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キム先生の試し4 (キム先生視点)
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「なぜお二人がここに?」
ルーシーとグレタがミルフィ様の私室で準備していると、侍女頭殿と共にパティが部屋に入って来た。
パティは何も聞かされていなかったのか、とても驚いた様子でルーシー達に尋ねている。
「こんなこと、酷い」
「夫人、黙っていられないなら今すぐ向こうの扉から出て下さい」
私と侯爵夫妻と家令と執事長はミルフィ様の私室の右隣にある小さな応接間で、寝室に続く部屋側の扉を薄く開きルーシー達の様子を窺っている。
ミルフィ様が普段使われている部屋は、今私達がいる部屋、普段ミルフィ様が過ごす私室、寝室で、私室と寝室どちらからも入れる衣裳部屋もある。寝室には手洗いと浴室もあり応接間の隣にはお茶の用意が出来る程度の水場もあるそうだ。
裕福な侯爵家だから、すべての水場は魔石を大量に使う魔道具が備えられているし、灯りもすべて魔道具だ。
「あなた……」
「キム先生の言う通りだよ。これはミルフィーヌの為に必要なことだ。パティを可愛がっていた君には残酷な結果になるかもしれないが、堪えなさい」
「……はい」
侯爵に説得された侯爵夫人は私に恨めしそうな視線を向けた後、ハンカチを口元に当て小さく了承を示す。
侯爵の背後には、不満そうな表情を隠そうともしていない家令と困惑している様子の執事長が立っている。この二人はパティがこの屋敷に来た時から幼い彼女を気遣っていたらしいから、私の試しが不満なのだろう。
「お前達も何があっても声を出さず見ていなさい」
「「はい、旦那様」」
了承の意を示しながら、不満そうな二人に侯爵は失望している様に見える。
この家は上手く行っている様で、実は問題だらけだったのかもしれないと、ぼんやりと思いながらパティ達の会話に聞き耳を立てる。
「お嬢様がもう着られない服は先日片付けました。まだ確認が必要ですか」
パティがルーシー達を睨むように見ながら、侍女頭に聞いている。
年下でも、ミルフィ様関係なことは自分の方が把握していると示したいのだろうか。
「それは知っています。先程ルーシー達には説明しましたが、ミルフィーヌお嬢様とお年が近い寄子の家の令嬢に何着か服を譲ることになりました。でも、ミルフィーヌお嬢様のお気に入りの服は残して置かなければいけませんよ」
「畏まりました。それなら私だけで選べます」
パティは少し強気に言うが、侍女頭は即座に首を横に振る。
「パティ、先程私に指導を受けることになった理由を忘れているようね」
「そんなことありません」
「では、素直に私の指示に従いなさい」
大きなため息を吐き、侍女頭は「候補を五着選んだら、皺一つ無いように手入れなさい。終わったらグレタ呼びに来てくれふ?」と言って部屋を出ていった。
なる程、グレタに理由を作り部屋を出てもらい、ルーシーとパティだけになる様にすると侍女頭には段取りを伝えていたが、自然にグレタが部屋を出られる様に考えてくれたらしい。
「ドレスはすでに出してあるわ」
ルーシーが自分の胸の辺りに触れながらパティに近付き告げると、パティは服に駆け寄り「ああっ、これも、こっちもお嬢様のお気に入りです!」と大袈裟に騒ぎ始める。
「私達は侍女頭様から、お嬢様の服を出しておく様に言われただけだもの。片付けるのは私がするから、あなたはしっかり選んでよ」
素知らぬ振りで外出着らしい服をソファの背に掛けているルーシーを横目に、グレタがパティに指示を出す。
年齢で言えば、グレタが一番年上の様だからこのやり取りは良いと思う。
「言われなくてもやります。お嬢様はお気に入りの服が無いと暴れるというのに誰も分かっていないんだから」
チラチラとルーシーを見ながら、グレタに向かってうんざりしていると意思表示する。
「あら、お嬢様ってそんな感じなの?」
「……グレタさんは奥様付きだからご存知ないんでしょうけれど、いつもですよ」
ルーシーはさっき服の下に隠している魔道具に触れ魔法を発動させた筈、そのせいかパティはいつもより口調が荒い気がする。
「へええ、そうなのルーシー?」
「私はそんな風に感じたことないわ。それよりのんびりしていたら侍女頭様に注意されてしまうわよ」
ルーシーは二人から距離を取らない、でも近付き過ぎない距離で仕事をしている。
少し離れすぎたとしても、すぐに魔道具の魔法を重ねかけすれば問題はないがなるべく近くにいた方がいい。
「はいはい、ルーシーは真面目ね」
「本当ですね、真面目過ぎて嫌味です」
軽い口調で言うグレタと、棘があるように聞こえるパティ。
これが魔道具の魔法の効果なのかどうか分からないが、私のすぐ近くに立つ侯爵夫人にはこれでも刺激が強いようだ。
「真面目って、私はのんびりしていてはいけないって、そう思ったから」
「ルーシーが真面目なのは事実だけど、それは悪いことじゃないし、今のは嫌味でもなんでも無いわよ」
グレタがルーシーを庇うのを、パティは面白くなさそうに睨む。
「嫌味じゃないなら、優等生の振りとでも言えばいいですか?」
これは魔法の効きが良すぎるのか? パティは遠慮無く本心を言っている様に見える。
「パティって、男の人がいないとそんな感じなのね。知らなかったあ」
魔法が良く効いている故の言動なら順調だと、そう思っていた矢先に、クスクスとグレタが笑いだしたのだ。
ルーシーとグレタがミルフィ様の私室で準備していると、侍女頭殿と共にパティが部屋に入って来た。
パティは何も聞かされていなかったのか、とても驚いた様子でルーシー達に尋ねている。
「こんなこと、酷い」
「夫人、黙っていられないなら今すぐ向こうの扉から出て下さい」
私と侯爵夫妻と家令と執事長はミルフィ様の私室の右隣にある小さな応接間で、寝室に続く部屋側の扉を薄く開きルーシー達の様子を窺っている。
ミルフィ様が普段使われている部屋は、今私達がいる部屋、普段ミルフィ様が過ごす私室、寝室で、私室と寝室どちらからも入れる衣裳部屋もある。寝室には手洗いと浴室もあり応接間の隣にはお茶の用意が出来る程度の水場もあるそうだ。
裕福な侯爵家だから、すべての水場は魔石を大量に使う魔道具が備えられているし、灯りもすべて魔道具だ。
「あなた……」
「キム先生の言う通りだよ。これはミルフィーヌの為に必要なことだ。パティを可愛がっていた君には残酷な結果になるかもしれないが、堪えなさい」
「……はい」
侯爵に説得された侯爵夫人は私に恨めしそうな視線を向けた後、ハンカチを口元に当て小さく了承を示す。
侯爵の背後には、不満そうな表情を隠そうともしていない家令と困惑している様子の執事長が立っている。この二人はパティがこの屋敷に来た時から幼い彼女を気遣っていたらしいから、私の試しが不満なのだろう。
「お前達も何があっても声を出さず見ていなさい」
「「はい、旦那様」」
了承の意を示しながら、不満そうな二人に侯爵は失望している様に見える。
この家は上手く行っている様で、実は問題だらけだったのかもしれないと、ぼんやりと思いながらパティ達の会話に聞き耳を立てる。
「お嬢様がもう着られない服は先日片付けました。まだ確認が必要ですか」
パティがルーシー達を睨むように見ながら、侍女頭に聞いている。
年下でも、ミルフィ様関係なことは自分の方が把握していると示したいのだろうか。
「それは知っています。先程ルーシー達には説明しましたが、ミルフィーヌお嬢様とお年が近い寄子の家の令嬢に何着か服を譲ることになりました。でも、ミルフィーヌお嬢様のお気に入りの服は残して置かなければいけませんよ」
「畏まりました。それなら私だけで選べます」
パティは少し強気に言うが、侍女頭は即座に首を横に振る。
「パティ、先程私に指導を受けることになった理由を忘れているようね」
「そんなことありません」
「では、素直に私の指示に従いなさい」
大きなため息を吐き、侍女頭は「候補を五着選んだら、皺一つ無いように手入れなさい。終わったらグレタ呼びに来てくれふ?」と言って部屋を出ていった。
なる程、グレタに理由を作り部屋を出てもらい、ルーシーとパティだけになる様にすると侍女頭には段取りを伝えていたが、自然にグレタが部屋を出られる様に考えてくれたらしい。
「ドレスはすでに出してあるわ」
ルーシーが自分の胸の辺りに触れながらパティに近付き告げると、パティは服に駆け寄り「ああっ、これも、こっちもお嬢様のお気に入りです!」と大袈裟に騒ぎ始める。
「私達は侍女頭様から、お嬢様の服を出しておく様に言われただけだもの。片付けるのは私がするから、あなたはしっかり選んでよ」
素知らぬ振りで外出着らしい服をソファの背に掛けているルーシーを横目に、グレタがパティに指示を出す。
年齢で言えば、グレタが一番年上の様だからこのやり取りは良いと思う。
「言われなくてもやります。お嬢様はお気に入りの服が無いと暴れるというのに誰も分かっていないんだから」
チラチラとルーシーを見ながら、グレタに向かってうんざりしていると意思表示する。
「あら、お嬢様ってそんな感じなの?」
「……グレタさんは奥様付きだからご存知ないんでしょうけれど、いつもですよ」
ルーシーはさっき服の下に隠している魔道具に触れ魔法を発動させた筈、そのせいかパティはいつもより口調が荒い気がする。
「へええ、そうなのルーシー?」
「私はそんな風に感じたことないわ。それよりのんびりしていたら侍女頭様に注意されてしまうわよ」
ルーシーは二人から距離を取らない、でも近付き過ぎない距離で仕事をしている。
少し離れすぎたとしても、すぐに魔道具の魔法を重ねかけすれば問題はないがなるべく近くにいた方がいい。
「はいはい、ルーシーは真面目ね」
「本当ですね、真面目過ぎて嫌味です」
軽い口調で言うグレタと、棘があるように聞こえるパティ。
これが魔道具の魔法の効果なのかどうか分からないが、私のすぐ近くに立つ侯爵夫人にはこれでも刺激が強いようだ。
「真面目って、私はのんびりしていてはいけないって、そう思ったから」
「ルーシーが真面目なのは事実だけど、それは悪いことじゃないし、今のは嫌味でもなんでも無いわよ」
グレタがルーシーを庇うのを、パティは面白くなさそうに睨む。
「嫌味じゃないなら、優等生の振りとでも言えばいいですか?」
これは魔法の効きが良すぎるのか? パティは遠慮無く本心を言っている様に見える。
「パティって、男の人がいないとそんな感じなのね。知らなかったあ」
魔法が良く効いている故の言動なら順調だと、そう思っていた矢先に、クスクスとグレタが笑いだしたのだ。
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