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1 始まり

村へと進む3

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「あれ。休憩かな」

 魔法についてキョーナに話をしながら馬を進めていると、前を進んでいた馬車が急に停止したから、慌てて馬を馬車に近付けた。

「ジュン、休憩するぞ」
「分かった。村まではまだ遠いのか?」

 疑問に思って聞いてみる。
 一刻半程前に休憩を取ったばかりでまた休憩なんて、誰かトイレに行きたいとかだろうか。
 この辺りは木も殆ど生えていないし、女性の場合は場所をある程度布で覆ったりと準備が掛かる。その辺りはジェシーが上手く段取りを付けてくれている様だから、俺の範疇じゃないけど。

「あと半刻位の距離なんだが、彼女達が馬車に酔ったみたいでさ少し休む事にしたんだよ。まだ日も高いしな」

 ただでさえ馬車は揺れるというのに、舗装どころか整備もされていないデコボコ道だから酔うのは仕方ない。
 おまけに定員オーバーの馬車の中、半刻とはいえ我慢させるのは確かに気の毒だな。

「ふうん。じゃあお湯を沸かしてこれでお茶を作ってやってよ。少し気分が良くなると思うよ」

 思い付いて馬に付けている荷物の中から、乾燥させた薬草を数本取り出す。
 大木の近くに沢山生えていた薬草を乾燥させた物で、普通は毒消しの薬草と混ぜて薬にする物だけど、これだけでお茶にするとミントみたいな香りがして胸焼けとか頭痛とかが改善するのだ。

「へえ、これ毒消しになる奴だろ。そんな使い方出来るのか。テリー、湯を沸かして皆にこれを飲ませてやってくれ」

 アルキナが感心したような声を上げた後、馬車の中のジェシーに声を掛けた。

「ジュンは色々な知識があるな。これが茶になるのか」
「二日酔いにも効くらしいよ。俺は酒飲まないから使ったこと無いけど」

 昔の俺の仲間だった奴が、二日酔いの時に飲んでた覚えがあるから何となく採取しておいた物だけどこんなところで役に立つとは思わなかった。

「アルキナ、四半刻程出て来ていいか?」
「なんだ」
「うん。ちょっと狩りをね」
「狩りってそんな簡単にいかないだろ」

 確かに回りには動物の気配も魔物の気配もない。普通なら四半刻程度では狩りは無理だろう。

「俺鳥寄せのスキル持ってるんだよ。鳥の指定は出来ないけど、何羽かは狩れると思うよ」

 ま、鳥寄せのスキルは簡単に取れる奴だからバラしてもいいだろう。

「お前変わったものばっかり持ってるな」
「なんだよ、便利なんだぞ。問題なければ行ってくるけど」
「いいですね。村は金銭取引より物の交換の方が交渉がしやすいんです。沢山獲ってきて貰えると助かります」

 ハイドさんの許可もあっさりでたから、キョーナを連れて一キロ低い程馬を走らせた。

「さて、キョーナの魔法の練習も兼ねて狩りをしようか」
「えーと。ウォーターボール?」

 馬から下りた俺とキョーナは見通しのいい場所で狩りの打ち合わせを始めた。

「キョーナは狩りとか鳥を捌いたりとか、したことも見たこともないよな」
「見たことはあるけど、やったことはないよ」
「具合悪くなるかも、その時は無理せず言うんだよ」

 女の子だしなあ。ちょっと心配だ。

「大丈夫。頑張るから」
「そうだな。頑張れ。まずはお手本、ピュウ ピュルルルル ピュウウ」

 鳥寄せの口笛を吹くと、すぐに鳥の羽音が聞こえてくる。

「凄い。本当に来た」
「我は望む、彼の鳥へ天の怒りよ降り注げライトニング」
 
 真っ黒焦げは不味いので、控えめなライトニングを放つ。
 なんだよ。天の怒りって、雷が降り注いでどうすんだよという突っ込みは無しだ。

「あっ」
 
 ぽとりと目の前に鳥が落ちてくる。
 抵抗もなにも無い。あっけない最後だ。

「凄い凄い」
「はしゃいでないで、次はキョーナの番だぞ。いいか、俺が口笛を吹いて鳥が飛んできたらすぐに詠唱を始めるんだ。視線は鳥に向けて、対象物をしっかり見て魔法を放つ。最初はあまり距離が離れてると当たらない事もあるから出来るだけ近づいてから放つといい。鳥は口笛を吹いた俺の方目掛けて飛んでくるからな」
「分かった」
「じゃ、いくぞ。ピュウ ピュルルルルル ピュウウ」

 無事に魔法は発動するかな。ちょっと心配だな。

「ええと、我は望む、彼の鳥へ天の怒りよ降り注げライトニングっ!」

 お、行った。上手いぞ。さすが器用値を上げただけの事はあるな。でも少し魔力循環が悪いな、もう少し知力と器用値を上げておくか。

「当たったっ。当たったよジュン」
「上出来っ」

 はしゃぐキョーナを大声で誉めて、落ちてきた鳥を拾いに走る。
 さっき俺が狩ったのはキジもどき。キョーナが狩ったのは鴨もどきだった。
 鴨もどきは向こうの世界の鴨に似ているんだと思う。本当は違う名前なのかもしれないけど、俺には鴨もどきと聞こえる。
 この世界の言葉は基本自動変換で、人の名前なんかはそのままだけど動物や植物なんかで向こうとちょっと性質の違うものは○○もどきと聞こえる。
 じゃがいもとかニンジンがそのままの音で聞こえるのは、向こうのと殆ど変わらないからだろう。異世界なのになんで似たような物が存在するのかというと、あの女ともう一人の神がこの世界を作るときのベースにしたのが地球だったからだそうだ。これは何回か前に死んだ時に聞いた。
 ちなみに日本語で文字を書いてもこの世界の人間にはこっちの言葉に見えるらしい。

「キョーナ。解体は後でするから、カプセル化やってみな。詠唱覚えてるか?」
「ええと、我は望むカプセル化、目の前にあるキジもどき一羽、鴨もどき一羽の姿形を変えず時を止め一つのカプセルに纏めよ。あれ? なんで失敗したの?」
「おしい。カプセル化は最後だよ。我は望むの後にしたい内容。最後にカプセル化でスキル発動。それから姿形を変えずじゃ大きなカプセルになるから。姿は変えず大きさと重さを縮小し一つのカプセルに纏めよの方がいいな」
「そっかあ。じゃあもう一回。我は望む、目の前にあるキジもどき一羽…………カプセル化!」

 詠唱の最後にやたらと力が入っているのは、そこで魔力を放出してるからなんだろうけど。
 なんだか一生懸命で、微笑ましいな。

「ジュン出来たよ!」
「上出来。あ、時間を止めてるのは皆には内緒だぞ」
「普通は出来ないの?」
「そうみたいだな。気がついていないだけかもしれないけど」
「ふうん。じゃあ他の人がいる時は気をつけないといけないね」

 キョーナは困った様な顔で掌の上に乗せたカプセルを睨んでいる。
 内緒な事が多過ぎて、キョーナの頭の中で整理がで出来ていないのかもしれない。

「さて、あと何羽か狩って戻るか」
「はあい」

 最初の狩りにライトニングを使ったのはいい方法だったかもしれない。
 見た目はライトニングが鳥の身体を貫通した時に出来る小さな黒こげのみ、剣を使ったり、エアカッターだとちょっとグロい感じになるから、ライトニングの方が見た目のショックが少ないと思う。
 まあ後で解体したときにどういう反応するかなんだけど、それは慣れて貰うしかないよな。

「キョーナ、ライトニングでは魔力を結構消費するからちゃんとステータスも見ながら使うんだぞ」
「はい。ええと、あ、本当だ減ってる」
「一回で使う魔力は放った魔力にもよるけど3から10が目安かな」
「カプセル化は?」
「カプセルは一回の消費は1だな」
「カプセル化は二回使って、ライトニングは一回。残りは143。元の魔力は151だから。今のライトニングでは魔力6使ったんだね」

 すらすらと計算をしたキョーナに驚く。単純な計算だけど、この世界ではこれが出来ない人間が多い。
 文字を読めない、書けない。簡単な計算すら出来ないは、この世界では当たり前だ。田舎の村で育ったというのにキョーナは文字も数字も読めていたけど、親が教えたんだろうか。

「キョーナは計算が出来るんだな」

 無詠唱で鳥寄せをし、ライトニングで狩りながら聞くと「え。ああ、うん、まあ」となんだか歯切れの悪い答えが帰ってきた。

「どうした?」
「……あの、おじさんは女の子は文字なんか読めなくていいって」
「なんで?」

 話ながら狩りをする。無意識に魔力を強めていたらしく鳥は一度に数羽来るようになっていたからライトニングを連発したせいで鳥があちこちに落ちている。

「本なんか読む暇あったら働けって事かな」
「つまんねえ考え方だな。まあ、田舎者のおやじの考えそうな事だけど。あ、悪い。それでもキョーナのおじさんだもんな」

 しょんぼりしているキョーナを見て、ついイライラとしてしまい荒い言葉を使ってしまう。
 
「いいよ。おじさんもあたしも田舎者なのは事実だし。文字が読めなくておじさんは苦労してたから、気に障ったんだと思う。それよりも、ジュン」
「何だ?」
「ジュンの後ろにいるの……。鳥寄せのスキルってそんなのも呼べちゃうの?」

 驚いた様な顔のキョーナが指差す方向に振り向いて、唖然とした。
 あれ? 鳥寄せって呼ぶのは鳥だけだった筈だよな、違うんだっけ?

「これどうしようか、キョーナ」
「連れて帰ってハイドさんに相談する?」

 俺たちを見つめる大人しそうなそいつらを、連れ帰った時のハイドさんの反応を想像して、俺は少しだけ嫌な気分になった。
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