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キム先生の試し1 (ルーシー視点)
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「それでわざわざ使用人棟までいらっしゃったと?」
使用人棟のグレタの部屋に私を伴い現れたキム先生の試しの説明に、呆れた様な表情を見せつつグレタは口を開いた。
キム先生の発案で、これからパティにある試しを行う。
その試しとは、今日グレタに使った魔道具を使い『気持ちを隠すこと無く言葉にする』の魔法をパティに掛け、彼女の考えを旦那様と奥様に見て貰うというものだ。
魔道具についてグレタには説明しなかった。
それは、パティの発言にグレタがどう思ったか、その気持ちを隠さずに発言して貰うためだ。
つまり、『気持ちを隠すこと無く言葉にする』の魔法はグレタにも掛けるというわけだ。
「ええ、パティにはミルフィ様が今日自室には一度も戻っていないことも、熱を出されてセドリック様の部屋にいることも話してはいません。ですからあなたに『ミルフィ様に意地悪をされたって聞いたけど、どんなことをされたのか教えて欲しい』とパティに聞いて、ミルフィお嬢様からいつ意地悪をされたのか確認して欲しいのです。ルーシーは『お嬢様は意地悪なんてしないと思う』とミルフィ様を庇って下さい」
「私はミルフィーヌお嬢様を庇わなくていいんですか?」
「あなたは日頃ミルフィ様と接点はないでしょう? 今日セドリック様の部屋でミルフィ様についていたことをパティは知りません。だからその話はしないように」
キム先生の説明に、グレタは口元に左手の人差し指をトントンと触れさせながら考えている。
彼女は私よりも余程状況把握が出来る人だと思うし、人の思惑を察するのも上手いと思う。キム先生の言葉が本当なのかそれとも上辺だけで別の意図が隠されているのか考えているのかもしれない。
「パティの話をある程度聞いたら、あなたは用事を思い出したとでも言って、一旦部屋から出て下さい。その後のルーシーとパティの会話次第で、あなたへの指示を変えます」
私の役割はそこからが重要だと、ごくりと唾を飲み込む。
「意地悪されたのが今日だとパティが話すのが前提ですが、ルーシーあなたは彼女が部屋から出た後で、パティに『ミルフィ様は、今日部屋に戻っていないのになぜそんな嘘を吐くのか』と聞いてください」
キム先生が私へ出す指示を聞いて、グレタが小さく息を吐く。
それがキム先生を馬鹿にしているように聞こえて、驚いてしまう。
「先生は、随分と回りくどいことをされるのですね。そんなことをせずに、高価なリボンを盗んだという理由だけで解雇できるでしょうに。まあ、お嬢様がパティにあげたリボンを惜しくなって盗まれたと嘘を言っていると思う者もいるかもしれませんけれどね」
他の使用人は、パティから『お嬢様からリボンを頂いた』と聞かされているのに、パティが盗んだと言ってそれを信じる使用人はどの程度いるだろう。
グレタはそう言いたいのだ。
「解雇する為に確認するのではありません。パティの悪意を侯爵夫妻と他の方に理解して貰う為にするのです」
キム先生の考えに、私とグレタは目を見開く。
「侯爵夫妻は優しい方々ですから、使用人の解雇にも慎重です。でも、本来盗みを働く使用人に遠慮も情けも不要です。悪い事をする者は排除するべきです。主が幼いから、何も分からないだろうからと無責任に嘘の噂を広めるのも、盗みを働くのも使用人の行いどころか、人として最低なことです。それを些細なことだからと許しては、他の者に悪影響を及ぼしかねない」
「それは……そうかもしれませんけど」
「この屋敷では雇用される際、魔法誓約を結ぶと聞いています。そうですねルーシー」
急に話題が変わり、グレタはキム先生の真意を測る様な表情をする。
「はい、侯爵家に不利益になる行いをしない。見聞きしたことを他に漏らさない等の誓いをします」
「やはり、この家で行われている魔法誓約はかなり条件が緩いらしい」
「条件が緩い?」
魔法誓約とは、誓約書に記した事柄について違反しないと誓うものだ。
魔法誓約に背くと、誓約書に記された罰が与えられる。
侯爵家と行っている魔法誓約では、左手の甲に罪人の印が現れるという罰だ。
罪人の印というのは、犯罪を犯した者が受ける刑罰の一つとして、神官から額につけられる印のことだ。
神話に出てくる、神を欺き罪を犯した人が持っていたある花の形が基になっているそうだけれど、罪人の印はとても花には見えない不思議な形をしている。
神官が罪人につける印も、魔法誓約に背き現れる印も、心から罪を償い神の許しを頂けない限り消えない。
使用人棟のグレタの部屋に私を伴い現れたキム先生の試しの説明に、呆れた様な表情を見せつつグレタは口を開いた。
キム先生の発案で、これからパティにある試しを行う。
その試しとは、今日グレタに使った魔道具を使い『気持ちを隠すこと無く言葉にする』の魔法をパティに掛け、彼女の考えを旦那様と奥様に見て貰うというものだ。
魔道具についてグレタには説明しなかった。
それは、パティの発言にグレタがどう思ったか、その気持ちを隠さずに発言して貰うためだ。
つまり、『気持ちを隠すこと無く言葉にする』の魔法はグレタにも掛けるというわけだ。
「ええ、パティにはミルフィ様が今日自室には一度も戻っていないことも、熱を出されてセドリック様の部屋にいることも話してはいません。ですからあなたに『ミルフィ様に意地悪をされたって聞いたけど、どんなことをされたのか教えて欲しい』とパティに聞いて、ミルフィお嬢様からいつ意地悪をされたのか確認して欲しいのです。ルーシーは『お嬢様は意地悪なんてしないと思う』とミルフィ様を庇って下さい」
「私はミルフィーヌお嬢様を庇わなくていいんですか?」
「あなたは日頃ミルフィ様と接点はないでしょう? 今日セドリック様の部屋でミルフィ様についていたことをパティは知りません。だからその話はしないように」
キム先生の説明に、グレタは口元に左手の人差し指をトントンと触れさせながら考えている。
彼女は私よりも余程状況把握が出来る人だと思うし、人の思惑を察するのも上手いと思う。キム先生の言葉が本当なのかそれとも上辺だけで別の意図が隠されているのか考えているのかもしれない。
「パティの話をある程度聞いたら、あなたは用事を思い出したとでも言って、一旦部屋から出て下さい。その後のルーシーとパティの会話次第で、あなたへの指示を変えます」
私の役割はそこからが重要だと、ごくりと唾を飲み込む。
「意地悪されたのが今日だとパティが話すのが前提ですが、ルーシーあなたは彼女が部屋から出た後で、パティに『ミルフィ様は、今日部屋に戻っていないのになぜそんな嘘を吐くのか』と聞いてください」
キム先生が私へ出す指示を聞いて、グレタが小さく息を吐く。
それがキム先生を馬鹿にしているように聞こえて、驚いてしまう。
「先生は、随分と回りくどいことをされるのですね。そんなことをせずに、高価なリボンを盗んだという理由だけで解雇できるでしょうに。まあ、お嬢様がパティにあげたリボンを惜しくなって盗まれたと嘘を言っていると思う者もいるかもしれませんけれどね」
他の使用人は、パティから『お嬢様からリボンを頂いた』と聞かされているのに、パティが盗んだと言ってそれを信じる使用人はどの程度いるだろう。
グレタはそう言いたいのだ。
「解雇する為に確認するのではありません。パティの悪意を侯爵夫妻と他の方に理解して貰う為にするのです」
キム先生の考えに、私とグレタは目を見開く。
「侯爵夫妻は優しい方々ですから、使用人の解雇にも慎重です。でも、本来盗みを働く使用人に遠慮も情けも不要です。悪い事をする者は排除するべきです。主が幼いから、何も分からないだろうからと無責任に嘘の噂を広めるのも、盗みを働くのも使用人の行いどころか、人として最低なことです。それを些細なことだからと許しては、他の者に悪影響を及ぼしかねない」
「それは……そうかもしれませんけど」
「この屋敷では雇用される際、魔法誓約を結ぶと聞いています。そうですねルーシー」
急に話題が変わり、グレタはキム先生の真意を測る様な表情をする。
「はい、侯爵家に不利益になる行いをしない。見聞きしたことを他に漏らさない等の誓いをします」
「やはり、この家で行われている魔法誓約はかなり条件が緩いらしい」
「条件が緩い?」
魔法誓約とは、誓約書に記した事柄について違反しないと誓うものだ。
魔法誓約に背くと、誓約書に記された罰が与えられる。
侯爵家と行っている魔法誓約では、左手の甲に罪人の印が現れるという罰だ。
罪人の印というのは、犯罪を犯した者が受ける刑罰の一つとして、神官から額につけられる印のことだ。
神話に出てくる、神を欺き罪を犯した人が持っていたある花の形が基になっているそうだけれど、罪人の印はとても花には見えない不思議な形をしている。
神官が罪人につける印も、魔法誓約に背き現れる印も、心から罪を償い神の許しを頂けない限り消えない。
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