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なぜそんな事を?5 (キム先生視点)
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「妹のために貰ったのではないのか?」
呆然と侯爵は、多分誰に聞いたのでもなく呟いた。
誰もがパティの行動に驚いて、信じられない思いだったのだと思う。
「うちは使用人だからといって、空腹で苦しむ様な食事をさせてはいない筈だ。そんな情けない行いをさせる様な、そんな酷い……」
侯爵の人の良さ、育ちの良さが分かる言葉につい笑いそうになる。
この人には理解できないのだろう、私にだって難しいが、納得出来なくても行動理由は分かる。
「空腹だからではありませんよ、侯爵」
私の言葉に、侍女頭だけが頷く。
ルーシーも、母親は後妻とはいえ伯爵家の令嬢として生まれている。彼女の所作はきちんと教育され身に付いたものに見えるから、どちらかと言えば今は侯爵よりの心境だろう。
「どういうことだ」
「空腹だから、行儀悪くそんな食べ方をしたのではありませんよ。多分ですがもっと菓子が食べたかったのでしょう。侯爵家の使用人は満足になれる量を食べられるのかもしれませんが、それでも菓子は使用人には贅沢品でしょうからね」
魔法使いは大食らいだから、すぐに空腹になり周囲が呆れる程に食べる。
私の体感だが、睡眠で回復出来る魔力と食事で回復する魔力は回復する種類が違う気がするのだ。
だから睡眠と食事どちらも大切なのだと思うが、魔法使いは不眠気味な者も多く、そういう者は普通の魔法使いの倍以上に食べる。
ミルフィ様も不眠気味、というより夢に魘されて熟睡出来ていない様だからどうしても食事で魔力回復するしかない。
侯爵家の食事は迷宮産の魔素が多い食材を沢山使っているから良いが、普通の食材では一日中食べ続けても足りないと感じるかもしれない。
だからミルフィ様が空腹から立喰いしても咎めようとは思わない、それが必要だからだ。
でも、パティは違う。
妹のためと言い自分の分け前以上を望み、それを妹に渡さずに自分が食べたのだ。しかも、人目をはばかりながら廊下で立喰いをして。
なんて見苦しい、そんな風に食べて美味しいとか嬉しいとか思うものなのか、理解に苦しむ。
「それでは空腹なのではなく?」
「ええ、きっともっと食べたかったのですよ。失敗作だろうと、甘くて美味しい菓子を、妹にあげたいと嘘まで吐いて人の分を横取りしたのです」
あまりの事に呆れながら、それでも子供ならそんなものかと考えて、すぐに否定する。
毎日の食事を十分に食べられない平民ならともかく、菓子は無理でも十分な食事を用意されている立場、しかも元貴族ならそれが恥ずかしいことだと自覚出来ていなければおかしい。
「そんな、パティは妹を可愛がっているのに、普段から妹を幸せにしたいと口癖の様に言っているわ」
侯爵夫人はそう言うが、それが事実なら一つしかない菓子を躊躇わずに食べた後で、もう一つ貰った菓子まで食べたりしないだろう。
「最初で最後、絶対にもう食べられないものなら兎も角、焼き菓子の一つや二つ食べられる機会はあるでしょうに、妹に渡さずに自分だけ食べてしまう。そんな人間か妹を思っているとは信じられませんがねぇ」
どうもパティに厳しい感情を向けてしまいがちだが、単純に貰ったものを一人で食べてしまったのとは違い、妹にあげたいと強請ったくせに自分が食べてしまったのかという呆れが余計に厳しい目で見せてしまう。
「それで、侍女頭殿はその後どうしたのです?」
「……私は、あまりの事に驚きながらその場では何も言わず、パティの言動を見るようになりました」
「見るとは?」
「平気で嘘を吐く人間は、どんどん大きな嘘を吐く様になります。パティがおかしな事をしないか見張ろうと考えたのでございます」
注意せずにそうしようと考えた理由は分からないが、侍女頭が長年使用人達を見てきた経験からの判断なのだろうか。
「それで、パティを見張るうちに、彼女が自分の可哀想さを誇示しているように感じる様になったというわけですね」
私の問いかけに、侍女頭は真顔で頷いたのだった。
呆然と侯爵は、多分誰に聞いたのでもなく呟いた。
誰もがパティの行動に驚いて、信じられない思いだったのだと思う。
「うちは使用人だからといって、空腹で苦しむ様な食事をさせてはいない筈だ。そんな情けない行いをさせる様な、そんな酷い……」
侯爵の人の良さ、育ちの良さが分かる言葉につい笑いそうになる。
この人には理解できないのだろう、私にだって難しいが、納得出来なくても行動理由は分かる。
「空腹だからではありませんよ、侯爵」
私の言葉に、侍女頭だけが頷く。
ルーシーも、母親は後妻とはいえ伯爵家の令嬢として生まれている。彼女の所作はきちんと教育され身に付いたものに見えるから、どちらかと言えば今は侯爵よりの心境だろう。
「どういうことだ」
「空腹だから、行儀悪くそんな食べ方をしたのではありませんよ。多分ですがもっと菓子が食べたかったのでしょう。侯爵家の使用人は満足になれる量を食べられるのかもしれませんが、それでも菓子は使用人には贅沢品でしょうからね」
魔法使いは大食らいだから、すぐに空腹になり周囲が呆れる程に食べる。
私の体感だが、睡眠で回復出来る魔力と食事で回復する魔力は回復する種類が違う気がするのだ。
だから睡眠と食事どちらも大切なのだと思うが、魔法使いは不眠気味な者も多く、そういう者は普通の魔法使いの倍以上に食べる。
ミルフィ様も不眠気味、というより夢に魘されて熟睡出来ていない様だからどうしても食事で魔力回復するしかない。
侯爵家の食事は迷宮産の魔素が多い食材を沢山使っているから良いが、普通の食材では一日中食べ続けても足りないと感じるかもしれない。
だからミルフィ様が空腹から立喰いしても咎めようとは思わない、それが必要だからだ。
でも、パティは違う。
妹のためと言い自分の分け前以上を望み、それを妹に渡さずに自分が食べたのだ。しかも、人目をはばかりながら廊下で立喰いをして。
なんて見苦しい、そんな風に食べて美味しいとか嬉しいとか思うものなのか、理解に苦しむ。
「それでは空腹なのではなく?」
「ええ、きっともっと食べたかったのですよ。失敗作だろうと、甘くて美味しい菓子を、妹にあげたいと嘘まで吐いて人の分を横取りしたのです」
あまりの事に呆れながら、それでも子供ならそんなものかと考えて、すぐに否定する。
毎日の食事を十分に食べられない平民ならともかく、菓子は無理でも十分な食事を用意されている立場、しかも元貴族ならそれが恥ずかしいことだと自覚出来ていなければおかしい。
「そんな、パティは妹を可愛がっているのに、普段から妹を幸せにしたいと口癖の様に言っているわ」
侯爵夫人はそう言うが、それが事実なら一つしかない菓子を躊躇わずに食べた後で、もう一つ貰った菓子まで食べたりしないだろう。
「最初で最後、絶対にもう食べられないものなら兎も角、焼き菓子の一つや二つ食べられる機会はあるでしょうに、妹に渡さずに自分だけ食べてしまう。そんな人間か妹を思っているとは信じられませんがねぇ」
どうもパティに厳しい感情を向けてしまいがちだが、単純に貰ったものを一人で食べてしまったのとは違い、妹にあげたいと強請ったくせに自分が食べてしまったのかという呆れが余計に厳しい目で見せてしまう。
「それで、侍女頭殿はその後どうしたのです?」
「……私は、あまりの事に驚きながらその場では何も言わず、パティの言動を見るようになりました」
「見るとは?」
「平気で嘘を吐く人間は、どんどん大きな嘘を吐く様になります。パティがおかしな事をしないか見張ろうと考えたのでございます」
注意せずにそうしようと考えた理由は分からないが、侍女頭が長年使用人達を見てきた経験からの判断なのだろうか。
「それで、パティを見張るうちに、彼女が自分の可哀想さを誇示しているように感じる様になったというわけですね」
私の問いかけに、侍女頭は真顔で頷いたのだった。
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