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1 始まり
歩き始める9
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気を失ったキョーナを乗せたまま少し走らせた後、馬を止めた。
水場に向かう道からは大分ずれたところに俺達は居る。
さっき男達を助けたところからだと、馬で二十分弱程だろうか。この世界の時間の単位は刻だけど俺は分とか時で考えてしまう。
俺がつけていた腕時計はお父さんが高校入学の時に買ってくれた手巻きのものだけれど、壊れない様に付与をしても不安だから収納の中に入れっぱなしにしてある。
「あの人達は、まだ俺を待ってるみたいだな。どうしようかな」
男達の場所を探索するとさっきの場所からのろのろと動いているのが分かった。
ここからそう遠くない所を水場に向かって歩いている。
無理矢理話を切り上げ置いてきたのに、それでも俺に護衛を頼みたいのだろう。
水場に向かう途中で、馬に乗るキョーナと再会出来た。ついでに食料調達していた。とでも言えばいいかと馬を降りてから、地面に毛布を敷いてキョーナを寝かせると狩りを始めることにした。
また、不安がるといけないからキョーナの体には俺のマントを掛けておき、地面に杖を突き刺し馬を繋いだ。
俺の姿が見えなくてもマントと杖を置いたまま、どこかに行くとはさすがに思わないだろう。
「ここに餌を置いておくから、大人しくしてるんだぞ」
山で採った果実を数個馬の足元に置いて頭を撫でる。
こいつは大人しい気質みたいだし、これで大丈夫だろう。
「起きて泣くなよ。すぐ側にいるから大丈夫だからな」
ピクリとも動かないキョーナにしゃがみこんで声を掛け、立ち上がり空を見上げる。
出会ったばかりなのにキョーナを泣かせたくないと思うのは、今までの転生を考えると初だった。
今まで盗賊から助けた後は、あいつらが当然の様な顔で俺に着いて来て、俺があいつらを世話しないと酷いとか思いやりがないとか文句を言われ続け、酷い人扱いされていたんだ。
それがキョーナとは違っていた。
大体命を助けられたからといって、それ以後俺が助けなきゃいけない理由ってあったんだろうか。
俺はお人よしとこの世界で言われる人間らしく、今までの転生のすべてで俺の人の好さから相手の都合の良いように搾取され続けていた。命を助けた相手はそれの筆頭で、俺が自分から何かしないと酷い人扱いされまくっていたんだよなあ。
思い出すだけで苛々する。最悪な出会いだったとしかいいようがないんだよな。
でも、キョーナは違うって気がするんだ。
「さてと何を狩ろうかな」
山に比べると、この辺りは獲物になりそうな動物が少ない。
魔物も少ないから旅をするのは楽だけど、普通の人なら食料調達は難しい感じだ。俺は別だけど。
「ぴゅぅ、ぴゅるるるる。ぴゅぅぅ」
鳥寄せの口笛を吹いて様子を窺う。鳥寄せの口笛は狩人の初期スキルで近くに居る鳥を引き寄せる事が出来る。
効果範囲は不明で引き寄せる鳥の種類も選べない。
「お、来た来た」
知人とも呼べない間柄の人間に見せる事になるので、魔法は使わず弓で仕留める事にして無限収納から過去の俺が愛用していた弓を取り出す。
口笛を吹き鳥を引き寄せ仕留めるを繰返し、キジもどきを五羽仕留めた。
これで言い訳になるだろう。キジもどきをロープで纏め弓を無限収納に戻す。この弓は確かポールテ国のドワーフに空間収納鞄と一緒に作って貰ったんだっけ。あの国のドワーフは皆腕がいいんだよなあ。チャンスがあったら行ってみるか。
「そろそろいい時間かな」
さて、いい加減キョーナを起こすか。
「ジュン……あれ?」
獲物をぶら下げ、キョーナの所に戻ると、寝惚け顔で出迎えられた。
「起きたか」
寝起きで一人は不安になるかもと思ったけど、間に合って良かった。
目の前にしゃがみこみ、頭を撫でようとして狩った鳥を掴んだままだった事を思い出した。
「今日の夕飯獲って来た。鳥は平気?」
「あんまりお肉食べた事ないけど、好きだよ」
肉をあまり食べたことが無い発言に、一瞬真顔になるけれど思い直す。
おじさんという人が猟が出来ない人間だったら、肉は食べなれていなくて当然なのかもしれない。
まあ、徐々に慣れされていけばいいか。
「これありがとう。凄くあったかいね」
「それは良かった」
地面に獲物を置き、両手を洗浄魔法で綺麗にした後マントを受け取り羽織る。
「なあ、キョーナ」
ちょっと疲れた様な顔で毛布の上に座るキョーナの姿が気になりしみじみと眺めた。
「なぁに?」
「キョーナの格好寒そうだな、まだ秋の始めとはいえ旅してる格好じゃない」
キョーナの格好はどうみても、普段着の簡素で古そうな服だ。
何度も何度も洗濯しよれよれになった服。旅をするには軽装すぎて違和感がある。
「だって、これともう一着しか服ないし。今までは馬車で寝てたから」
「服は村についてからなんとかするとして、防寒対策は考えないとな、今晩馬車の中で眠れるとは限らないし」
どうしたらいいかな、服は間に合わせで状態回復のスキルを使って後はマントだな。
「キョーナちょっと立って」
「はい」
「ええと、状態回復。対象はキョーナが身に付けている物」
言葉にしなくてもスキルは発動するけど、キョーナを驚かせない様にスキルの名前を口にする。
状態回復した後、ちょっとだけ生地を上等な物に変えてみた。だって、これじゃ寒そう過ぎる。
「こんなもんかな。さっきよりはマシだろ」
服に色が付いた。元の色があせたから余計に傷んで見えたんだな。今は新品じゃないけど傷んでもいない服って感じだけれど、実は厚手の冬物の生地に変化させている。
「凄い」
「もっと誉めて良いぞ。ただし」
「これも内緒なのね。もうジュン……さんの事は誰かに聞かれたら本人に聞いてで良い?」
「その辺りは適当でいいぞ。それから別にジュンでいいからな。無理すんな」
「ありがとう?」
「なんだそれ。あとは、マント、マント……デカいかな」
空間収納として使用中のデジカメポーチ。略して空間収納ポーチ? 略してないか、の中を探す振りをして余っている鹿皮を使いマントを作る。
サイズはちょっと大きめで、常に温度と湿度が適温に保たれる。防水機能と物理的防御機能付、汚れは自動で洗浄される。耐火機能も付けとくか。勿論鑑定ではただの鹿革マントとだけ表示される。これの上にさらにケープの様に取り付けられるものを同じ機能付で作成する。見た目は安定の残念クオリティ。
「これ羽織ってみな」
「えと、大きいね」
予想通りマント部分は長すぎて地面に付いている。これでOK。
「キョーナの背が伸びるまでは、毛布として使えばいいよ。マントは上についてるケープの部分をはずして使えばいい」
「あ、これ外れるの。うん、こっちは丁度いい。でもあたしが使っていいの?」
キョーナが心配そうに聞くから、俺は安心させる様に大きく頷いた。
「今更何遠慮してるんだよ」
「鞄だって、このマントだって簡単に貸してくれようとしてるけど、あたしはさっき会ったばかりの他人だよ。ジュンに冒険者にしてやるって言われて嬉しかったし、さっきは捨てるのかとか聞いちゃったけど、もし面倒になったら、あの」
なんだろう、遠慮とか不安とか色々ごちゃ混ぜになってるのか。
確かにキョーナにしてみれば、なんで親切にしてくれてんだろって疑問に思っても不思議じゃないのなもしれない。
今までの奴等は勝手に付いてきたんだよな。キョーナだけが違った。
「親切にっていうけど、寒くて風邪引いたりしたらそっちの方が面倒だろ。それ俺はもう使わないし、チビッ子のキョーナにはぴったりだし」
「チビッ子じゃないもん。そんな優しいこと言ってると図々しくなっちゃうんだからね。いいの?」
「別に構わないよ。図々しくおねだり出来るくらいになれよ。女が冒険者になるのは大変だからな。だから約束な。俺はお前の三年だけ保護者になるって決めたから、その間に強くなれよ。武器の扱い方だけじゃなく。心も強くなるんだ。おまえが我が儘言おうと泣き言言おうと、俺はおまえと一緒に居るから」
「なんで?」
「なんでかなあ。泣きたいのに我慢して強がるとことか、ちょっと似てるからかな」
「誰に?」
無意識にポーチに触れていた。
そうだよ、何となくキョーナは杏に似てる。
だから、放っておけない。杏を見捨てるみたいで。
「それ作った人?」
「うん」
キョーナの目は俺の触れてるポーチを見ている。
少し険しい表情で。
「その人にあたしが似てるの?」
「気分悪いよな。ごめん」
謝っても仕方ない事だけど、似てると言われて嬉しがる人間は少ないだろう。
「その人は、どうして一緒にいないの」
「もう会えないんだ。凄く会いたいけど、もう無理なんだ」
会いたい。会いたい。
ずっとそればかり考えてる。
俺が死んで杏はどうしただろう。
俺が居なくても笑ってて欲しい。でも、忘れられたくない。
もう会えないのに、女々しすぎる。
「ごめんなさい」
「ん?」
「嫌な事聞いてごめんなさい。もう聞かないから」
「気を使わせたか。いいよ」
「マント借りるね。これ凄くあったかいよ。中の毛皮がふわふわしてる」
「そうか」
納得したのか、落ち着いたキョーナのケープを鑑定してみると内側はウサギの毛皮がついていた。外側は鹿の革だ。
なんで材料で鹿革しか使っていないのに、ウサギが出てくる? どこから材料が出てきたんだろう。
「じゃあ、マントの方は自分の鞄にしまっておけ。寝るときはそれを使えばいいだろ」
「うん、ありがとう」
創作スキルに納得いかないのは顔には出さず、キョーナに指示をすると毛布を畳みポーチに収納する。
「はい、杖。ジュンは結構乱暴な使い方するんだね。馬を繋ぐ杭の代わりに杖を使うってどうなの」
馬の手綱を右手に持ち、左手には杖を持っている。
確かに武器を地面に突き刺し杭代わり、なんて事するやつは俺くらいだろう。
「今度はゆっくり走るから、自分でしっかり掴まってるんだぞ」
「うん。揺れないから大丈夫」
キョーナをさっきと同じように前に乗せ、左に得物を持ち右手で手綱を握る。
「行くぞ」
探索で男達の場所を確認し、馬を走らせ始める。
悪い人じゃないといいんだけど、上手くやっていけるだろうか。不安を残したまま馬を走らせ続けた。
水場に向かう道からは大分ずれたところに俺達は居る。
さっき男達を助けたところからだと、馬で二十分弱程だろうか。この世界の時間の単位は刻だけど俺は分とか時で考えてしまう。
俺がつけていた腕時計はお父さんが高校入学の時に買ってくれた手巻きのものだけれど、壊れない様に付与をしても不安だから収納の中に入れっぱなしにしてある。
「あの人達は、まだ俺を待ってるみたいだな。どうしようかな」
男達の場所を探索するとさっきの場所からのろのろと動いているのが分かった。
ここからそう遠くない所を水場に向かって歩いている。
無理矢理話を切り上げ置いてきたのに、それでも俺に護衛を頼みたいのだろう。
水場に向かう途中で、馬に乗るキョーナと再会出来た。ついでに食料調達していた。とでも言えばいいかと馬を降りてから、地面に毛布を敷いてキョーナを寝かせると狩りを始めることにした。
また、不安がるといけないからキョーナの体には俺のマントを掛けておき、地面に杖を突き刺し馬を繋いだ。
俺の姿が見えなくてもマントと杖を置いたまま、どこかに行くとはさすがに思わないだろう。
「ここに餌を置いておくから、大人しくしてるんだぞ」
山で採った果実を数個馬の足元に置いて頭を撫でる。
こいつは大人しい気質みたいだし、これで大丈夫だろう。
「起きて泣くなよ。すぐ側にいるから大丈夫だからな」
ピクリとも動かないキョーナにしゃがみこんで声を掛け、立ち上がり空を見上げる。
出会ったばかりなのにキョーナを泣かせたくないと思うのは、今までの転生を考えると初だった。
今まで盗賊から助けた後は、あいつらが当然の様な顔で俺に着いて来て、俺があいつらを世話しないと酷いとか思いやりがないとか文句を言われ続け、酷い人扱いされていたんだ。
それがキョーナとは違っていた。
大体命を助けられたからといって、それ以後俺が助けなきゃいけない理由ってあったんだろうか。
俺はお人よしとこの世界で言われる人間らしく、今までの転生のすべてで俺の人の好さから相手の都合の良いように搾取され続けていた。命を助けた相手はそれの筆頭で、俺が自分から何かしないと酷い人扱いされまくっていたんだよなあ。
思い出すだけで苛々する。最悪な出会いだったとしかいいようがないんだよな。
でも、キョーナは違うって気がするんだ。
「さてと何を狩ろうかな」
山に比べると、この辺りは獲物になりそうな動物が少ない。
魔物も少ないから旅をするのは楽だけど、普通の人なら食料調達は難しい感じだ。俺は別だけど。
「ぴゅぅ、ぴゅるるるる。ぴゅぅぅ」
鳥寄せの口笛を吹いて様子を窺う。鳥寄せの口笛は狩人の初期スキルで近くに居る鳥を引き寄せる事が出来る。
効果範囲は不明で引き寄せる鳥の種類も選べない。
「お、来た来た」
知人とも呼べない間柄の人間に見せる事になるので、魔法は使わず弓で仕留める事にして無限収納から過去の俺が愛用していた弓を取り出す。
口笛を吹き鳥を引き寄せ仕留めるを繰返し、キジもどきを五羽仕留めた。
これで言い訳になるだろう。キジもどきをロープで纏め弓を無限収納に戻す。この弓は確かポールテ国のドワーフに空間収納鞄と一緒に作って貰ったんだっけ。あの国のドワーフは皆腕がいいんだよなあ。チャンスがあったら行ってみるか。
「そろそろいい時間かな」
さて、いい加減キョーナを起こすか。
「ジュン……あれ?」
獲物をぶら下げ、キョーナの所に戻ると、寝惚け顔で出迎えられた。
「起きたか」
寝起きで一人は不安になるかもと思ったけど、間に合って良かった。
目の前にしゃがみこみ、頭を撫でようとして狩った鳥を掴んだままだった事を思い出した。
「今日の夕飯獲って来た。鳥は平気?」
「あんまりお肉食べた事ないけど、好きだよ」
肉をあまり食べたことが無い発言に、一瞬真顔になるけれど思い直す。
おじさんという人が猟が出来ない人間だったら、肉は食べなれていなくて当然なのかもしれない。
まあ、徐々に慣れされていけばいいか。
「これありがとう。凄くあったかいね」
「それは良かった」
地面に獲物を置き、両手を洗浄魔法で綺麗にした後マントを受け取り羽織る。
「なあ、キョーナ」
ちょっと疲れた様な顔で毛布の上に座るキョーナの姿が気になりしみじみと眺めた。
「なぁに?」
「キョーナの格好寒そうだな、まだ秋の始めとはいえ旅してる格好じゃない」
キョーナの格好はどうみても、普段着の簡素で古そうな服だ。
何度も何度も洗濯しよれよれになった服。旅をするには軽装すぎて違和感がある。
「だって、これともう一着しか服ないし。今までは馬車で寝てたから」
「服は村についてからなんとかするとして、防寒対策は考えないとな、今晩馬車の中で眠れるとは限らないし」
どうしたらいいかな、服は間に合わせで状態回復のスキルを使って後はマントだな。
「キョーナちょっと立って」
「はい」
「ええと、状態回復。対象はキョーナが身に付けている物」
言葉にしなくてもスキルは発動するけど、キョーナを驚かせない様にスキルの名前を口にする。
状態回復した後、ちょっとだけ生地を上等な物に変えてみた。だって、これじゃ寒そう過ぎる。
「こんなもんかな。さっきよりはマシだろ」
服に色が付いた。元の色があせたから余計に傷んで見えたんだな。今は新品じゃないけど傷んでもいない服って感じだけれど、実は厚手の冬物の生地に変化させている。
「凄い」
「もっと誉めて良いぞ。ただし」
「これも内緒なのね。もうジュン……さんの事は誰かに聞かれたら本人に聞いてで良い?」
「その辺りは適当でいいぞ。それから別にジュンでいいからな。無理すんな」
「ありがとう?」
「なんだそれ。あとは、マント、マント……デカいかな」
空間収納として使用中のデジカメポーチ。略して空間収納ポーチ? 略してないか、の中を探す振りをして余っている鹿皮を使いマントを作る。
サイズはちょっと大きめで、常に温度と湿度が適温に保たれる。防水機能と物理的防御機能付、汚れは自動で洗浄される。耐火機能も付けとくか。勿論鑑定ではただの鹿革マントとだけ表示される。これの上にさらにケープの様に取り付けられるものを同じ機能付で作成する。見た目は安定の残念クオリティ。
「これ羽織ってみな」
「えと、大きいね」
予想通りマント部分は長すぎて地面に付いている。これでOK。
「キョーナの背が伸びるまでは、毛布として使えばいいよ。マントは上についてるケープの部分をはずして使えばいい」
「あ、これ外れるの。うん、こっちは丁度いい。でもあたしが使っていいの?」
キョーナが心配そうに聞くから、俺は安心させる様に大きく頷いた。
「今更何遠慮してるんだよ」
「鞄だって、このマントだって簡単に貸してくれようとしてるけど、あたしはさっき会ったばかりの他人だよ。ジュンに冒険者にしてやるって言われて嬉しかったし、さっきは捨てるのかとか聞いちゃったけど、もし面倒になったら、あの」
なんだろう、遠慮とか不安とか色々ごちゃ混ぜになってるのか。
確かにキョーナにしてみれば、なんで親切にしてくれてんだろって疑問に思っても不思議じゃないのなもしれない。
今までの奴等は勝手に付いてきたんだよな。キョーナだけが違った。
「親切にっていうけど、寒くて風邪引いたりしたらそっちの方が面倒だろ。それ俺はもう使わないし、チビッ子のキョーナにはぴったりだし」
「チビッ子じゃないもん。そんな優しいこと言ってると図々しくなっちゃうんだからね。いいの?」
「別に構わないよ。図々しくおねだり出来るくらいになれよ。女が冒険者になるのは大変だからな。だから約束な。俺はお前の三年だけ保護者になるって決めたから、その間に強くなれよ。武器の扱い方だけじゃなく。心も強くなるんだ。おまえが我が儘言おうと泣き言言おうと、俺はおまえと一緒に居るから」
「なんで?」
「なんでかなあ。泣きたいのに我慢して強がるとことか、ちょっと似てるからかな」
「誰に?」
無意識にポーチに触れていた。
そうだよ、何となくキョーナは杏に似てる。
だから、放っておけない。杏を見捨てるみたいで。
「それ作った人?」
「うん」
キョーナの目は俺の触れてるポーチを見ている。
少し険しい表情で。
「その人にあたしが似てるの?」
「気分悪いよな。ごめん」
謝っても仕方ない事だけど、似てると言われて嬉しがる人間は少ないだろう。
「その人は、どうして一緒にいないの」
「もう会えないんだ。凄く会いたいけど、もう無理なんだ」
会いたい。会いたい。
ずっとそればかり考えてる。
俺が死んで杏はどうしただろう。
俺が居なくても笑ってて欲しい。でも、忘れられたくない。
もう会えないのに、女々しすぎる。
「ごめんなさい」
「ん?」
「嫌な事聞いてごめんなさい。もう聞かないから」
「気を使わせたか。いいよ」
「マント借りるね。これ凄くあったかいよ。中の毛皮がふわふわしてる」
「そうか」
納得したのか、落ち着いたキョーナのケープを鑑定してみると内側はウサギの毛皮がついていた。外側は鹿の革だ。
なんで材料で鹿革しか使っていないのに、ウサギが出てくる? どこから材料が出てきたんだろう。
「じゃあ、マントの方は自分の鞄にしまっておけ。寝るときはそれを使えばいいだろ」
「うん、ありがとう」
創作スキルに納得いかないのは顔には出さず、キョーナに指示をすると毛布を畳みポーチに収納する。
「はい、杖。ジュンは結構乱暴な使い方するんだね。馬を繋ぐ杭の代わりに杖を使うってどうなの」
馬の手綱を右手に持ち、左手には杖を持っている。
確かに武器を地面に突き刺し杭代わり、なんて事するやつは俺くらいだろう。
「今度はゆっくり走るから、自分でしっかり掴まってるんだぞ」
「うん。揺れないから大丈夫」
キョーナをさっきと同じように前に乗せ、左に得物を持ち右手で手綱を握る。
「行くぞ」
探索で男達の場所を確認し、馬を走らせ始める。
悪い人じゃないといいんだけど、上手くやっていけるだろうか。不安を残したまま馬を走らせ続けた。
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