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二日目の夜1

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「俺はさ、そんなに常識外れな事してるって思ってないんだけど。変なのかな」

 さとうきびもどきの皮を編みながら、鍋の中身を混ぜているアルキナに尋ねる。

 今までの転生でもあの程度の魔法はバンバン使っていたし、それで文句言われたり驚かれたりした記憶ないんだよなあ。
 だって、今日試験で使った魔法は初級魔法だ。

 キョーナの魔力量はテリーに比べたらちょっと多いけど、それでも規格外に多いって程じゃない。
 初めて魔法を連続で使用したから、最後はフラフラになってたし。あれ位なら普通だろう。うん。

「あのさ。お前が気がついていないようだから言っておくけど」
「何だよ」
「連続二十回魔法打てるって、あり得ないって分かってないだろ」

 アルキナの言葉に首を傾げる。魔物討伐の時ならいざ知らず、試験は時間制限があったわけじゃないし、連続使用といっても自分のペースで打てるんだから十分可能な範囲だろう。

 あ、魔力調整が出来なきゃ初期魔法でも一回の使用魔力は十とか十五になるのか。十回打ったら魔力が最低でも百必要になる、それじゃDランクの魔法使いじゃ魔力切れ起こすかもな。
 あれ? でも。

「二十個的が出るのに、連続で魔法を打てない前提なのか?」
「的はそりゃ出るけどDランクだぞ。そもそも本当の合格基準は五個だ」

 アルキナの言葉に編む手が止まる。今なんて言った?
 五個って、なんだよそれ。

「はああっ?」
「声がデカいよ。だいたいさ、おかしいって気がつけよ。EからDに上がる為の試験だぞ。魔物ならゴブリン三体かオーク一体だぞ。それだってギリギリな奴が多いのに、立て続けに魔法十回ってどんな無茶だよ」
「だって、ゴブリン一体倒すのに魔法二回とか三回とか使う可能性あるよね。だったら三体殺るには十回近く魔法を打つことになるんじゃないの」
「ゴブリンを立て続けに三体殺れるなら、そりゃCランクだろうが」
「へ」
「お前の常識の無さにビックリだけどよぉ。Dランクだぞ、そんなに何度も魔法打てるわけないだろうが」
「じゃあ、魔物討伐で試験受ける時って」
「ゴブリンがまとめて三匹出て来たからって、三匹ともそいつに倒させるとでも思ってんのか? 怪我するか運悪かったら死ぬぞ」

 アルキナの呆れた様な顔に、俺は俯いて頭を抱えた。俺の認識が間違ってたのか。

「Dランクってそんななのか」
「あのな、魔物討伐には必ずパーティーを組むんだよ。特に魔法使いは詠唱中に襲われたら最後だからな」
「そうなのか」
「そうなのかじゃねえよ。疑えよ少しは。変だって気がつくだろ。一度に三体じゃなく、試験期間中に一人当たり三体なんだよ」

 過去の転生で魔法使いだった時も、盗賊退治する段階で俺は魔法の連続使用が出来た。
 転生場所の大木のある山から下りる際、ゴブリンに襲われまったのが原因だ。

 俺に仕掛けた攻撃は、全部相手に返っていく。ゴブリンが襲ってくる度に俺は強くなり、色々なスキルを勝手に覚え、強い魔法使いになっていたのだから、弱い魔法使いの状態なんてそもそも分からないのだ。
 なにせ、経験値が上がるスキルとか諸々があるから普通の成長速度じゃないし、初めて魔法を使った時に詠唱短縮も使用魔力の調整も出来る様になっていたのだから、最初っから規格外もいいとこなのだ。

「そんなの知らないよ。そもそも二十個の半分で合格って言われて疑うわけないだろ。的動いて無いんだしさ」
「まあな。それはギルマスが悪いっちゃ悪いんだが、普通は無理だと反論しないか?」
「出来るのに変だと思う方が変だ」

 動いてない的なんて、キョーナが練習してる羽を回すオモチャとなんら変わりがない。
 あんな簡単な試験で昇給って何のご褒美だ。魔法初心者のキョーナだって出来たんだぞ。

「俺に言わせたら、そう考えるお前が変だ」
「別に無理させられたわけじゃないから良いけどさ。あ、じゃあ」
「なんだよ」
「明日のキョーナの試験どうなるんだ? 動く的、二十個落とせなきゃ駄目なのかな」
「そりゃそうだろうな」
「それ酷いだろ。キョーナは魔法循環勉強中なんだぞ」
「お前のその認識がおかしいんだって、昨日それ聞いてたのに今日のあれはどういう事なんだって思ってたんだが、やっぱりお前の認識がおかしかったんだな」

 はあっと大袈裟にため息をついて、アルキナは鍋をかき混ぜる。
 キョーナが練習中なのは確かだけど、何で認識が違うなんて言われてるんだろ。

「魔法循環を勉強してる途中っていう奴は、超初心者なんだよ。普通は鳥なんか打ち落とせないし、使用魔力を調整しながら魔法を打つなんて芸当も出来ねえんだよ」
「それはちゃんと練習しないからだろ。俺だってたまに練習してるぞ。例えばさ」

 さとうきびもどきの皮を短く切って、掌に乗せる。

「何をするつもりなんだ?」
「魔法循環だよ。ほら」

 掌に魔力を集め少しずつさとうきびもどきの皮に向けて放出する。

「浮き上がった」
「羽の魔道具は初心者でも使えるように魔力が込めやすくなってるだけで、同じような練習は何を使っても出来るんだよ」
「知らなかった」

 アルキナがびっくりした様な顔で、ふわふわ浮かぶさとうきびもどきの皮を見ている。
 まあ、使う魔力は少しだけど、精神力を馬鹿みたいに使うからこんなので練習しようって奴はいないと思うけどな。

「右回り、左回り」

 ふわふわと宙に浮いているさとうきびもどきの皮を、くるくると回転させる。

「テリーは魔力循環苦手だって言ってから、そんなに早く回せないだろうな」
「キョーナも苦手だから勉強中なんだよ。これが楽々出来る様になれば魔力量の調整も簡単だし、最低限の魔力で魔法が打てるようになれば連続使用だって出来る」
「そりゃそうだな。でも多分魔法学校でも魔法循環は重要視してないんじゃねえかな」
「そうなのかな。これやる方が魔法使いこなせる様になる気がするけど」

 なんで教えないのかなあ。それが不思議だ。

「地味な練習するより実地の方が楽しいからじゃねえか。魔物殺れば金も入る」
「最初頑張れば後が楽なのにな。あ、アルキナその鍋そろそろ良いんっじゃないか」
「ん? あ、すげえ。固まりになってる」
「うん。ここまで来たら火を弱めて、後は焦げない様にもう少し混ぜてくれ」

 薄茶色のペーストが鍋の底に溜まっていた。うんうん、良い感じだ。
 結晶化したらもう少し量が減るのかと思ってたけど、以外とそうでも無かったな。これは嬉しい誤算って奴だ。

「お、みるみる水分が無くなってくぞ」
「それぐらいでいいな。アルキナ鍋をこっちに」
「おう。混ぜるのは大変だけど、こんなに砂糖が出来るなら苦じゃねえな」
「売れるならいいんだけど、暫くは無理そうだよね」
「領主がなあ。下手したらここの牧場取り上げられちまうだろうな」
「そんな大事になったら大変じゃないか」

 ここの領主ってどんだけクズなんだ?

「おや、アルキナここに居たんですね。ジュンさんはまだ調理中でしたか」
「ハイドさん」

 疲れた顔をして、ハイドさんは台所に入ってきた。
 トムさん達は居ない。もう自分の部屋に戻ったのかな。

「アルキナ、明日は朝食を終えたらギルドに向かって昇級試験を受けて下さい。私とスティーブはその間ここで彼女達の指導を行いますので終わったらここへ戻ってきて下さい」
「わかった」
「ジュンさん申し訳ありませんが、明日の朝と試験が終わって戻ってきてからの二回。彼女達に料理を教えて貰えませんか。書いていただいた作り方を見ても出来上がりが分からない物が多い様なので、一度実物を見せて欲しいのです」
「ああ。そうですね。じゃあ量を少な目に色々作ってみましょうか」
「助かります」

 レシピに書いた料理は簡単に出来るものばかりだけど、見たことなければ料理が成功してるのかどうか判断つかないもんな。

「じゃあ明日よろしくお願いします」
「はい。任せて下さい」

 大きく頷くとハイドさんはにっこり笑った後、テントへ戻っていった。
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