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なぜそんな事を?7 (キム先生視点)
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「侯爵夫人、あなたも私に任せて下さいますか?」
私が夫人に視線を向けると、びくりと一瞬体を震わせてから「お任せします」と弱々しく返事を返し来た。
もう自分は関わりたくない、辛い現実から逃げ出したいと言わんばかりのその姿に、私はこの人は駄目だと評価を点ける。
確かに今私はパティの名前を出さず、ただ試しの許可を願い出ただけだった。けれど話題はパティの事だったのだから誰に試しをしたいのかこの部屋の中にいる者は理解をしている筈だ。
誰に試しを行うのかを理解せずに任せると言ったのなら問題だし、理解しているのに逃げ腰になっているのなら大問題だと思う。
パティは侯爵夫人の娘ミルフィ様付きの使用人だ。今彼女への対応を間違えてしまえば、将来ミルフィ様に害を及ぼしかねないというのに、侯爵夫人にはその考えが無い様に見える。
もし今パティの罪を甘く裁き許してしまったら、この人の良い侯爵夫人はこれから先もミルフィ様付きとしてパティを雇用し続けそうだ。
そうしなくても、監視という名目で自分付きにする可能性すらある。
人が良く他人を信じやすいこの方がもしもパティを自分の近くに置いたら、罪を犯したことを『今はもう十分に反省しているのだから』と絆されて許してしまいかねない。
そしてそれは、この屋敷の使用人達にも言えることだ。
彼らがミルフィ様ではなく、パティ寄りであるなら、パティを野放しにすることによって、ミルフィ様に悪感情を持つ者を増やしかねないのだから。
「侯爵夫人、侯爵夫人はとてもお優しい方だ、でもパティの罪を何か理由があれば許してあげようなどと、絶対に考えないで下さい」
「え……でも、あの子は今まで十分ミルフィーヌに仕えてくれていましたわ。確かに至らないところはありましたけれど、ずっとミルフィーヌの我儘と癇癪に耐えて……時には涙を浮かべながら……パティにもきっと理由が……」
侯爵夫人の言葉に、私はため息を吐きだしたいのを必死に堪えて侯爵を見た。
侯爵のその顔は、困惑している様に見えた。
私と視線が合うと、小さく首を横に振ってから侯爵夫人を抱きしめる。
「どんな理由があったにせよ、ミルフィ―ヌの物を盗み、ミルフィーヌの嘘の悪い噂を他の使用人達に広めた罪は重いと私は思うよ。それを簡単に許すことは出来ない」
「そんな、あなた。パティは……どうしてもいけませんの?」
この人はどちらの親なのだ、ミルフィ様の母親の自覚はないのだろうか。
「侯爵夫人、あなたの娘が使用人の心ない行いのせいで傷付き泣いていても、心ない行いにも理由があるのだからと許してしまうつもりなのですか?」
「え」
「ミルフィ様は今日とても傷つき悲しみながら、セドリック様に泣きながら謝っていました。ミルフィ様は何も悪くなかったというのに、パティに『リボンは汚れていたから捨てた』と言われたせいでセドリック様に謝るしかなかった」
どれだけ悲しかったか、その心を分かると私は安易に言うことは出来ない。
ミルフィ様はあの時、セドリック様に嫌われたのではないか、とても怒らせてしまったのではないかと怯えてすらいるように見えた。
「我儘で癇癪持ちなら、そんな風に謝るでしょうか? 自分は悪くない、悪いのはリボンを捨てたパティだと言い訳するのではありませんか?」
「……それは……でも、ミルフィーヌはいつも使用人に我儘を……ミルフィーヌは可愛い私の娘だけれど、それでも……」
戸惑う様子の侯爵夫人に、あの時のミルフィ様の姿を見せてやりたい。
なぜミルフィ様を信じようとしないのか分からないが、ミルフィ様を疑う夫人の前に、あの時の、震えながら謝罪するミルフィ様の姿、悲しみながらそ謝るその姿を見せてやりたい。
あの姿を見ても、パティを庇うというのか?
「奥様! ミルフィーヌお嬢様は我儘な方ではございません。確かに子爵夫人は奥様にそう仰っていました。すぐに癇癪を起こして勉強は嫌だと大騒ぎして困ると、反抗的な態度で言うことをきかなくて困ると、ですが私はお嬢様のそんな姿見たことはありませんっ! 奥様にそんな話をしたのは、子爵夫人とパティだけだったではありませんか!」
侍女頭の声にハッとする。
ミルフィ様を悪く言っていたのは、二人だけだった?
それはつまり?
「侯爵、約束して下さい。パティがどんな言い訳をしても罪を償わせる。決して甘い判断はしないと」
「そんな、あなたっ!」
「……侯爵夫人、あなたはパティではなくミルフィ様の母親です。母親なら子供を守るものなのではありませんか?」
私の言葉に、侯爵夫人は俯いてしまうのだった。
私が夫人に視線を向けると、びくりと一瞬体を震わせてから「お任せします」と弱々しく返事を返し来た。
もう自分は関わりたくない、辛い現実から逃げ出したいと言わんばかりのその姿に、私はこの人は駄目だと評価を点ける。
確かに今私はパティの名前を出さず、ただ試しの許可を願い出ただけだった。けれど話題はパティの事だったのだから誰に試しをしたいのかこの部屋の中にいる者は理解をしている筈だ。
誰に試しを行うのかを理解せずに任せると言ったのなら問題だし、理解しているのに逃げ腰になっているのなら大問題だと思う。
パティは侯爵夫人の娘ミルフィ様付きの使用人だ。今彼女への対応を間違えてしまえば、将来ミルフィ様に害を及ぼしかねないというのに、侯爵夫人にはその考えが無い様に見える。
もし今パティの罪を甘く裁き許してしまったら、この人の良い侯爵夫人はこれから先もミルフィ様付きとしてパティを雇用し続けそうだ。
そうしなくても、監視という名目で自分付きにする可能性すらある。
人が良く他人を信じやすいこの方がもしもパティを自分の近くに置いたら、罪を犯したことを『今はもう十分に反省しているのだから』と絆されて許してしまいかねない。
そしてそれは、この屋敷の使用人達にも言えることだ。
彼らがミルフィ様ではなく、パティ寄りであるなら、パティを野放しにすることによって、ミルフィ様に悪感情を持つ者を増やしかねないのだから。
「侯爵夫人、侯爵夫人はとてもお優しい方だ、でもパティの罪を何か理由があれば許してあげようなどと、絶対に考えないで下さい」
「え……でも、あの子は今まで十分ミルフィーヌに仕えてくれていましたわ。確かに至らないところはありましたけれど、ずっとミルフィーヌの我儘と癇癪に耐えて……時には涙を浮かべながら……パティにもきっと理由が……」
侯爵夫人の言葉に、私はため息を吐きだしたいのを必死に堪えて侯爵を見た。
侯爵のその顔は、困惑している様に見えた。
私と視線が合うと、小さく首を横に振ってから侯爵夫人を抱きしめる。
「どんな理由があったにせよ、ミルフィ―ヌの物を盗み、ミルフィーヌの嘘の悪い噂を他の使用人達に広めた罪は重いと私は思うよ。それを簡単に許すことは出来ない」
「そんな、あなた。パティは……どうしてもいけませんの?」
この人はどちらの親なのだ、ミルフィ様の母親の自覚はないのだろうか。
「侯爵夫人、あなたの娘が使用人の心ない行いのせいで傷付き泣いていても、心ない行いにも理由があるのだからと許してしまうつもりなのですか?」
「え」
「ミルフィ様は今日とても傷つき悲しみながら、セドリック様に泣きながら謝っていました。ミルフィ様は何も悪くなかったというのに、パティに『リボンは汚れていたから捨てた』と言われたせいでセドリック様に謝るしかなかった」
どれだけ悲しかったか、その心を分かると私は安易に言うことは出来ない。
ミルフィ様はあの時、セドリック様に嫌われたのではないか、とても怒らせてしまったのではないかと怯えてすらいるように見えた。
「我儘で癇癪持ちなら、そんな風に謝るでしょうか? 自分は悪くない、悪いのはリボンを捨てたパティだと言い訳するのではありませんか?」
「……それは……でも、ミルフィーヌはいつも使用人に我儘を……ミルフィーヌは可愛い私の娘だけれど、それでも……」
戸惑う様子の侯爵夫人に、あの時のミルフィ様の姿を見せてやりたい。
なぜミルフィ様を信じようとしないのか分からないが、ミルフィ様を疑う夫人の前に、あの時の、震えながら謝罪するミルフィ様の姿、悲しみながらそ謝るその姿を見せてやりたい。
あの姿を見ても、パティを庇うというのか?
「奥様! ミルフィーヌお嬢様は我儘な方ではございません。確かに子爵夫人は奥様にそう仰っていました。すぐに癇癪を起こして勉強は嫌だと大騒ぎして困ると、反抗的な態度で言うことをきかなくて困ると、ですが私はお嬢様のそんな姿見たことはありませんっ! 奥様にそんな話をしたのは、子爵夫人とパティだけだったではありませんか!」
侍女頭の声にハッとする。
ミルフィ様を悪く言っていたのは、二人だけだった?
それはつまり?
「侯爵、約束して下さい。パティがどんな言い訳をしても罪を償わせる。決して甘い判断はしないと」
「そんな、あなたっ!」
「……侯爵夫人、あなたはパティではなくミルフィ様の母親です。母親なら子供を守るものなのではありませんか?」
私の言葉に、侯爵夫人は俯いてしまうのだった。
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