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本編

優しすぎるのってよくないよね

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「ハル?」
「あ、ごめんね。お腹すきすぎててボケてるみたい。おはよ、雅」

 雅の顔に見惚れてました、なんて言えるわけもないので、そう誤魔化す。
 コンビニ入るところだったし、既に時間はお昼を過ぎているから言い訳するには十分な理由だと思う。

「昼食まだなのか?」

 僕の答えに雅は腕時計に視線を走らせ、眉をしかめる。
 もうお昼というよりおやつの時間に近いから、驚いたんだろう。

「うん、今まで携帯ショップ行ってたんだ。スマホ壊しちゃったから慌てて出掛けたせいで何も食べてなくて、だから何か買って部屋で食べようかなと思ってたとこ。凄い時間掛かって疲れちゃったよ」

 携帯ショップの紙袋を雅に見せながらそう言うと、雅は何故か大きなため息をついた。

「携帯ショップにいたのか」
「雅もコンビニで買い物?あ、昨日はごめんね。僕寝ちゃってたんだね、雅に迷惑掛けちゃった」

 昨日の事を謝りながら、コンビニの中に入る。
 前世の記憶にあるコンビニよりも、この店は品揃えが良すぎるし基本的になんでも高い。
 コンビニの形をしたデパートの様な気がしてる。
 まず店内が広いし、イートインコーナーはソファーセットとか置いてあってちょっとしたカフェみたいだ。
 カップ麺やカップスープの類いは置いてないけれど、レトルト系や冷凍食品は豊富。
 でも前世でよく利用したお弁当用のミニコロッケとかミニハンバーグとかそういうのじゃない。
 三星レストランのビーフシチューとか、高級料亭の赤尾の煮付けとか、この世界にある高級レストランや料亭のメニューのレトルトや冷凍食品だ。
 ちなみにお惣菜パンやサンドイッチは、このコンビニのベーカリー部門が焼いていて値段も高い。
 前世で好きだった、百円弱の価格のジャム&マーガリンのコッペパンなんてこのコンビニには存在しない。あるのはハーブで育てた臭みのない豚肉を使用して作ったベーコンと放し飼いで育てた鶏の卵を使ったサンドイッチとか、契約農家が育てた苺を使用した苺ジャムパンとか、天然酵母を使用して、くるみとレーズンをたっぷりいれて焼いたパンとかだ。
 勿論レジ脇におでんや肉まんなんかも存在しない。
なんか寂しいけれど仕方ない。お菓子類が豊富なのが救いだ。ポテチとか無かったら泣くしかない。

「迷惑なんて思わないが、目を覚ましたらいないから驚いた」
「雅に声掛けずに帰っちゃってごめんね。あの、昨日家に電話しなきゃいけなかったんだけど、寝ちゃったから」

 金曜日の夜はお父様に電話する約束なんだけど、昨夜は雅の部屋で寝てたから当然してないし、今朝は今朝で  スマホ壊しちゃったから電話してない。
 後で絶対電話しなきゃ、過保護なお父様とお兄様が心配してるだろう。

「そうか、薬が効いて寝てるならと起こさなかったんだ。起こせば良かったな、悪い」
「雅のせいじゃないよ、むしろ僕の方こそ申し訳なくて、本当にごめんなさい」

 ベーカリーのコーナーへと歩きながら、雅に謝罪する。
 テンパってたとはいえ、ちゃんと雅に声を掛けてから帰れば良かったんだ。

「気にする程の事じゃない。それより着替えもせずに寝たからよく眠れなかったんじゃないか?」
「大丈夫だよ。眠れなかったのは雅の方じゃないの?迷惑かけて本当ごめんなさい」

 僕がいたせいでベッドが狭かったから、朝あんな風に抱き枕状態になっちゃったのかもしれない。
 僕は幸せな朝だったけれど、雅はそのせいでよく眠れなかったのかも。

「いや俺は全然、よく眠れたよ。気にせずいつでも泊まりに来ればいい」
「それはさすがに悪いからいいよ」

 雅の言葉を真に受けて本当に図々しくお泊まりしたら、さすがに呆れられるだろうからしないけど。

「別にハルならいいよ毎日でもね」
「ははは、雅は寛大だねえ。あー何買おうかな、どれも美味しそうで迷う」

 雅の冗談に苦笑いしながらコンビニの入り口近くにあるベーカリーにまで来ると、パンを選ぶのに夢中になっている振りをする。
 焼きたての物があるのか、ベーカリーから美味しそうなパンの匂いが漂ってくる。
 ここのベーカリーは、前世の様にトレイに自分でパンを取っていくスタイルじゃなく、ショーケースの中に置かれたパンを店員さんに取ってもらう。例えるならケーキ屋さんだろうか。

「寛大なんかじゃなく、ハルだからだよ。泊まるのは兎も角何か困った事があったら遠慮するな、特に昨日みたいに一人でよく知りもしない奴の部屋に行くなよ。行動する前に俺に相談してくれ、心配だから」

 雅がこういう誤解したくなるような言い方するから、諦めようとしてるのに諦められないんだよなあ。

「じゃあ、何かあったら遠慮なく頼るね」

 雅の優しさが嬉しい反面、今後を思うと気持ちが沈んでしまう。
 こんなに優しくしてくれるのに、雅は本当に主人公のこと好きになっちゃうのかなあ。
 いっそ、雅が主人公に夢中になる前に玉砕覚悟で告白したら雅は優しいからOKしてくれないかな。
 でも仮にOKしても、ゲームの様に主人公がイベントをクリアしていったら向こうを大事にするようになるのかな。
 舞達の礼もあるけど、あっちは公式が認めてた二次創作にあった展開だから話が違うだろう。

「うーん、どれも美味しそうで迷う。スミマセン、苺クリームのロールサンドとレーズンとくるみのマフィンとチョコレートスコーンをそれぞれ一つずつと、野菜たっぷりミルクスープお願いします」

 未来を考えると落ち込んでしまうから、美味しいものを食べて忘れようと、目についた物を次々選んでいく。
 お昼はロールサンドとスープ、マフィンは明日の朝ご飯、スコーンはおやつ用に選ぶと、店員さんが箱に入れてくれた。

「お待たせしました」
「待ってないけど、甘そうな物ばかりだな」

 会計を済ませて「雅は何も買わないの?」と聞くと、笑顔のまま頷かれて、買い物しに来た訳じゃないならどこかに出掛けた帰りかこれから出掛けるのかなと考えながらコンビニを出た。

「雅はこれから出掛けるの?」
「いや、寮に戻る」
「そうなんだ」

 じゃあ、寮まで一緒なんだ。嬉しいな。
 美味しそうなお昼も買えたし雅と偶然会えたのも嬉しいけれど、部屋に帰ったらスマホの設定頑張らないといけないのが憂鬱だ。
 なんでお風呂にスマホ持ち込んじゃったんだろ。

「はぁ」

 設定は面倒だし、写真が無くなったのがガッカリでため息が出てしまう。
 ゴールした時の雅の格好いい姿、奇跡的に撮れたのに。
あの日は本当に運が良くて他にも色々雅の写真撮れてさ、所謂隠し撮りって奴だけど。
 毎日眺めて幸せな気持ちになってたのになぁ。

「どうした」
「スマホ壊れちゃたのがショックで、これから設定しないといけないし、苦手なんだそういうの」

 写真のデータが無くなったのがショックとは言えないから、誤魔化して言うしかない。

「なんでいきなり壊れたんだ?元々調子悪かったのか?」
「水没」
「は?」
「手が滑ってお風呂にポチャッと落ちたんだぁ。ショックだったよ」

 なんでもっと注意しなかったんだろ、本気でへこむ。

「そうだったのか……。それは、落ち込むな」
「でしょぉ。自分の不注意だから仕方ないけれど、本当にショックで」

 注意してたら写真無くすことも無かったのに。

「そんなに落ち込むなよ。データは復旧出来るだろ?」
「殆んどは保存サービスに預けてあったから大丈夫だったんだけど」
「殆んど?」
「うん、最近撮った写真とかは同期忘れてて駄目だったんだ。自動同期設定してなかったのが悪かったんだけどね」

 そういう設定が苦手だから、面倒に感じちゃって後回しにしてたのが悪かったんだよなあ。
 あれかな、隠し撮りとかした罰が当たったのかな。
手を伸ばせば届く距離なのに雅に触れる権利がない、そんな僕には彼の写真を持つ権利もないのに隠し撮りなんかしたから、雅は主人公のものになるんだから、綺麗さっぱり諦めろって神様にお仕置きされたのかも。
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