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不器用な人なのかもしれない6 (ルーシー視点)
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「だから心配なんです、ミルフィ様がパティのことで傷付いてしまわれるのが。そうなってしまったら、子爵夫人の時よりも深く深く、ミルフィ様の心の奥底まで傷付いてしまうかもしれない」
キム先生の声はとても自信がなく不安そうに、私とキム先生以外誰もいない廊下に響く。
魔法使いという人達は自分と魔法のこと以外考えない、理解し合えない生き物だと私の兄は昔吐き捨てる様に言っていたことがある。
私の家で、父と兄の言うことは絶対だったから、そういう物なのかと理由も分からず信じていた。
だからキム先生がこの屋敷にいらっしゃるようになり、私は一人身構えていた。
まだ幼いセドリック様とミルフィーヌお嬢様が魔法を習うと聞いて、驚いたのも理由の一つだった。
学校に通う年齢でも魔法を勉強するのは難しいというのに、とても賢く大人と同じ様な会話が出来るとはいえ、そのセドリック様ですらまだ五歳、ミルフィーヌお嬢様はまだ三歳という幼さで、それも宮廷魔法使いを招いて教えて貰うなんて驚くなという方が無理な話だ。
宮廷魔法使いなんて、それこそ兄が毛嫌いしていた。
兄は、あいつらは同じ人間とは思えない。常識が全く通じない魔法馬鹿ばかりだと言っていたのだから。
「私も心配です。セドリック様は一時的に私をミルフィーヌお嬢様付にと仰っていましたが、私では繊細なミルフィーヌお嬢様をお支え出来ないかもしれません」
「そんなことありません。あなたはとても気遣いが出来る方だし、セドリック様がとても信頼しているではありませんか」
不安だと私が言うと、キム先生は優しい言葉で励ましてくれる。
彼は、『理解し合えない生き物』と言っていた宮廷魔法使いだというのに、私はキム先生の人柄を良く知らないまま警戒し身構えていたのに。
始めのころは不愛想という表情しかしていなかった彼が、ミルフィーヌお嬢様に接する時とても柔らかい表情をすると気が付いたのはいつ頃からだったろう?
食事を嬉しそうにしている顔、セドリック様に魔法を掛けているミルフィーヌお嬢様を見つめる真剣な顔、そういう様々な顔を見て、キム先生と会話を繰り返す内に兄が言っていたのは間違いだったと気が付いた。
一見無愛想だし、言い方がキツイと感じることもあるけれど、それでも理不尽なことは言わないししない方なのだと、実の兄より余程信じられる方だと思うようになった。
「信頼。セドリック様からの信頼を裏切らない様に、精一杯お仕えしたいと思っています。私に出来るのは誠心誠意侯爵家とセドリック様にお仕えすることですから」
「あなたなら大丈夫です。あなたは信用出来る方だと思いますから」
「ありがとうございます。私もキム先生を信頼しています。私に至らないことがあったら、どうか教えて下さい。幼いお二人がこれ以上傷つけられない様に、私がお二人を支えたいのです」
灰色の瞳が優しく細められ、薄い唇の端が上がる。
人の気持ちを操作する恐ろしい魔道具を渡された時は、やっぱり魔法使いは理解し合えない生き物なのかと怯えたけれど、キム先生は誰かを傷つけたくてそれを私に使わせたのでは無かった。
ただ彼はミルフィーヌお嬢様を守りたいだけなんだと、思う。
少し不器用なだけ、自分が人にどう思われるかより、ミルフィーヌお嬢様を真摯に守ろうとしている。
それだけなのだと、そう思う。
「それでは約束して下さい。私が誰かを傷つけそうになったら、あなたが私を止めて下さい。私は少しやり過ぎてしまうことがあります。先程も侯爵夫人を追い詰めてしまった。侯爵にずっと守られていたか弱い夫人を、母親なのに娘を守ろうとすらしないのかと憤りを感じて、酷く問い詰めてしまった」
後悔しているとばかりに、長身の体でしゅんと項垂れているキム先生を慰めたいと、なぜか思ってしまう。
彼は奥様を無意味に責めようとしていたわけではないと思う、ミルフィーヌお嬢様の気持ちを思い心配していただけなんだと。私は知っている。
「約束致します。私なんかが少しでもキム先生のお力になれるのなら、喜んで」
「なんか等言わないで下さい。あなただからお願いするのですから」
キム先生の言葉に、胸が熱くなる。
この国で宮廷魔法使いという人の地位はとても高い。
宮廷魔法使いになっただけで、もし平民がそうなれたらこの国では一代限りの魔法師爵というものになれるし、貴族なら領地は無しだけれどそれでも最低限男爵位を与えられるし、功績を上げれば爵位が上がっていく。
キム先生の実家は伯爵位を賜っているけれど、キム先生自身も宮廷魔法使いとして伯爵位を賜っているのだから、とてもとても実力がある方なのだと思う。
そんな方に信頼されて、嬉しくないわけがない。
「これからあなたにとって辛い事をしてもらわなければなりません」
「分かっています。それでもやり遂げまでみせます」
「ありがとう、どうかミルフィ様を守るために協力して下さい」
キム先生はどうしてこんなにミルフィーヌお嬢様を守ろうとしているのか、彼女の先生だから? それが理由なのか分からないけれど、私だって気持ちは同じだ。ミルフィーヌお嬢様を守りたい。
キム先生と二人で、守ってみせる。
キム先生の声はとても自信がなく不安そうに、私とキム先生以外誰もいない廊下に響く。
魔法使いという人達は自分と魔法のこと以外考えない、理解し合えない生き物だと私の兄は昔吐き捨てる様に言っていたことがある。
私の家で、父と兄の言うことは絶対だったから、そういう物なのかと理由も分からず信じていた。
だからキム先生がこの屋敷にいらっしゃるようになり、私は一人身構えていた。
まだ幼いセドリック様とミルフィーヌお嬢様が魔法を習うと聞いて、驚いたのも理由の一つだった。
学校に通う年齢でも魔法を勉強するのは難しいというのに、とても賢く大人と同じ様な会話が出来るとはいえ、そのセドリック様ですらまだ五歳、ミルフィーヌお嬢様はまだ三歳という幼さで、それも宮廷魔法使いを招いて教えて貰うなんて驚くなという方が無理な話だ。
宮廷魔法使いなんて、それこそ兄が毛嫌いしていた。
兄は、あいつらは同じ人間とは思えない。常識が全く通じない魔法馬鹿ばかりだと言っていたのだから。
「私も心配です。セドリック様は一時的に私をミルフィーヌお嬢様付にと仰っていましたが、私では繊細なミルフィーヌお嬢様をお支え出来ないかもしれません」
「そんなことありません。あなたはとても気遣いが出来る方だし、セドリック様がとても信頼しているではありませんか」
不安だと私が言うと、キム先生は優しい言葉で励ましてくれる。
彼は、『理解し合えない生き物』と言っていた宮廷魔法使いだというのに、私はキム先生の人柄を良く知らないまま警戒し身構えていたのに。
始めのころは不愛想という表情しかしていなかった彼が、ミルフィーヌお嬢様に接する時とても柔らかい表情をすると気が付いたのはいつ頃からだったろう?
食事を嬉しそうにしている顔、セドリック様に魔法を掛けているミルフィーヌお嬢様を見つめる真剣な顔、そういう様々な顔を見て、キム先生と会話を繰り返す内に兄が言っていたのは間違いだったと気が付いた。
一見無愛想だし、言い方がキツイと感じることもあるけれど、それでも理不尽なことは言わないししない方なのだと、実の兄より余程信じられる方だと思うようになった。
「信頼。セドリック様からの信頼を裏切らない様に、精一杯お仕えしたいと思っています。私に出来るのは誠心誠意侯爵家とセドリック様にお仕えすることですから」
「あなたなら大丈夫です。あなたは信用出来る方だと思いますから」
「ありがとうございます。私もキム先生を信頼しています。私に至らないことがあったら、どうか教えて下さい。幼いお二人がこれ以上傷つけられない様に、私がお二人を支えたいのです」
灰色の瞳が優しく細められ、薄い唇の端が上がる。
人の気持ちを操作する恐ろしい魔道具を渡された時は、やっぱり魔法使いは理解し合えない生き物なのかと怯えたけれど、キム先生は誰かを傷つけたくてそれを私に使わせたのでは無かった。
ただ彼はミルフィーヌお嬢様を守りたいだけなんだと、思う。
少し不器用なだけ、自分が人にどう思われるかより、ミルフィーヌお嬢様を真摯に守ろうとしている。
それだけなのだと、そう思う。
「それでは約束して下さい。私が誰かを傷つけそうになったら、あなたが私を止めて下さい。私は少しやり過ぎてしまうことがあります。先程も侯爵夫人を追い詰めてしまった。侯爵にずっと守られていたか弱い夫人を、母親なのに娘を守ろうとすらしないのかと憤りを感じて、酷く問い詰めてしまった」
後悔しているとばかりに、長身の体でしゅんと項垂れているキム先生を慰めたいと、なぜか思ってしまう。
彼は奥様を無意味に責めようとしていたわけではないと思う、ミルフィーヌお嬢様の気持ちを思い心配していただけなんだと。私は知っている。
「約束致します。私なんかが少しでもキム先生のお力になれるのなら、喜んで」
「なんか等言わないで下さい。あなただからお願いするのですから」
キム先生の言葉に、胸が熱くなる。
この国で宮廷魔法使いという人の地位はとても高い。
宮廷魔法使いになっただけで、もし平民がそうなれたらこの国では一代限りの魔法師爵というものになれるし、貴族なら領地は無しだけれどそれでも最低限男爵位を与えられるし、功績を上げれば爵位が上がっていく。
キム先生の実家は伯爵位を賜っているけれど、キム先生自身も宮廷魔法使いとして伯爵位を賜っているのだから、とてもとても実力がある方なのだと思う。
そんな方に信頼されて、嬉しくないわけがない。
「これからあなたにとって辛い事をしてもらわなければなりません」
「分かっています。それでもやり遂げまでみせます」
「ありがとう、どうかミルフィ様を守るために協力して下さい」
キム先生はどうしてこんなにミルフィーヌお嬢様を守ろうとしているのか、彼女の先生だから? それが理由なのか分からないけれど、私だって気持ちは同じだ。ミルフィーヌお嬢様を守りたい。
キム先生と二人で、守ってみせる。
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