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キム先生の試し5 (キム先生視点)
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「そんな感じ?」
グレタが何を言いたいのか分からないという風に、パティは首を傾げる。
「男性の前ではか弱い振り、私達にはそんなに強気で威張ってる」
「そんな、酷い。私がいつ」
「あら、仕事を怠けて執事見習いの彼と一緒にいたって聞いたわよ。彼の前で泣いてたんでしょ? 私可哀相なんですぅって」
クスクスと笑いながら、グレタは実に上手くパティに話を振る。
「グレタ、何を言っているの」
「あら、ルーシーだってさっき聞いてたじゃない。この子仕事を怠けていた所を侍女頭様に見つかって指導されたのよね?」
「それは……」
パティが仕事を怠けていたことをグレタが彼女に興味本位に尋ね、ルーシーはそれを止める。
二人の行動は私が指示した通りだが、グレタにも魔法が掛かっていると知っているルーシーはオロオロと二人を見ている。先程の件があるから、グレタが侯爵夫妻が見ている場でやり過ぎてしまわないか心配なのかもしれない。
「私だって侍女頭様に指導を受けたことなんてないのに、驚いちゃうわぁ」
にやにやと意地悪くグレタがパティの顔を覗き込むと、パティは両手で顔を覆いしゃがみ込んでしまった。
「私そんなつもりじゃ、だって私」
声を震わせ、くすんと鼻を鳴らし始めるパティの様子に、侯爵夫人と家令が動こうとするのを侯爵が無言で手を小さく上げて止める。
「だって何よ。三歳の子供に意地悪されて逃げ出したとか、そんなの本気で言っているの? あなたそんな殊勝な性格していないでしょう?」
グレタは中々演技が達者だ。
わざと意地悪く聞こえる様にしているのだろうが、年下を虐める先輩メイドにしか見えない。
グレタの追及にくすんくすんと鼻を鳴らし肩を震わせだすパティに、ルーシーが動揺して私達がいる扉の方に視線を向けてしまう。
「あらあら、都合が悪くなると泣き真似? あなた嘘泣き得意だものね」
グレタが腕組みしてパティを見下ろすけれど、これは演技では無いのかもしれない。
パティだけでなく、グレタにも魔法は掛かっている。それをグレタには教えていない。
この魔法は思っていることを素直に話してしまうという効果があるが、それは嘘がつけないというわけではない。
簡単に言えば酒を飲み過ぎて酩酊している様な状態に似ている。
日頃は警戒心が強い人間も、酩酊している時は秘密にしていることをうっかり話したりしてしまうものだ、そして酒が抜けた翌日に自分のうっかりな行いを思い出し後悔する。そういう状態になる。
「泣き真似って、グレタそんな」
「ルーシーは優しいから騙されちゃうでしょうけれど、私そういうの見破るの得意なのよ。なにせ父の愛人の演技をずっと見て育ってきたのだもの」
あまり自慢できない境遇を、グレタは胸を張り話す。
そして、ぐいっとパティの腕を取り引っ張った。
「ほらね、涙が滲んでもいない。泣いてる振りよ」
予想外の物を見せられた侯爵夫人は、ふらりと侯爵の方に倒れ込んでしまった。
本当にこの人は心が弱い、だから子爵夫人に付け込まれたのだろう。そう思うけれど、気の毒だとは思わない。
「パティ……」
グレタに腕を取られ顔を見られたパティは、チッと舌打ちしながらグレタの手を振り払う。
その品の無い行いに、ルーシーは唖然としてパティを見つめている。
「泣き真似上手なパティ、本当はお嬢様に何をされたの」
「お嬢様に意地悪を……あの……それで」
パティは泣き真似が暴かれても懲りずにそう告げるが、その言葉は途切れがちだ。
さすがにどんな意地悪をされたかまでは考えていなかったのかもしれない、この屋敷にいる人間は優しい者が多いから泣いている子供に追及はしないだろうと考えていたのだろう。
「意地悪ねえ、いつ? ジョゼットさんはその時側にいなかったの?」
「今日お母さんは奥様と仕立て屋とお話をしていて、午前中は私だけ……お、お嬢様についていて……もういいじゃないですか、どうせ二人とも私が侍女頭様に怒られていい気味だって思ってるんでしょ! 何よ二人に嫌味を言われたって家令様に言いつけてやるわ!」
パティは立ち上がると、腹立ち紛れにソファーの背に掛けてあった服を床に払い落とす。
「何て言うつもり? 今日お嬢様に意地悪をされて、それで仕事を怠けたことを私に笑われたとでも言うの? それで追及されるのが嫌で泣き真似したらそれも私が意地悪く指摘したとでも?」
「グレタ」
「ルーシー、私達パティに言いつけられちゃうみたいよ。じゃあ、私はパティがお嬢様の服を乱暴に扱っていたと侍女頭様に言おうかしら」
ニヤニヤとグレタはパティに詰め寄るけれど、パティは「家令様は私の味方だもの! きっと私が言ったらあなたを罰してくれるわっ!」と声を上げる。
パティのその声に、ちらりと家令の方に視線を向けると彼は真っ青な顔で扉の向こうの会話を聞いていた。
グレタが何を言いたいのか分からないという風に、パティは首を傾げる。
「男性の前ではか弱い振り、私達にはそんなに強気で威張ってる」
「そんな、酷い。私がいつ」
「あら、仕事を怠けて執事見習いの彼と一緒にいたって聞いたわよ。彼の前で泣いてたんでしょ? 私可哀相なんですぅって」
クスクスと笑いながら、グレタは実に上手くパティに話を振る。
「グレタ、何を言っているの」
「あら、ルーシーだってさっき聞いてたじゃない。この子仕事を怠けていた所を侍女頭様に見つかって指導されたのよね?」
「それは……」
パティが仕事を怠けていたことをグレタが彼女に興味本位に尋ね、ルーシーはそれを止める。
二人の行動は私が指示した通りだが、グレタにも魔法が掛かっていると知っているルーシーはオロオロと二人を見ている。先程の件があるから、グレタが侯爵夫妻が見ている場でやり過ぎてしまわないか心配なのかもしれない。
「私だって侍女頭様に指導を受けたことなんてないのに、驚いちゃうわぁ」
にやにやと意地悪くグレタがパティの顔を覗き込むと、パティは両手で顔を覆いしゃがみ込んでしまった。
「私そんなつもりじゃ、だって私」
声を震わせ、くすんと鼻を鳴らし始めるパティの様子に、侯爵夫人と家令が動こうとするのを侯爵が無言で手を小さく上げて止める。
「だって何よ。三歳の子供に意地悪されて逃げ出したとか、そんなの本気で言っているの? あなたそんな殊勝な性格していないでしょう?」
グレタは中々演技が達者だ。
わざと意地悪く聞こえる様にしているのだろうが、年下を虐める先輩メイドにしか見えない。
グレタの追及にくすんくすんと鼻を鳴らし肩を震わせだすパティに、ルーシーが動揺して私達がいる扉の方に視線を向けてしまう。
「あらあら、都合が悪くなると泣き真似? あなた嘘泣き得意だものね」
グレタが腕組みしてパティを見下ろすけれど、これは演技では無いのかもしれない。
パティだけでなく、グレタにも魔法は掛かっている。それをグレタには教えていない。
この魔法は思っていることを素直に話してしまうという効果があるが、それは嘘がつけないというわけではない。
簡単に言えば酒を飲み過ぎて酩酊している様な状態に似ている。
日頃は警戒心が強い人間も、酩酊している時は秘密にしていることをうっかり話したりしてしまうものだ、そして酒が抜けた翌日に自分のうっかりな行いを思い出し後悔する。そういう状態になる。
「泣き真似って、グレタそんな」
「ルーシーは優しいから騙されちゃうでしょうけれど、私そういうの見破るの得意なのよ。なにせ父の愛人の演技をずっと見て育ってきたのだもの」
あまり自慢できない境遇を、グレタは胸を張り話す。
そして、ぐいっとパティの腕を取り引っ張った。
「ほらね、涙が滲んでもいない。泣いてる振りよ」
予想外の物を見せられた侯爵夫人は、ふらりと侯爵の方に倒れ込んでしまった。
本当にこの人は心が弱い、だから子爵夫人に付け込まれたのだろう。そう思うけれど、気の毒だとは思わない。
「パティ……」
グレタに腕を取られ顔を見られたパティは、チッと舌打ちしながらグレタの手を振り払う。
その品の無い行いに、ルーシーは唖然としてパティを見つめている。
「泣き真似上手なパティ、本当はお嬢様に何をされたの」
「お嬢様に意地悪を……あの……それで」
パティは泣き真似が暴かれても懲りずにそう告げるが、その言葉は途切れがちだ。
さすがにどんな意地悪をされたかまでは考えていなかったのかもしれない、この屋敷にいる人間は優しい者が多いから泣いている子供に追及はしないだろうと考えていたのだろう。
「意地悪ねえ、いつ? ジョゼットさんはその時側にいなかったの?」
「今日お母さんは奥様と仕立て屋とお話をしていて、午前中は私だけ……お、お嬢様についていて……もういいじゃないですか、どうせ二人とも私が侍女頭様に怒られていい気味だって思ってるんでしょ! 何よ二人に嫌味を言われたって家令様に言いつけてやるわ!」
パティは立ち上がると、腹立ち紛れにソファーの背に掛けてあった服を床に払い落とす。
「何て言うつもり? 今日お嬢様に意地悪をされて、それで仕事を怠けたことを私に笑われたとでも言うの? それで追及されるのが嫌で泣き真似したらそれも私が意地悪く指摘したとでも?」
「グレタ」
「ルーシー、私達パティに言いつけられちゃうみたいよ。じゃあ、私はパティがお嬢様の服を乱暴に扱っていたと侍女頭様に言おうかしら」
ニヤニヤとグレタはパティに詰め寄るけれど、パティは「家令様は私の味方だもの! きっと私が言ったらあなたを罰してくれるわっ!」と声を上げる。
パティのその声に、ちらりと家令の方に視線を向けると彼は真っ青な顔で扉の向こうの会話を聞いていた。
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