後悔はなんだった?

木嶋うめ香

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不器用な人なのかもしれない3 (ルーシー視点)

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「放っていた理由、ですか?」

 のろのろと歩きながら、いつの間にか私はキム先生の隣を歩いていたけれどキム先生はそれを非難する様なことは無かった。
 キム先生は侯爵家が招いたセドリック様とミルフィーヌお嬢様の魔法の師で私はただの使用人だというのに、客人と使用人が並んで歩くなんて侍女頭様に見つかったら叱責されてしまうのに、私は何だか心が疲れてしまってそういった気遣いすら面倒だと考えてしまう。

「はい、旦那様はお忙しいですから、関わりたくても出来なかったかもしれません。そもそも幼い子供に深く関わる貴族の男性は少ないと思いますし、でも奥様は……」
「……私の家では両親の興味は嫡男以外には向けられませんでしたが、侯爵はどちらも気にしていらっしゃるように思いますね」

 なんでもない事の様にキム先生が言う、彼はブリーンク伯爵家の三男だから上にお兄様がお二人いらっしゃる。
 ブリーンク伯爵家は過去に何人も宮廷魔法使いになっていると聞いた事があるけれど、確かキム先生のお父様もご兄弟も宮廷魔法使いではなく普通の文官だったと思う。

「旦那様は、はいそうだと思います」

 子爵夫人が解雇される前、ミルフィーヌお嬢様が階段から落ちた。
 あの時は奥様も旦那様もとてもミルフィーヌお嬢様を心配されていたけれど、心配するのと日々気にしているのは違うと思う。
 奥様はセドリック様とは一緒にお茶を頂いたりお庭を散歩されたりしていたし、時々授業の様子を見にいらっしゃることもあった。
 子爵夫人はミルフィーヌお嬢様にまともな授業をしておらずペンの持ち方すらお嬢様はご存じなかったと言うけれど、もしも旦那様か奥様がミルフィーヌお嬢様の授業を見られていたら、何かその時に気が付かれたのでないかと思うけれど、残念ながらお二人共授業見られることは一度も無かった。

「さきほど侯爵夫人は、『やはり私は母親失格、私が頼りないからミルフィーヌは……』と言いました。覚えていますか?」
「え、はい」
「そして、パティはあなたのことを『セドリック様を独占したいと思っているから年が近い自分が邪魔なのだと。だから気をつけなくてはいけないとそう子爵夫人が言っていたセドリック様を独占したいと思っているから年が近い自分が邪魔なのだと。だから気をつけなくてはいけないとそう子爵夫人が言っていた』そう侍女頭殿が聞いたと話していましたね」

 そう、まるで私がセドリック様に懸想しているとでも言わんばかりの事を、パティは侍女頭様に言っていた。
 まだ子供のセドリック様に、そんな恐ろしい感情を私が持つわけがないのに。

「これは私の想像でしかありませんが、子爵夫人は侯爵とセドリック様両方に執着していたのではないでしょうか」
「両方、ですか?」

 それはどういう意味だろう。キム先生が何を言いたいのか分からない。

「今分かっていることは、子爵夫人は侯爵夫人の流産の原因を作り、侍女頭殿を脅していた。ミルフィ様を虐待し、彼女に劣等感を植え付けようとした」
「はい」
「ここからは想像です。彼女は侯爵夫人にミルフィ様の悪い印象を植え付けようとした。そして、ミルフィ様が侯爵夫人に悪感情を持っていると思わせた」

 想像と言われているのに、私は驚きキム先生の言葉を止めてしまった。
 どうして悪感情なんて、そんなことを考えたのだろう。

「侯爵夫人は自分を、やはり母親失格と言ったでしょう? 頼りないからミルフィーヌは、と」
「ええ、でも」
「ミルフィーヌは、その後に続く言葉は『自分を母親失格だと思っている』ではないかと思うのです。つまり、子爵夫人がそうミルフィ様が思っていると侯爵夫人に思わせたのではないかと」

 あまりの想像に、私は何も言えなくなってしまった。
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