上 下
48 / 119
2 冒険者登録

奴隷契約2

しおりを挟む
「籠を編むのは出来ますか」
「簡単な物なら勿論作れるぞ。あんな感じの奴だ」
「ああ。台所にもありましたね。丈夫で使い易そうですよね」

 トムさんが指差したのは、棚の上にある大きな籠だった。
 少し太めの蔓で編んだ持ち手付きの籠だ。台所にも似たようなのがあって野菜が入っていた。

「さとうきびもどきの繊維は丈夫ですし扱い易いです。繊維を縦に裂くのも簡単ですから細くも太くも容易に出来ると思います。いくつか見本を作ってギルドに持って行ったらどうですかね」

 俺がトムさんの牛を見つけた事でこの牧場に来ることになり、トムさんは奴隷を八人も一度に買う事になってしまった。
 広い牧場でやることはいくらでもありそうだけど、金貨六十四枚なんて大金を使わせてしまった原因は俺にもある気がして、なんだか凄く後ろめたい。
 知らなければさとうきびもどきは、甘い汁を出すけどすぐに腐るやっかいな植物だったし。ケントさんの具合はずっと悪いままだったろう。紫毒蜂の毒は人間の治癒力では治らないから、あのまま無理を続けたら亡くなってしまう可能性も高かったけど、それとこれとは別だ。
 女性でも作業が出来て、且つ少しでも収入が増える方法を考えたい。

「そうだな。野菜の収穫が減る冬の時期に蔓で編んだ籠を作って売ろうとしたんだが、あまり人気がなくてな。繊維を細くして編んだら町の人も気に入って買ってくれるかもしれないよな。よし、やってみよう」

 確かに村で野菜などを収穫する時に使いそうな大きな籠は、町の人の好みではないのかもしれない。
 それを考えると、ちょっと可愛い感じでリビングなんかに置いても違和感がない小ぶりな籠とか、蓋つきの籠とかいいかな。
 母さんと杏が百均で売っている籠に手を加えてパンを入れたり、ドライフラワーを飾ったりしてた。よし、そういう傾向のものにしよう。

「ええ。是非やってみてください。見本、小さなものですが作りますから」
「何から何までありがとう。助かるよ」
「お待たせしました。ジュンさんこちらで枚数は足りそうですか」
「ありがとうございます」

 ハイドさんが持って来てくれた紙とインクと羽ペンを受け取ると、さっそくレシピを書き始める。
 トマトソースと、ホワイトソース。シチュー。すいとん。ジャガイモのガレット。生パスタ。

「ジュンさんは綺麗な文字を書かれますね」
「そんなことありませんよ。トムさん取り合えず、これを読んでみて分からない文字とかないか確認してもらえますか」
「あぁ」

 トムさんに書き上がったレシピを読んで貰っている間、次のレシピを書き始める。
 その横でハイドさんは、ケントさんに契約の説明を始めていた。

「ケントさん、こちらが契約書です。今回八人同時の契約ですので纏めて名前と年齢が書いてあります」
「はい」
「こちらが契約日。明日の日付です。契約満了日は五年後の日付です。ここまでで気になる事がありましたら遠慮なくおっしゃって下さい」

 契約書は本格的な物みたいだ。
 これで人の人生が変わるのかと思うと、少しドキドキする。
 冷たいなと自分でも思うけど、奴隷になるしかない人生を変えてあげたいとまでは思わない。

 俺がハイドさんにお金を払うのは簡単な話だ。でも、お金を払ってその後どうするのかと考えても俺は彼女達の面倒を見る事は出来ないし。魔力を与えて魔法使いにするとか、ポイントを付与して能力を上げてとかは思わない。
 キョーナと会う前に彼女達と親しくなっていたら違ったんだろうか。
 それともキョーナが特別なんだろうか。
 なんか分からない。

「明日奴隷契約を行う際、奴隷となる彼女達の行動を決める事になります。こちらを決めていただけますか」
「行動。はい。主の方は衣、食、住ですね」
「はい。奴隷の衣食住を主であるケントさんが負担する代わりに、彼女達の行動に制限等を掛ける事ができます。衣、食、住それぞれの負担に対して、制限は三つずつしていできます」
「分かりましたが、俺は奴隷を雇うのは初めてですから何をしていしたらいいのか分かりません。ハイドさんが必要と思う事を教えて貰うことは出来ますか。それを聞いて必要かどうか考えます」
「そうですね」

 あ、ハイドさん達の話に集中してしまってレシピを書く手が止まってた。
 失敗、失敗。ええと次は砂糖なしクレープにしよう。これに焼いた野菜とか、肉とか巻いて食べる。
 料理レシピを取った時試しに作った料理だ。

「まず、主の許可なく敷地内を出ていかない事、また指定された場所から出ていかない事。次に主または主に準ずる人の命令及び指示に従う事。ただし生命維持が難しいまたは人間の尊厳を害する行為はこれに含まれない。主またはそれに準ずる人に嘘をつかない事。主やそれに準ずる人の命、財産、信用を損なう行動をしない。奴隷の仲間を害したり貶めたりしない。労働について手を抜かず誠心誠意行う。他人を害したり貶めたりしない。盗みや悪事を働かない。大体この辺りが必要かと思います。勿論これが決定ではありませんので、ケントさんとトムさんでご相談下さい。数が少ない事は支障ありませんが、精霊との契約上零では行えません」
「はい。あの、この契約を破った際の罰は」
「程度にもよります。例えば主を害したり貶めたりしないとしているのに、奴隷が主を故意に死なせた場合、その奴隷は精霊の裁きにより死亡しますが怪我をさせただけの場合、本人も同じ怪我を追う、もしくは痛みを感じる等があります。その他も体に激痛がはしる等がありますが、どの契約違反をした場合でも少しずつ寿命が減っていきますので、数を重ねると解放奴隷になる迄に寿命が尽きてしまいます。また、敷地を出ていかないという契約を破った場合は、本人が奴隷契約をした際に精霊に解放奴隷になるまで奴隷として主の為に身を粉にし、誠意を持って働くという誓いを立てますので、これも違反した事になり、精霊の呪いを受けてしまいます」

 精霊の呪い。なんか凄い話になってきたな。

「ああ、それは見たことがあります。逃亡して丸一日経つと精霊の呪いが出るのですよね」
「ええ。ただしこれは奴隷となる本人は知りません。伝えようとしても契約に携わった人間は話す事が出来ません。解放奴隷になった時初めて知る事なのです」
「それではハイドさんの言われた内容で契約します」
「よろしいのですか」
「契約の内容は彼女達の前で読み上げる事が出来るんですよね。俺は自分の契約の時、解放奴隷になる日付を言われただけでしたが、彼女達の前で契約を読み上げれば余程の事がない限りそれを破る事はないでしょう。つまり、彼女達が精霊と交わす誓いを破る事もない」

 ああ、そうか。精霊との契約を破った場合のペナルティを教えることは出来ないから、それに近い内容を契約する。それを守る事イコール精霊との契約を守る事になるんだ。

「ご承知かと思いますが、衣食住を与えない場合それ相応の罰があります。最低限守れば問題はありませんが」
「そうですね。でも最低限が分かりませんから、出来る限りの事は致します。余所様のお嬢さんをお預かりするんですから」

 ケントさんはどこまでも善人だな。自分がされて辛かった事はしたくないんだろうな。あの女に聞かせてやりたいよ、全く。
 さてと、レシピも大体書けたかな。

「トムさんどうですか。分からない事とかありますか」
「このカッテージチーズってなんだ? レモンは分かるし酢も分かるんだか」
「ああ。そうですね。じゃあこれから作ってみましょうか。レモンってありますか」
「夏に収穫したのがあるが、あれは酸っぱいから他の果物の搾り汁と合わせて飲む位しか使い道ないぞ」
「大丈夫ですよ。お酢もありますか」

 やっぱりこの辺りでは、チーズは作ってないんだなあ。
 チーズはここから北の方の地方では作ってるんだよな。たしかヨーグルトも作ってた筈だ。
 なんだろう、牛も山羊も育てていて乳も飲んでるのにそういう方向に行かない理由があるのかな。

「あるよ。あんまり好きじゃないけど。マヨネーズもどき作る時に使う程度だな」

 チーズは作っていないけど、マヨネーズはある不思議。
 なんか料理関係に偏りがあるきがするんだけど、なんでなんだろう。
 気軽によその地域に行けるわけじゃないのは分かるけど、それでももう少し広まっても良さそうなんだけどなあ。
 まあ、この辺りは貧乏な村が多いから食で贅沢しようとかは考えるまでいかないのかもしれないな。
 チーズだって加工に回せる余裕が無ければ全部売ろうとするだろう。

「じゃあパンを焼く準備するついでに一回作ってみましょうか。ハイドさん失礼して台所に行っても」
「ええ、どうぞ。私はケントさんとお話ししていますので」

「キョーナ、行くぞ」
「はい」

 先に台所に向かったトムさんの後を付いて、俺とキョーナは台所に向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

処理中です...