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「私としたことが、確認が甘かったわ」
友人とは言えないけれど、ムーディ侯爵家としては付き合いを蔑ろには出来ない家だから注意してと言われていたお茶会だった。
色とりどりの薔薇が咲き乱れる庭に到着した私は、お義母様の呟きにぎょっとした。
お茶会の招待をしてきた家がムーディ侯爵家の近くに屋敷を持っていたから、私とお義母様は比較的早めに到着していた。
時間が早いせいか、お茶会の席に座っている人はまだ少ない。
座っている方々のドレスを見る限り、上位の貴族の夫人や令嬢では無い様に見える。
けれど人数が少ないからこそ私は気が付いてしまった、こちらを向いて座っているお父様によく似た顔の令嬢の存在に。
「お義母様、あれはもしかして」
「そうよ、あれはあなたの姉。全く馬鹿にされたものだわ。格下の家にこういう事をされるとはね」
格下というのは、今日のお茶会の開催者である伯爵家の事だろう。
馬鹿にされたというのは、私と悪い意味で縁がある彼女を招待していながら、ムーディ侯爵夫人のお義母様だけでなく私を招待したことだ。
「お義母様」
「堂々としていなさい。リナリア、あなた自身は悪い事をしていないのだから」
私自身は何もしてはいなくても、私の母は父とその恋人に酷い事をした。
その結果生まれたのが私と弟で、彼女にも罪はない。
だからお義母様の優しさに私は素直に頷けはしなかった。
「この家の夫人は悪趣味なの。噂話が大好きで品が無いのよね、でも興味本位にここまでの事をするなら今後の付き合いはしなくてもいいわね」
冷ややかなお義母様の声に、私は背筋が寒くなる。
付き合いを蔑ろに出来ない家だと言っていたのに、私のせいでそれを止めようとする。
その決断を、一瞬でしてしまうなんて。
「リナリアは、入学してからまだ彼女と何も話をしてはいないのよね」
私達を案内するメイドの後ろを、ゆっくりと歩きながらお義母様が小さな声で私に問いかける。
腹違いの姉であるモーラとは、話どころかまだ顔をみたことも無かった。
私からは接触しない様にしているし、彼女もそうなのだろうと思う。
「はい。彼女の友人らしい人には何度か見かけましたが、ライアン様から向こうから何か言ってくるまで何もするなと言われていますので」
彼女の友人らしい人達は、私の顔を見ながら陰口を私に聞こえる様に言っている。
そんな事は音楽室に向かう途中で会った彼女達以外にも、何度かあった。
「そう、なら彼女が何か言って来ない限り気にしなくていいわ。もしも悪意を向けられたら敵対してもいいわ」
「いいのですか?」
「あなたの母親が悪いとしても、結局あなたの父親はそれを受け入れた。だとしたらね、あの人は彼女を開放するべきだった。自分の意地とかそういうものを大切にするのではなく、そうすればすくなくとも彼女は日陰者と言われなくてすんだのよ。抵抗することもせずに中途半端な事をするから、子供の代まで影響が出るのよ」
お義父様はどちらか言えばお父様の味方をしている気がするけれど、お義母様は少し違うのかもしれない。
子供の代の影響というのは、私と彼女の事だろう。そして私の弟の事。
「ライアンは知らないけれど、彼女から家に婚約打診の釣り書が来ていたのよ」
「え」
「あなた達のお父様ではなく、彼女自身からの打診だったわ。でも即座に断ったわ。すでにバーレー家の令嬢と婚約しているし、ライアンはとてもあなたを好いているからと言ってね」
お義母様は私の心臓が止まりそうな事を、さらりと言う。
私達がなかなか歩みを進めずメイドが戸惑っているのを察したのか、この家の夫人と思われる女性がゆったりとした足取りでこちらに歩いて来た。
「まあ、ムーディ侯爵夫人いらっしゃいませ、良く来て下さいましわ。あら、そちらがライアン様に嫁がれて来たお嬢様ね。可愛らしいこと」
「本日はお招きいただきありがとう。こちらはライアンの妻リナリアです。可愛い私の義娘ですわ」
「リナリアです、初めまして」
にっこりと淑女の礼をしながら挨拶をする。
伯爵夫人は、お義母様より少し年下に見えるけれどドレスも宝飾品も少し下品な印象を受けた。
なんというか、昼間の茶会の席というよりも夜会向けの装飾品とドレスに見えるのだ。
「まあ本当に可愛らしい。リナリア様初めまして、お会い出来て光栄です」
「こちらこそ、素敵な薔薇園ですね。後で見せて頂いてもいいでしょうか」
「ええ、是非どうぞどうぞ」
にっこりと笑う夫人のその目は、私を値踏みしている様に見えてしまった。
友人とは言えないけれど、ムーディ侯爵家としては付き合いを蔑ろには出来ない家だから注意してと言われていたお茶会だった。
色とりどりの薔薇が咲き乱れる庭に到着した私は、お義母様の呟きにぎょっとした。
お茶会の招待をしてきた家がムーディ侯爵家の近くに屋敷を持っていたから、私とお義母様は比較的早めに到着していた。
時間が早いせいか、お茶会の席に座っている人はまだ少ない。
座っている方々のドレスを見る限り、上位の貴族の夫人や令嬢では無い様に見える。
けれど人数が少ないからこそ私は気が付いてしまった、こちらを向いて座っているお父様によく似た顔の令嬢の存在に。
「お義母様、あれはもしかして」
「そうよ、あれはあなたの姉。全く馬鹿にされたものだわ。格下の家にこういう事をされるとはね」
格下というのは、今日のお茶会の開催者である伯爵家の事だろう。
馬鹿にされたというのは、私と悪い意味で縁がある彼女を招待していながら、ムーディ侯爵夫人のお義母様だけでなく私を招待したことだ。
「お義母様」
「堂々としていなさい。リナリア、あなた自身は悪い事をしていないのだから」
私自身は何もしてはいなくても、私の母は父とその恋人に酷い事をした。
その結果生まれたのが私と弟で、彼女にも罪はない。
だからお義母様の優しさに私は素直に頷けはしなかった。
「この家の夫人は悪趣味なの。噂話が大好きで品が無いのよね、でも興味本位にここまでの事をするなら今後の付き合いはしなくてもいいわね」
冷ややかなお義母様の声に、私は背筋が寒くなる。
付き合いを蔑ろに出来ない家だと言っていたのに、私のせいでそれを止めようとする。
その決断を、一瞬でしてしまうなんて。
「リナリアは、入学してからまだ彼女と何も話をしてはいないのよね」
私達を案内するメイドの後ろを、ゆっくりと歩きながらお義母様が小さな声で私に問いかける。
腹違いの姉であるモーラとは、話どころかまだ顔をみたことも無かった。
私からは接触しない様にしているし、彼女もそうなのだろうと思う。
「はい。彼女の友人らしい人には何度か見かけましたが、ライアン様から向こうから何か言ってくるまで何もするなと言われていますので」
彼女の友人らしい人達は、私の顔を見ながら陰口を私に聞こえる様に言っている。
そんな事は音楽室に向かう途中で会った彼女達以外にも、何度かあった。
「そう、なら彼女が何か言って来ない限り気にしなくていいわ。もしも悪意を向けられたら敵対してもいいわ」
「いいのですか?」
「あなたの母親が悪いとしても、結局あなたの父親はそれを受け入れた。だとしたらね、あの人は彼女を開放するべきだった。自分の意地とかそういうものを大切にするのではなく、そうすればすくなくとも彼女は日陰者と言われなくてすんだのよ。抵抗することもせずに中途半端な事をするから、子供の代まで影響が出るのよ」
お義父様はどちらか言えばお父様の味方をしている気がするけれど、お義母様は少し違うのかもしれない。
子供の代の影響というのは、私と彼女の事だろう。そして私の弟の事。
「ライアンは知らないけれど、彼女から家に婚約打診の釣り書が来ていたのよ」
「え」
「あなた達のお父様ではなく、彼女自身からの打診だったわ。でも即座に断ったわ。すでにバーレー家の令嬢と婚約しているし、ライアンはとてもあなたを好いているからと言ってね」
お義母様は私の心臓が止まりそうな事を、さらりと言う。
私達がなかなか歩みを進めずメイドが戸惑っているのを察したのか、この家の夫人と思われる女性がゆったりとした足取りでこちらに歩いて来た。
「まあ、ムーディ侯爵夫人いらっしゃいませ、良く来て下さいましわ。あら、そちらがライアン様に嫁がれて来たお嬢様ね。可愛らしいこと」
「本日はお招きいただきありがとう。こちらはライアンの妻リナリアです。可愛い私の義娘ですわ」
「リナリアです、初めまして」
にっこりと淑女の礼をしながら挨拶をする。
伯爵夫人は、お義母様より少し年下に見えるけれどドレスも宝飾品も少し下品な印象を受けた。
なんというか、昼間の茶会の席というよりも夜会向けの装飾品とドレスに見えるのだ。
「まあ本当に可愛らしい。リナリア様初めまして、お会い出来て光栄です」
「こちらこそ、素敵な薔薇園ですね。後で見せて頂いてもいいでしょうか」
「ええ、是非どうぞどうぞ」
にっこりと笑う夫人のその目は、私を値踏みしている様に見えてしまった。
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