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2 冒険者登録

試験を受ける1

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「意気込んでるところ申し訳ないけどぉ。まずは可愛いあなたからねぇ」

 おっとりと話しているわりには素早い動きで、ギルドマスターはキョーナの前にしゃがみこんだ。

「あ、あたしが先なの?」
「そうよぉ。お名前教えてくれるぅ?  私の事はエレーナって呼んでねぇ」
「キョーナです。よろしくお願いします。魔法使いとしては未熟者ですけど。試験を受けたら上のランクになれるんですよね」

 目の前のギルドマスターにびくつきながら、凄い事を言い出すキョーナにギョッとする。
 まさか昇給試験受けて、試験合格するつもりなのか?
 キョーナはまだ、一度狩りをしたことがあるだけなんだぞ。

 昇級試験、受けるからには俺は落ちるつもりなかったけど、キョーナの事は最初から諦めてた。
 レベルはあっても魔物討伐の経験はゼロ。そんなんで受かる程甘い試験じゃない筈だ。
 無理です、棄権しますでも俺は全然構わなかったし、キョーナが怪我する方が嫌だ。

「試験は甘くないわよぉ。怪我しちゃうかもぉ」
「それでも、上のランクに行ける機会を無にするなんて、勿体ないもん」

 いつの間にか俺のマントから手を離し、キョーナは握りこぶしを作りファイティングポーズをとっていた。
 なんでこんなやる気出してるんだ?

「キョーナちゃんは上のランクに行きたいのねぇ」
「上のランクに行きたいです。今日登録したばかりだけど、稼げる冒険者になりたいの」

 え、俺のせい? 俺が稼げる冒険者になれって、そうキョーナに言ったからなのか。

「そうなのねぇ。向上心のある子は大好きよぉ。楽しみだわぁ」

 ぽんぽんとキョーナの頭を撫で、ギルドマスターが笑う。
 キョーナの頭をつい撫でてしまうのは、俺だけじゃないんだなあ。って、そうじゃない。

「ぎ、ギルドマスターあの。キョーナはまだその」
「やる気をそいでどうすんだよ、ジュン」

 アルキナに止められ口を閉じる。でも、実践経験が無いキョーナにゴブリンを倒せとか無理すぎる。

「FからEに上がる条件は聞いたかしらぁ」
「依頼達成回数で上がれて試験は無し。具体的な回数は聞いていません」
「あらあら、マリーったら、説明が抜けてるわあ。後でお仕置きねぇ」

 抜けてる受付嬢のポンコツ具合にため息が出そうになるけど、今は彼女に呆れている場合じゃない。

「じゃあ、EからDになる為の条件はぁ」
「えっと、依頼達成の内容で試験を受けられるかどうか判断した後、魔物討伐の試験を受けます。確かゴブリン三匹か、オーク一体」

 答えて気が付いたけど、この辺り魔物少ないという話しなのに、魔物討伐の試験なんてどうやってするんだろう。
 この村で昇給試験を受けようとする奴は村を拠点としているんだろうから魔物が出てくるまで夜営して待つことも出来るだろうけど、俺達は明日この村を発つんだぞ。

「ふふふ。過保護なジュンくん。どうしたのお」
「あの、キョーナが受けるのはEからDに上がる試験ですよね。それどうやってこの村で行うんですか」
「あらあら、マリーはそれも説明していないのねえ。怠慢だわぁ」
「ち、違います。あたし達明日村を出てハイドさんのお店がある町に向かうから、だから説明の必要が無くて」

 俺の言葉でギルドマスターが何故怠慢と言ったのか理解したのか、キョーナが慌てて事情を話す。確かにマリーさんの説明漏れだけど、必要無かったといえばそうだ。
 登録したその日に昇級試験するなんて、誰も思わない。

「ふふふ。キョーナちゃんの優しさに免じて今回は許してあげようかしらぁ。優しいのねえ」
「だって、マリーさん悪くないです。説明も丁寧でした」

 そうだったか? キョーナがそうだと思ったならそうなんだろうな。
 だけど、そうすると……。あ、覚えてる。一回受けた覚えがある。

「ギルドマスター。EからDの試験俺も受けます」
「どうしてぇ。キングオークを倒しちゃう君はすでに実力がある程度分かるし、段階を踏む必要は無いんじゃないかしらぁ」

 余計な事をするなと、ギルドマスターの厳しい視線が俺に向けられるけど。キョーナの為だ、怯んでる場合じゃない。

「そんな事ありませんよ。段階は大切です。すでにFからEの部分を省略して貰ってるんですから、さらに省略して頂くのは申し訳ないです。昇級試験の試験料だってギルドの大事な収入じゃないですか」

 苦手なタイプだし、出来たらこの人の前で魔法を使うのはなるべく遠慮したいけど。
 キョーナは実践経験が無くても、見て学習出来るタイプだと思う。自信ないけど。

「ふうん。じゃあいいわ。試験はこっちが言い出したんだしぃ。試験料を稼がせて頂きましょうかぁ」

 にやりと、もの凄い嫌な笑い顔で、ギルドマスターは俺に笑いかけると右手を差し出した。

「取り合えずEからDの試験料。一人分は銀貨五枚よ」
「じゃあ、これで。で、試験はどこで何をするんですか。まさか、町に行くんじゃないですよね」

 銀貨十枚を払うと知らん振りしてギルドマスターに尋ねる。

「町になんか行ったら、町のギルドにお金払うことになるじゃないのぉ。勿論ここでやるのよぉ」
「ここってギルドの中でやんのか、そんな設備あるのかよ」
「なんだよ。アルキナも知らないのか。え、設備が必要って?」

 俺の記憶と一緒なのか自信がないけれど、ギルドの中でやるなら同じなんだろうか。

「知るわけないだろ。俺が最初に登録したのはこの村じゃねえし」
「ここはちっぽけな田舎のギルドだけどぉ、ちゃんと訓練場はあるしのよぉ。そこにはねえ、特例の昇級試験の装置があるのよぉ。もっとも装置を使って受ける子は少ないけどねぇ」
「なんでだ」
「装置を使う試験は、料金が倍かかるのよぉ。おまけに魔物討伐をしていないから、買い取りもないでしょぉ? カツカツの生活をしてる冒険者はそんなお金の使い方はしないのよぉ。余分なお金を自分から払おうとするお馬鹿さんも、世の中にはいるけどねぇ。ふふふ」

 それは俺の事か。いいや、余分な金じゃない。必要経費だ。

「その装置はどういう試験なんですか?」
「ハイドさんでも興味があったりするのねえ。ふふふ。二十個の的が出てくるのを魔法で打ち落とすだけよぉ」
「的を打ち落とす」
「そ。半分打ち落とせれば及第点」
「ギルマスそれは」
「アルキナはぁ黙っていてぇ。今日の試験は彼の希望よぉ、私は正しく能力を確認する必要があるのよぉ」
「それはそうだがよぉ。ちぇ、分かったよ」

 アルキナは何か言いたげに俺の方を見るけれど心配しているんだろうか、大丈夫という意味で笑って見せると眉間に皺を寄せて顔を背けてしまった。何故だ。

 試験は十個落とせばクリアか。それならキョーナでも合格出来る可能性はあるな。的なら魔物と違ってプレッシャーも少ないかもしれないし何より恐怖心は無いだろうからこの試験で良かったのかもしれない。

「分かった。馬に杖を付けたままだから取ってくる。キョーナ」
「はいっ」

 ギルドマスターの返事を待たず、キョーナと部屋を飛び出した。

「ジュン」
「なんだ」

 急ぎ足で外に出ると、馬につけていた俺とキョーナの杖、そして弓道具一式を取り出す。

「ジュン。怒ってる」
「怒ってないよ。びっくりしてるけど」

 弓の状態を確認しながら、キョーナの顔を見つめる。うん、落ち着いてる。これなら行ける。きっと。

「ジュンはあたしの能力はズルじゃないって言ったよね。でも、そうじゃないのはあたしが一番良く分かってるよ。だから心配なのも分かる」
「キョーナそれは」
「今のあたしは、お金持ちの子供が親に実力以上の装備を整えて貰ったのと同じ。ううん、それ以上だよ。だからあたしはこの試験を全力で頑張る。頑張って昇級出来たら、それでやっと自分の力だって思える。だって能力があっても心が弱かったら試験に受かるわけないもん。あたしは頑張るって決めたから。逃げないよ」

 俺がさっき弱ってた時は、一緒に逃げようって言ったのに。自分の時は逃げないんだな。

「分かった。じゃあ、一個だけ。俺が試験を受けてる時、ちゃんと見てろよ。それが出来れば合格の確率は上がる」
「え」
「キョーナは目がいいと思うよ。鳥、一回で仕留められたじゃないか。あんなの昔の俺だって出来なかった」

 頭をグシャグシャと撫で、腰を屈めて笑う。
 
「目が良い?」
「そ。だから、見てろ。そして自分ならどうやって的を落とすか考えろ」
「だから、ジュンも試験? 分かった。ジュンの払ったお金は無駄にしないよ」
「よし、ほら。キョーナの杖」
「うん。あたしの杖」

 にっこりとキョーナが笑って、杖を両手で握りしめた。
 可愛い笑顔だ。どっかのギルドマスターの黒い笑顔とは違う。この笑顔を守る為に俺も頑張らないとな。
 大きく息を吐くと俺達は、試験に向けて歩きだした。
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