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不器用な人なのかもしれない2 (ルーシー視点)
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「使用人なんて、雇い主の気分次第で明日が決まる。私の両親は使用人とは幾らでも替えが利く便利な道具だとしか考えていない。会ったことはありませんが、子爵夫人は私の両親と同じ部類の人間なのでしょう、だから侍女頭殿は口をつぐんだ。侯爵夫妻が自分と子爵夫人のどちらを信用しているか敏感に察して、子爵夫人がもうこれ以上侯爵夫人を害さない様にと密かに動いていた」
歩き出したキム先生が自分の考えを纏めるように話すのを、先生の斜め後ろを歩きながら聞く。
「彼女は私が話している間、自分の腰に付けている鍵束に何度も触れていた。まるでその鍵束こそが自分の立場の象徴だと、まだ自分は大丈夫だと確認でもするかのようだった」
鍵束と聞いて思い出すのは侍女頭様の癖だ。
あの方時々、思い出した様に腰の鍵束に触れる。
鍵束はこの屋敷の玄関や鍵付きの各部屋の鍵、それに高価な香辛料やワインや紅茶等を仕舞っている棚や部屋の鍵等が付けられているらしい。
同じ様な鍵束を、旦那様と家令と執事長も持っているけれど、旦那様はすべての鍵、他はそれぞれの役割で管理している鍵がついているのだと聞いた事がある。
「鍵束を預けられるのは、主人からの信用の証、それを確認するのはそれだけ不安だったから……か」
キム先生の呟きに私はつい頷いてしまった。
先程の侍女頭様のお顔に自信なんて少しも見えなかった。いつもの彼女と全然違って見えた。
いつも自信に満ちて、私達を指導してくれていた侍女頭様に、彼女が告白した苦悩があるとは思っていなかった。
彼女の家は代々この侯爵家に仕えていて、彼女の子供だって孫だって同じ様に仕えていくのだろうと考えていたのに、その立場を追われてしまうかもしれないと考えながら、先程彼女は告白した。
奥様やミルフィーヌお嬢様を守れなかったのは、自分の落ち度だと言わんばかりに。
でも、私は一つだけ納得出来ないでいる。
「なぜパティを見ていたのでしょう」
「え?」
また、キム先生は私の声で足を止め振り返った。
「子爵夫人の場合は仕方が無かったとして、パティには注意出来たのではないかと、……そう思ってしまって」
じぃっと私を見つめる灰色の目に、私は言ってはいけないことを口にしたのかもしれないと、次第に声が小さくなってしまうけれど、キム先生は私をただ見つめながら、右手を自分の顎の辺りに触れながら「そうですね」と言った。
「怖かったのではないでしょうか」
「怖い……ですか?」
「ええ、侯爵夫人はパティの嘘と盗みを知っても庇おうとしている様に私には見えました。侯爵夫人はミルフィ様よりパティを案じている様にも」
実の子より使用人を案じるなんて、そんな事は無いと否定しようとしながら先程の奥様の様子を思い浮かべるけれど、キム先生の考えが正しいとしか思えなくなってくる。
「奥様はミルフィーヌお嬢様を愛していらっしゃる筈です」
それはきっと嘘ではないと、奥様とセドリック様が一緒にいらっしゃる様子を思い出しながら言うけれど、そこにミルフィーヌお嬢様がいた事は無かったと気がついてしまった。
最近朝食はミルフィーヌお嬢様も一緒に取られることが増えたけれど、それまでは旦那様と奥様とセドリック様の三人だった。
ミルフィーヌお嬢様は、早起きが苦手で朝食の時間まで用意が出来ないのが理由だった。
勿論夜会等があれば、旦那様と奥様も朝早く起きることはないけれど、それ以外は忙しいお二人は少しでもセドリック様と接する時間を取るために朝食を一緒に取られていた。
でも、ミルフィーヌお嬢様は?
そうだ、不自然過ぎるほどミルフィーヌお嬢様と、旦那様と奥様は関わりが無かった。
乳母と使用人任せの家ならともかく、この家は子供に積極的に関わろうとしていると私はずっと思っていて、それが素敵だと思ってもいたのに、それはセドリック様にむけてだけで、ミルフィーヌお嬢様にでは無かった。
「愛して、きっと……だって」
ミルフィーヌお嬢様が階段から落ちた時、お二人は心の底から悲しみ心配されていた。
どうでもいいと思っていたなら、心配なんてしないと思う。
だから、愛が無いわけではないと、そう思う。
だとしたら、なぜミルフィーヌお嬢様は放って置かれたのだろう。
歩き出したキム先生が自分の考えを纏めるように話すのを、先生の斜め後ろを歩きながら聞く。
「彼女は私が話している間、自分の腰に付けている鍵束に何度も触れていた。まるでその鍵束こそが自分の立場の象徴だと、まだ自分は大丈夫だと確認でもするかのようだった」
鍵束と聞いて思い出すのは侍女頭様の癖だ。
あの方時々、思い出した様に腰の鍵束に触れる。
鍵束はこの屋敷の玄関や鍵付きの各部屋の鍵、それに高価な香辛料やワインや紅茶等を仕舞っている棚や部屋の鍵等が付けられているらしい。
同じ様な鍵束を、旦那様と家令と執事長も持っているけれど、旦那様はすべての鍵、他はそれぞれの役割で管理している鍵がついているのだと聞いた事がある。
「鍵束を預けられるのは、主人からの信用の証、それを確認するのはそれだけ不安だったから……か」
キム先生の呟きに私はつい頷いてしまった。
先程の侍女頭様のお顔に自信なんて少しも見えなかった。いつもの彼女と全然違って見えた。
いつも自信に満ちて、私達を指導してくれていた侍女頭様に、彼女が告白した苦悩があるとは思っていなかった。
彼女の家は代々この侯爵家に仕えていて、彼女の子供だって孫だって同じ様に仕えていくのだろうと考えていたのに、その立場を追われてしまうかもしれないと考えながら、先程彼女は告白した。
奥様やミルフィーヌお嬢様を守れなかったのは、自分の落ち度だと言わんばかりに。
でも、私は一つだけ納得出来ないでいる。
「なぜパティを見ていたのでしょう」
「え?」
また、キム先生は私の声で足を止め振り返った。
「子爵夫人の場合は仕方が無かったとして、パティには注意出来たのではないかと、……そう思ってしまって」
じぃっと私を見つめる灰色の目に、私は言ってはいけないことを口にしたのかもしれないと、次第に声が小さくなってしまうけれど、キム先生は私をただ見つめながら、右手を自分の顎の辺りに触れながら「そうですね」と言った。
「怖かったのではないでしょうか」
「怖い……ですか?」
「ええ、侯爵夫人はパティの嘘と盗みを知っても庇おうとしている様に私には見えました。侯爵夫人はミルフィ様よりパティを案じている様にも」
実の子より使用人を案じるなんて、そんな事は無いと否定しようとしながら先程の奥様の様子を思い浮かべるけれど、キム先生の考えが正しいとしか思えなくなってくる。
「奥様はミルフィーヌお嬢様を愛していらっしゃる筈です」
それはきっと嘘ではないと、奥様とセドリック様が一緒にいらっしゃる様子を思い出しながら言うけれど、そこにミルフィーヌお嬢様がいた事は無かったと気がついてしまった。
最近朝食はミルフィーヌお嬢様も一緒に取られることが増えたけれど、それまでは旦那様と奥様とセドリック様の三人だった。
ミルフィーヌお嬢様は、早起きが苦手で朝食の時間まで用意が出来ないのが理由だった。
勿論夜会等があれば、旦那様と奥様も朝早く起きることはないけれど、それ以外は忙しいお二人は少しでもセドリック様と接する時間を取るために朝食を一緒に取られていた。
でも、ミルフィーヌお嬢様は?
そうだ、不自然過ぎるほどミルフィーヌお嬢様と、旦那様と奥様は関わりが無かった。
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「愛して、きっと……だって」
ミルフィーヌお嬢様が階段から落ちた時、お二人は心の底から悲しみ心配されていた。
どうでもいいと思っていたなら、心配なんてしないと思う。
だから、愛が無いわけではないと、そう思う。
だとしたら、なぜミルフィーヌお嬢様は放って置かれたのだろう。
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