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本編
女性目線って怖い
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「鈴森様は学園にご入学される前は学校には通わずに家庭教師をつけ勉強されていらっしゃいましたか? ご家族と使用人以外の女性とお話された経験はございますか」
急に変な質問をされて、僕は入学する前の自分を振り返る。
前世の記憶が戻ったせいで、ちょっと曖昧になっていたりするし、入学前の僕はあまり印象深い思い出ってなかったりする。
前世庶民だった俺にしてみると、考えられないレベルの箱入りだった僕は、優しい家族に守られてのんびり毎日を過ごしていた。
「家族以外ですか? ええと、家族と親戚以外はありません。学校は学園に入る前は家庭教師がついていましたので、外に出たこともありません」
「さようでござますか、家庭教師はどの様な方が」
「あの、母の歳くらいの遠縁の女性です。他の兄妹は学校に通っていたと思います。僕だけ違っている理由は分りません」
そういえば、今話していて気がついた。
僕だけ学校に通ってないんだ。高等学校は嫁ぐ相手を探すため通わないといけないと言われて受験したけれど、僕は屋敷の外に一人で出掛けた事もなければ、妹の様に他家のお茶会に出たこともない。お茶会は親族のみの小規模のものだけだった。
離れて暮らすお母様と妹とは、あまり交流が無かったからかもしれない。
「舞様以上の純粋培養かと存じます。その為他人の悪意や駆け引き等が思いつかないのも道理かと」
「駆け引き、ですか」
木村君について聞いたんじゃなかったっけ、なんで僕の話になっているんだろう? 内心首を傾げながら陽子さんの言葉を待つ。
「昨日の騒動についてら、ご主人様と舞様から伺いました。女性の目線からの意見をとの事ですので、騒動の内容を聞いたのみ、木村様の人間性などを知らぬ立場でお話致します」
「はい、お願いします」
「まず。自分が名前を呼ばれていたと勘違いした。それは意図的かと存じます」
「え?」
「そうなのですか?」
僕も舞も驚きの声を上げる。
だって、そこから? あれイベントなんだけど、そこから木村君の策略なの?
「自分を呼んでいるかどうか、例えば『おい』とか『ねえ』などでも、自分の方を向いて話をしていれば自分だと気がつきますし、そうでないなら違うと判断するでしょう」
「それはそうだけど。彼の本名が春で、雅は僕をハルと呼ぶから」
「騒動の際、教室のどの位置に彼と鈴森様と山城様がいらっしゃったか教えて頂けますか」
言われて考える。
確か木村君は川島君の席の側で、どちらかと言えば黒板の近く。
教室に戻って自分の席に着こうとしていた僕は、雅に呼ばれたんだ。
僕と雅の席は川島君の席から離れているし、返事をした時木村君は黒板を背にしていた。
「雅が誰を呼んだのか、彼には見えていた?」
「そう言えば山城様は真っ直ぐ千晴様に向かって歩いていらっしゃいましたし、それを見ていたなら自分が呼ばれたと誤解するのはおかしいですね」
「やはりそうですか」
それじゃ意図的に木村君は、雅に自分が名前で呼ばれたと勘違いしたと、それは雅に自分が名前も春と呼ばれているからだと示した様なものだ。
でも、どうして。
「木村様は山城様と親しくしていると周囲に見せたかったのかもしれませんね。ですが山城様に否定されて失敗してしまった。だから今度は鈴森様が自分へ敵対心を持っていると思わせようとしたのではないでしょうか」
「敵対心? え、いつそんなこと」
何かあったっけ? 僕あの時、イベントだと気がついて動揺してたから詳しく覚えてないんだよね。
「千晴様に睨まないでと彼は発言していたと、ご主人様が仰っていました。あの状況でそういう発言をした木村様をご主人様は警戒されています。ですから、舞様の周囲には注意する様にとご指示がございました」
「睨まないで? あ、確かにそう言われました。僕、そんな事してないのに」
雅がすぐに否定してくれたから、僕そのままにしてたけれど。
確かに木村君はそう言って脅えて、川島君と谷崎様が僕を警戒したんだ。
「木村様に名前呼びを許していないと、山城様がもしその場で即座に否定していなければ、少しでも躊躇う素振りがあったとしたら、木村様は周囲に山城様にも名前呼びをされているけれど、何らかの理由で隠していると誤解された可能性がございます」
言葉の裏を読むのが貴族だと、ゲームで誰かの台詞にあった。
でも、僕はそういうの考え付かないし、裏があるのかどうかなんて気にして会話した経験もないから、陽子さんの考察も素直に頷けない。
ゲームの主人公は駆け引きとか無縁の子だから、あれが演技だったとは思えないんだ。
「そんな意図があったのでしょうか」
「本人ではありませんので、本当がどうかは分りかねます。ですが、平民がこの学園の奨学生となるのは容易ではありません。学力が十分かどうかは勿論ですが長時間の面接でどの様な場面でも臨機応変に対応が出来る人材であると認められて、初めて奨学生となれるのです」
長時間の面接。そんなのがあるんだ知らなかった。
「平民が奨学生となる。その目的は、平民に高い教育を与える為ではありません。賢く見目麗しい、でも後ろ盾のない平民であれば小姓の予備として十分に使えますし、上手く使えば敵対派閥への諜報活動にも利用できます。あの見た目ですし、色事での諜報を得意とする者の可能性もございます」
「え、あの。色事での諜報ってあの」
あ、これ僕の知識外の話だ。
ゲームの主人公だから彼は平民で奨学生なんだと、前世の記憶があるから僕は思うけれど、そうじゃなければ諜報活動なんて風にとられるのか。
しかも色事。色事による諜報活動ってどういうのだよ。
「彼は孤児院出身です。その孤児院は谷崎家の分家が経営している場所でございますが、かといって谷崎家が関係しているわけでは無いと思われます。もし、諜報要員として谷崎家が学園に入れたのであれば、谷崎様が心酔しているのは悪手でしょう。ただ、分家が谷崎家本家の次期当主になるかもしれない方の失墜を狙っているのなら別ですが」
そんな大事になるような話なのかな、でもゲームの設定を知らなければそういう警戒もあるのかもしれない。
確かにゲームとは色々違っている点が多すぎる。僕が前 世の記憶を持っているせいで何かが狂った?
少なくとも舞の件は、僕の行動で狂ってるのかもしれない。あのままだと、舞は何も言わずに学園を去っていた可能性はある。
でも、もしそうだとしたら。
本当に木村春が誰かの手先という可能性もあるのかな。
「谷崎様が絡んでいるから、雅に近寄って」
「その可能性はありますが、それなら谷崎様や川島様が彼の近くに居るのは矛盾しています。山城家の次期当主を魅了し、木村様が山城雅様の小姓となる事で家の力を弱らせようとするのならば、敵対派閥の子息が親しくする木村様の行動は警戒の対象となるでしょうから」
言われて凄く納得するけれど、なんでこの人メイドなのにこんなに裏事情に詳しいの?
「転校早々の行動から疑いがございましたが、昨日の騒動の結果からどこかの家の子飼いという線は薄れてはおります。諜報として学んだ者とすればあまりにもお粗末ですから」
「そうなんだ」
「ただ油断は出来ません。あの騒動が油断させる策略の可能性もございますし、彼の行動はおかしな点が多すぎます。ですから鈴森様は色々悩む事をせずに早々に山城様の小姓になる事をお勧め致します」
もの凄くきっぱり言い切るメイドさんに驚きすぎて、僕は何も言えなかった。
急に変な質問をされて、僕は入学する前の自分を振り返る。
前世の記憶が戻ったせいで、ちょっと曖昧になっていたりするし、入学前の僕はあまり印象深い思い出ってなかったりする。
前世庶民だった俺にしてみると、考えられないレベルの箱入りだった僕は、優しい家族に守られてのんびり毎日を過ごしていた。
「家族以外ですか? ええと、家族と親戚以外はありません。学校は学園に入る前は家庭教師がついていましたので、外に出たこともありません」
「さようでござますか、家庭教師はどの様な方が」
「あの、母の歳くらいの遠縁の女性です。他の兄妹は学校に通っていたと思います。僕だけ違っている理由は分りません」
そういえば、今話していて気がついた。
僕だけ学校に通ってないんだ。高等学校は嫁ぐ相手を探すため通わないといけないと言われて受験したけれど、僕は屋敷の外に一人で出掛けた事もなければ、妹の様に他家のお茶会に出たこともない。お茶会は親族のみの小規模のものだけだった。
離れて暮らすお母様と妹とは、あまり交流が無かったからかもしれない。
「舞様以上の純粋培養かと存じます。その為他人の悪意や駆け引き等が思いつかないのも道理かと」
「駆け引き、ですか」
木村君について聞いたんじゃなかったっけ、なんで僕の話になっているんだろう? 内心首を傾げながら陽子さんの言葉を待つ。
「昨日の騒動についてら、ご主人様と舞様から伺いました。女性の目線からの意見をとの事ですので、騒動の内容を聞いたのみ、木村様の人間性などを知らぬ立場でお話致します」
「はい、お願いします」
「まず。自分が名前を呼ばれていたと勘違いした。それは意図的かと存じます」
「え?」
「そうなのですか?」
僕も舞も驚きの声を上げる。
だって、そこから? あれイベントなんだけど、そこから木村君の策略なの?
「自分を呼んでいるかどうか、例えば『おい』とか『ねえ』などでも、自分の方を向いて話をしていれば自分だと気がつきますし、そうでないなら違うと判断するでしょう」
「それはそうだけど。彼の本名が春で、雅は僕をハルと呼ぶから」
「騒動の際、教室のどの位置に彼と鈴森様と山城様がいらっしゃったか教えて頂けますか」
言われて考える。
確か木村君は川島君の席の側で、どちらかと言えば黒板の近く。
教室に戻って自分の席に着こうとしていた僕は、雅に呼ばれたんだ。
僕と雅の席は川島君の席から離れているし、返事をした時木村君は黒板を背にしていた。
「雅が誰を呼んだのか、彼には見えていた?」
「そう言えば山城様は真っ直ぐ千晴様に向かって歩いていらっしゃいましたし、それを見ていたなら自分が呼ばれたと誤解するのはおかしいですね」
「やはりそうですか」
それじゃ意図的に木村君は、雅に自分が名前で呼ばれたと勘違いしたと、それは雅に自分が名前も春と呼ばれているからだと示した様なものだ。
でも、どうして。
「木村様は山城様と親しくしていると周囲に見せたかったのかもしれませんね。ですが山城様に否定されて失敗してしまった。だから今度は鈴森様が自分へ敵対心を持っていると思わせようとしたのではないでしょうか」
「敵対心? え、いつそんなこと」
何かあったっけ? 僕あの時、イベントだと気がついて動揺してたから詳しく覚えてないんだよね。
「千晴様に睨まないでと彼は発言していたと、ご主人様が仰っていました。あの状況でそういう発言をした木村様をご主人様は警戒されています。ですから、舞様の周囲には注意する様にとご指示がございました」
「睨まないで? あ、確かにそう言われました。僕、そんな事してないのに」
雅がすぐに否定してくれたから、僕そのままにしてたけれど。
確かに木村君はそう言って脅えて、川島君と谷崎様が僕を警戒したんだ。
「木村様に名前呼びを許していないと、山城様がもしその場で即座に否定していなければ、少しでも躊躇う素振りがあったとしたら、木村様は周囲に山城様にも名前呼びをされているけれど、何らかの理由で隠していると誤解された可能性がございます」
言葉の裏を読むのが貴族だと、ゲームで誰かの台詞にあった。
でも、僕はそういうの考え付かないし、裏があるのかどうかなんて気にして会話した経験もないから、陽子さんの考察も素直に頷けない。
ゲームの主人公は駆け引きとか無縁の子だから、あれが演技だったとは思えないんだ。
「そんな意図があったのでしょうか」
「本人ではありませんので、本当がどうかは分りかねます。ですが、平民がこの学園の奨学生となるのは容易ではありません。学力が十分かどうかは勿論ですが長時間の面接でどの様な場面でも臨機応変に対応が出来る人材であると認められて、初めて奨学生となれるのです」
長時間の面接。そんなのがあるんだ知らなかった。
「平民が奨学生となる。その目的は、平民に高い教育を与える為ではありません。賢く見目麗しい、でも後ろ盾のない平民であれば小姓の予備として十分に使えますし、上手く使えば敵対派閥への諜報活動にも利用できます。あの見た目ですし、色事での諜報を得意とする者の可能性もございます」
「え、あの。色事での諜報ってあの」
あ、これ僕の知識外の話だ。
ゲームの主人公だから彼は平民で奨学生なんだと、前世の記憶があるから僕は思うけれど、そうじゃなければ諜報活動なんて風にとられるのか。
しかも色事。色事による諜報活動ってどういうのだよ。
「彼は孤児院出身です。その孤児院は谷崎家の分家が経営している場所でございますが、かといって谷崎家が関係しているわけでは無いと思われます。もし、諜報要員として谷崎家が学園に入れたのであれば、谷崎様が心酔しているのは悪手でしょう。ただ、分家が谷崎家本家の次期当主になるかもしれない方の失墜を狙っているのなら別ですが」
そんな大事になるような話なのかな、でもゲームの設定を知らなければそういう警戒もあるのかもしれない。
確かにゲームとは色々違っている点が多すぎる。僕が前 世の記憶を持っているせいで何かが狂った?
少なくとも舞の件は、僕の行動で狂ってるのかもしれない。あのままだと、舞は何も言わずに学園を去っていた可能性はある。
でも、もしそうだとしたら。
本当に木村春が誰かの手先という可能性もあるのかな。
「谷崎様が絡んでいるから、雅に近寄って」
「その可能性はありますが、それなら谷崎様や川島様が彼の近くに居るのは矛盾しています。山城家の次期当主を魅了し、木村様が山城雅様の小姓となる事で家の力を弱らせようとするのならば、敵対派閥の子息が親しくする木村様の行動は警戒の対象となるでしょうから」
言われて凄く納得するけれど、なんでこの人メイドなのにこんなに裏事情に詳しいの?
「転校早々の行動から疑いがございましたが、昨日の騒動の結果からどこかの家の子飼いという線は薄れてはおります。諜報として学んだ者とすればあまりにもお粗末ですから」
「そうなんだ」
「ただ油断は出来ません。あの騒動が油断させる策略の可能性もございますし、彼の行動はおかしな点が多すぎます。ですから鈴森様は色々悩む事をせずに早々に山城様の小姓になる事をお勧め致します」
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