24 / 33
24
しおりを挟む
「品がないな」
ライアン様は、令嬢達を一瞬見た後そう一言言うと私の手を引いた。
「ここはどうやら空気が悪い様だね」
「ライアン様」
パチンと音が鳴りそうな程見事に、私に向かって綺麗に片目を閉じる。
世間知らずな私は、ライアン様の見た目が極上の部類に入るものだとは知らなかった。
私の世界は家とライアン様の家にほぼ限られていて、歳の近い男性は弟とライアン様とライアン様の弟君、そして季節の折に手紙のやり取りをする母方の従兄弟だけだ。
弟はお母様に似ているし、従兄弟は伯父様に似ている。
弟の顔立ちも整っているのかもしれないが、私には意地悪をするか怒鳴るかだから顔の作りを考える余裕は私にはない。
そして、ライアン様と弟君。
とても似た兄弟で、幼い頃からの付き合いだから見慣れているけれど、綺麗で凛々しいお顔をされているのが辛かった。
私は不自然極まりない長さの前髪で目元を隠している。
それがおかしなことだとは、いくら世間知らずな私でも自覚していた。
周囲にいる人達に、そんな変な姿をしている人がいないのだから理解して当然だ。
こんな変な姿で、ライアン様と一緒にいるのが苦痛だった。だからライアン様を素敵だと思う度に、婚約者が私なのは申し訳なくて仕方がなかった。
ずっとそう思っていたのに、学校に来てみたらライアン様は人気が高く、同学年だけでなく上級生達もライアン様の姿を一目見ようと教室に来る程だった。
勇気を出して前髪を上げるようになって、自分の顔の作りは兎も角普通になった事でやっと私はその事実を受け入れられた。
そうでなければ、ライアン様が歩くだけで意識を向けてくる女生達に気後れして仕方なかっただろう。
「どうしたの」
「ライアン様が素敵すぎて」
ライアン様は素敵だから、他に言い様がない。
言いながらチラリと後ろに視線を向けると、私の噂話をしていた人達は、ライアン様の「品がないな」の言葉が聞こえたのかこちらを見ながら悔しそうな顔をして睨んでいる。
「……ありがとう。リナリアは可愛いよ」
「ラ、ライ、ライアン様っ」
私の頬に顔を寄せてきて、悲鳴の様な声でライアン様の名前を呼ぶ。
私も驚いているが、まだその場にいた彼女達の悲鳴も聞こえてきた。
なんでもない事の様にライアン様は微笑んで、ちゅと私の頬に小さな音を立ててライアン様は離れていった。
こ、これは。
「ライアン様っ」
「私の妻が可愛すぎる。仮婚姻出来て幸せだよ、リナリアはどう?」
「そ、そんなの幸せに決まっていますっ」
力いっぱい、令嬢らしからぬ大声で叫んでから、はっとして口を閉じた。
「両想いで嬉しいよ。リナリア」
「……うぅ。私もです」
恥ずかしさで体が熱くなる。
ライアン様に手を引かれ早足で歩きながら、後ろを振り返るとさっきの令嬢達をの一人が床に座り込んでいた。
具合が悪くなったのだろうか、急にどうしたのだろう。
「ライアン様、ありがとうございます。でも、あまり無理はなさらないで下さいね」
私を害意から守ろうと、彼女達に向けてキツイ言葉を告げて、私とライアン様の仲が良好だと知らしめた。
言葉は兎も角後のはやり過ぎに感じるけれど、そうでもしないと私がお母様の様に無理矢理ライアン様を求めた都思われると考えたのかもしれない。
「無理はしてないよ。リナリアに素敵だと言われたからちょっと舞い上がっただけ。嫌だった?」
「あの、出来たら人目が無ければ……」
ライアン様の本心が分からないけれど、私を思っての事だと思うから拒否したりしない。
だから繋いだ手に思いを込めて、キュッと握る。
「二人きりならいい?」
「……恥ずかしくてそんなこと言えません」
周囲に見せつける為なのか、ライアン様の言葉はどこまでも甘くて私は恥ずかしさで視線を合わせられない。
「幸せだなあ、可愛いリナリアに毎日会えて話せて、こうして触れられる」
「……私もです」
睨む視線に気が付かずに、私達は手を繋ぎ歩いていた。
ライアン様は、令嬢達を一瞬見た後そう一言言うと私の手を引いた。
「ここはどうやら空気が悪い様だね」
「ライアン様」
パチンと音が鳴りそうな程見事に、私に向かって綺麗に片目を閉じる。
世間知らずな私は、ライアン様の見た目が極上の部類に入るものだとは知らなかった。
私の世界は家とライアン様の家にほぼ限られていて、歳の近い男性は弟とライアン様とライアン様の弟君、そして季節の折に手紙のやり取りをする母方の従兄弟だけだ。
弟はお母様に似ているし、従兄弟は伯父様に似ている。
弟の顔立ちも整っているのかもしれないが、私には意地悪をするか怒鳴るかだから顔の作りを考える余裕は私にはない。
そして、ライアン様と弟君。
とても似た兄弟で、幼い頃からの付き合いだから見慣れているけれど、綺麗で凛々しいお顔をされているのが辛かった。
私は不自然極まりない長さの前髪で目元を隠している。
それがおかしなことだとは、いくら世間知らずな私でも自覚していた。
周囲にいる人達に、そんな変な姿をしている人がいないのだから理解して当然だ。
こんな変な姿で、ライアン様と一緒にいるのが苦痛だった。だからライアン様を素敵だと思う度に、婚約者が私なのは申し訳なくて仕方がなかった。
ずっとそう思っていたのに、学校に来てみたらライアン様は人気が高く、同学年だけでなく上級生達もライアン様の姿を一目見ようと教室に来る程だった。
勇気を出して前髪を上げるようになって、自分の顔の作りは兎も角普通になった事でやっと私はその事実を受け入れられた。
そうでなければ、ライアン様が歩くだけで意識を向けてくる女生達に気後れして仕方なかっただろう。
「どうしたの」
「ライアン様が素敵すぎて」
ライアン様は素敵だから、他に言い様がない。
言いながらチラリと後ろに視線を向けると、私の噂話をしていた人達は、ライアン様の「品がないな」の言葉が聞こえたのかこちらを見ながら悔しそうな顔をして睨んでいる。
「……ありがとう。リナリアは可愛いよ」
「ラ、ライ、ライアン様っ」
私の頬に顔を寄せてきて、悲鳴の様な声でライアン様の名前を呼ぶ。
私も驚いているが、まだその場にいた彼女達の悲鳴も聞こえてきた。
なんでもない事の様にライアン様は微笑んで、ちゅと私の頬に小さな音を立ててライアン様は離れていった。
こ、これは。
「ライアン様っ」
「私の妻が可愛すぎる。仮婚姻出来て幸せだよ、リナリアはどう?」
「そ、そんなの幸せに決まっていますっ」
力いっぱい、令嬢らしからぬ大声で叫んでから、はっとして口を閉じた。
「両想いで嬉しいよ。リナリア」
「……うぅ。私もです」
恥ずかしさで体が熱くなる。
ライアン様に手を引かれ早足で歩きながら、後ろを振り返るとさっきの令嬢達をの一人が床に座り込んでいた。
具合が悪くなったのだろうか、急にどうしたのだろう。
「ライアン様、ありがとうございます。でも、あまり無理はなさらないで下さいね」
私を害意から守ろうと、彼女達に向けてキツイ言葉を告げて、私とライアン様の仲が良好だと知らしめた。
言葉は兎も角後のはやり過ぎに感じるけれど、そうでもしないと私がお母様の様に無理矢理ライアン様を求めた都思われると考えたのかもしれない。
「無理はしてないよ。リナリアに素敵だと言われたからちょっと舞い上がっただけ。嫌だった?」
「あの、出来たら人目が無ければ……」
ライアン様の本心が分からないけれど、私を思っての事だと思うから拒否したりしない。
だから繋いだ手に思いを込めて、キュッと握る。
「二人きりならいい?」
「……恥ずかしくてそんなこと言えません」
周囲に見せつける為なのか、ライアン様の言葉はどこまでも甘くて私は恥ずかしさで視線を合わせられない。
「幸せだなあ、可愛いリナリアに毎日会えて話せて、こうして触れられる」
「……私もです」
睨む視線に気が付かずに、私達は手を繋ぎ歩いていた。
0
お気に入りに追加
625
あなたにおすすめの小説

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果
富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。
そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。
死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?

婚約破棄した令嬢の帰還を望む
基本二度寝
恋愛
王太子が発案したとされる事業は、始まる前から暗礁に乗り上げている。
実際の発案者は、王太子の元婚約者。
見た目の美しい令嬢と婚約したいがために、婚約を破棄したが、彼女がいなくなり有能と言われた王太子は、無能に転落した。
彼女のサポートなしではなにもできない男だった。
どうにか彼女を再び取り戻すため、王太子は妙案を思いつく。

嘘をありがとう
七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」
おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。
「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」
妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。
「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました
珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。
なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。
ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの?
お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。
ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。
少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。
どうしてくれるのよ。
ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ!
腹立つわ〜。
舞台は独自の世界です。
ご都合主義です。
緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる