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町に向けて出発だ9

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「結構簡単なんだよ。まずスリープで巣の中の蜂を眠らせるだろ」

 話をしながら、巣を見せてと言われた時の為に無限収納から空間収納を付与した革袋に巣を移動し巣と蜂と蜂蜜とその他の素材それぞれに分けカプセル化する。
 これで準備完了。

「眠らせるって」
「ありえねえ」

 アルキナ達の反応は無視して、次の説明。これで納得してくれると良いんだけどなあ。

「眠らせたら巣から蜂が出てくる事はないから、巣全体に氷の牢獄の魔法を掛ける」

 氷の牢獄というのはなんだか、中二な感じの名前だけど氷魔法だ。
 対象物全体を氷で覆い、魔物を無傷で殺す事が出来る。魔物を覆った氷は時間経過で溶けるし魔法を解除する事でも溶ける。

「え、そんな魔法まで使えるのか」
「結構便利だよ。氷魔法。飲み物とか冷たく出来るし」
「そんな使い方する魔法使い見たことないよ」

 テリーが呆れた様に俺を見て、がっくりと肩を落とした。
 まあ普通はしないよなあ、そんな魔力の無駄遣い。でも便利なんだぞ。

「ジュン、その魔法ってあたしも使える?」
「そうだなあ。スキルを取らないと成功率は低いけど、使えないわけじゃないぞ」

 魔法のスキルって誤解してる人も多いけれど、スキルを取らないと絶対に使えないって分けじゃない。
 スキルが無いと詠唱する時に精神力をがっつり消費して、発動する魔力も通常の倍は消費する。
 そして成功率が低いのだ。良いことは何もない。

「やってみたい」
「そうだなあ。じゃあこれでやってみるか」

 空間収納から、トムさんに貰った柑橘系の果物を一つ取り出し地面に置く。

「一回手本見せるぞ。我は望む、かの物を氷の檻で閉じ込めよ。氷の牢獄」

 檻と良いながら魔法の名前は氷の牢獄というのがちょっと納得いかないけれど、詠唱し果物を氷で覆うとオレンジ色の果物の皮がうっすらと氷の向こうに透けて見える感じになった。
 イメージはあれだ、氷柱花。大きな氷の中に花を閉じ込めたあれみたいな感じだって、この世界の人間に氷柱花なんて言っても分からないだろうど。

「すげえ。氷の牢獄初めて見たよ」
「これって氷の中の物はどうなってるんだ?」
「解除すれば食べられるよ。冷えてて旨い筈。魔物だと一瞬で死ぬから傷をつける事無く討伐出来る」
「へええ」
「我は望む、かの物の氷の檻を解き放て、檻の解錠」

 鍵が無いのに解錠とはこれいかに、って感じだけど。これが氷の牢獄の解除の詠唱だ。

「ほらね冷たいだろ」

 テリーに果物を持たせると「うわ、冷たいっ」と驚いて落としてしまった。

「大げさだなあ。あ、本当に冷たい。一瞬でこんなに冷えるのかそりゃ魔物も死ぬよ」

 いいながら、アルキナは果物の皮を剥き中身を口にする。

「うわ、冷たい。凍ってないのに冷たいぞ」
「嘘ぉ、食べたい食べたい。ん、本当に冷たいわ」
「俺も、俺も。本当だ、凍って無いのに氷みたいに冷たいな」

 ハイドさんやスティーブさん、ヒバリまで果物を食べて驚いている。これなら嘘もばれずにすみそうだ。

「ジュン。あたしもやってみる」
「やりたいのか? 魔力は最小でやるんだぞ」
「分かった」

 空間収納から果物をもう一つ出して地面に置く。

「我は望む、かの物を氷の檻で閉じ込めよ。氷の牢獄」

 キョーナは生活魔法のスキルと水、火、雷、聖の属性を持っている。最初は生活魔法のスキルと水属性だけだったのだけど、後からこっそり追加したのだ。でも氷は持ってなかった。火と雷を持ってるから氷の属性はスキルなしに使うのが難しい筈なんだけど、どうだろう。上手くいくだろうか。

「あれ?」

 魔法は発動したももの、対象物の果物に到達する前に消えてしまった。

「上手くいったと思ったのに」
「そりゃスキル無しに詠唱してもすぐに成功しないよ」

 テリーは実感を込めてそう言ってキョーナを慰める。
 確かにスキル無しじゃ成功率は低い。だけど、キョーナの性格じゃ諦めないだろうなあ。

「ジュン」
「分かった。今日はもう移動しないし、夕飯食べた後なら練習していいよ」
「ありがとう」

 地面に置いたままの果物を大事そうに両手で持つと、キョーナは何かを決心した様な顔で果物を凝視した。

「え、キョーナちゃん練習するの」
「うん。成功するまでやる」
「スキルないんだから大変だよ。一回詠唱しただけで疲れちゃっただろ」

 俺はそういう経験が無いから疲れ具合が良く分からないけれど、テリーは心配そうにキョーナを見ている。

「疲れたけど。大丈夫。出来る様になりたいの」
「何回か成功すればその魔法だけスキル無しに取得出来るんだったっけ?」

 アルキナがテリーに聞いている。まあ、俺に聞いてもよく分からないとしか答えられないけど。
 キョーナに氷の属性を取ってやる事は簡単だろうけど、さすがに嫌がるだろうしなあ。

「うん。スキルを取得するポイントには限りがあるから、魔法の場合は失敗を繰り返しながら覚えたい魔法を詠唱するしかないけど。詠唱するときに精神力と魔力をもの凄く消費するんだよ。キョーナちゃんはライトニングを使うけど、あれを一回発動する時に使う魔力が10だとすれば、氷の牢獄は下手すると50位使うかも」
「えっ。それじゃすぐに魔力使い切っちゃうじゃない」
「一回の魔力を1位のつもりでやれば、使っても10位だよ。そうだろキョーナ」
「ええと、今は魔力は8だったけど、精神力は結構使ったかも」

 キョーナは精神力が他の人に比べると多い。俺が器用値とかを上げる時に色々あげたせいだ。だから、精神力を多めに使っても何とかなるけど、普通なら何回か詠唱したら倒れるだろう。

「危ないよ。キョーナちゃん」
「倒れるまではやらないよ。でも、練習する」
「キョーナちゃん、魔力調整上手なんだね。俺も頑張らないと。よし、俺も練習する」
「お前はやめとけ、魔力使い切ったら夜の見張り出来なくなるぞ」

 急に頑張る宣言を始めたテリーにアルキナがストップを掛ける。
 テリーの魔力じゃすぐに魔力切れを起こすだろう、それは十分予測出来る。

「テリーの場合は魔力調整を先に練習した方がいいよ。テリーはこっちだな」

 前に取って置いたキジもどきの羽を一枚空間収納から取り出しテリーの目の前に移動する。

「これで何するんだ?」
「こうやるんだよ。使う魔力は1で」

 掌に乗せたキジもどきの羽をふわりと浮かせ、くるくるとその場で回転させる。アルキナにさとうきびもどきの皮でやって見せたのと同じ原理だ。

「魔力循環の羽みたいだ」
「そう。あれは魔力を循環させやすい様に作られた魔道具だけど、あれを使わなくても魔力循環と魔力調整の練習は出来るしこっちの方が難しい」

 良いながら、右回り左回りさせそのままふわふわとテリーの目の前に移動させる。

「すごい」
「手を出して」
「え」

 テリーが出した右手の上に羽を移動させ落とす。

「これが簡単に出来る様になれば魔力調整も簡単に出来る様になるよ」

 器用値と知力を上げたからこれはもう出来る筈だ。

「あの魔道具に力を送る感じでいいのかな」
「魔力を送りながら、羽を浮かべてくるくる回る様子を想像するんだ」

 魔法使いの魔力は使うイメージで色んな風に変化する。
 魔法を使うのもイメージだ。詠唱って本当はその技のイメージを定着させる為のもので本当はどんな言い方をしても良かったりするのだ。
 例えばライトニングも雷を落とすイメージを持ちながら発動させればいいだけで、無詠唱はそうやって行う。普通の人はそれがイメージ出来ないから無詠唱が出来ない。というか、無詠唱がそういう物だと知らないから出来ないと思っているだけなんだ。

 スキルを取得するとその属性の魔法を詠唱によってイメージし易くなる。だから魔法を使えるのだ。
 イメージを簡単にできればスキルは論理上必要ない。だから、スキルが無くても魔法が何回か成功すればその魔法だけはスキル無しに使える様になるのだ。
 あれ、じゃあもしかして。

「キョーナ。俺いいこと思いついた」

 キョーナは勘が良いから、もしかしたらこれでスキル無しでも使える様になるかもしれない。
 きょとんとした顔で俺を見上げているキョーナに、俺はにこにこしながら近づいていった。
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