後悔はなんだった?

木嶋うめ香

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キム先生の試し2 (ルーシー視点)

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 魔法誓約とは恐ろしいものだと私は幼い頃から家庭教師に教えられていた、その誓約は絶対で条件が緩いと言う人がいるなんて思いもしなかった。
 
「魔法誓約を使用人全員に行うって、費用がかなり掛かると聞いてますが? 先生はその誓約に掛けたお金が無駄になっていると仰っている様に聞こえますけれど違いますか?」

 私が単純にキム先生の言葉に驚いている間に、グレタは興味深げにキム先生に尋ねている。
 グレタと私の考えの方向はこんなにも違うのだと、新たに気付く。
 私はただ驚いていただけ、グレタはキム先生の言葉からその意図を読み取っている様に思う。

「無駄? そうですね、無駄というよりも侯爵夫妻の人のよさと今までこれで済んでいた運の良さに驚いています」

 人のよさと運の良さ、それが誉め言葉ではないのは私にも分かる。
 キム先生は、先程奥様に憤りを感じている様に見えた。
 子爵夫人やパティを心から信じていた奥様にとって、先程の話はとても辛いものだったと思うから、私は涙を流し悲しむ奥様のお心を案じ自分の胸が締め付けられる思いがしていたのだ。

「人のよさ、私はそれに助けられていますけれどね」
「この屋敷で働く者なら、そう思う者は多いでしょうね」

 キム先生はグレタに同意している様に見えるけれど、グレタは違うみたいだ。
 
「何か含みがある様に聞こえてしまいますけれど、私ごときが踏み入れる話ではないのでしょう。それでもあえて申し上げます。私は旦那様と奥様に日々感謝しております。お二人は私の恩人ですから魔法誓約の条件がどんなに緩いものであっても、私は誠心誠意この家にお仕えしますし、恩ある旦那様と奥様への侮辱は聞きたくありません」
「グレタ、あなた何を言いだすの!」

 グレタがキム先生に使用人にあるまじき事を言い出したから、慌てて止める。

「ルーシー止めないで」
「グレタ!」
「全く、この家の者は困った人ばかりですね。止めなければならない者には見て見ぬ振りをして、いざ指摘すると泣きわめき、後悔していると嘆き出す」

 キム先生の灰色の目は、冷たくグレタを見つめているけれど、キム先生は違う人に向けて話している様に感じるのはきのせいなのだろうか。

「何が言いたいのですか」
「忠誠心は大いに結構、誠心誠意仕えるのは素晴らしい」
「だから何を」

 グレタは苛立ちをぶつける様に声を上げるから、私は思わず彼女の腕を掴み止める。
 キム先生はそんなことなさらないと思うけれど、グレタの言葉は使用人として行き過ぎている。
 こんなの普通なら叱責ものだ。

「あなたやルーシーの様な忠義者ばかりだと、人のよい侯爵と夫人は信じているのです。何も無い時はそれでもいいでしょうが、魔法誓約をしているから安心だと安易に考え、他人の言葉だけを信じて自分は相手を信じているからと動かないから、悪い心を正当化し動く者が出てきてしまう」
「だから何を」
「魔法誓約の条件の緩さの話です。今回の件が落ち着いたらそれを見直して再誓約して頂いた方が良いのでしょうね」

 キム先生は一人納得している様だけれど、私には全く理解出来ない。

「……自分が悪いと思っていなければ、誓約に反していないことになってしまうのですよ」
「「え?」」

 それが条件の緩さなのだろうか。
 私とグレタは顔を見合わせ、首を傾げてしまう。
 キム先生が何を言いたいのか、私はまだ理解出来ない。

「パティが今までリボンやお菓子を盗んでいても、自分がミルフィ様に不利益を与えていると自覚していない。だから誓約に反していると判定されず、罰が与えられていないのです」

 それならパティは盗みが罪でないと考えていることになる。
 そんなことあるだろうか。

「あなた達はパティに罪の意識が無いかもしれない。それを考慮した上で彼女の本心を探って下さい」

 私達の戸惑いをそのままに、キム先生は会話を終了してしまったのだった。
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