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本編
チョコレートを買いに行こう その1
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「千晴様、今日の放課後お買い物に付き合って頂けないでしょうか」
告白の決心をした僕だけど、チョコレートを未だ買えずにいた。
朝、雅は僕の部屋まで迎えに来てくれる。
一緒に登校して一日授業を受けた後、放課後図書館や僕の部屋で勉強して食堂で夕食を一緒に食べる。
なんていうか嬉しいんだけど、戸惑うほどにほぼ一緒にいる。
それってつまり、買い物に行く時間がない。
雅の前でチョコレート買うなんて、流石に無理。
ネットからお取り寄せも、今日はもうバレンタイン前日なので無理。
どうしようと悩んでいたら、お昼休みに舞からお買い物のお誘いがあった。
週明けから舞は僕達のクラスに移って来た。
勿論佐々木様の小姓としてだ。
初めての小姓のクラス移動とあって月曜日は一日中クラスがざわついていた。
舞は日頃は周囲に見せ付けるように佐々木様と親しくしていたわけではないけれど、二人が名前を呼びあう仲だと知っている人は多かった。それでも小姓手続きをするまでだとは思われていなかったのかもしれない。
「喜んで付き合うよ、僕も買いたいものがあるから帰りにコンビニに寄ってもいい?」
「僕もコンビニなんです」
「そうなの?」
それなら佐々木様と一緒でもいいんじゃないのかな、という僕の疑問は顔に出ていたみたいだ。
「あの、チョコレート買いに行きたくて」
「あ、僕も」
二人で顔を見合せ、同時に赤くなる。
舞が小姓になっても、お昼御飯は一緒に食べている。
今日は話があるからと、外のベンチにやって来たんだけど、正しい判断だった。
「あの、山城様に渡されるのでしょうか」
「うん。あの、告白したいなって」
前世の記憶を思い出す前から、舞には雅に片思いしていると打ち明けていた。
クラスにも仲の良い友達はいるけれど、舞みたいに気軽に会話出来る人はいない。
舞には話せる片思いのことも、他の人には話せなかった。
「頑張って下さい。応援しています。きっと山城様は千晴様を思っていらっしゃいますよ」
「だといいんだけど。僕よりあの子を気にしてるんじゃないかなって」
「あの子、藤四郎様も気にかけていらっしゃるんです。僕だけだって言ってくださいますが、不安です」
「分かるよ」
佐々木様ルートは無くなった筈なのに、木村春はまだ佐々木様を名前で呼んでいるし、お昼も一緒だ。
まあ、僕が舞と食べてるから(友達付き合いを制限したりしないという佐々木様の温情らしい)かもしれないけど、舞より向こうを優先してるようにも見えるから、なんかもやもやする。
一方で雅はと言えば、いつの間にか普通に会話する様になっていた。
休み時間とか、ちょっとした時間にふと気がつくと木村春は雅の近くにいて話をしている。
まあ、他の攻略対象者とも頻繁に会話してるから、雅だけというわけじゃないけど、いつの間にあんなに親しくなったのかと驚いてしまった。
「凄いよね。平民特有の気軽さがあるのかな」
「分かりません、僕は不安です」
「僕達の学年初の小姓さんが、不安になる必要ないよ。佐々木様、舞に夢中に見えるよ」
夢中に見えるというか、若干執着気味というかだ。
美空と僕が言っただけで首を絞められた僕としては、不安になる要素はないよと太鼓判を押したい。
「ならいいのですが」
「チョコレートじゃ、佐々木様と一緒に買いにいけないよね」
「はい。初めてお渡しするものなので、自分で選びたいのです」
「いいのがあるといいね。でも、どうせなら舞にリボン付けて貰って下さいってした方が喜びそうだけど」
そういうネタ、前世の薄い本によくあったなと思い出す。鉄板ネタだよね。
「僕はもう藤四郎様のものですから、今さら貰って下さいだなんて、怒られてしまいます」
真っ赤になって凄いことを言う舞は、何となく色っぽい。
「それは、惚気かな?あー、今日はなんか暑いのかなぁ」
「え、あの。千晴様、からかわないで下さいっ」
「からかってないよ。羨ましいだけ」
自分はもう好きな人のものだと言い切れる、そんな未来が僕も欲しい。
僕なんか、玉砕覚悟。独占できなくてもいいから、傍にいさせて欲しいと頼むつもりなんて、舞にも流石に言えない。
「羨ましい?」
「僕ね、春休みまでに雅の小姓になれなかったら、退学しないといけないんだ」
あの後、もう一度父様から電話があった。
今回のお見合いは何とか断ったけど、断れるのは最初で最後だと念押しされてしまった。
雅の小姓になれなかったら、縁談を受ける受けないに関わらず退学して家に戻ると約束もさせられた。
父様が僕に対して命令的になるのは珍しい、つまりそれだけ僕の噂で迷惑を掛けているということだ。
「だから告白してもし断られたら、僕の失恋は決定になっちゃうでしょ。そしたら退学も決定になるかな」
「そんな」
「縁談が来ててね、一回だけの約束で今回は父様に断ってもらったんだ。でも、次にもし話が来たら理由無しには断れないぞって、学校に残りたいなら雅の小姓になれって言われちゃった」
言葉にすると、現実が重い。
まだ雅と主人公はそんなに仲良くなっていないから、今なら告白して何とかOK貰えるんじゃないかって甘いこと思ってたけど。
「雅、あの子のこと好きになってたらどうしよう」
「そんなこと」
「だって可愛いし、なんか魅力あるし」
「それは、確かに。藤四郎様も時々彼を誉めるので、僕も不安です」
「誉めるの?」
「はい。努力家だとか可愛いとか、物怖じせず話すのは好ましいとか」
「好ましいって、それは言っちゃ駄目だよね」
主人公だけあって、可愛いのは認めるよ。
奨学金貰えるだけあって、頭良いし勉強頑張ってるのも分かるけど、佐々木様は舞の前でそんな褒め方しちゃだめだと思う。
「雅がそんな風に彼のこと言ったの聞いたら、僕なら落ち込みすぎて寝込んじゃうよ」
ゲームの佐々木様は、そんな風に甘い発言する人じゃ無かったし、雅はSキャラだから更にそんなシーンは無かった。
ただ、現実の雅は優しいから、やっぱりゲームとは違うのかな。
ゲームの展開より、だいぶ早いしなあ。
「僕はそれを聞いて涙でそうになってしまって、藤四郎様にはこの程度で不安になるのかと叱られちゃいました」
「叱られた?」
「はい。藤四郎様の小姓になったというのに気構えが足りないと。あの、僕」
舞は今にも泣き出しそうだ。
「藤四郎様は、他に小姓を娶るつもりはないが、好ましいと思えば男女関係なく誉める。それが嫌なら言葉にしろと」
「難しいこと言うんだね」
佐々木様何がしたいんだろう。
舞に焼きもちやかせたいのかな。
「嫌なことは嫌と言えるようになれと、そう仰るのですが、他の方を誉めるのを咎める様なこと」
舞の性格で出来るわけがないよね。
焼きもちも怒るんじゃなく泣くタイプだ。
「佐々木様が言いたいことは言えばいいと許可してるんだし、舞も心に溜めてないで言ってみたら?」
「木村様以外のことなら言えるかもしれませんが、彼については自信がありません」
「どうして」
どきりとしながら、舞に訊ねる。
「藤四郎様は確かに、はっきりと好き嫌いを言われる方です。だから他の方を所作が綺麗だとか、発想力があるのは素晴らしいとか誉めることもあります。僕だってそれは同じく思えるんです」
佐々木様ってそういう人なのか、ゲームとちょっと違う気がする。
「でも、彼のことは何か違う気がしてしまって。藤四郎様が彼を話題にするのは嫌なんです。僕の側にいるのに、僕を見て話してくれていない様に感じてしまって辛いんです」
それを聞いて、僕は背筋が寒くなってしまった。
「僕もだよ」
「え、千晴様もですか?」
「雅が僕と一緒の時に彼の話題を出したりはしないけど、二人が話している時雅は彼しか見えていないんじゃないかって、そう見えて怖いんだ」
雅が主人公と少しずつ親しくなり、そうして攻略されていく。
僕はそれを見ているしか出来ない、脇役にもなれないキャラでしかないと、そう思ってしまうんだ。
「思い違いだといいんだけどね」
「はい、そうならいいんですが」
憂鬱な気持ちのまま、お昼を食べて二人でぼんやりと校舎を眺める。
木村春が最終的に誰を選ぶのか。
分からないけれど、せめて雅と佐々木様以外にして欲しい。
「チョコレート、美味しそうなの買えるといいね」
「はい」
泣きそうな舞は、大きく頷いた後僕の手を握るのだった。
告白の決心をした僕だけど、チョコレートを未だ買えずにいた。
朝、雅は僕の部屋まで迎えに来てくれる。
一緒に登校して一日授業を受けた後、放課後図書館や僕の部屋で勉強して食堂で夕食を一緒に食べる。
なんていうか嬉しいんだけど、戸惑うほどにほぼ一緒にいる。
それってつまり、買い物に行く時間がない。
雅の前でチョコレート買うなんて、流石に無理。
ネットからお取り寄せも、今日はもうバレンタイン前日なので無理。
どうしようと悩んでいたら、お昼休みに舞からお買い物のお誘いがあった。
週明けから舞は僕達のクラスに移って来た。
勿論佐々木様の小姓としてだ。
初めての小姓のクラス移動とあって月曜日は一日中クラスがざわついていた。
舞は日頃は周囲に見せ付けるように佐々木様と親しくしていたわけではないけれど、二人が名前を呼びあう仲だと知っている人は多かった。それでも小姓手続きをするまでだとは思われていなかったのかもしれない。
「喜んで付き合うよ、僕も買いたいものがあるから帰りにコンビニに寄ってもいい?」
「僕もコンビニなんです」
「そうなの?」
それなら佐々木様と一緒でもいいんじゃないのかな、という僕の疑問は顔に出ていたみたいだ。
「あの、チョコレート買いに行きたくて」
「あ、僕も」
二人で顔を見合せ、同時に赤くなる。
舞が小姓になっても、お昼御飯は一緒に食べている。
今日は話があるからと、外のベンチにやって来たんだけど、正しい判断だった。
「あの、山城様に渡されるのでしょうか」
「うん。あの、告白したいなって」
前世の記憶を思い出す前から、舞には雅に片思いしていると打ち明けていた。
クラスにも仲の良い友達はいるけれど、舞みたいに気軽に会話出来る人はいない。
舞には話せる片思いのことも、他の人には話せなかった。
「頑張って下さい。応援しています。きっと山城様は千晴様を思っていらっしゃいますよ」
「だといいんだけど。僕よりあの子を気にしてるんじゃないかなって」
「あの子、藤四郎様も気にかけていらっしゃるんです。僕だけだって言ってくださいますが、不安です」
「分かるよ」
佐々木様ルートは無くなった筈なのに、木村春はまだ佐々木様を名前で呼んでいるし、お昼も一緒だ。
まあ、僕が舞と食べてるから(友達付き合いを制限したりしないという佐々木様の温情らしい)かもしれないけど、舞より向こうを優先してるようにも見えるから、なんかもやもやする。
一方で雅はと言えば、いつの間にか普通に会話する様になっていた。
休み時間とか、ちょっとした時間にふと気がつくと木村春は雅の近くにいて話をしている。
まあ、他の攻略対象者とも頻繁に会話してるから、雅だけというわけじゃないけど、いつの間にあんなに親しくなったのかと驚いてしまった。
「凄いよね。平民特有の気軽さがあるのかな」
「分かりません、僕は不安です」
「僕達の学年初の小姓さんが、不安になる必要ないよ。佐々木様、舞に夢中に見えるよ」
夢中に見えるというか、若干執着気味というかだ。
美空と僕が言っただけで首を絞められた僕としては、不安になる要素はないよと太鼓判を押したい。
「ならいいのですが」
「チョコレートじゃ、佐々木様と一緒に買いにいけないよね」
「はい。初めてお渡しするものなので、自分で選びたいのです」
「いいのがあるといいね。でも、どうせなら舞にリボン付けて貰って下さいってした方が喜びそうだけど」
そういうネタ、前世の薄い本によくあったなと思い出す。鉄板ネタだよね。
「僕はもう藤四郎様のものですから、今さら貰って下さいだなんて、怒られてしまいます」
真っ赤になって凄いことを言う舞は、何となく色っぽい。
「それは、惚気かな?あー、今日はなんか暑いのかなぁ」
「え、あの。千晴様、からかわないで下さいっ」
「からかってないよ。羨ましいだけ」
自分はもう好きな人のものだと言い切れる、そんな未来が僕も欲しい。
僕なんか、玉砕覚悟。独占できなくてもいいから、傍にいさせて欲しいと頼むつもりなんて、舞にも流石に言えない。
「羨ましい?」
「僕ね、春休みまでに雅の小姓になれなかったら、退学しないといけないんだ」
あの後、もう一度父様から電話があった。
今回のお見合いは何とか断ったけど、断れるのは最初で最後だと念押しされてしまった。
雅の小姓になれなかったら、縁談を受ける受けないに関わらず退学して家に戻ると約束もさせられた。
父様が僕に対して命令的になるのは珍しい、つまりそれだけ僕の噂で迷惑を掛けているということだ。
「だから告白してもし断られたら、僕の失恋は決定になっちゃうでしょ。そしたら退学も決定になるかな」
「そんな」
「縁談が来ててね、一回だけの約束で今回は父様に断ってもらったんだ。でも、次にもし話が来たら理由無しには断れないぞって、学校に残りたいなら雅の小姓になれって言われちゃった」
言葉にすると、現実が重い。
まだ雅と主人公はそんなに仲良くなっていないから、今なら告白して何とかOK貰えるんじゃないかって甘いこと思ってたけど。
「雅、あの子のこと好きになってたらどうしよう」
「そんなこと」
「だって可愛いし、なんか魅力あるし」
「それは、確かに。藤四郎様も時々彼を誉めるので、僕も不安です」
「誉めるの?」
「はい。努力家だとか可愛いとか、物怖じせず話すのは好ましいとか」
「好ましいって、それは言っちゃ駄目だよね」
主人公だけあって、可愛いのは認めるよ。
奨学金貰えるだけあって、頭良いし勉強頑張ってるのも分かるけど、佐々木様は舞の前でそんな褒め方しちゃだめだと思う。
「雅がそんな風に彼のこと言ったの聞いたら、僕なら落ち込みすぎて寝込んじゃうよ」
ゲームの佐々木様は、そんな風に甘い発言する人じゃ無かったし、雅はSキャラだから更にそんなシーンは無かった。
ただ、現実の雅は優しいから、やっぱりゲームとは違うのかな。
ゲームの展開より、だいぶ早いしなあ。
「僕はそれを聞いて涙でそうになってしまって、藤四郎様にはこの程度で不安になるのかと叱られちゃいました」
「叱られた?」
「はい。藤四郎様の小姓になったというのに気構えが足りないと。あの、僕」
舞は今にも泣き出しそうだ。
「藤四郎様は、他に小姓を娶るつもりはないが、好ましいと思えば男女関係なく誉める。それが嫌なら言葉にしろと」
「難しいこと言うんだね」
佐々木様何がしたいんだろう。
舞に焼きもちやかせたいのかな。
「嫌なことは嫌と言えるようになれと、そう仰るのですが、他の方を誉めるのを咎める様なこと」
舞の性格で出来るわけがないよね。
焼きもちも怒るんじゃなく泣くタイプだ。
「佐々木様が言いたいことは言えばいいと許可してるんだし、舞も心に溜めてないで言ってみたら?」
「木村様以外のことなら言えるかもしれませんが、彼については自信がありません」
「どうして」
どきりとしながら、舞に訊ねる。
「藤四郎様は確かに、はっきりと好き嫌いを言われる方です。だから他の方を所作が綺麗だとか、発想力があるのは素晴らしいとか誉めることもあります。僕だってそれは同じく思えるんです」
佐々木様ってそういう人なのか、ゲームとちょっと違う気がする。
「でも、彼のことは何か違う気がしてしまって。藤四郎様が彼を話題にするのは嫌なんです。僕の側にいるのに、僕を見て話してくれていない様に感じてしまって辛いんです」
それを聞いて、僕は背筋が寒くなってしまった。
「僕もだよ」
「え、千晴様もですか?」
「雅が僕と一緒の時に彼の話題を出したりはしないけど、二人が話している時雅は彼しか見えていないんじゃないかって、そう見えて怖いんだ」
雅が主人公と少しずつ親しくなり、そうして攻略されていく。
僕はそれを見ているしか出来ない、脇役にもなれないキャラでしかないと、そう思ってしまうんだ。
「思い違いだといいんだけどね」
「はい、そうならいいんですが」
憂鬱な気持ちのまま、お昼を食べて二人でぼんやりと校舎を眺める。
木村春が最終的に誰を選ぶのか。
分からないけれど、せめて雅と佐々木様以外にして欲しい。
「チョコレート、美味しそうなの買えるといいね」
「はい」
泣きそうな舞は、大きく頷いた後僕の手を握るのだった。
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