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「はあ、ジゼル私大丈夫かしら」
無事に入寮の手続きが終わり、私とライアン様はそれぞれ男女の寮の部屋へと入った。
食事はそれぞれの寮の食堂か男女共通の食堂どちらでも良いと説明があり、戸惑っている私にライアン様は夕食はいつも一緒にしようと誘ってくれた。
「食事用のドレスなんて、私」
「ドレスの心配は不要でございます。旦那様がご用意下さったものがございます」
「え」
ジゼルの言葉に驚いて目を見開いた。
お母様は制服の他は礼儀作法授業の茶会用と晩餐会用のドレスを各一着(どちらも年配の女性が着用する様な灰色のドレス)と普段着用の何の飾りも無いドレスを数着(色は、灰色、濃紺、こげ茶)だけ用意してくれた。
ドレスはどれも新しいから贅沢は言えないけれど、寮内ですれ違った方々は落ち着いた色のドレスでもフリルやリボンやレースの飾りは多少付いていて、付き添っている侍女のドレスも私の物と比べたら派手に感じる程だった。
私は他の令嬢との関わりが殆どない。
伯父様の子供である従兄妹とは多少の付き合いはあるけれど、それは親族としての関りなだけ。
初対面の令嬢達と彼女達の母親でも着ない様な地味なドレスを着て接しないといけないのかと思うと、憂鬱でしかなかったというのに、お父様がドレスを用意してくれたのだろうか。
そんなの信じていいんだろうか。
「旦那様って、お父様の事?」
「はい」
「お父様がドレスを? そんな事今まで一度だって無かったわ。お父様がどうして私のドレスを用意出来るというの体の寸法だって分からない筈よ」
嬉しいけれど、信じられない。
今までお父様が私に関わってくれたのは、私が寮に入りたいという願いに応えてくれた事ぐらいだ。
私なんてお父様にもお母様にも存在を認められていない、そう思っていたというのに。
なんで今更こんな事。
「ワトソン様から奥様に内密にと言われ、お嬢様のドレスを一着お渡ししていました。旦那様へお嬢様の現状をお伝えする為と説明されていましたが、ドレスを用意下さる為だった様ですね。寮監から寮の部屋の衣装部屋に旦那様からの贈り物が納めてあると言われて先程確認しましたが、とても素敵なドレスが何着もございました」
「そんな、お父様が本当に?」
「ええ、寮監が旦那様からのお手紙を預かっていたと、こちらを」
ジゼルが差し出してくれた手紙は、確かにお父様の筆跡でした。
表には私の名前、裏には確かにお父様の印章の封蝋です。
「リリアナ、入学おめでとう。お前には苦労を掛けていたが私はお前に愛情が無かったわけではない。娘のお前には酷な話だがお前の母であるステファニーとは政略としても一緒に暮らせなかった。リリアナの事を私のところで育てたかったがステファニーがどうしても手放さず出来なかった。だから一緒に暮らせなかった。夫婦なら政略でも同じ屋敷で暮らすものだとお前は疑問に思うだろう。手紙で説明する話では無いが、私の妻はお前の母親では無く今共に暮らしているトレーシーただ一人だ、だから妻と離れて暮らすという選択肢が私には取れなかった」
手紙を読みながら、私は混乱していた。
お父様は私に愛情が無かったわけでは無いと言いながら、お母様は妻では無いと書いている。
もしお母様が私を手放すと言っていたとしたら、私はお父様とお父様の愛人(お父様は彼女が妻だと書いているけれど私には愛人だとしか思えない)と一緒に暮らす可能性があったというのだろうか。
「お前は知らないだろうが私とトレーシーの間に生まれた娘がいる。お前にとっては姉になる。現在は父の養女になっていて名前はモーラ・バーレーと名乗っていて同じ学校に通っている……私に姉」
はらりと床に落ちた手紙はジゼルに拾われたけれど、私の手に戻ることは無かった。
お父様は私を愛していなかったわけではないけれど、私が生まれる前にお父様と愛人の間に子供が生まれていた。
それは私の姉、私の姉のモーラ・バーレー。
「ジゼル、私は何も知らなかったのね」
存在すら知らなかった姉、お祖父様の養女になっているとはいえ姉は姉だ。
その存在は私の心に重く圧し掛かって来た。
「お嬢様」
「ジゼル、お父様へお礼の手紙を書かなくちゃね。素敵なドレスをありがとうって」
衝撃が酷すぎて泣くことも出来ない。
衣裳部屋にあるというお父様からの贈り物など、見に行く気力すら無くなってしまったのだった。
無事に入寮の手続きが終わり、私とライアン様はそれぞれ男女の寮の部屋へと入った。
食事はそれぞれの寮の食堂か男女共通の食堂どちらでも良いと説明があり、戸惑っている私にライアン様は夕食はいつも一緒にしようと誘ってくれた。
「食事用のドレスなんて、私」
「ドレスの心配は不要でございます。旦那様がご用意下さったものがございます」
「え」
ジゼルの言葉に驚いて目を見開いた。
お母様は制服の他は礼儀作法授業の茶会用と晩餐会用のドレスを各一着(どちらも年配の女性が着用する様な灰色のドレス)と普段着用の何の飾りも無いドレスを数着(色は、灰色、濃紺、こげ茶)だけ用意してくれた。
ドレスはどれも新しいから贅沢は言えないけれど、寮内ですれ違った方々は落ち着いた色のドレスでもフリルやリボンやレースの飾りは多少付いていて、付き添っている侍女のドレスも私の物と比べたら派手に感じる程だった。
私は他の令嬢との関わりが殆どない。
伯父様の子供である従兄妹とは多少の付き合いはあるけれど、それは親族としての関りなだけ。
初対面の令嬢達と彼女達の母親でも着ない様な地味なドレスを着て接しないといけないのかと思うと、憂鬱でしかなかったというのに、お父様がドレスを用意してくれたのだろうか。
そんなの信じていいんだろうか。
「旦那様って、お父様の事?」
「はい」
「お父様がドレスを? そんな事今まで一度だって無かったわ。お父様がどうして私のドレスを用意出来るというの体の寸法だって分からない筈よ」
嬉しいけれど、信じられない。
今までお父様が私に関わってくれたのは、私が寮に入りたいという願いに応えてくれた事ぐらいだ。
私なんてお父様にもお母様にも存在を認められていない、そう思っていたというのに。
なんで今更こんな事。
「ワトソン様から奥様に内密にと言われ、お嬢様のドレスを一着お渡ししていました。旦那様へお嬢様の現状をお伝えする為と説明されていましたが、ドレスを用意下さる為だった様ですね。寮監から寮の部屋の衣装部屋に旦那様からの贈り物が納めてあると言われて先程確認しましたが、とても素敵なドレスが何着もございました」
「そんな、お父様が本当に?」
「ええ、寮監が旦那様からのお手紙を預かっていたと、こちらを」
ジゼルが差し出してくれた手紙は、確かにお父様の筆跡でした。
表には私の名前、裏には確かにお父様の印章の封蝋です。
「リリアナ、入学おめでとう。お前には苦労を掛けていたが私はお前に愛情が無かったわけではない。娘のお前には酷な話だがお前の母であるステファニーとは政略としても一緒に暮らせなかった。リリアナの事を私のところで育てたかったがステファニーがどうしても手放さず出来なかった。だから一緒に暮らせなかった。夫婦なら政略でも同じ屋敷で暮らすものだとお前は疑問に思うだろう。手紙で説明する話では無いが、私の妻はお前の母親では無く今共に暮らしているトレーシーただ一人だ、だから妻と離れて暮らすという選択肢が私には取れなかった」
手紙を読みながら、私は混乱していた。
お父様は私に愛情が無かったわけでは無いと言いながら、お母様は妻では無いと書いている。
もしお母様が私を手放すと言っていたとしたら、私はお父様とお父様の愛人(お父様は彼女が妻だと書いているけれど私には愛人だとしか思えない)と一緒に暮らす可能性があったというのだろうか。
「お前は知らないだろうが私とトレーシーの間に生まれた娘がいる。お前にとっては姉になる。現在は父の養女になっていて名前はモーラ・バーレーと名乗っていて同じ学校に通っている……私に姉」
はらりと床に落ちた手紙はジゼルに拾われたけれど、私の手に戻ることは無かった。
お父様は私を愛していなかったわけではないけれど、私が生まれる前にお父様と愛人の間に子供が生まれていた。
それは私の姉、私の姉のモーラ・バーレー。
「ジゼル、私は何も知らなかったのね」
存在すら知らなかった姉、お祖父様の養女になっているとはいえ姉は姉だ。
その存在は私の心に重く圧し掛かって来た。
「お嬢様」
「ジゼル、お父様へお礼の手紙を書かなくちゃね。素敵なドレスをありがとうって」
衝撃が酷すぎて泣くことも出来ない。
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