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「え、リナリアの姉?」
ライアン様が従僕のピオに指示したのは、夕食を個室で頂く為の申請だったのかもしれない。
走って戻って来たピオがライアン様に何か囁くと、ライアン様は穏やかな笑みを私に向け男女共用の食堂では無くその奥にある別棟に私を導いた。
「はい、これを」
「手紙、読んでも?」
「はい」
別棟の入り口に立つ男性が私達を部屋に案内する間、私は緊張している様子が前を歩く男性に伝わらない様にするのが精一杯で周囲を見る余裕は無かった。
余裕のない私を支える様にライアン様は歩き、私達は小さな部屋に通された。
そこは落ち着いた家具で飾られた部屋だった。中央には二名で食事出来る大きさのテーブルと二脚の椅子があり壁添いには飾り棚が置いてある。
椅子の片方に私が座り、もう片方にはライアン様が座った。
注文はすでにされていたのか、案内していた男性は「すぐにご用意いたします」と頭を下げ出て行ってしまった。
「ふうん、お祖父様の養女ね」
ジゼルは扉の側に控えているけれど、ピオは外に出ている。
私が姉の件を口にした途端、ピオはそっと外に出て行ったのだ。
私は聞かれてもいいと考えて口にしたけれど、ピオはそのつもりは無かった様だ。
「ライアン様はご存じでしたか」
「いいや、初めて知った。この方にも会った事はないな」
手紙を返しながらライアン様はそう口を開く。
その答えに私はこっそりと安堵の息を吐く。
お父様の愛人、いいやお父様にとって私のお母様は妻ではないそうだから私が愛人の娘という立場なのだろうか。
いいや、愛されていない者は愛人にすらなれないだろうから、そうなるとお母様は形だけの妻かただの伯爵夫人だろうか。
モーラ・バーレーはお父様が認める妻の娘だ。
お父様にとって、私も弟も本当は子として認めたくないのかもしれない。
そう思いついて、憂鬱な気持ちになる。
「モーラ・バーレーか。一つ上なんだね」
「はい」
お祖父様はもう亡くなっている。
私の名前を付けて下さったお祖父様は領地で暮らしていたから、私はあまり会った事はないけれどそれでもお父様よりはお祖父様とお祖母様の方が会った回数は多いかもしれない。
お父様は領地経営が忙しいというお母様の言葉を幼い頃は信じていたけれど、お父様は王都では別邸でお父様の妻と暮らしていて、お祖父様とお祖母様もどうやら王都に来る際はそちらに滞在していたらしいと知ったのは最近の事だ。
王都の屋敷は私が暮らしていた方が大きいし立派だと言う、バーレー家が納める領地は豊かで伯爵家は裕福だ。
それを象徴する様に屋敷は外も中も豪華だから、お母様の言うのは正しいのだろう。
ただそこの主人である筈のお父様が来る事は殆ど無かっただけだ。
「リナリアにこうして知らせるというのは、あちらから接触してくる可能性があるのかもしれないが、リナリアはどうしたい?」
「どう、どうしたいのでしょうか。私から姉に近付くつもりはありませんが、もし彼女の方から……」
手紙に姉と仲良くしなさいとは書かれてはいなかった。
姉と敵対するなとも書かれてはいなかったけれど、それは私ならそうしないだろうとお父様が考えているからかもしれない。
「亡くなった前伯爵の養女になっているとして、今彼女がどういう立場なのか分からないものね。この件は私に任せてくれるかな? 少し私の父に確認してみよう」
「ライアン様のお父様は何かご存じなのでしょうか」
「詳しい事は分からないかもしれないが、少なくとも社交界でどういう扱いになっているか知っているだろう」
ライアン様は穏やかな表情で話を聞いてくれるけれど、面倒な話しかしない婚約者をどう思っているのだろうか。
一人でどうすることも出来ず、思わずライアン様に相談してしまったけれど、ウンザリされているかもしれない。
「ライアン様にお任せ致します。私では情報は集められませんから」
情けないけれど、私にそんな力はない。
母方の従兄妹しか同年代の知り合いはいないし、それより上なんて家庭教師と使用人以外は伯父様達しかいないのだから。
「うん。任せて。そんな不安そうな顔をしなくてもいいよ。私達は同じ組なのだから殆ど一緒に行動すると言ってもいいくらいなのだから安心して」
「ライアン様、私、厄介ごとしか……」
じわりと涙が浮かんできてしまう。
優しい婚約者に慰められるだけなんて、私はなんて情けないのだろう。
「厄介じゃないよ。可愛い婚約者に頼られて嬉しくない男がいると思う?」
立ち上がりライアン様は私の傍に来ると、ハンカチでそっと私の目元に触れてくれる。
「頼っていいのでしょうか」
「一人で泣いている位なら、私を頼って欲しい」
どうしてこんなに優しいのだろう。
私はこんなに面倒な存在なのに、どうして。
「ライアン様、ありがとうございます」
ライアン様の優しさに感動しながら、その一方で私はライアン様にこれ以上面倒だと思われたくないと考えていたのだった。
ライアン様が従僕のピオに指示したのは、夕食を個室で頂く為の申請だったのかもしれない。
走って戻って来たピオがライアン様に何か囁くと、ライアン様は穏やかな笑みを私に向け男女共用の食堂では無くその奥にある別棟に私を導いた。
「はい、これを」
「手紙、読んでも?」
「はい」
別棟の入り口に立つ男性が私達を部屋に案内する間、私は緊張している様子が前を歩く男性に伝わらない様にするのが精一杯で周囲を見る余裕は無かった。
余裕のない私を支える様にライアン様は歩き、私達は小さな部屋に通された。
そこは落ち着いた家具で飾られた部屋だった。中央には二名で食事出来る大きさのテーブルと二脚の椅子があり壁添いには飾り棚が置いてある。
椅子の片方に私が座り、もう片方にはライアン様が座った。
注文はすでにされていたのか、案内していた男性は「すぐにご用意いたします」と頭を下げ出て行ってしまった。
「ふうん、お祖父様の養女ね」
ジゼルは扉の側に控えているけれど、ピオは外に出ている。
私が姉の件を口にした途端、ピオはそっと外に出て行ったのだ。
私は聞かれてもいいと考えて口にしたけれど、ピオはそのつもりは無かった様だ。
「ライアン様はご存じでしたか」
「いいや、初めて知った。この方にも会った事はないな」
手紙を返しながらライアン様はそう口を開く。
その答えに私はこっそりと安堵の息を吐く。
お父様の愛人、いいやお父様にとって私のお母様は妻ではないそうだから私が愛人の娘という立場なのだろうか。
いいや、愛されていない者は愛人にすらなれないだろうから、そうなるとお母様は形だけの妻かただの伯爵夫人だろうか。
モーラ・バーレーはお父様が認める妻の娘だ。
お父様にとって、私も弟も本当は子として認めたくないのかもしれない。
そう思いついて、憂鬱な気持ちになる。
「モーラ・バーレーか。一つ上なんだね」
「はい」
お祖父様はもう亡くなっている。
私の名前を付けて下さったお祖父様は領地で暮らしていたから、私はあまり会った事はないけれどそれでもお父様よりはお祖父様とお祖母様の方が会った回数は多いかもしれない。
お父様は領地経営が忙しいというお母様の言葉を幼い頃は信じていたけれど、お父様は王都では別邸でお父様の妻と暮らしていて、お祖父様とお祖母様もどうやら王都に来る際はそちらに滞在していたらしいと知ったのは最近の事だ。
王都の屋敷は私が暮らしていた方が大きいし立派だと言う、バーレー家が納める領地は豊かで伯爵家は裕福だ。
それを象徴する様に屋敷は外も中も豪華だから、お母様の言うのは正しいのだろう。
ただそこの主人である筈のお父様が来る事は殆ど無かっただけだ。
「リナリアにこうして知らせるというのは、あちらから接触してくる可能性があるのかもしれないが、リナリアはどうしたい?」
「どう、どうしたいのでしょうか。私から姉に近付くつもりはありませんが、もし彼女の方から……」
手紙に姉と仲良くしなさいとは書かれてはいなかった。
姉と敵対するなとも書かれてはいなかったけれど、それは私ならそうしないだろうとお父様が考えているからかもしれない。
「亡くなった前伯爵の養女になっているとして、今彼女がどういう立場なのか分からないものね。この件は私に任せてくれるかな? 少し私の父に確認してみよう」
「ライアン様のお父様は何かご存じなのでしょうか」
「詳しい事は分からないかもしれないが、少なくとも社交界でどういう扱いになっているか知っているだろう」
ライアン様は穏やかな表情で話を聞いてくれるけれど、面倒な話しかしない婚約者をどう思っているのだろうか。
一人でどうすることも出来ず、思わずライアン様に相談してしまったけれど、ウンザリされているかもしれない。
「ライアン様にお任せ致します。私では情報は集められませんから」
情けないけれど、私にそんな力はない。
母方の従兄妹しか同年代の知り合いはいないし、それより上なんて家庭教師と使用人以外は伯父様達しかいないのだから。
「うん。任せて。そんな不安そうな顔をしなくてもいいよ。私達は同じ組なのだから殆ど一緒に行動すると言ってもいいくらいなのだから安心して」
「ライアン様、私、厄介ごとしか……」
じわりと涙が浮かんできてしまう。
優しい婚約者に慰められるだけなんて、私はなんて情けないのだろう。
「厄介じゃないよ。可愛い婚約者に頼られて嬉しくない男がいると思う?」
立ち上がりライアン様は私の傍に来ると、ハンカチでそっと私の目元に触れてくれる。
「頼っていいのでしょうか」
「一人で泣いている位なら、私を頼って欲しい」
どうしてこんなに優しいのだろう。
私はこんなに面倒な存在なのに、どうして。
「ライアン様、ありがとうございます」
ライアン様の優しさに感動しながら、その一方で私はライアン様にこれ以上面倒だと思われたくないと考えていたのだった。
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