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3 町の中でもトラブルは起きる

トラブル体質は誰なんだ?2

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 この騒ぎがハイドさんの関係によるものだとしたら、この場に向こう側の人間がいるという事だ。周囲の様子を窺いながらアルキナに尋ねると、苦々しい顔をして答えてくれた。

「窃盗の現行犯逮捕は盗んだものの金額によるな」
「捕まらない事もあるんだ」

 向こうの世界の場合、万引きとかで被害額が少なく且つ弁償済みの場合は逮捕されても不起訴になる事があるって聞いた事あるけど。そんな感じなんだろうか。

「少額の物なら注意だけで終わる場合もある。今回は窃盗じゃねえが、壊した魔道具代を弁償出来なければ犯罪奴隷落ちになるかもな。俺には魔道具の価格が分らねえが、高額ならありえる話だ」
「うーん。弁償」
「それから、見ていて止めなかった人間も犯罪奴隷審議に掛けられる可能性はあるかな。犯罪奴隷落ちにならなくても、こいつと一緒に弁償するとか冒険者ギルド内での処罰を受けるとかだな」
「そうなるのか。結構重い罰になるんだな、支払えないと犯罪奴隷か」
「冒険者ギルドってのは無法者の集まりじゃ困るんだ。だからギルド内の暴力沙汰は外でのいざこざより処罰が重いんだよ」
「成程」

 アルキナが態々こんな話し方をするのは、見ていて止めようとしなかった受付二人と周りの冒険者達に向けて聞かせる為だろう。
 キョーナ達が立っていたのは、依頼書が貼られている掲示板の前。
 依頼書は冒険者のランク毎に壁に貼られている。アドバイスし易い様にという配慮なのか、低ランクの冒険者用の依頼書は受付の目の前に貼られているようだ。
 ギルド職員の目があれば離れても安心とジェシーが判断して、一人打ち合わせに行ったのも納得の場所だ。

「その辺りはギルマスの判断だな。ギルド内の騒ぎはギルマスが裁くんだ」

 Cランクになったキョーナは兎も角、ヒバリは登録したばかりの最低ランクの冒険者だ。そいつから魔道具を奪ったんだからそれなりの処罰はして欲しいとは思う。
 アルキナの言葉に顔色を悪くしている目の前のこいつはどう見ても年上、鑑定だと十八か。懲罰歴は当り前だけど、ない。だけど、年下というか、子供にしか見えない二人にちょっかい掛けるとか、何考えてるんだか。
 上級鑑定では、精神状態:動揺、萎縮、戦慄。犯罪に類する行動、誘拐未遂? 恐喝? なんだこれ? 

「ギルマスが裁くのか」

 周囲全部に上級鑑定……駄目だ情報量が多過ぎて、上級鑑定だと俺の頭がパンクする。今この部屋にいる人間、カウンターの中にいる受付の二人。カウンターの側に立っている薬師は、俺の大毒蛾を受け取った奴だろう。こいつは中級薬師だ。後はCランクの冒険者が一人、Dランクの冒険者が目の前の男を含めて五人。残り八人はEランクか。
 上級鑑定だと、敵意があるのかないのか等の細かい感情も見ようと思えば見られるみたいだけど、俺が使いこなせてないせいで情報処理が頭の中で追いつかずデータが流れていくだけだ。これじゃ意味ないな練習しなきゃ。暫くは常時使用にするかなあ。上級鑑定は下位レベルの人間には感知されない。俺より下位レベルはこの辺りに、というか多分王都でもいないだろうから大丈夫だろう。練習だ、練習。

「そ、そんな俺達もか」

 スキルを使いこなせていない事実に落ち込んでいる間に、アルキナの話で部屋の中にいた奴等が騒ぎだす。

「当然だろ、こんな子供が絡まれてるのに誰も助けないなんて、お前ら何考えてんだ」

 見ていて止めなかったのが罪だと言うのはちょっと乱暴だけど、少なくともギルドの受付二人は職務怠慢で罰則とかになるんだろうか? ギルドの罰則規定がよく分らないから判断出来ない。

「俺無理だぞ弁償なんて、宿代だって払うのやっとなのに」
「俺だって」

 がやがやと騒ぐ奴らの顔色が悪いのは仕方ない、Dランク、Eランクじゃそんなに稼げないだろう。というか、弁償となるとちょっと俺も困るんだよなあ。

「なあアルキナ、もし皆で弁償となって誰も払えないとなったら、皆犯罪奴隷になるのか?」

 弁償は魔石の価値を考えると無理だ。このギルドに鑑定が出来る奴がいるのかどうか分らないけど、買取り部署がある以上魔石の価値はばれるだろう。正確に算定されたらギルマスだって払えるかどうか怪しい。
 うーん、どうしようかなキョーナを怯えさせた償いはさせたいけど、この魔石の価値がバレるのはまずいような気もする。弁償出来なきゃ犯罪奴隷と言うことは、価値がばれたら確実に皆犯罪奴隷行きだ。
 犯罪歴がつくと冒険者が出来なくなる、それはさすがに不味いだろう、見ていただけで犯罪奴隷落ちなんて。
 昨日、この魔石を使おうと考えついた俺を呪ってやりたい。安易にこれでいいやなんて考えたから、こんんな大騒ぎになってるんだ。いや、色々付与したい物があったからこの位の魔石じゃなきゃ難しかったんだけど、もうちょっと一般的で安価な魔石も持ってたのに、これなら数十年は効果が持つだろうなんて考えたのが悪かったんだよなあ。

「だ、だってこいつが小さな女の子に無視されて面白くて。いつも俺はもてるって自慢してんのに、可愛いけど子供に無視されてるって」
「悪気は無かったんだよ。本当に外に連れ出されそうならジェシーを呼びに行くつもりだったし」
「そうだよ」

 そりゃキョーナは可愛い。結構キツイ事言うけど、保護者立場の俺の認識というより客観的に見ても可愛いと思う。今は痩せてるというよりガリガリレベルだから少し分りにくいけど、元の世界にいたら美少女コンテストとか出られそうなレベルかもしれない。
 ということは、これから旅をする間はそういう心配もしなきゃいけないんだな。魔法のスキルはあっても今のキョーナじゃ人に攻撃するのは無理だろう、変質者とか人さらいとかの対策考えておかなきゃ駄目かもしれないな。うーん、相手に怪我させる事無く身を守れる魔法ってなんかあるかな。

「お前ら皆でそんな理由で助けなかったのか、ふざけるなよっ! こんな子供を怯えさせて良いと思ってんのかっ」

 俺がキョーナの防犯対策に意識を移している間、アルキナは傍観者に徹していた奴らに怒鳴っていた。
 アルキナの後ろに立っているジェシーの顔が引きつっているのは、アルキナの怒り具合がすさまじいからだろう。元々面倒見がいい奴で身内認識した奴にはとことん甘そうだけど、その分手を出されるとこうなるんだな。

「あいつに声掛けられて無視したのか?」

 さっきも聞いたけど、事実確認の為もう一度キョーナに尋ねると、じわりと涙を浮かべキョーナは俺にしがみついた。
 声を掛けられて無視した為に相手が怒って外に連れ出そうとしたのか、それとも最初から連れ出そうとしたのかそれが気になる。鑑定結果には誘拐未遂とあるんだよなあ。それが気になる。

「だってあの人怖かったんだもん」
「もう大丈夫だから」

 腰を屈めてキョーナの頭を撫でるけど、逆効果だったらしい、キョーナは本格的に泣き出してしまった。
 
「だって、無理矢理外に連れていこうとするから怖くて、でも無視してたら怒り出して」

 キョーナは俺にしがみつきながらしくしくと泣き続けてる。俺の足下で震えたままのヒバリの方は、ジェシーがそっと近づき宥め始めた。

「よしよし、怖かったな。もう俺達がいるから大丈夫だから」
「だって、ジュンの魔道具が、も、燃えて。あたしのせいで大事な魔道具が。ごめんなさい、あたしがちゃんと相手してたらこんな事にならなかったのに」

 ぽろぽろぽろぽろと泣くキョーナ。怖かったのと魔道具を壊してしまったという罪悪感かな。そんなの気にしなくていいのに。
 泣かれるのは弱い。昔っから杏の涙に翻弄されまくってた俺だけど、キョーナの涙も駄目だ。

「悪いのはあいつだろ。そんなの気にすることないからな」
「でも、あたしがちゃんと……。ご、ごめんなさい」
「泣くなよ。大丈夫だから、な」

 キョーナの鳴き声に、アルキナの怒りが増したのが分る。キョーナは悪くない、悪くないんだけどアルキナの怒りをこれ以上煽らないで欲しい。 

「あいつがちょっと向こうに行こうとか女の子に言いながら、腕を掴んで外に連れ出そうとしてたんだよ。それでその子が手を振り払おうとして、そしたらこのチビが間に入って」

 男の後ろにいた奴が状況を説明してくれる。よく見ていたのだというのは分るけど、それを止めようとは思わなかったんだろうなあ。

「お、俺はただ」
「ただ、なんだよ」
「あいつらにこの子を外に連れ出して、少し脅してくれって頼まれて」

 なんだって? 今なんて言った?

「どういう事だ」

 キョーナを後ろに隠し、男に詰め寄る。

「俺あいつらに借金があって、この子を脅してくれたら帳消しにしてもいいって」
「脅す? この子を?」

 片手で男の首元を締め上げる。キョーナを脅す? こんな小さな女の子を?

「じゅ、ジュン?」
「お、おい」
「お前、誰に頼まれた、あいつらって誰なんだ」

 ギリギリと男の首元を締め上げながら、俺は怒りを抑えられなかった。
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