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昇級試験4
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「どんな魔法を使ってもいいわよ。遠慮無くどうぞ」
杖を構え、ギルドマスターと距離を取る俺に対し、ギルドマスターは俺が渡した薬を胸元に入れるとにっこりと剣を構えた。
「あの」
俺はレベル20に偽装してるから、ギルドマスターが余裕なのは理解できるけど、あんまりな行動に思わず足が止まった。
「なあに」
「薬、そんな入れ方でいいんですか」
体に魔法を当てるつもりはないけど、衝撃で瓶が割れたら困る。あげたものだからどんな使い方しても文句は言わないけど、流石に割れて使えませんでしたは酷い。
「ああ、大丈夫よ。空間収納に入れているし」
「空間収納」
答えに納得して頷いた。そりゃギルドマスターのレベルなら空間収納位持ってるか、でも防具に付けてるんだろうか? ギルドマスターが付けているのはサラマンダーの皮の鎧だ。
鎧を鑑定して見える効果は魔法防御と衝撃吸収だけど、空間魔法もついてるのかな。それはちょっと斬新なアイデアだ。
「なあに」
「いや、鎧に空間収納がついてるのかなあって。確かに生きてるものは収納出来ないからそういうのも可能だろうけど」
「そんな馬鹿な事しないわよ。空間収納のついた小さな袋を首から下げているのよ」
「ああ、そうですよね」
常に身に付ける物に空間収納がついてたら、盗まれる心配もないし便利だよなあって一瞬思ったんだけど。
まあ、鎧に付けるのは不自然か。
「まったく、君は緊張とかないのね。テリーなんてガチガチに緊張してたのに」
「彼は真面目ですからね」
テリーはどんな闘い方したのかなあ。今回の転生で魔法使いがマトモに闘うところを見てないから、ちょっと興味があったんだ。
「君だって真面目に見えるけれどねえ。でも何か変。もう追求しないけれど」
「追求しないんですか」
ギルドマスターは嘘をついている様には見えない。なんで急に態度が軟化したのか分からないし、今の言葉もすぐには信じられないけれど。でも、本心に見える。
本気でそう思っていてくれるなら都合はいい。
「高い薬を貰って、恩を仇で返す様な真似はしないわ。エルフはねえ、受けた屈辱も忘れないけれど、それ以上に受けた恩は絶対に忘れないのよ」
「エルフ、ギルドマスターってエルフなんですね」
そういや鑑定でエルフって出てたっけと今更ながら思い出した。
「どこから見てもエルフだと思うけど。見たこと無いのかしら」
「うーん。無かったと思いますよ。薬は恩に感じて貰う必要もないですけどね」
自分で作ったし、材料も持ってた物だったし、魔石なんて持ってたことすら忘れてた奴を使って偶然出来上がった物だしなあ。
ケントさんの様に具合悪いのを治したりしてれば、謝礼も素直に受け取れるけど。今回はただの押し付けだし。
「君は持っている物をを気まぐれにくれただけかもしれないけれどね。この薬は、この瓶の半分の量でも売れば貴族の屋敷が立つと言われているのよ。これ一本あればこの村に住む人達の税を三十年分払ってもお釣りがくるわ」
へえ、これそんなに高価なのか。いや、それとも税が安いのか?
「そんなに高価だとは知りませんでした」
「惜しくなった? 返しましょうか。高価というより手に入れる機会すら殆ど無い貴重品よ」
「いや。俺が持ってても多分使わないし。必要なところに置いておく方がいいですよ」
俺は毒とか効かないし、キョーナに何かあっても薬はもう一本ある、それでも足りなかったら作ればいい。
あの薬は万能薬と回復薬の効果もあるから、もし疫病とか流行っても使う事は出来る。
「うっかり領主に気付かれたりしないように。この村で何かあった時に有効に使ってくれればそれでいいです」
「なんだか君のそういうところ、心配になるわね」
ギルドマスターはまた大袈裟なため息をついた。
この人にため息をつかれるのは、これで何度目だろう。
「どういう意味ですか」
「世の中善人ばかりじゃないわよ。こんな高価な薬を貰った私が言うのも可笑しな話だけれど。君の人の良さを利用しようとする人間は絶対に出てくるわよ」
「俺はそんなに危なっかしいですか」
そんなつもりはないんだけどなあ。
まあ、呑気な日本の高校生だった感覚はまだしっかり残ってるし。騙されやすいというのもきっと当たってるけど。
アルキナにも似たような事を言われたし、よっぽどそう見えるんだろうな。
「あんまり人が良さそうに見えすぎて、逆に疑いたくなるのよ」
「そうなんですかね」
そう言われても困る。俺は普通に自分の思うままに行動しているだけだ。
一応ばれない様にとか、気にしてはいるけれど。どこまで隠せてるのかは微妙。でも、ある程度ばれているとしても俺が何回も転生して、その転生で取得したスキルを全部持っているなんて事に気がつく奴はいないだろう。所持しているアイテムがとんでもないとか、大金を持ってるとか、魔力も体力も無限大だとか、それを全部ばらしたら逆に冗談だと思われそうな気もちょっとしてる。
まあ、自分からばらしたりはしないけど。
「まあ、恩を感じてるなら追求したり俺が不利になる様な事をしないでください。それが一番ありがたいです」
「しないわよ。エルフの神に誓ってもいい。そうよ誓う。私、エレーナは君に不利益になる事はしないし、今後一切の追求もしないと我がエルフの神の名の元に誓う。この誓いを破る事は生涯無い」
エルフの神ってなんだっけ。あの女じゃ無かったよな。
でも、エルフが神に誓ってというのって結構重い誓いじゃなかったっけ?
「ありがとうございます。その誓いを信じます」
深々と頭を下げて、このやりとりを昔どこかでやった事を思い出した。
「……エルフの誓いをするのは初めてなのに、どうしてかしら懐かしい気がする」
ギルドマスター、エレーナは戸惑った表情で俺に問いかけて来た。
俺もだ。なんて言えないし顔にも出せない。
ちょっとまて、エルフのエレーナ。そうだよ、エレーナ。
「ギルドマスターって出身はどこなんですか」
「境目の山の中にあるエルフの里よ。成人するまではそこに住んでいたわ。この国にいるエルフの大半はその里の出身よ」
「境目の山」
そうだ。境目の山にエルフの里があって俺はエレーナと一緒にその里に行ったんだ。
あれはいつの転生の時だった? エレーナは旅の仲間の一人だった。
エルフの里で疫病が流行って、その治療の為の薬を届けた。エレーナは里を救った俺に同じ様にエルフの誓いをしたんだ。
「どうしたの」
「いえ。随分遠いところから来たんだなって」
「そうね。里は遠いわ。私も暫く里には帰っていないもの」
「村の魔物討伐が解決しないと、里帰りしたくても出来ないですね」
目の前にいるエレーナがあの時のエレーナと同一人物なわけはないけれど。
思い出してしまったら、なんとなく親しみがわいてきてしまう。
「そうね。一度くらい里帰りしたいから、早めに解決する事にするわ」
「そうですね。じゃあまずは、試験です。行きますよエレーナ」
杖を構え、ギルドマスターでは無く名前で呼んでみる。
昔はそう呼んでいた。どちらかといえば仲は悪かった。だけど、仲間の一人だった。
完全に信用していたわけでもないし、俺は最後まで自分の秘密をエレーナに話したりはしなかったけど、思い出したら懐かしくなって呼んでみた。
「名前を呼ばれたのは久しぶりだわ。ふふ」
「遠慮無しに行きますよ。ライトニングッ!」
杖を構え、詠唱短縮でライトニングを放ちながら走る。
「詠唱短縮。やるじゃない」
ライトニングは途中で魔法を無効化された。
エレーナの周囲に防御の幕が見える、これに当たったせいか。これを越えないと壁の的に当たらないのか。それとももっと力の強い魔法を使うべきか。どっちだ?
「無効化って面倒だな」
エレーナの防御魔法、魔法の無効化それは幕となってエレーナ自身を守る魔法だ。
幕を破るより切れ目を探したら方が早いかな、幕の切れ目はどこだ?
「油断してると当たるわよ」
「油断はしてませんよ」
探知のスキルを発動し、防御の幕の切れ目を探る。
これはエレーナのスキルじゃなく、この鍛練場に魔道具が設置されてるんだな。
って、この人動きが早いな。剣の動きに隙がない。逃げるので精一杯だ。
「ライトニング。サンダーボルト」
エレーナの攻撃を避けつつ、立て続けに魔法を放つ。
なんで魔法使いのくせに持ってる得物が剣なんだよ、この人。
隙はないし、動きは早いし流石ギルドマスターやってるだけるよ。
「逃げ足が早いのね。じゃあこれはどう?」
エレーナがぶつぶつと何か詠唱した途端、持っている剣に炎が付いた。
うわ、魔法剣とかえげつないな。炎が剣先から飛んで来る。
「そんなのありですか」
「ありなのよ」
にこりと笑い、エレーナは炎を纏った魔法剣を右手に俺に駆け寄って来た。
あぶない、あんな攻撃が俺に当たったら攻撃反射でエレーナが丸焦げになる。
「させるか。ライトニング テンペストッ!!」
エレーナの攻撃を全力疾走で避けながら、やっと防御の幕の境目を見つけ、そこを目掛けてライトニング テンペストを放つ。
「よし、って。ギルドマスター終わってる、終わってるから!!」
まだ攻撃体勢を崩さないエレーナに、慌ててストップを掛け的を指差す。
防御の幕を越え、壁の的にライトニング テンペストが命中し的は見事に砕け散っていた。
「つまらないわねえ。あっけなさすぎでしょう」
「でも、的は落としました」
「あれは落としたんじゃ無く、砕け散ったのよ」
どっちでも同じだ。
ああ、試験終わった。良かったー。
早く牧場に戻ってキョーナに報告だ。喜んでくれるかな。
「まあ、仕方ないわね。Bランク昇格よ」
「ありがとうございます。じゃあこれは受験料です」
今度はちゃんとお金を払う。
キョーナと二人分、そしておまけ。
「薬貰ってその上貰えないわよ。あら、これは?」
「薬はおまけです。これはおまけのその2かな」
キョーナにあげた飴玉の残り。
剥き出しだけど、この人は気にしないだろう。
「食べてみてください。甘いですよ」
エレーナは甘いもの好きだったけど、この人はどうだろう。
「甘い。初めて食べたのに、この感覚知ってるわ。どうして」
「昔食べたことあるんじゃないですか。飴というものですが、山の向こうではよく食べられてるらしいですよ」
「昔、そうなのかしら」
なんでなのかな。
昔の転生のエレーナと何が繋がってる?
そんな事あるのかな、分からない。
「じゃあ俺戻ります。手続きとかいらないですよね」
「ええ、不要よ。町のギルドで懸賞金は受け取れるから、着いたらアルキナと一緒にギルドに行って、必ずアルキナと行くのよ」
「了解です」
この人に会うのはこれが最後かなあ。
でも変な縁が出来た気がする。
「色々ありがとうございました」
エレーナの事、手帳になにか書いてないか後で確認しよう。何かが引っ掛かった俺はそう確信してにっこりと笑う。
名残惜しそうにエレーナが手を振っていることに気付かぬまま、俺は鍛練場を後にした。
杖を構え、ギルドマスターと距離を取る俺に対し、ギルドマスターは俺が渡した薬を胸元に入れるとにっこりと剣を構えた。
「あの」
俺はレベル20に偽装してるから、ギルドマスターが余裕なのは理解できるけど、あんまりな行動に思わず足が止まった。
「なあに」
「薬、そんな入れ方でいいんですか」
体に魔法を当てるつもりはないけど、衝撃で瓶が割れたら困る。あげたものだからどんな使い方しても文句は言わないけど、流石に割れて使えませんでしたは酷い。
「ああ、大丈夫よ。空間収納に入れているし」
「空間収納」
答えに納得して頷いた。そりゃギルドマスターのレベルなら空間収納位持ってるか、でも防具に付けてるんだろうか? ギルドマスターが付けているのはサラマンダーの皮の鎧だ。
鎧を鑑定して見える効果は魔法防御と衝撃吸収だけど、空間魔法もついてるのかな。それはちょっと斬新なアイデアだ。
「なあに」
「いや、鎧に空間収納がついてるのかなあって。確かに生きてるものは収納出来ないからそういうのも可能だろうけど」
「そんな馬鹿な事しないわよ。空間収納のついた小さな袋を首から下げているのよ」
「ああ、そうですよね」
常に身に付ける物に空間収納がついてたら、盗まれる心配もないし便利だよなあって一瞬思ったんだけど。
まあ、鎧に付けるのは不自然か。
「まったく、君は緊張とかないのね。テリーなんてガチガチに緊張してたのに」
「彼は真面目ですからね」
テリーはどんな闘い方したのかなあ。今回の転生で魔法使いがマトモに闘うところを見てないから、ちょっと興味があったんだ。
「君だって真面目に見えるけれどねえ。でも何か変。もう追求しないけれど」
「追求しないんですか」
ギルドマスターは嘘をついている様には見えない。なんで急に態度が軟化したのか分からないし、今の言葉もすぐには信じられないけれど。でも、本心に見える。
本気でそう思っていてくれるなら都合はいい。
「高い薬を貰って、恩を仇で返す様な真似はしないわ。エルフはねえ、受けた屈辱も忘れないけれど、それ以上に受けた恩は絶対に忘れないのよ」
「エルフ、ギルドマスターってエルフなんですね」
そういや鑑定でエルフって出てたっけと今更ながら思い出した。
「どこから見てもエルフだと思うけど。見たこと無いのかしら」
「うーん。無かったと思いますよ。薬は恩に感じて貰う必要もないですけどね」
自分で作ったし、材料も持ってた物だったし、魔石なんて持ってたことすら忘れてた奴を使って偶然出来上がった物だしなあ。
ケントさんの様に具合悪いのを治したりしてれば、謝礼も素直に受け取れるけど。今回はただの押し付けだし。
「君は持っている物をを気まぐれにくれただけかもしれないけれどね。この薬は、この瓶の半分の量でも売れば貴族の屋敷が立つと言われているのよ。これ一本あればこの村に住む人達の税を三十年分払ってもお釣りがくるわ」
へえ、これそんなに高価なのか。いや、それとも税が安いのか?
「そんなに高価だとは知りませんでした」
「惜しくなった? 返しましょうか。高価というより手に入れる機会すら殆ど無い貴重品よ」
「いや。俺が持ってても多分使わないし。必要なところに置いておく方がいいですよ」
俺は毒とか効かないし、キョーナに何かあっても薬はもう一本ある、それでも足りなかったら作ればいい。
あの薬は万能薬と回復薬の効果もあるから、もし疫病とか流行っても使う事は出来る。
「うっかり領主に気付かれたりしないように。この村で何かあった時に有効に使ってくれればそれでいいです」
「なんだか君のそういうところ、心配になるわね」
ギルドマスターはまた大袈裟なため息をついた。
この人にため息をつかれるのは、これで何度目だろう。
「どういう意味ですか」
「世の中善人ばかりじゃないわよ。こんな高価な薬を貰った私が言うのも可笑しな話だけれど。君の人の良さを利用しようとする人間は絶対に出てくるわよ」
「俺はそんなに危なっかしいですか」
そんなつもりはないんだけどなあ。
まあ、呑気な日本の高校生だった感覚はまだしっかり残ってるし。騙されやすいというのもきっと当たってるけど。
アルキナにも似たような事を言われたし、よっぽどそう見えるんだろうな。
「あんまり人が良さそうに見えすぎて、逆に疑いたくなるのよ」
「そうなんですかね」
そう言われても困る。俺は普通に自分の思うままに行動しているだけだ。
一応ばれない様にとか、気にしてはいるけれど。どこまで隠せてるのかは微妙。でも、ある程度ばれているとしても俺が何回も転生して、その転生で取得したスキルを全部持っているなんて事に気がつく奴はいないだろう。所持しているアイテムがとんでもないとか、大金を持ってるとか、魔力も体力も無限大だとか、それを全部ばらしたら逆に冗談だと思われそうな気もちょっとしてる。
まあ、自分からばらしたりはしないけど。
「まあ、恩を感じてるなら追求したり俺が不利になる様な事をしないでください。それが一番ありがたいです」
「しないわよ。エルフの神に誓ってもいい。そうよ誓う。私、エレーナは君に不利益になる事はしないし、今後一切の追求もしないと我がエルフの神の名の元に誓う。この誓いを破る事は生涯無い」
エルフの神ってなんだっけ。あの女じゃ無かったよな。
でも、エルフが神に誓ってというのって結構重い誓いじゃなかったっけ?
「ありがとうございます。その誓いを信じます」
深々と頭を下げて、このやりとりを昔どこかでやった事を思い出した。
「……エルフの誓いをするのは初めてなのに、どうしてかしら懐かしい気がする」
ギルドマスター、エレーナは戸惑った表情で俺に問いかけて来た。
俺もだ。なんて言えないし顔にも出せない。
ちょっとまて、エルフのエレーナ。そうだよ、エレーナ。
「ギルドマスターって出身はどこなんですか」
「境目の山の中にあるエルフの里よ。成人するまではそこに住んでいたわ。この国にいるエルフの大半はその里の出身よ」
「境目の山」
そうだ。境目の山にエルフの里があって俺はエレーナと一緒にその里に行ったんだ。
あれはいつの転生の時だった? エレーナは旅の仲間の一人だった。
エルフの里で疫病が流行って、その治療の為の薬を届けた。エレーナは里を救った俺に同じ様にエルフの誓いをしたんだ。
「どうしたの」
「いえ。随分遠いところから来たんだなって」
「そうね。里は遠いわ。私も暫く里には帰っていないもの」
「村の魔物討伐が解決しないと、里帰りしたくても出来ないですね」
目の前にいるエレーナがあの時のエレーナと同一人物なわけはないけれど。
思い出してしまったら、なんとなく親しみがわいてきてしまう。
「そうね。一度くらい里帰りしたいから、早めに解決する事にするわ」
「そうですね。じゃあまずは、試験です。行きますよエレーナ」
杖を構え、ギルドマスターでは無く名前で呼んでみる。
昔はそう呼んでいた。どちらかといえば仲は悪かった。だけど、仲間の一人だった。
完全に信用していたわけでもないし、俺は最後まで自分の秘密をエレーナに話したりはしなかったけど、思い出したら懐かしくなって呼んでみた。
「名前を呼ばれたのは久しぶりだわ。ふふ」
「遠慮無しに行きますよ。ライトニングッ!」
杖を構え、詠唱短縮でライトニングを放ちながら走る。
「詠唱短縮。やるじゃない」
ライトニングは途中で魔法を無効化された。
エレーナの周囲に防御の幕が見える、これに当たったせいか。これを越えないと壁の的に当たらないのか。それとももっと力の強い魔法を使うべきか。どっちだ?
「無効化って面倒だな」
エレーナの防御魔法、魔法の無効化それは幕となってエレーナ自身を守る魔法だ。
幕を破るより切れ目を探したら方が早いかな、幕の切れ目はどこだ?
「油断してると当たるわよ」
「油断はしてませんよ」
探知のスキルを発動し、防御の幕の切れ目を探る。
これはエレーナのスキルじゃなく、この鍛練場に魔道具が設置されてるんだな。
って、この人動きが早いな。剣の動きに隙がない。逃げるので精一杯だ。
「ライトニング。サンダーボルト」
エレーナの攻撃を避けつつ、立て続けに魔法を放つ。
なんで魔法使いのくせに持ってる得物が剣なんだよ、この人。
隙はないし、動きは早いし流石ギルドマスターやってるだけるよ。
「逃げ足が早いのね。じゃあこれはどう?」
エレーナがぶつぶつと何か詠唱した途端、持っている剣に炎が付いた。
うわ、魔法剣とかえげつないな。炎が剣先から飛んで来る。
「そんなのありですか」
「ありなのよ」
にこりと笑い、エレーナは炎を纏った魔法剣を右手に俺に駆け寄って来た。
あぶない、あんな攻撃が俺に当たったら攻撃反射でエレーナが丸焦げになる。
「させるか。ライトニング テンペストッ!!」
エレーナの攻撃を全力疾走で避けながら、やっと防御の幕の境目を見つけ、そこを目掛けてライトニング テンペストを放つ。
「よし、って。ギルドマスター終わってる、終わってるから!!」
まだ攻撃体勢を崩さないエレーナに、慌ててストップを掛け的を指差す。
防御の幕を越え、壁の的にライトニング テンペストが命中し的は見事に砕け散っていた。
「つまらないわねえ。あっけなさすぎでしょう」
「でも、的は落としました」
「あれは落としたんじゃ無く、砕け散ったのよ」
どっちでも同じだ。
ああ、試験終わった。良かったー。
早く牧場に戻ってキョーナに報告だ。喜んでくれるかな。
「まあ、仕方ないわね。Bランク昇格よ」
「ありがとうございます。じゃあこれは受験料です」
今度はちゃんとお金を払う。
キョーナと二人分、そしておまけ。
「薬貰ってその上貰えないわよ。あら、これは?」
「薬はおまけです。これはおまけのその2かな」
キョーナにあげた飴玉の残り。
剥き出しだけど、この人は気にしないだろう。
「食べてみてください。甘いですよ」
エレーナは甘いもの好きだったけど、この人はどうだろう。
「甘い。初めて食べたのに、この感覚知ってるわ。どうして」
「昔食べたことあるんじゃないですか。飴というものですが、山の向こうではよく食べられてるらしいですよ」
「昔、そうなのかしら」
なんでなのかな。
昔の転生のエレーナと何が繋がってる?
そんな事あるのかな、分からない。
「じゃあ俺戻ります。手続きとかいらないですよね」
「ええ、不要よ。町のギルドで懸賞金は受け取れるから、着いたらアルキナと一緒にギルドに行って、必ずアルキナと行くのよ」
「了解です」
この人に会うのはこれが最後かなあ。
でも変な縁が出来た気がする。
「色々ありがとうございました」
エレーナの事、手帳になにか書いてないか後で確認しよう。何かが引っ掛かった俺はそう確信してにっこりと笑う。
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