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それは恋ではなく執着と言う3 (キム先生視点)
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「……奥様…………」
自分の思考の中に入り込んでしまった侯爵夫人の耳元に、侍女頭が何事か囁き侯爵夫人が頷くと侯爵夫人の後ろに控えていた侍女頭がすっと前に出て伏し目がちに口を開いた。
「僭越ながら申し上げます。ミルフィーヌお嬢様の専属をジョゼットとパティのみとすると決めた理由は、先程奥様が仰った通りミルフィーヌお嬢様が過度の人見知りをされている様だからなるべく周囲に付く者を少なくするようにと、ガスパール先生が診断された為でございます」
「なるほど」
「その診断後、専属はジョゼットとその娘のパティのみとし、その他のメイド達がミルフィーヌお嬢様のお部屋に伺わねばならぬ場合は極力ミルフィーヌお嬢様の目に触れぬようにしたのでございます」
ガスパール先生の名前に首を傾げる。
私が魔法の師としてこの屋敷に来る時、ガスパール先生はそんな事を言っていた覚えは無い。確か子爵夫人から虐待を受けて、よく知らない人に怯える傾向があるとは言っていたが……まさか?
「侍女頭殿、その診断をされた頃子爵夫人はミルフィ様とすでに面識はありましたか?」
「はい。当時はジョゼットとパティ以外に数名の雑用メイドがついていましたが、子爵夫人は彼女達だけでは頼りないと言って時折ミルフィーヌお嬢様のお部屋に……」
侍女頭の言葉に目を見開き、思わず侯爵の方へ視線を向けてしまう。
なぜ他家の夫人がそこまでこの家の子供に関わっていたのか、子爵夫人が候補家か夫人の血縁ならともかくそうでないのなら、少し入り込みすぎではないだろうか。
「なぜ子爵夫人が? 彼女はその頃どういう立場だったのですか?」
「ミルフィーヌが生まれる前から、彼女はセドリックの家庭教師の一人だった。彼女の夫の家は我が侯爵家の寄り子で、その縁でセドリックの教師となり、月に数回礼儀作法を教えに来ていた」
「子爵夫人の年齢は侯爵とそう変わらない? それともだいぶ若かったのでしょうか」
「……年齢……私より下であったと思うが……」
「子爵夫人は旦那様より二歳下でございます」
よく覚えていないらしい侯爵が自信なさそうに呟きながら夫人達に視線を向けると、侍女頭がすかさず答える。
「そうですか、ならば子爵があまり裕福ではないのですか?」
貴族令嬢が結婚せずに家庭教師になるのはそれなりにある話だが、結婚している場合は余程教育熱心で教師としての情熱があるならともかく、そうでないなら子育てを理由に辞めるものだ。
侯爵より二歳下で結婚しているのだから、夫人が外に出て稼がなければならない程困窮していると言っているようなものだ。
「いや、子爵領は小さいが実り豊かな土地だから夫人の収入を当てにする様なことはないと思う。そもそも彼は王宮勤めをしていし、堅実な性格で贅沢を好んでいるわけでもない」
「……私が……セドリックを授かった頃体調があまり良くなくて、彼女はすでに母親になっていたから相談相手になって貰っていたの。無事セドリックが生まれたけれど、とても体が弱くて……毎日不安で仕方がなくて、その時とても親身に話を聞いてくれて……」
ハンカチを目元に当てながら、侯爵夫人が語る人物と、ガスパール先生や侯爵から聞いていたミルフィ様へ酷い仕打ちをした子爵夫人、その二つが噛み合わない。
「……侍女頭殿の目から見て、子爵夫人はどんな人物でしたか?」
「わ、私ですかっ?」
客観的に子爵夫人の為人を知るには侯爵夫妻の話だけでは駄目だ、今話さなければならないのはパティについてだが、なぜかとても子爵夫人のことが気になっている。
「……私は……子爵夫人は恐ろしい人だと……」
侍女頭は、唇を噛みながら一瞬腰あたりにつけた鍵束を確認する様に触れた後で口を開いた。
「恐ろしいとは? 遠慮無しにすべて聞かせて下さい」
侍女頭は躊躇うように、何度も鍵束に触れる。
あれは無意識の、そう癖の様なものなのだろうか?
「……子爵夫人は、旦那様や奥様の前ではとても優しくお話になっていましたし、私達の前でも大声を出されるわけではありません。ただ、時々私達使用人の出来が良くないと嘆かれて……」
出来が良くない? 私はこの屋敷に来てからパティ以外の使用人にそう感じたことは無かった。
パティに甘い男性使用人は数名いるが、それは子爵夫人の指摘していた部分ではないだろう。
「どういうことなの? あなた達はとても良く仕えてくれているわ」
「……ありがとうございます奥様」
「何か具体的に指摘を受けたことが? それはいつ頃の話ですか」
「初めは、そう、まだセドリック様の家庭教師をされる前です。その頃から時々、指摘とは少し違います。例えば、子爵夫人やその他のお客様にお出しするお茶の茶葉はこれでは駄目だとか、玄関に飾っている花が地味過ぎて見栄えが良くない等を呟いては、でも私達の出来が良くないから仕方が無いのかと」
侍女頭は、子爵夫人の言葉を思い出す様に言いながら、ちらりと視線を侯爵夫人に向ける。
その視線の先で、侯爵夫人はハンカチを握りしめながら、小さく震えていたのだ。
自分の思考の中に入り込んでしまった侯爵夫人の耳元に、侍女頭が何事か囁き侯爵夫人が頷くと侯爵夫人の後ろに控えていた侍女頭がすっと前に出て伏し目がちに口を開いた。
「僭越ながら申し上げます。ミルフィーヌお嬢様の専属をジョゼットとパティのみとすると決めた理由は、先程奥様が仰った通りミルフィーヌお嬢様が過度の人見知りをされている様だからなるべく周囲に付く者を少なくするようにと、ガスパール先生が診断された為でございます」
「なるほど」
「その診断後、専属はジョゼットとその娘のパティのみとし、その他のメイド達がミルフィーヌお嬢様のお部屋に伺わねばならぬ場合は極力ミルフィーヌお嬢様の目に触れぬようにしたのでございます」
ガスパール先生の名前に首を傾げる。
私が魔法の師としてこの屋敷に来る時、ガスパール先生はそんな事を言っていた覚えは無い。確か子爵夫人から虐待を受けて、よく知らない人に怯える傾向があるとは言っていたが……まさか?
「侍女頭殿、その診断をされた頃子爵夫人はミルフィ様とすでに面識はありましたか?」
「はい。当時はジョゼットとパティ以外に数名の雑用メイドがついていましたが、子爵夫人は彼女達だけでは頼りないと言って時折ミルフィーヌお嬢様のお部屋に……」
侍女頭の言葉に目を見開き、思わず侯爵の方へ視線を向けてしまう。
なぜ他家の夫人がそこまでこの家の子供に関わっていたのか、子爵夫人が候補家か夫人の血縁ならともかくそうでないのなら、少し入り込みすぎではないだろうか。
「なぜ子爵夫人が? 彼女はその頃どういう立場だったのですか?」
「ミルフィーヌが生まれる前から、彼女はセドリックの家庭教師の一人だった。彼女の夫の家は我が侯爵家の寄り子で、その縁でセドリックの教師となり、月に数回礼儀作法を教えに来ていた」
「子爵夫人の年齢は侯爵とそう変わらない? それともだいぶ若かったのでしょうか」
「……年齢……私より下であったと思うが……」
「子爵夫人は旦那様より二歳下でございます」
よく覚えていないらしい侯爵が自信なさそうに呟きながら夫人達に視線を向けると、侍女頭がすかさず答える。
「そうですか、ならば子爵があまり裕福ではないのですか?」
貴族令嬢が結婚せずに家庭教師になるのはそれなりにある話だが、結婚している場合は余程教育熱心で教師としての情熱があるならともかく、そうでないなら子育てを理由に辞めるものだ。
侯爵より二歳下で結婚しているのだから、夫人が外に出て稼がなければならない程困窮していると言っているようなものだ。
「いや、子爵領は小さいが実り豊かな土地だから夫人の収入を当てにする様なことはないと思う。そもそも彼は王宮勤めをしていし、堅実な性格で贅沢を好んでいるわけでもない」
「……私が……セドリックを授かった頃体調があまり良くなくて、彼女はすでに母親になっていたから相談相手になって貰っていたの。無事セドリックが生まれたけれど、とても体が弱くて……毎日不安で仕方がなくて、その時とても親身に話を聞いてくれて……」
ハンカチを目元に当てながら、侯爵夫人が語る人物と、ガスパール先生や侯爵から聞いていたミルフィ様へ酷い仕打ちをした子爵夫人、その二つが噛み合わない。
「……侍女頭殿の目から見て、子爵夫人はどんな人物でしたか?」
「わ、私ですかっ?」
客観的に子爵夫人の為人を知るには侯爵夫妻の話だけでは駄目だ、今話さなければならないのはパティについてだが、なぜかとても子爵夫人のことが気になっている。
「……私は……子爵夫人は恐ろしい人だと……」
侍女頭は、唇を噛みながら一瞬腰あたりにつけた鍵束を確認する様に触れた後で口を開いた。
「恐ろしいとは? 遠慮無しにすべて聞かせて下さい」
侍女頭は躊躇うように、何度も鍵束に触れる。
あれは無意識の、そう癖の様なものなのだろうか?
「……子爵夫人は、旦那様や奥様の前ではとても優しくお話になっていましたし、私達の前でも大声を出されるわけではありません。ただ、時々私達使用人の出来が良くないと嘆かれて……」
出来が良くない? 私はこの屋敷に来てからパティ以外の使用人にそう感じたことは無かった。
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「どういうことなの? あなた達はとても良く仕えてくれているわ」
「……ありがとうございます奥様」
「何か具体的に指摘を受けたことが? それはいつ頃の話ですか」
「初めは、そう、まだセドリック様の家庭教師をされる前です。その頃から時々、指摘とは少し違います。例えば、子爵夫人やその他のお客様にお出しするお茶の茶葉はこれでは駄目だとか、玄関に飾っている花が地味過ぎて見栄えが良くない等を呟いては、でも私達の出来が良くないから仕方が無いのかと」
侍女頭は、子爵夫人の言葉を思い出す様に言いながら、ちらりと視線を侯爵夫人に向ける。
その視線の先で、侯爵夫人はハンカチを握りしめながら、小さく震えていたのだ。
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