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1 始まり

村にやってきた5

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「何か問題か」

 通路に出てドアを閉めてから、小声でアルキナに尋ねた。
 正直なところあのギルドマスターにはもう会いたく無い。彼女のステータスを見る限り俺の隠蔽を見破るのは出来そうにないけど、スキルを使わなくても何かを察していそうな気配がして緊張する。

「問題っちゃあ問題かなあ。お前がFとか。なんの冗談だよ。魔物と盗賊一人で両方相手して無傷で帰還とかやっといてありえねえだろ」

 笑いながらアルキナが突っ込んでくる。まあ、レベル20がFランクはありえないとは俺も思うけれどそういう決まりなんだから仕方ないよな。

「それは仕方ないだろ。冒険者登録したばかりは誰でもFからスタートだって、受付のマリーさんも言ってたし」

 ギルドの規則について、俺に文句を言われてもどうしようもない。
 冒険者のレベルと魔法使いレベルがイコールじゃないのは、キョーナも同じだ。
 なにせ、魔法使いレベル9だし。能力を底上げした後、もう少しだけ魔力循環の効率を良くしたいなぁなんて気軽に考えた俺は、何も考えず器用値を上げた。その後、これだけが高いのも変かなと、その他の能力を色々底上げし、その時に魔法使いレベルまでうっかり上げちゃったんだよなあ。
 レベルを上げるのが楽しかったんだよな。でも後で冷静になってレベル5から9とかうっかり上げるにも程があるぞと、慌てて下げようとしたけど出来なかった。
 一旦上げると元に戻せないのはどうしたもんか。俺のポイントが使い放題なのが悪いんだけどな。職業レベルまでポイントで上げ放題なんだから。

 今のキョーナは、水属性と雷属性に加え火属性も持っている。すでにレベル10に近い9で、持ってる属性が二つというのも不自然だと思い、水属性と雷属性のレベルを少しあげ、火属性は取ったばかりという風にした。
 勿論、持っている魔法の詠唱は完璧に暗記している。キョーナはかなり優秀だ。

「まさか、キョーナちゃんもとか言わないよな」
「それは……他の奴のレベルがどうなのか知らないからなあ。俺的には見習いレベルだと思ってるけど。詠唱短縮も出来ないし」
「詠唱短縮出来る奴なんてほんの一握りだぞ基準にするなよ。そんなん出来るなら上級だろうが」
「じゃあさあ、中級ってどれくらいだ?」

 呆れ顔のアルキナに尋ねる。
 世間知らず魔法使いを演じるしかないよな、よくあるラノベ主人公風の自分はそんなにレベルが上とは思っていないって奴。
 よし、これだ。

「テリーはレベル15だ」

 簡単にアルキナがテリーのレベルを教えてくれる。スキルに比べたら秘密にしてる奴は少ないけど、それでも本人の許可なく他人に話すのはどうなんだ? 
 いいのか、アルキナ。

「え。それで冒険者ランクは? アルキナBなんだっけ? テリーも同じか?」
「テリーはまだ昇級試験を受けていないからまだCランクだけど、実力はあると思ってる。Bの試験は少し大きな町のギルドに行かないと受けられないんだ。今回の依頼を完了したら受けに行く予定だったんだが」

 なんだか困った様な顔で、アルキナは俺を見てため息をついてる。なんだ?

「お前を見ていて自信喪失したらしい。あいつはちょっと繊細なんだよなあ」

 なんだよ、それ。俺のせいじゃないぞ。

「まあいいさ。あいつはあいつだし。俺にはどうすることもできねえし」
「そうだよ。テリーのレベル聞いたから教えるけどさ、俺は20でキョーナは9だ。まあ、キョーナは修行始めたばかりだからこんなもんだよな。魔力循環苦手だし」

 テリーのレベルを聞いたから、俺達のも教えないといけないかなと話す。
 まあ、俺のは嘘だけど。キョーナのレベルは年を考えたらビックリなレベルだろう。
 それが修行中とかなんの嫌みだ。ああ、無知って恐いね。俺の事だけど。

「はあっ!」
「声がでかいよ。アルキナ」
「お前それでFとかふざけてるだろ」

 あ、今度は本気で言ってる。というか、怒ってないか?

「何度も言うけど、今日登録したばかりなんだから仕方ないだろ。誰だって初心者な時はあるもんだろ」

 うーん。やっぱりもう少しキョーナのレベルは落としておくべきだったかな。でも、上げちゃったもんは仕方ないよな。低い能力からスタートしたんじゃ三年で一人前になるのは厳しいだろうし、俺と旅するのもキツいだろうし。
 って、これは言い訳だけど。
 冒険者登録時にある程度の腕があれば、そこから上がるのは個人差もあるし、討伐した魔物の内容にもよるから、最初が大事だと思ったんだよなあ。

「駄目だお前。常識が無さすぎる。やっぱりギルマスの言うとおり、臨時の昇級試験を受けてもらうぞ。ああ、良かったさっきスキル書くの止めて。大騒ぎになるところだった」

 さっきは意図的に止めてたのか。そうだと思った。

「へ? 最初の依頼も受けてないのに?」
「Fランクの冒険者に懸賞首は倒せねえし、それじゃ懸賞金の支払いに問題が出んだよ」
「でも討伐したのは冒険者になる前だぞ。そういう奴だっているだろう」
「いるだろうけど、倒したって懸賞首一人が精々だ」

 まあ、人数が多すぎだとは思うけど。襲ってきたもんはしょうがないじゃないか。
 って、こんな話。誰が聞いてるか分からない通路でしていいものなのか?

「で、お前に昇級試験を受けてもらう。最低Cかな。あと、キョーナちゃんもだな」
「え、あたし? あたしは見習いレベルってジュンが」

 俺達の会話に混ざらず空気になっていたのに、急にアルキナにそう言われて戸惑うキョーナ。
 ゴメン、見習いなんて嘘を教えたのは俺です。

「んなわけあるか。二人とも昇級試験を受けてもらうからな」
「受けるのは良いけど、初心者講習どうすんだよ。Fじゃなくても受けられるのか?」
「そんな話聞いたことないな。だから俺はジュンは必要無いって言っただろ」

 そんな事今言われても。金はどうでもいいけど、ヒバリ一人で受けるのは無理だぞ。
 絶対パニックになるだろう。今だって震えてるのに。

「初心者講習をどうするかは後で相談するとして、ギルマスのところに行くぞ」
「はあ。気が重い」
「お前が言うな。俺なんかお前のレベル聞いて卒倒しそうだ」

 アルキナがそんな繊細なわけがない。卒倒しそうなのはヒバリだ。

「ヒバリ、ギルドマスターのところに行くけど、無理そうなら馬車で待っていてもいいぞ」
「そうだな。俺と一緒に馬車で待つか?」
「い、一緒に行きます。」

 馬車に行くと言うと思ったのに、予想外の答えだった。
 アルキナと一瞬顔を見合わせ、「じゃあ、一緒に行くか。大丈夫だ。あの人は偏見を持ってたりはしないから」とアルキナがヒバリの頭を撫でた。

 震えているけど、本当に大丈夫なんだろうか。一抹の不安はあるけど、それ以上に自分の事が心配だった。

「さっさと行くぞ」
「分かったよ」

 気が進まないけどどうしようもない。
 先を歩くアルキナの背中にため息をつきながら、キョーナと手を繋ぎギルドマスターが居るという部屋へ急いだ。気分は市場に連れていかれる子牛だ。あの曲が頭を流れる。あれは名曲だ。

「翼があったら、帰れるのになあ」

 翼があっても、元の世界には帰れないけど。戻れる翼があったらどんなにいいだろう。
 俺の言葉に、キョーナが立ち止まり、ヒバリも立ち止まった。

「ジュン?」
「ジュン……さん?」

 二人して俺を見上げている。ヤバイ、端で聞いたら変な奴だ。

「いや、なんか市場に連れていかれる子牛……いや、うん。なんでもない」

 焦る俺の手をキョーナが握る。

「ジュン大丈夫だよ。なにか意地悪な事言われたら一緒に逃げようね」
「キョーナ。そうだな一緒に逃げればいいな」

 キョーナに慰められる俺。情けないけど、なんか嬉しい。

「おいおい、お二人さん逃げるとか止めてくれよ。ギルマス入りますよー」

 俺達に呆れた様にアルキナはさっさとドアを開く。

「アルキナちょっと冷たいぞお前。あ、失礼します」

 アルキナを追いかけ部屋の中に入り、ギルドマスターの視線を感じて慌てて頭を下げた。

「いらっしゃあい。登録は無事に出来たかしらぁ」
「はい。お陰さまで。ハイドさん、保証人になって下さりありがとうございました。ほらキョーナもお礼言って」
「ありがとうございました。ハイドさん」

 頭を下げるキョーナの横で、ヒバリも小さく頭を下げる。俺が保護者なわけじゃないけど、ヒバリの言動はどうも不安になる。何せ二回も倒れてるからな。

「無事に登録できて良かったですね」
「それがそうでもないんですよ。こいつ初心者講習申し込んだんですよ」
「あらあ、初心者講習はゴブリンも倒せない、文字通り初心者の為の講習ですよぉ。君みたいな子は退屈なんじゃないかしらぁ。君の獲物はキングオークでしょぉ」

 そりゃキングオークは倒したけど、それは嫌みなんじゃないだろうか。それに、キングオークなんて別に凄い獲物なわけじゃない。俺は竜も倒すし、クラーケンだって倒して食うぞ。

「でも俺は田舎者で、冒険者の常識とか知らないですから」
「簡単よお。身の丈に合わない依頼を受けない。実力にあった武器を選ぶ。狩り場で他人の獲物を奪わない。怪我をしている人がいたら回りの状況により助ける。助けられる状況に無かったら逃げて助けを呼ぶ。ほらねぇ」

 ほらねって。確かに講習内容はそんな感じだろうけど。
 というか、講習はその程度か。そりゃ実践で学ぶしかないんだろうけど。

「ということでぇ、君には昇級試験を受けて頂きたいと思いますぅ。いいかしらあ」
「いいもなにも、受けなきゃ帰して貰えないんでしょ。ランクの変更は上手くやってくれるんでしょうね」

 自棄になって俺は試験を受ける事を承諾するしかなかった。
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