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「陛下が妹である私の曾祖母の願いを叶える為、王命にしてしまったという事ですよね。それに対してそんな抗議をして問題にならなかったのですか」
「ならなかったというか、さすがの陛下も伯爵家で申請していた婚約を承認せずに、伯爵が断っていた婚約を無理矢理承認してしまったと、伯爵は王家主催の夜会で広めてから陛下に謁見を申し込み、沢山の貴族がいる前で抗議したんだよ。伯爵も伯爵夫人もトレーシーをとても可愛がっていてね。二人の婚約を望んでいたんだよ。それを一方的な思いで邪魔された上、君のお父さんが望んでいないどころか断っている縁談を無理矢理命令されたのだから、罰せられたとしてもいいから抗議したんだ」
「それでは二人は罰せられずに、祖父のその宣言が通ったのですか」
「そういう事だね。すでに伯爵家の跡継ぎとしてモーラを届けている。君のお母さんは納得していないが、跡継ぎにするため彼女は前伯爵の養子にしているし、前伯爵の遺言もある。こういう言い方は申し訳ないが君のお母さんであるステファニーは結婚前どころか学校に入る前から色々と騒ぎを起こしている人でね。人の常識が分からないという意味で妖精姫のあだ名がついていた程だったんだ。その妖精姫が起こした最大の騒ぎが君のお父さんとの婚約だったんだよ。君のお父さんとトレーシーは妖精姫の我儘に巻き込まれた被害者だと、当時話を聞いた周囲の人は判断したんだ。勿論伯爵領に暮らす人々もね。普通であれば愛人としか夜会に出ない、領地の屋敷にも妻ではなく愛人と暮らしているとなれば非難されるが、トレーシーは領民には伯爵夫人として認められているし、貴族達も同じなんだ」
私の家庭教師はお父様も亡くなったお祖父様も領民思いで、領地を豊かにすることを考えて生きていると教えてくれた。
私は王都の屋敷に暮らし一度も領地に行ったことは無く、それはお母様も弟も同じです。
「あの、父達の話は分かりました。でも、私とライアン様の仮婚姻はどういう理由があるのでしょう」
まさか、私が社交界に出るのが問題になるのだろうか。
私がライアン様の婚約者としてバーレー家の名を出すのが問題に?
「リナリアは、ステファニーの妹に会った事はあるの?」
「お母様の妹ですか、いいえ。伯父夫婦と従兄弟だけです。妹がいると聞いたこともありません」
お義母様の問いに小さく首を横に振りながら、伯父様や誰からも話すら聞いたことが無いのはどういう事なのだろうと考えていた。
いくら他家に嫁いだとは言っても、全く話が出ないのは不自然な気がする。
「そうか。ステファニーの婚約騒動の後、まだ婚約者がいなかったステファニーの妹を警戒した年頃の娘、息子を持つ上位貴族達は仮婚姻を次々申し込んだんだ。婚約だけではそれを覆される可能性があるが、さすがに仮とはいえ婚姻までいけばどうすることも出来ないだろうと考えたんだろうね。幸いステファニーの兄はすでに婚姻して子供もいたから良かったが、妹はその時まだ十三歳で婚約者がいなかったからね」
「父とトレーシーさんの様に邪魔されたらと考えたという事ですね」
「そうだ。君の伯父である現侯爵も妹も他人の仲を裂く様な人間ではないが、妖精姫の兄妹だからね警戒されてしまったんだよ。結局妹は学校に入らずに隣国に留学し、そのまま隣国の貴族に嫁いだんだ」
「それでは、私も同じ様に警戒されているのでしょうか」
でも私がお義母様と挨拶回りをした時、私を警戒している様子は無かった様に思う。
貴族は思っている事を顔に出さないとは聞きますが、あれは嫌悪感を隠していたのだろうか。
「リナリアはいいのよ。あなたはむしろ邪魔されてしまうのではないかと心配されていた方なの」
「心配、ですか?」
「リナリアを傷つけてしまう話だが、ステファニーは君の弟パービスだけを連れて茶会に出ていただろ。その時にリナリアとライアンの婚約についての不満をいつも話していてね。家は君のお父さんともトレーシーとも仲が良いし、ステファニーの実家とは派閥が違うからね」
「派閥」
「元は同じだったんだよ。でも婚約騒動の時にバーレー伯爵家も家も抜けたんだよ」
「派閥を変えるというのは余程の事なのでは」
もう倒れそうな気持ちにすらならず、母と曾祖母への嫌悪感でどうにかなりそうだった。
「侯爵家の祖父母には数える程しか会っていませんが、私とライアン様の婚約については喜んでくれていました。伯父も同じだったと思います。お母様だけが気に入らなかったということでしょうか」
「そうだね。今の理由以外に弟の婚約はまだなのに、という思いもある様だね。どちらも自分の子供だというのに、弟を差し置いて婚約を決まっているのが気にいらないとも言っていてね。君を連れて茶会に来ることは一度も無いし口を開けば婚約の不満ばかりで、結婚年齢に達したら自分の選んだ相手と結婚させるんだとね。どうもその相手ももう見つけているらしいよ」
そんな事を言っていたとは知らなかった。
お母様が私が幸せになれる様な相手を選ぶとはとても思えない。
「そして来年は君の弟も入学してくる。自分と同じ様に学校で素敵な出会いがあるだろうと期待している様子に、周囲が警戒しないわけがない」
「弟が婚約者がいる令嬢を気に入るかもしれないと」
「そうだ。陛下はすでに代替わりされているが、ステファニーの要望を叶えようとする王族は前陛下だけではないしあの騒動を覚えている者には警戒するなという方が無理な話だろう」
「そう、そうですね。私でもそう考えるでしょう」
私から見てお母様も弟も我儘な人です。
自分の望みはどんな事でも叶って当然と考えている人達なのですから、その性格を良く知る人なら不安で仕方ないのは理解出来る話です。
「君に話さずに決めてしまって申し訳なかったけれど、私と伯爵で相談して仮婚姻の手続きを進めたんだよ」
「そうでしたか。お義父様、仮婚姻を行って頂きありがとうございます」
私が妻で本当にいいのだろうかと不安はあるけれど、お義父様達の気持ちが嬉しくて私は微笑んで頭を下げた。
「ならなかったというか、さすがの陛下も伯爵家で申請していた婚約を承認せずに、伯爵が断っていた婚約を無理矢理承認してしまったと、伯爵は王家主催の夜会で広めてから陛下に謁見を申し込み、沢山の貴族がいる前で抗議したんだよ。伯爵も伯爵夫人もトレーシーをとても可愛がっていてね。二人の婚約を望んでいたんだよ。それを一方的な思いで邪魔された上、君のお父さんが望んでいないどころか断っている縁談を無理矢理命令されたのだから、罰せられたとしてもいいから抗議したんだ」
「それでは二人は罰せられずに、祖父のその宣言が通ったのですか」
「そういう事だね。すでに伯爵家の跡継ぎとしてモーラを届けている。君のお母さんは納得していないが、跡継ぎにするため彼女は前伯爵の養子にしているし、前伯爵の遺言もある。こういう言い方は申し訳ないが君のお母さんであるステファニーは結婚前どころか学校に入る前から色々と騒ぎを起こしている人でね。人の常識が分からないという意味で妖精姫のあだ名がついていた程だったんだ。その妖精姫が起こした最大の騒ぎが君のお父さんとの婚約だったんだよ。君のお父さんとトレーシーは妖精姫の我儘に巻き込まれた被害者だと、当時話を聞いた周囲の人は判断したんだ。勿論伯爵領に暮らす人々もね。普通であれば愛人としか夜会に出ない、領地の屋敷にも妻ではなく愛人と暮らしているとなれば非難されるが、トレーシーは領民には伯爵夫人として認められているし、貴族達も同じなんだ」
私の家庭教師はお父様も亡くなったお祖父様も領民思いで、領地を豊かにすることを考えて生きていると教えてくれた。
私は王都の屋敷に暮らし一度も領地に行ったことは無く、それはお母様も弟も同じです。
「あの、父達の話は分かりました。でも、私とライアン様の仮婚姻はどういう理由があるのでしょう」
まさか、私が社交界に出るのが問題になるのだろうか。
私がライアン様の婚約者としてバーレー家の名を出すのが問題に?
「リナリアは、ステファニーの妹に会った事はあるの?」
「お母様の妹ですか、いいえ。伯父夫婦と従兄弟だけです。妹がいると聞いたこともありません」
お義母様の問いに小さく首を横に振りながら、伯父様や誰からも話すら聞いたことが無いのはどういう事なのだろうと考えていた。
いくら他家に嫁いだとは言っても、全く話が出ないのは不自然な気がする。
「そうか。ステファニーの婚約騒動の後、まだ婚約者がいなかったステファニーの妹を警戒した年頃の娘、息子を持つ上位貴族達は仮婚姻を次々申し込んだんだ。婚約だけではそれを覆される可能性があるが、さすがに仮とはいえ婚姻までいけばどうすることも出来ないだろうと考えたんだろうね。幸いステファニーの兄はすでに婚姻して子供もいたから良かったが、妹はその時まだ十三歳で婚約者がいなかったからね」
「父とトレーシーさんの様に邪魔されたらと考えたという事ですね」
「そうだ。君の伯父である現侯爵も妹も他人の仲を裂く様な人間ではないが、妖精姫の兄妹だからね警戒されてしまったんだよ。結局妹は学校に入らずに隣国に留学し、そのまま隣国の貴族に嫁いだんだ」
「それでは、私も同じ様に警戒されているのでしょうか」
でも私がお義母様と挨拶回りをした時、私を警戒している様子は無かった様に思う。
貴族は思っている事を顔に出さないとは聞きますが、あれは嫌悪感を隠していたのだろうか。
「リナリアはいいのよ。あなたはむしろ邪魔されてしまうのではないかと心配されていた方なの」
「心配、ですか?」
「リナリアを傷つけてしまう話だが、ステファニーは君の弟パービスだけを連れて茶会に出ていただろ。その時にリナリアとライアンの婚約についての不満をいつも話していてね。家は君のお父さんともトレーシーとも仲が良いし、ステファニーの実家とは派閥が違うからね」
「派閥」
「元は同じだったんだよ。でも婚約騒動の時にバーレー伯爵家も家も抜けたんだよ」
「派閥を変えるというのは余程の事なのでは」
もう倒れそうな気持ちにすらならず、母と曾祖母への嫌悪感でどうにかなりそうだった。
「侯爵家の祖父母には数える程しか会っていませんが、私とライアン様の婚約については喜んでくれていました。伯父も同じだったと思います。お母様だけが気に入らなかったということでしょうか」
「そうだね。今の理由以外に弟の婚約はまだなのに、という思いもある様だね。どちらも自分の子供だというのに、弟を差し置いて婚約を決まっているのが気にいらないとも言っていてね。君を連れて茶会に来ることは一度も無いし口を開けば婚約の不満ばかりで、結婚年齢に達したら自分の選んだ相手と結婚させるんだとね。どうもその相手ももう見つけているらしいよ」
そんな事を言っていたとは知らなかった。
お母様が私が幸せになれる様な相手を選ぶとはとても思えない。
「そして来年は君の弟も入学してくる。自分と同じ様に学校で素敵な出会いがあるだろうと期待している様子に、周囲が警戒しないわけがない」
「弟が婚約者がいる令嬢を気に入るかもしれないと」
「そうだ。陛下はすでに代替わりされているが、ステファニーの要望を叶えようとする王族は前陛下だけではないしあの騒動を覚えている者には警戒するなという方が無理な話だろう」
「そう、そうですね。私でもそう考えるでしょう」
私から見てお母様も弟も我儘な人です。
自分の望みはどんな事でも叶って当然と考えている人達なのですから、その性格を良く知る人なら不安で仕方ないのは理解出来る話です。
「君に話さずに決めてしまって申し訳なかったけれど、私と伯爵で相談して仮婚姻の手続きを進めたんだよ」
「そうでしたか。お義父様、仮婚姻を行って頂きありがとうございます」
私が妻で本当にいいのだろうかと不安はあるけれど、お義父様達の気持ちが嬉しくて私は微笑んで頭を下げた。
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