どうか何も仰らないで下さいませ」
「ありがとう、じゃあお茶お願いします」
「すぐにご用意致します」

 サービングワゴンを押しながら、メイドさんはキッチンへ戻っていく。

「はぁ」

 ソファーに座り、狼雅のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて目を閉じる。
 雅は佐々木様にさっき撮影したものを見せに行った。
 佐々木様にそれで借りが返せる理由は、寮に戻る途中で聞いた。
 佐々木様は森村様を次期当主から引きずり降ろしたいのだそうだ。
 佐々木に見せたら、森村様の実家にあれを送るのではないかと雅は言っていた。
 森村様は木村君を小姓にと申請したことを実家から反対されているし、小姓すら自分でまともな者を選べないようなら次期当主になる器でもないのではという話も出ているのだそうだ。
 だから、今がいい機会だと佐々木様は考えているらしい。
 小姓を選ぶのすら能力のあるなしの判断にされるのだとしたら、雅は僕で本当に大丈夫だったんだろうか。
 しかも正妻としてなんて、きっと僕なんかじゃ思い付かない様な問題があったのを一人で解決してくれたんだろう。

「雅」

 狼雅に頬擦りしながら、涙をこらえる。
 雅に迷惑しか掛けてないのに、これからもそうなのかもしれないのに。好きで、大好きで一緒にいたいと願ってしまう。
 なんで僕はこうなんだろう。
どうして幸せだと感じれば感じるほど、不安になるんだろう。
 突然すべてが駄目になって、暗い場所に押しやられてしまいそうで怖いんだ。
 なぜか、そう感じてしまうんだ。
 雅の気持ちを疑ってるわけじゃないのに、無理矢理引き離されそうで怖いんだ。

「なんで、そんな風に思っちゃうんだろ」

 やっぱりまだ、心のどこかで自分は主人公じゃなくモブなんだという思いがあるんだろうか。

「自信ないのかな」

 だから不安なんだろうか。

「駄目だなこんなんじゃ、あれ? メールの音?」

 テーブルの上に置いていたスマホが突然鳴った。
 雅なら電話かトークアプリの筈だけどと、不思議に思いながら画面を開く。

「忠告を無視して小姓になったモブへ、お仕置きだよ」

 メールのタイトルのみ。
 写真がメール本文に貼り付けられていたのか、クリックしてないのにすぐに表示されてしまった。

「なに、これ」

 これは、なに。
 一瞬頭の中が真っ白になって、写っているものを理解した瞬間吐き気が込み上げてきた。

「うっ」

 ソファーに狼雅のぬいぐるみとスマホを放り投げ、口を両手で覆ってトイレに向かう。

「千晴様?」

 メイドさんが声を掛けてきたけど、答える余裕は無かった。

「うぇっ、うっ。うえっ」

 胃の中のものを全部吐き出しても、吐き気が止まらない。
 目の前にあの画像がちらついて、それ以外にも何か遠い記憶が甦りそうで僕は慌てて瞼をぎゅっと閉じる。

「千晴様、どうかされましたか? 千晴様!!」

 ドアを閉めずにトイレに飛び込んだ僕を見て、メイドさんが声を上げたのが聞こえた。

「みや、び」

 助けて、助けて。
 遠くなる意識の中、木村君の嗤い声が聞こえた気がした。
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