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不器用な人なのかもしれない4 (ルーシー視点)
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「その想像が当たっていたとして、なぜそんなことを思わせようとしたのでしょうか」
子爵夫人が旦那様に執着していたとしても、奥様に母親失格だと思わせる理由が分からなくて尋ねる。
「あなたは仕事熱心だ。自分でもセドリック様に精一杯仕えていると考えていますよね」
「それは勿論です」
私は日々誠心誠意セドリック様にお仕えしている。
最近はミルフィーヌお嬢様の魔法のお陰で体調を崩す頻度は減ってきているけれど、それでも油断は出来ないからほんの少しの変化も見逃さない様に、セドリック様を見守りながら雑務をこなしている。
それは私だけでなく、セドリック様付きの者は皆そうだ。
「私もあなたを見ていてそう感じます。でも、もしあなたが信頼している方に、『セドリック様はあなたが信用出来ないと嘆いていた』と言われたらどう思いますか?」
「え」
キム先生が急に、私が想像もしていなかったことを言いだすから驚きそして最近の自分の仕事ぶりを振り返る。
私は何かセドリック様の不興を買う様なことをしていたのだろうか。
「今のは例えです。どうです? 不安になりましたか?」
「はい、とても。私がセドリック様に何かしてしまったのかと」
「では、今の様なことを何度も言われたら? 『内緒にしておくように言われたけれど、あなたが心配だから打ち明けたのよ。皆知っているのに、当事者のあなたが知らないのは気の毒だと思って』とあなたを、さも案じているから言っているのだと言う感じで言われたら?」
何度も『セドリック様から信用されていない』と、自分が信頼している人から言われたら、セドリック様の近くでお仕えするのが怖くなるだろう。
私の一挙一動、それの何が悪いのか分からないのだから、何をしてもしなくても不安でたまらなくなると思う。
「セドリック様がなぜ私を信用しなくなったのか、その理由が分からないのは不安になると思います。何かしたのかそれともしなかったのか、理由が分からないなら改善出来ませんし、そうしたら……」
「そうしたら?」
「それでも何とか自分の悪いところを改めようと努力すると思いますが、それでもセドリック様に信用されないままだったとしたら、配置換えをお願いしてしまうかも」
情けないと思うけれど、最終的に私は逃げてしまうかもしれない。
「配置換えは認められないとしたら?」
「その時はなるべくセドリック様の目に触れないように、裏方の仕事に……え、そういうことですか?」
今私は例えの話をしていただけだというのに、それでもとても辛い気持ちになった。
でも、今の話を奥様と子爵夫人に当てはめたらどうだろう? 『あなたが心配だから伝えるけれど、ミルフィーヌお嬢様はあなたは母親失格だと、そう思っている』と子爵夫人が何度も奥様に言っていたとしたら?
「ミルフィーヌお嬢様の様子を子爵夫人は度々見に行っていて、その時にミルフィーヌお嬢様が奥様のことを……さすがに母親失格なんて言葉はご存じないとしても、それに近いことを思っている様だと、奥様に話をしていた?」
「ええ、例えば『セドリック様の事ばかり気にして、自分は蔑ろにされていると言っていた』とか『子爵夫人とジョゼットとパティ以外信じられないと言っていた』とか。そういった事を繰り返し言っていたとしたら、侯爵夫人の性格なら思い詰めてしまい、ミルフィ様に近寄れなくなるのではないかと」
キム先生の想像でしかないのに、私はそれが真実にしか思えなくなっている。
だって、私はキム先生の例えだけで不安になった。自信が無くなった。
奥様はとても子爵夫人を信じていたのだから、もしそんな人から言われたらどうしていいか分からなくなるかもしれない。
「侯爵夫人が流産で心が弱っていた時に『あなたの代わりに私がミルフィ様の傍にいるから安心して』と言われたらあの方なら任せてしまうのではないでしょうか」
「それはそうかもしれません。でも、どうしてそんなことを?」
「子爵夫人は自分がミルフィ様を虐待する為に、ミルフィ様の近くに人を増やしたくなかったのではないかと、侯爵は日々忙しいですから元々ミルフィ様と接する時間は少なかったですが、侯爵夫人は比較的屋敷にいる時間はある。実際セドリック様とはご一緒に居られることがあったのですから、普通であればミルフィ様が成長されるにつれ奥様とミルフィ様が共に過ごされる時間も増えていく。それを子爵夫人は阻止したかった」
それはつまり、奥様がミルフィーヌお嬢様と関わる時間を少なくし、セドリック様だけと関わらせていれば、奥様にはミルフィーヌお嬢様が奥様を疎ましく思っていると思わせ、ミルフィーヌお嬢様自身にも奥様はセドリック様だけを大切にしているのだと思わせられる? そうすれば、ミルフィーヌお嬢様は誰にも助けを求められないから?
「なぜそんなことを」
「ミルフィ様を孤立させ、侯爵夫人とミルフィ様の仲を悪くして、自分がミルフィ様を支配したかったのかと。その上でパティにミルフィ様とあなたへの悪感情を植え付けようとした」
「なぜ、私まで?」
「……本当に想像でしかありませんが、子爵夫人は侯爵夫人を思い通りにしたかった。自信を無くさせ自分が侯爵夫人に代わりこの家を支配したかった。ミルフィ様を令嬢としてやっていけない様にして、未来を潰したかった」
キム先生の想像でしかないものが、私は恐ろしくてたまらなかった。
子爵夫人が旦那様に執着していたとしても、奥様に母親失格だと思わせる理由が分からなくて尋ねる。
「あなたは仕事熱心だ。自分でもセドリック様に精一杯仕えていると考えていますよね」
「それは勿論です」
私は日々誠心誠意セドリック様にお仕えしている。
最近はミルフィーヌお嬢様の魔法のお陰で体調を崩す頻度は減ってきているけれど、それでも油断は出来ないからほんの少しの変化も見逃さない様に、セドリック様を見守りながら雑務をこなしている。
それは私だけでなく、セドリック様付きの者は皆そうだ。
「私もあなたを見ていてそう感じます。でも、もしあなたが信頼している方に、『セドリック様はあなたが信用出来ないと嘆いていた』と言われたらどう思いますか?」
「え」
キム先生が急に、私が想像もしていなかったことを言いだすから驚きそして最近の自分の仕事ぶりを振り返る。
私は何かセドリック様の不興を買う様なことをしていたのだろうか。
「今のは例えです。どうです? 不安になりましたか?」
「はい、とても。私がセドリック様に何かしてしまったのかと」
「では、今の様なことを何度も言われたら? 『内緒にしておくように言われたけれど、あなたが心配だから打ち明けたのよ。皆知っているのに、当事者のあなたが知らないのは気の毒だと思って』とあなたを、さも案じているから言っているのだと言う感じで言われたら?」
何度も『セドリック様から信用されていない』と、自分が信頼している人から言われたら、セドリック様の近くでお仕えするのが怖くなるだろう。
私の一挙一動、それの何が悪いのか分からないのだから、何をしてもしなくても不安でたまらなくなると思う。
「セドリック様がなぜ私を信用しなくなったのか、その理由が分からないのは不安になると思います。何かしたのかそれともしなかったのか、理由が分からないなら改善出来ませんし、そうしたら……」
「そうしたら?」
「それでも何とか自分の悪いところを改めようと努力すると思いますが、それでもセドリック様に信用されないままだったとしたら、配置換えをお願いしてしまうかも」
情けないと思うけれど、最終的に私は逃げてしまうかもしれない。
「配置換えは認められないとしたら?」
「その時はなるべくセドリック様の目に触れないように、裏方の仕事に……え、そういうことですか?」
今私は例えの話をしていただけだというのに、それでもとても辛い気持ちになった。
でも、今の話を奥様と子爵夫人に当てはめたらどうだろう? 『あなたが心配だから伝えるけれど、ミルフィーヌお嬢様はあなたは母親失格だと、そう思っている』と子爵夫人が何度も奥様に言っていたとしたら?
「ミルフィーヌお嬢様の様子を子爵夫人は度々見に行っていて、その時にミルフィーヌお嬢様が奥様のことを……さすがに母親失格なんて言葉はご存じないとしても、それに近いことを思っている様だと、奥様に話をしていた?」
「ええ、例えば『セドリック様の事ばかり気にして、自分は蔑ろにされていると言っていた』とか『子爵夫人とジョゼットとパティ以外信じられないと言っていた』とか。そういった事を繰り返し言っていたとしたら、侯爵夫人の性格なら思い詰めてしまい、ミルフィ様に近寄れなくなるのではないかと」
キム先生の想像でしかないのに、私はそれが真実にしか思えなくなっている。
だって、私はキム先生の例えだけで不安になった。自信が無くなった。
奥様はとても子爵夫人を信じていたのだから、もしそんな人から言われたらどうしていいか分からなくなるかもしれない。
「侯爵夫人が流産で心が弱っていた時に『あなたの代わりに私がミルフィ様の傍にいるから安心して』と言われたらあの方なら任せてしまうのではないでしょうか」
「それはそうかもしれません。でも、どうしてそんなことを?」
「子爵夫人は自分がミルフィ様を虐待する為に、ミルフィ様の近くに人を増やしたくなかったのではないかと、侯爵は日々忙しいですから元々ミルフィ様と接する時間は少なかったですが、侯爵夫人は比較的屋敷にいる時間はある。実際セドリック様とはご一緒に居られることがあったのですから、普通であればミルフィ様が成長されるにつれ奥様とミルフィ様が共に過ごされる時間も増えていく。それを子爵夫人は阻止したかった」
それはつまり、奥様がミルフィーヌお嬢様と関わる時間を少なくし、セドリック様だけと関わらせていれば、奥様にはミルフィーヌお嬢様が奥様を疎ましく思っていると思わせ、ミルフィーヌお嬢様自身にも奥様はセドリック様だけを大切にしているのだと思わせられる? そうすれば、ミルフィーヌお嬢様は誰にも助けを求められないから?
「なぜそんなことを」
「ミルフィ様を孤立させ、侯爵夫人とミルフィ様の仲を悪くして、自分がミルフィ様を支配したかったのかと。その上でパティにミルフィ様とあなたへの悪感情を植え付けようとした」
「なぜ、私まで?」
「……本当に想像でしかありませんが、子爵夫人は侯爵夫人を思い通りにしたかった。自信を無くさせ自分が侯爵夫人に代わりこの家を支配したかった。ミルフィ様を令嬢としてやっていけない様にして、未来を潰したかった」
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