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しおりを挟む「リナリア、何かあったのかな。……ちょっと待っていて」
夕食の時間女子寮の入り口まで迎えにきてくれたライアン様は、私の顔を見るなり後ろに控えていたライアン様の従僕のピオに何かを囁き始めた。
「お待たせ、行こうか」
「はい」
「素敵なドレスだね、とても似合っているよ」
「……ありがとうございます」
ライアン様に何か指示をされたのだろう、寮の男女共用の建物に走っていくピオの背中を見送りながら私はライアン様が差し出した腕に自分の右手を伸ばした。
「ライアン様、家の恥を聞いてくださいますか」
お父様の手紙の衝撃から私はまだ立ち直れていなかった。
この学校に顔も知らない私の姉が通っている。
今日はまだ一年生だけが入寮しているだけだけれど、明日は上級生も寮にやって来る。
もしも姉だという、モーラ・バーレーと出会ったら私はどうしたらいいのだろう。
「勿論聞くよ。でも、少し待っていて」
「え、はい」
のろのろと進む私の歩みに合わせライアン様はゆっくりと歩いている。
みっともなく泣き出してしまいそうな程、今の私の心は弱っていてライアン様の腕に縋って歩いている。
「寮の部屋はどうだった? 足りないものがあれば教えて」
「いまのところは何も。ライアン様、素敵な贈り物ありがとうございます」
寮の部屋の家具はライアン様が用意してくれたものだとジゼルが教えてくれた。
寮は家具やカーテンや寝具等、寮の物を使う事も出来るけれど殆どの令息令嬢は自分で好きなものを用意し使う者が殆どで寮の物を使うのは下級貴族の一部だけなのだという。
お母様は何も用意してくださらなかったし、寮費だって安くはないのだから使えるものはそれを使うのが当然だと言っていた。
お父様はドレスや靴は用意して下さっても、それ以外は何も無かったからライアン様が用意して下さらなければ伯爵家の娘だというのに惨めに寮のものを使うしかなかったのだ。
「リナリアの好みとは少し違うかもしれないけれど、実は私の部屋のものと色違いのお揃いなんだよ」
「ライアン様とお揃いなんてとても嬉しいです。優しい色合いですし寮の部屋で落ち着いて過ごせそうです。ありがとうございます。でもどうして」
本当なら両親が選ばずとも使用人に用意する様指示位は出すものだということは、世間知らずの私でも分かる。
私とお母様の確執はご存知無かった筈なのに、どうしてライアン様が用意して下さったのか分からない。
「第三者から話を聞くより私が話した方がいいと思うから本当の事を言うとね、リナリアの屋敷の執事から手紙を貰ったんだ」
「え、執事から」
「そう、学校の寮から家具等の搬入日程の問い合わせが来ていたが、その」
「両親はその用意をするつもりはないと言ったのですね」
「簡単に言えばそうなるかな」
私の後ろを歩くジゼルに持たせた鞄の中身、お父様からの手紙には私を愛情が無かったわけではないと書かれていました。
今着ているドレスはお父様が贈ってくれたものです。
でも、ある種の愛情はあるのかもしれませんし、お母様よりは良い感情を持ってくれているのかもしれませんが、それは人目につくところだけ取り繕う程度の気持ちなのだと分かりました。
「ライアン様にご迷惑をお掛けしてしまいました。申し訳あ……」
「迷惑じゃないよ、お揃い、嬉しいでしょ」
泣きたくなる気持ちを、ライアン様は優しく宥めてくれる。
「う、嬉しいです」
「だったら申し訳ないじゃなく、ありがとうがいいな」
「ライアン様」
「私とお揃いは嬉しい?」
「はい」
「私も嬉しい、だからこれは迷惑じゃなくてご褒美」
にこにこと笑いながら、ライアン様は不思議な言葉を口にする。
「ご褒美、ですか?」
「そう、ご褒美。会いたくてもなかなか会えなかった婚約者とこうして会えて、これから毎日昼食と夕食を一緒に出来て幸せだし、これからは思うままに君を着飾らせられるし、私の好きなように家具までお揃いに出来る」
「ライアン様、それはなんだかおかしいと思います」
会いたくても会えなかった。
そんな嬉しい言葉を贈られてどんな顔をしたらいいのか分からない。
人気のない道を歩いているのは幸いだけれど、私の顔は今真っ赤に色付いているだろう。
「そうかな事実だよ」
そう言って笑うライアン様は、優しすぎて私には勿体ない人だとこっそりと心の中で思うのだった。
夕食の時間女子寮の入り口まで迎えにきてくれたライアン様は、私の顔を見るなり後ろに控えていたライアン様の従僕のピオに何かを囁き始めた。
「お待たせ、行こうか」
「はい」
「素敵なドレスだね、とても似合っているよ」
「……ありがとうございます」
ライアン様に何か指示をされたのだろう、寮の男女共用の建物に走っていくピオの背中を見送りながら私はライアン様が差し出した腕に自分の右手を伸ばした。
「ライアン様、家の恥を聞いてくださいますか」
お父様の手紙の衝撃から私はまだ立ち直れていなかった。
この学校に顔も知らない私の姉が通っている。
今日はまだ一年生だけが入寮しているだけだけれど、明日は上級生も寮にやって来る。
もしも姉だという、モーラ・バーレーと出会ったら私はどうしたらいいのだろう。
「勿論聞くよ。でも、少し待っていて」
「え、はい」
のろのろと進む私の歩みに合わせライアン様はゆっくりと歩いている。
みっともなく泣き出してしまいそうな程、今の私の心は弱っていてライアン様の腕に縋って歩いている。
「寮の部屋はどうだった? 足りないものがあれば教えて」
「いまのところは何も。ライアン様、素敵な贈り物ありがとうございます」
寮の部屋の家具はライアン様が用意してくれたものだとジゼルが教えてくれた。
寮は家具やカーテンや寝具等、寮の物を使う事も出来るけれど殆どの令息令嬢は自分で好きなものを用意し使う者が殆どで寮の物を使うのは下級貴族の一部だけなのだという。
お母様は何も用意してくださらなかったし、寮費だって安くはないのだから使えるものはそれを使うのが当然だと言っていた。
お父様はドレスや靴は用意して下さっても、それ以外は何も無かったからライアン様が用意して下さらなければ伯爵家の娘だというのに惨めに寮のものを使うしかなかったのだ。
「リナリアの好みとは少し違うかもしれないけれど、実は私の部屋のものと色違いのお揃いなんだよ」
「ライアン様とお揃いなんてとても嬉しいです。優しい色合いですし寮の部屋で落ち着いて過ごせそうです。ありがとうございます。でもどうして」
本当なら両親が選ばずとも使用人に用意する様指示位は出すものだということは、世間知らずの私でも分かる。
私とお母様の確執はご存知無かった筈なのに、どうしてライアン様が用意して下さったのか分からない。
「第三者から話を聞くより私が話した方がいいと思うから本当の事を言うとね、リナリアの屋敷の執事から手紙を貰ったんだ」
「え、執事から」
「そう、学校の寮から家具等の搬入日程の問い合わせが来ていたが、その」
「両親はその用意をするつもりはないと言ったのですね」
「簡単に言えばそうなるかな」
私の後ろを歩くジゼルに持たせた鞄の中身、お父様からの手紙には私を愛情が無かったわけではないと書かれていました。
今着ているドレスはお父様が贈ってくれたものです。
でも、ある種の愛情はあるのかもしれませんし、お母様よりは良い感情を持ってくれているのかもしれませんが、それは人目につくところだけ取り繕う程度の気持ちなのだと分かりました。
「ライアン様にご迷惑をお掛けしてしまいました。申し訳あ……」
「迷惑じゃないよ、お揃い、嬉しいでしょ」
泣きたくなる気持ちを、ライアン様は優しく宥めてくれる。
「う、嬉しいです」
「だったら申し訳ないじゃなく、ありがとうがいいな」
「ライアン様」
「私とお揃いは嬉しい?」
「はい」
「私も嬉しい、だからこれは迷惑じゃなくてご褒美」
にこにこと笑いながら、ライアン様は不思議な言葉を口にする。
「ご褒美、ですか?」
「そう、ご褒美。会いたくてもなかなか会えなかった婚約者とこうして会えて、これから毎日昼食と夕食を一緒に出来て幸せだし、これからは思うままに君を着飾らせられるし、私の好きなように家具までお揃いに出来る」
「ライアン様、それはなんだかおかしいと思います」
会いたくても会えなかった。
そんな嬉しい言葉を贈られてどんな顔をしたらいいのか分からない。
人気のない道を歩いているのは幸いだけれど、私の顔は今真っ赤に色付いているだろう。
「そうかな事実だよ」
そう言って笑うライアン様は、優しすぎて私には勿体ない人だとこっそりと心の中で思うのだった。
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