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奴隷契約5
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「俺の黒歴史を踏み台にして、キョーナが強くなってくれるなら別に良いけどね」
俺は今日キョーナが魔法のイメージを思い描き易い様に、魔法を使う時に全く必要がない弓を使い、使用する魔力の量もキョーナの魔力量で確実に二十回以上打てる様に調整して試験を受けた。
キョーナは勘が良いし、鳥を仕留めた時の感じで目も良いと思ったから目の前で見本を見せれば同じ様に出来るだろうと考えたのだ。
あれを過保護と言わずに、何を言うだ。
でも経験不足な状態で試験を受けなきゃいけないんだから、少しでも有利になるようにしてやりたいって思うだろ普通。思う……よな?
「黒歴史? なんだそれ」
「出来れば記憶から抹消したい、恥ずかしい自分の過去だよ」
恨めしい気持ちで、アルキナを睨む。
この世界での俺の黒歴史は山程ある。
大抵は俺の過度のお人好しというか、後先考えずに行動して引き起こした物だ。
理由は分かってる、深く考えずに感情だけで動くのが悪い。
相手が望んでなくても、俺は出来るしやってもいいかと行動して、やり過ぎて呆れられる。
これ、最初の内は感謝されるけどその内俺がやるのが当然で、やらないと「なんでやってくれないの?」になるんだよなあ。
これって、向こうの世界でもそうだったな。
そうならなかったのは、杏と家族位だった。
「ジュンーーッそう言うんじゃないんだってば。嬉しかったんだよ。本当に。ジュンが相棒って言ってくれたのも、見本見せてくれたのも、全部ぜーんぶ嬉しかったってば」
「いいよ。もう。俺が馬鹿なのは今に始まった事じゃないから、それより戻ってこれを煮てしまおう」
落ち込んだ俺をなんとか慰めようと、キョーナは一生懸命に嬉しかったと繰り返すけど、黒歴史が増えた事実は変わらない。
「ジュン。ごめんね」
「いや、謝られても困るよ。過保護はこれからも続くし」
何回繰り返し転生しても、その記憶が全部残ってても、それでも学習しないんだ。俺。
だってやらずに後悔したくないんだよ。
「おいおい、ジュン。そこはもう止めるって言うとこじゃねえのか」
「いいや。止めない。むしろ自覚して過保護にするね」
「お前なあ」
呆れ顔のアルキナとテリーを置いて、キョーナと連れだって台所に入る。
「トムさんお待たせしました」
「ああ、今呼びに行こうと思ってたんだ。これでもう分離ってやつしたのか」
「ああ、そうですね。これをさっき煮沸した布で濾して」
テーブルの上に鍋を一つ置き、その上にさっき煮沸消毒しておいた籠、布の順に置き静かに分離した液体を流し込む。浄化の魔法を使えば煮沸はいらないけど、トムさんが今後作るときの為に今回はしっかり布と籠を煮沸消毒した。
「おお。凄い」
「なんだあ、この白いの」
「チーズだよ。もうちょっと北の山の方でチーズっていう牛とか山羊の乳を加工してもっと凝った感じのこういうの作っているんだ。これはその簡易、なんだろ発酵させないチーズってやつになるのかなあ」
お母さんはパンに合うチーズを探して色々購入しては自分のパンとの相性を試していた。
だから俺と杏も試食係で味わっていたけれど、正直子供舌&馬鹿舌な俺には美味しいか不味い以外の感想はなく何の参考にもならなかった。
あの頃のお母さんの参考にはならなくても、今の俺の参考にはなっている。
食べたことがあるとか、見たことがあるで俺のスキルは発動するから。
多分今の俺には、前世でのお母さんと杏が俺に見せていた大量のレシピとか試作品が糧になっている気がするんだ。
杏、お母さん、お父さん。
もう会えない人達。
日本のただの男子高校生として生きてきた俺がこの世界で生きる上で参考になるのは食だ。
それは両親と杏が俺に教えてくれたことで多分凄く役に立っているんだと思う。
お母さんは、パン作りや日々の食事の献立で創意工夫をしていたのが、そのまま俺の知識になっている。
高校生男子だっていうのに、俺には梅干しの作り方とか干し柿干し芋の作り方とか、そういう知識が頭の隅に残っている。
お母さん、パン作りが好きっていう他に、発酵食品が好きっていうのもあったんだよなあ。
日本で高校性をしていただけの俺には無駄とも思える知識でも、今の俺には有難い知識なのかもしれない。
お母さんは俺と杏を生徒の様に、発酵食品について教えてくれてたもんなあ。
「さてと」
絞る前に水で洗う。洗うって表現でいいのかな。洗うのは好みだ。これをやらないと酸味が強いけど、気にならないならやらなくてもいい。
あとは適度に水分を絞って完成だ。
「これで完成です。味見してみてください」
「んー? 面白い味だなあ」
「俺も俺も」
少しずつ、皆に味見させ自分も味見する。うん、カッテージチーズだ。低温で固めたから柔らかい。
「このまま生野菜と一緒にドレッシングやマヨネーズで和えてもいいですが、火を通すとちょっと味が変わるんですよ」
フライパンを取りだし、竈に火を入れると卵一個を溶きほぐしバターを入れたフライパンに流す。
バターに塩が入っているから味付けはしなくていいだろう。
「なんだ、なんだ」
「こうやって、中にこれを入れて、よっと」
ふつふつとしてきた卵の真ん中にカッテージチーズを入れ、オムレツを作る。
「はい。味見してみて。熱いから気を付けて」
「変わった形だなあ」
「ん? 真ん中の少し柔らかいな。さっきのよりこっちの方が旨いな」
「火を通すと柔らかくなるんですよ」
「へえ。卵だけ焼くよりも食べごたえあるな」
「元々の味は淡白なので、味付けの邪魔にはならないですが栄養はあるんですよ」
脂肪分は少ないけど、タンパク質はそれなりにある。
高タンパク質、低脂肪でダイエット向きの食材だと、昔妹が言っていた覚えがある。
一般的なチーズを知っている俺には淡泊すぎるけれど、でも他の食材よりはこってり感はある。
「普段は肉は余り食べないと言ってましたが、卵と牛乳は食べますよね」
「ああ、卵は洗ってる時にヒビをいれてしまうことがあるから、一日に二、三個食べる時もあるな。牛乳は水変わりだ」
卵と牛乳を食べているから、肉を食べなくても重労働出来るんだな。
他のタンパク質、牧場の側に小さな川も流れているから、魚はそこで釣ることが出来るのかもしれない。
「普段はそれでも問題ないと思いますが、ケントさんの体力が落ちてるので、暫くの間はこれも食べた方が良いと思うんです」
肉とか置いていければ良いんだけど、冷蔵庫が無いなら直ぐに傷む。カッテージチーズは淡白すぎて物足りないかもしれないけど、タンパク質を取るにはいい食材だ。なにせここには材料が沢山ある。
「親父に?」
「ええ。毒からの回復には栄養をとることが必要です。ケントさん少し痩せてきてませんか?」
「よく分かるな。そうなんだ、俺と同じ量食べてるのに顔色は悪いし痩せてきたし。だから心配で」
そうだよなあ。服がなんだか緩そうだったし、頬もこけていた。
本当なら肉が食べられると良いんだけど、この辺りじゃ肉は買えないから自分で狩るしかない。
あ、鹿の肉置いてこうかな。干肉に加工しておけば日持ちするだろ。
「卵と牛乳で栄養は取れますが、それに追加して取った方が良いかと。日持ちはしないので、毎日食べる分だけ作ってください」
「分かったよ。ありがとう」
「トムさん、バターを作るんですよね」
「作るぞ」
「それは牛乳から採ったクリームが元ですよね」
「そうだな。よく知ってるな」
「そのクリームで、同じ様なやり方でクリームチーズが作れるので、そちらも作ってみてください。栄養はカッテージチーズの方がありますが、クリームチーズは濃厚なのでバターの代わりにパンに塗っても美味しいですよ。作り方書いておきますね」
単純に牛乳と生クリームとレモン汁でクリームチーズが出来る。
これ、母さんが作ってた。
市販のクリームチーズよりとろみがあって好きだったなあ。
ベリーを洗い、シロップで煮詰めながらトムさんに説明する。
テリーとキョーナは楽しそうに鍋のなかを見ている。
アルキナはいつの間にか居なくなっていた。
「これくらい煮詰めたら完成です。かなり甘めにしてありますが、早目に食べきって下さいね。あと蟻が来ないように気を付けて下さいね」
「分かった。これはどうやって食べたら」
「そうですね。パンにつけるとか、さっき書いた中にある奴だとクレープに付けるとか、あとこれですね」
さっきのカッテージチーズに出来たてのジャムをとろりとかける。
「食べてみてください。ほら、二人も」
「わあ。甘くて酸っぱくて美味しい」
「こうすると、チーズの感じが変わるな」
「旨い。ジャムなんて話に聞いたことしか無かったが旨いなあ」
大きな町ならジャムは手に入る。
この辺りは難しいかな。
蜂蜜取れれば良いんだけどな。
「養蜂とか出来るといいんですけどね、さとうきびもどきは公にするのは厳しいでしょうが、蜂蜜なら自然にあるものだし」
「養蜂?」
「蜜蜂を飼うんですよ。花を沢山植えて、蜂がその蜜を集める。で、その蜂蜜を人間が少し分けて貰うんです。蜂が生きていくのに必要な分は残さないといけませんが、森に入って蜂の巣を探すより効率的なんです」
「へえ。そういうのがあるのか」
「蜂の巣を確保して、この場所に定着させるまでは大変ですが、花の蜜を集めに外へ行っても、必ず蜂は巣に戻ってきますから、もし機会があったら試してみてもいいかもしれないですね」
今度は野菜を刻み、明日の朝のスープを作り始める。
玉ねぎにニンジン、オークの塩漬けを細かく刻み、柔らかく煮る。明日の朝牛乳を足して少し煮込んだらミルクスープの完成だ。
「そうだな。蜂の巣を見つける事が出来たらやってみるよ」
「養蜂はやったことないので、詳しく説明ができなくてすみません」
「いいや、十分だ。ジャムとかチーズとか色々教えて貰っただけでも十分助かったよ。ありがとう」
トムさんにお礼を言われ、ちょっと照れながら。パンの発酵具合をチェックする。
うんうん。いい感じに膨らんできた。成形するのはもう少し後だな。じゃあ次は。
「トムさん、あとこの作り方で分からないことありませんか」
「そうだな……」
俺が書いたレシピの束をトムさんが広げて、確認し始めたその時だった。
「アルキナ、ハイドさんはこっちにいるかしら」
勢いよくドアが開き、ジェシーが中に入ってきた。
「ハイドさんなら奥だよ。そんなに慌ててどうしたんだ」
「テリー急いでハイドさんを呼んできて、馬小屋よ。急いで、ジュンは一緒に来て」
「どうしたんだよ。ジェシー」
「とにかく急いで、一人、馬を盗んで逃げ出そうとしてたのっ」
「はあっ。キョーナは火の番してて。いいな」
キョーナの返事も待たず、俺はジェシーと馬小屋へ走った。
折角ケントさんが皆を雇ってくれる事が決まったのに、なんでこんな時に。こんな事で話が無くなったりしないよな? 俺の心配は現実になりそうだった。
俺は今日キョーナが魔法のイメージを思い描き易い様に、魔法を使う時に全く必要がない弓を使い、使用する魔力の量もキョーナの魔力量で確実に二十回以上打てる様に調整して試験を受けた。
キョーナは勘が良いし、鳥を仕留めた時の感じで目も良いと思ったから目の前で見本を見せれば同じ様に出来るだろうと考えたのだ。
あれを過保護と言わずに、何を言うだ。
でも経験不足な状態で試験を受けなきゃいけないんだから、少しでも有利になるようにしてやりたいって思うだろ普通。思う……よな?
「黒歴史? なんだそれ」
「出来れば記憶から抹消したい、恥ずかしい自分の過去だよ」
恨めしい気持ちで、アルキナを睨む。
この世界での俺の黒歴史は山程ある。
大抵は俺の過度のお人好しというか、後先考えずに行動して引き起こした物だ。
理由は分かってる、深く考えずに感情だけで動くのが悪い。
相手が望んでなくても、俺は出来るしやってもいいかと行動して、やり過ぎて呆れられる。
これ、最初の内は感謝されるけどその内俺がやるのが当然で、やらないと「なんでやってくれないの?」になるんだよなあ。
これって、向こうの世界でもそうだったな。
そうならなかったのは、杏と家族位だった。
「ジュンーーッそう言うんじゃないんだってば。嬉しかったんだよ。本当に。ジュンが相棒って言ってくれたのも、見本見せてくれたのも、全部ぜーんぶ嬉しかったってば」
「いいよ。もう。俺が馬鹿なのは今に始まった事じゃないから、それより戻ってこれを煮てしまおう」
落ち込んだ俺をなんとか慰めようと、キョーナは一生懸命に嬉しかったと繰り返すけど、黒歴史が増えた事実は変わらない。
「ジュン。ごめんね」
「いや、謝られても困るよ。過保護はこれからも続くし」
何回繰り返し転生しても、その記憶が全部残ってても、それでも学習しないんだ。俺。
だってやらずに後悔したくないんだよ。
「おいおい、ジュン。そこはもう止めるって言うとこじゃねえのか」
「いいや。止めない。むしろ自覚して過保護にするね」
「お前なあ」
呆れ顔のアルキナとテリーを置いて、キョーナと連れだって台所に入る。
「トムさんお待たせしました」
「ああ、今呼びに行こうと思ってたんだ。これでもう分離ってやつしたのか」
「ああ、そうですね。これをさっき煮沸した布で濾して」
テーブルの上に鍋を一つ置き、その上にさっき煮沸消毒しておいた籠、布の順に置き静かに分離した液体を流し込む。浄化の魔法を使えば煮沸はいらないけど、トムさんが今後作るときの為に今回はしっかり布と籠を煮沸消毒した。
「おお。凄い」
「なんだあ、この白いの」
「チーズだよ。もうちょっと北の山の方でチーズっていう牛とか山羊の乳を加工してもっと凝った感じのこういうの作っているんだ。これはその簡易、なんだろ発酵させないチーズってやつになるのかなあ」
お母さんはパンに合うチーズを探して色々購入しては自分のパンとの相性を試していた。
だから俺と杏も試食係で味わっていたけれど、正直子供舌&馬鹿舌な俺には美味しいか不味い以外の感想はなく何の参考にもならなかった。
あの頃のお母さんの参考にはならなくても、今の俺の参考にはなっている。
食べたことがあるとか、見たことがあるで俺のスキルは発動するから。
多分今の俺には、前世でのお母さんと杏が俺に見せていた大量のレシピとか試作品が糧になっている気がするんだ。
杏、お母さん、お父さん。
もう会えない人達。
日本のただの男子高校生として生きてきた俺がこの世界で生きる上で参考になるのは食だ。
それは両親と杏が俺に教えてくれたことで多分凄く役に立っているんだと思う。
お母さんは、パン作りや日々の食事の献立で創意工夫をしていたのが、そのまま俺の知識になっている。
高校生男子だっていうのに、俺には梅干しの作り方とか干し柿干し芋の作り方とか、そういう知識が頭の隅に残っている。
お母さん、パン作りが好きっていう他に、発酵食品が好きっていうのもあったんだよなあ。
日本で高校性をしていただけの俺には無駄とも思える知識でも、今の俺には有難い知識なのかもしれない。
お母さんは俺と杏を生徒の様に、発酵食品について教えてくれてたもんなあ。
「さてと」
絞る前に水で洗う。洗うって表現でいいのかな。洗うのは好みだ。これをやらないと酸味が強いけど、気にならないならやらなくてもいい。
あとは適度に水分を絞って完成だ。
「これで完成です。味見してみてください」
「んー? 面白い味だなあ」
「俺も俺も」
少しずつ、皆に味見させ自分も味見する。うん、カッテージチーズだ。低温で固めたから柔らかい。
「このまま生野菜と一緒にドレッシングやマヨネーズで和えてもいいですが、火を通すとちょっと味が変わるんですよ」
フライパンを取りだし、竈に火を入れると卵一個を溶きほぐしバターを入れたフライパンに流す。
バターに塩が入っているから味付けはしなくていいだろう。
「なんだ、なんだ」
「こうやって、中にこれを入れて、よっと」
ふつふつとしてきた卵の真ん中にカッテージチーズを入れ、オムレツを作る。
「はい。味見してみて。熱いから気を付けて」
「変わった形だなあ」
「ん? 真ん中の少し柔らかいな。さっきのよりこっちの方が旨いな」
「火を通すと柔らかくなるんですよ」
「へえ。卵だけ焼くよりも食べごたえあるな」
「元々の味は淡白なので、味付けの邪魔にはならないですが栄養はあるんですよ」
脂肪分は少ないけど、タンパク質はそれなりにある。
高タンパク質、低脂肪でダイエット向きの食材だと、昔妹が言っていた覚えがある。
一般的なチーズを知っている俺には淡泊すぎるけれど、でも他の食材よりはこってり感はある。
「普段は肉は余り食べないと言ってましたが、卵と牛乳は食べますよね」
「ああ、卵は洗ってる時にヒビをいれてしまうことがあるから、一日に二、三個食べる時もあるな。牛乳は水変わりだ」
卵と牛乳を食べているから、肉を食べなくても重労働出来るんだな。
他のタンパク質、牧場の側に小さな川も流れているから、魚はそこで釣ることが出来るのかもしれない。
「普段はそれでも問題ないと思いますが、ケントさんの体力が落ちてるので、暫くの間はこれも食べた方が良いと思うんです」
肉とか置いていければ良いんだけど、冷蔵庫が無いなら直ぐに傷む。カッテージチーズは淡白すぎて物足りないかもしれないけど、タンパク質を取るにはいい食材だ。なにせここには材料が沢山ある。
「親父に?」
「ええ。毒からの回復には栄養をとることが必要です。ケントさん少し痩せてきてませんか?」
「よく分かるな。そうなんだ、俺と同じ量食べてるのに顔色は悪いし痩せてきたし。だから心配で」
そうだよなあ。服がなんだか緩そうだったし、頬もこけていた。
本当なら肉が食べられると良いんだけど、この辺りじゃ肉は買えないから自分で狩るしかない。
あ、鹿の肉置いてこうかな。干肉に加工しておけば日持ちするだろ。
「卵と牛乳で栄養は取れますが、それに追加して取った方が良いかと。日持ちはしないので、毎日食べる分だけ作ってください」
「分かったよ。ありがとう」
「トムさん、バターを作るんですよね」
「作るぞ」
「それは牛乳から採ったクリームが元ですよね」
「そうだな。よく知ってるな」
「そのクリームで、同じ様なやり方でクリームチーズが作れるので、そちらも作ってみてください。栄養はカッテージチーズの方がありますが、クリームチーズは濃厚なのでバターの代わりにパンに塗っても美味しいですよ。作り方書いておきますね」
単純に牛乳と生クリームとレモン汁でクリームチーズが出来る。
これ、母さんが作ってた。
市販のクリームチーズよりとろみがあって好きだったなあ。
ベリーを洗い、シロップで煮詰めながらトムさんに説明する。
テリーとキョーナは楽しそうに鍋のなかを見ている。
アルキナはいつの間にか居なくなっていた。
「これくらい煮詰めたら完成です。かなり甘めにしてありますが、早目に食べきって下さいね。あと蟻が来ないように気を付けて下さいね」
「分かった。これはどうやって食べたら」
「そうですね。パンにつけるとか、さっき書いた中にある奴だとクレープに付けるとか、あとこれですね」
さっきのカッテージチーズに出来たてのジャムをとろりとかける。
「食べてみてください。ほら、二人も」
「わあ。甘くて酸っぱくて美味しい」
「こうすると、チーズの感じが変わるな」
「旨い。ジャムなんて話に聞いたことしか無かったが旨いなあ」
大きな町ならジャムは手に入る。
この辺りは難しいかな。
蜂蜜取れれば良いんだけどな。
「養蜂とか出来るといいんですけどね、さとうきびもどきは公にするのは厳しいでしょうが、蜂蜜なら自然にあるものだし」
「養蜂?」
「蜜蜂を飼うんですよ。花を沢山植えて、蜂がその蜜を集める。で、その蜂蜜を人間が少し分けて貰うんです。蜂が生きていくのに必要な分は残さないといけませんが、森に入って蜂の巣を探すより効率的なんです」
「へえ。そういうのがあるのか」
「蜂の巣を確保して、この場所に定着させるまでは大変ですが、花の蜜を集めに外へ行っても、必ず蜂は巣に戻ってきますから、もし機会があったら試してみてもいいかもしれないですね」
今度は野菜を刻み、明日の朝のスープを作り始める。
玉ねぎにニンジン、オークの塩漬けを細かく刻み、柔らかく煮る。明日の朝牛乳を足して少し煮込んだらミルクスープの完成だ。
「そうだな。蜂の巣を見つける事が出来たらやってみるよ」
「養蜂はやったことないので、詳しく説明ができなくてすみません」
「いいや、十分だ。ジャムとかチーズとか色々教えて貰っただけでも十分助かったよ。ありがとう」
トムさんにお礼を言われ、ちょっと照れながら。パンの発酵具合をチェックする。
うんうん。いい感じに膨らんできた。成形するのはもう少し後だな。じゃあ次は。
「トムさん、あとこの作り方で分からないことありませんか」
「そうだな……」
俺が書いたレシピの束をトムさんが広げて、確認し始めたその時だった。
「アルキナ、ハイドさんはこっちにいるかしら」
勢いよくドアが開き、ジェシーが中に入ってきた。
「ハイドさんなら奥だよ。そんなに慌ててどうしたんだ」
「テリー急いでハイドさんを呼んできて、馬小屋よ。急いで、ジュンは一緒に来て」
「どうしたんだよ。ジェシー」
「とにかく急いで、一人、馬を盗んで逃げ出そうとしてたのっ」
「はあっ。キョーナは火の番してて。いいな」
キョーナの返事も待たず、俺はジェシーと馬小屋へ走った。
折角ケントさんが皆を雇ってくれる事が決まったのに、なんでこんな時に。こんな事で話が無くなったりしないよな? 俺の心配は現実になりそうだった。
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