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試験を受ける3

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 なんで俺はギルドマスターに邪険にされてるんだ?
 答えが見つけられないままま、キョーナの体を支え安全な位置に移動させ座らせると、位置に戻る。

「じゃあ開始するわよぉ」

 ギルドマスターの声で、いきなり的が現れた。
 唐突すぎる始まりに動揺しながら詠唱を始める。
 さっきは止まったままだった的が、今度はゆらゆらと動いていた。

「我は望む、彼の的へ天の怒りよ降り注げライトニング」

 詠唱し的を落とす、立て続けに三回。どれも真ん中にライトニングが命中し、的が落ちていく。
 的の動きは記憶にあるよりも遅かった。空中を飛ぶ魔物に比べたら止まっているのと変わらない動きだ、これなら楽に落とせそうだとほっとして、次の的に向け詠唱を始めようとした瞬間「これじゃあつまらないわねぇ」とギルドマスターが呟くのが聞こえた。

「え」

 声を発したのはキョーナだったけど、俺だって驚いた。
 ギルドマスターが言うところの「つまらない」の意味がわからない。
 俺はいたって真剣に試験を受けている。
 あんなに、全力で試験を受けていたキョーナの前で手を抜くなんてあり得ない。うっかりレベル20の魔法使いが使えない筈の魔法を使ったりしない様、自分の魔法に制限は掛けたけど、それはスキル隠蔽がばれない様にするためだから、手を抜いてるわけじゃない。

「我は望む、彼の的へ天の怒りよ降り注げライトニング」

 ギルドマスターの言葉一つで大きさが変わってしまった今までの十分の一程度の大きさになってしまった的。それを数個立て続けに落とす。

「なんだこれ」

 なんか的が出るタイミングが早くなっている気がする。大きさはライトニングを当てる障害にはならないからいいけど、これ嫌がらせの範疇越えてないか? なんて思っていたのに、「これだけじゃ駄目かしらぁ」の声が聞こえ、ギルドマスターのくすくすという楽しそうな笑い声が訓練場にこだました。

「そんな」

 悲鳴の様なキョーナの声。
 次に現れたのは訓練場の空間を、縦横無尽に飛び回る的だった。
 動いているなんてレベルじゃなく、これじゃ文字通り飛び回ってるだ。一体何がしたいんだ。
 なんか、頭来た。

「我は望む、彼の的へ天の怒りよ降り注げライトニング」

 ギルドマスターの行動に呆れながら、的を的確に落とす。
 俺の動体視力はまあまあなレベルだ、あの大きさならまだこのスピードでも対応できる。
 俺の魔法は視覚で動きを追えている限り外れない。だから、まだ問題は無い。
 だけど、ギルドマスターの考えがわからない。俺が何をした? 素直にBランクへの昇級試験だけ受けてろよって事か? それにしたって大人げなくないか?

「すげえっ」

 アルキナが背後で騒いでる。
 俺は内心の苛々を押さえ、必死に冷静な自分を装いつつ、さらに数個落とす。
 悔しいから、余裕な振り。焦った顔なんか見せるもんか。

「ジュン。頑張って」

 キョーナが応援する声が聞こえる
 これで二十個クリア。また何かを仕掛けてくるなら次だろう。次はどう出てくる?

「ふふふ。のってきたわぁ。こうでなくちゃねぇ」

 楽しんでる声。次は?
 おいっ、一気かよ。

「こんなの酷いっ!」

 確かに酷い。残りの的が一気に出てきて飛び回ってる。しかも小さくなったり大きくなったりとサイズもランダムに変わってるし、キラキラと無駄に光を放っていて的が判断しにくくなっている。

「残り時間はぁ。五つ数えるまでよぉ。ひとーつ。ふたーつ」
「そんなの言ってなかったじゃないっ!」

 そうだそうだ。って、どうする俺。
 全体魔法はレベル20で使える奴は、ええと。雷雨は威力が大きすぎる。ライトニング テンペストの方がまだましか? どうする? 時間が無い。いいや、やってしまえ。

「我は望む、すべての的へ、天の怒りと鉄槌をライトニングテンペスト」

 ヤバイッ。冷静にって思ってたのに制御失敗した、魔力込めすぎた。
 訓練場に容赦なく、何十本もの激しい稲妻が的を目掛けて落ちていく。的を落とすレベルじゃない、稲妻が当たった瞬間的が消えてく。これじゃやり過ぎもいいとこだ。

「ジュン凄いっ!」
「すげぇ」

 二人の声が聞こえたけど、俺は後悔のどん底に沈んでしまう。なんで俺、堪えられなかったんだ。
 馬鹿だろ俺。

「全部消えたわねぇ。ふふふ、合格かしらねぇ」

 これで不合格だったら暴れる。あぁ、やりすぎた。俺、ギルドマスターにいいようにされただけじゃないか。
 ただの馬鹿だ、俺。本当の大馬鹿野郎だ。

「で、どうしますか。次の試験もあるんですか」

 試験中のルール変更なんて、抗議する元気も無い。こうなりゃ自棄だ。

「あら、まだ魔力残ってるの?」
「そんなに魔力込めてませんから。最低限です」
「あらぁ、最後のも最低限なのかしらぁ」

 それは言われたくない。
 あーあ、まあ、それでもまだライトニング テンペストで済んだからいいか。あれは初級に毛が生えた程度だ。
 的を消したのはやりすぎだったけど、うっかり雷雨を使ってたらこの訓練場吹き飛ばしてた可能性あるもんなあ。
 まだ、ましだ。そう思うことにしよう。
 そしてこの村のギルドはやっぱり俺にとって鬼門だ。再確認した。もう立ち寄りたくない。

「さあね。で、」
「次はあたしですっ」

 俺をかばうように、キョーナがギルドマスターの前に飛び出てくる。
 おい、体力回復したのか? まだ、休んでなきゃ駄目だろ。

「キョーナ?」
「あらあ、動けるのね。凄いわあ」
「キョーナ、お前は」

 魔力は残っていても精神力が減りまくってて、魔法を使える状態じゃない筈だ。
 それなのに、なんで出てきた。俺の前に、まるで守るみたいになんて。

「でもその状態じゃ駄目ねえ。昇級試験は体調を整えて受けるのよぉ。どうするう?  回復薬を使ってみる?  魔力と精神力を回復するのは一つ金貨一枚よぉ」
「そんな。薬買うのは、無」
「やりたいなら薬を買うぞ」
「ジュン」

 金貨一枚なんて安いもんだ。
 キョーナがやる気になってるんだ。さっきの試験の後だし、やる気があっても、回復薬飲んでも難しいかもしれないけど。

「……魔力も精神力も寝れば回復するよね」
「ああ、そうだな」
「じゃあ、今でなくていい。薬飲まなきゃ試験受けさせて貰えないなら、今日は諦める」

 あれ、なんで止めちゃうんだ? 薬買う位なんでもないぞ。遠慮しなくていいんだぞ。
 キョーナの拒否の理由がわからなくて、戸惑ってしまう。

「キョーナ? 遠慮しなくていいんだぞ」
「ジュンが稼いだお金、無駄に使いたく無いよ。登録料も、試験のお金も出して貰ってるのに」

 キョーナの言葉にギルドマスターが笑いだす。

「ふふふ。キョーナちゃんは可愛いわねえ。試験は明日受けるのはどう?」
「でも、明日はもう」
「いいですよ。明日試験を受けてから出発しましょう」

 今まで黙っていたハイドさんが提案する。
 それはありがたいけど、急いで出発しなくていいんだろうか。
 今更な気もするけど、俺護衛のお金貰って雇われてる身なんだけど、こんなに自分の事で時間取っていいのか?

「でも、それじゃ迷惑」
「大丈夫よぉ。キョーナちゃんだけでなくジュン君も、テリーも受けるから」
「はあ? なんでそこでテリーが出てくんですか。ギルマス、さっきのルール変更といい勝手すぎんでしょ」

 アルキナが抗議の声を上げる。そうだよな、勝手すぎだよなあ。

「あらあ。実力を試すのが試験よぉ。冒険者としての実績がないんだものぉ、試験で実力を判断するしか無いでしょうぉ。Bランク昇級試験を受けるだけの力があるのかどうかを判断するのは、私の役目だものぉ。試験の結果はギルドの本部に送るのよぉ。この二人は私の推薦という形で特例で試験を受けさせてるんだものぉ。少々難易度が高くても仕方ないでしょうぉ」

 ああ、間延びしたしゃべりが苛々する。というか、推薦なんていう制度があるのか? 知らなかった。

「いいよ。アルキナ。確かに冒険者の実績も無しに試験を受けてるんだ。少々無理があっても仕方ないよ」

 別に無理に昇級したいとは思ってなかったけど、この試験のお陰でキョーナの気持ちも少しだけ理解できた気がするし。結果的には受けて良かったんだから、ギルドマスターの態度は苛つくけど、文句言うつもりは無い。
 うっかり魔力使いすぎたのが大問題って言えばそうだけどなあ。ああ、これでなんか疑われたら嫌だな。

「あなたのそれは地なのかしらぁ。それとも意図的なのぉ」
「え」
「その真っ正直な言動。その若さでこれだけの実力を持っているのなら、色々な経験も積んだ筈よねえ。なのに馬鹿みたいに真っ直ぐなのねぇ。ふふふ。困っちゃうわあ」

 あれ? ひょっとして俺すでに疑われていた?
 そうだよな、ハイドさんやアルキナがすぐに俺を信じてくれた方がおかしいんだよなあ。
 まあ、二人の事にしたって俺には信用してくれてる様に見えるってだけで、実際のところは分からないんだけど。
 真っ直ぐというか、危機感薄いのは自覚してる。どうしたって、平和な日本で暮らしてた学生だった俺の記憶はすぐに抜けなくて、転生を何回も何回も繰り返したその記憶があっても、今の俺はまた最初の俺になっていて、何度も騙されて利用された記憶があるのに今の俺は学習出来てないんだ。
 のほほんと日本で生きてきた。平和で、親に守られて生きてきた俺に戻ってるんだよなあ。

「ジュン」
「ん?」

 ギルドマスターの言葉に何となくしょげてしまった俺は、心配そうに俺を見上げてるキョーナに気がついて無理矢理笑顔を作った。

「すっごく格好良かったよ。最後の凄かった。あたしもああいうの使える様になりたい。途中で力尽きたりしない強い魔法使いになりたいよ」
「そっか。じゃあ頑張ろうな」
「うん」

 ああ、もういいや。キョーナが誉めてくれたから。反省だけして忘れよう。

「じゃあ、ハイドさん行きましょうか。皆待ってるでしょうし」
「そうですね。では失礼しますね」

 ハイドさんはヒバリを気遣う様に見ながら、ギルドマスターに頭を軽く下げ先に馬車へと戻って行った。

「アルキナ、行こう。ギルドマスター、ありがとうございました。明日またよろしくお願いします」
「ありがとうございました」
「明日の試験楽しみにしてるわねぇ。アルキナ、ちゃんとテリーを連れて来てねぇ。あの子だってもう昇級していい頃よ。ジェシーはちょっとまだ駄目だけど」
「……これから話してみるさ。決めるのはテリーだ」

 試験を受けたのは俺とキョーナなのに、アルキナの方が疲れた顔をしてギルドマスターにそれだけ言うと、俺達も馬車へと戻った。

 ああ、疲れた。早くトムさんの牧場に言って夕飯にしたいなあ。
 牛乳とかバターとか使ったご飯食べたいな。頑張ったキョーナに美味しいもの食べさせなきゃな。
 そうと決まったら、早くトムさんの牧場に行かなくちゃな。

 にこにこと俺達を見送るギルドマスターが何を考えてるのか、なんて事はすっかり頭から無くして俺は今日の夕飯に思いを馳せていた。
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