104 / 164
それは恋ではなく執着と言う2 (キム先生視点)
しおりを挟む
「……やはり私は母親失格、私が頼りないからミルフィーヌは……」
ポツリと侯爵夫人呟いた、やはりという言葉が気になった。
「夫人、やはりとは?」
今話さなければいけないのは、パティの嘘についてだというのに、どうしても気になって尋ねてしまう。
誰かに言われたか、ずっとそう考えてでもいなければ『やはり』なんて言葉は出ては来ないだろう。
「え、あ、キム先生もいらしたのですね」
私が侯爵の後ろに立っているのを、侯爵夫人はたった今気がついたのか、泣いていたのがきまり悪そうに視線を逸らしながら言った。
「ええ、先ほどメイド長が変なことを聞きに来たもので、つい気になって付いてきてしました」
メイド長はセドリック様の部屋に来るなり「ミルフィーヌ様は、今日はずっとこちらにいらっしゃいましたか? パティはどこに?」と言うからミルフィ様は朝食の後セドリック様と共に部屋に移動したからパティは別行動だったと答えた。
セドリック様に魔法を掛ける話はパティも知っている。ミルフィ様の魔法の事はあまり広めない方が良いから、この件を知る使用人には他言しないという魔法契約をさせているが、それ以外の内緒話をする可能性があるのでパティやジョゼットは魔法を掛ける時は同席させていないのだ。
「気になって?」
「ええ、メイド長が確認しに来た件です」
メイド長は詳しく話さなかったが、パティが執事見習いに嘘を吹き込んでいた。それについて実際はどうだったのかを調べに来たのだろう。
それにしても、よくパティの嘘だと気がついたものだ。
「そうでしたか」
「それで、やはりというのは? そう思う理由が何かあるのですか」
「ミルフィーヌにはそう思われて……」
侯爵夫人は私に視線を合わせることなくそれだけ言うが、ますます理由が分からない。
ミルフィ様が侯爵夫人をそんな風に思うとは考えられないし、そう思う理由もないだろう。
「なぜそんな考えを? 君は侯爵家の女主人として日々忙しくしているのに、それでも精一杯子供達と関わろうとして……」
侯爵は、夫人を慰めようとして途中で言葉を止めてしまった。
「セドリックと共に居るのはよく見ていたが、ミルフィーヌとは……?」
「……ミルフィーヌは私がセドリックばかりを気にしていたから、だから私は……」
「セドリックを気にして? それは心配しているだけだろう? あの子はとても体が弱くて、だから少しの変化も見逃せない。だから私達が側にいなくてもセドリックを見守れる様に、十分すぎる程使用人も付けているのだから」
侯爵の言葉に、それでセドリック様付きの使用人は多いのかと納得する。
嫡男の成長と共に将来嫡男が当主となった時に仕える側付きを育てる為、幼い頃から嫡男の周囲に男性使用人を多く配置するのは上級貴族にはよくある事だとはいえ、まだ幼く他家と交流することが殆どないセドリック様の周囲には過剰と思う人数がいる。
ミルフィ様付きが二人、しかもその内の一人が成人前のメイド見習いという状態を考えるとミルフィ様が侯爵夫妻に蔑ろにされていると見えなくもない。
「……あの、一つ教えて頂いてもいいでしょうか。セドリック様は今ご事情があったのだと分かりましたが、ミルフィ様にジョゼットとパティの二人だけしか付いていないのは何故なのでしょうか」
使用人の配置は女主人が最終的に判断するとはいえ、基本は女性使用人は侍女頭やメイド長、男性使用人は執事長や家令が決めるものだが、この家の場合子供達付きの使用人は侯爵夫妻が決めている様に感じる。
この部屋にいるのは侯爵夫妻と侍女頭とルーシーと私、私以外の人間が私の問いに互いに視線を合わせた後、最後に侯爵夫人に視線を向けた。
「……それはミルフィーヌがいらないと。あの子は人見知りで……だから……だから?」
私の問いに答えた侯爵夫人は、その途中で何か疑問を覚えた様だ。
「ミルフィ様が二人だけで良いと? それはいつですか、ミルフィ様は賢い方だと思いますが彼女はまだ三歳の幼児です。その幼いミルフィ様の希望を受け入れたのですか?」
部屋の掃除等は掃除担当の使用人が行っているだろうが、日々の用事をジョゼットとパティだけで行っているのはいくら何でも無理がある。
「……三歳、いいえもっと以前……? 私それを誰から聞いたのかしら」
侯爵夫人は誰に言うでもなく、ポツリとそう言って考え込んでしまったのだった。
ポツリと侯爵夫人呟いた、やはりという言葉が気になった。
「夫人、やはりとは?」
今話さなければいけないのは、パティの嘘についてだというのに、どうしても気になって尋ねてしまう。
誰かに言われたか、ずっとそう考えてでもいなければ『やはり』なんて言葉は出ては来ないだろう。
「え、あ、キム先生もいらしたのですね」
私が侯爵の後ろに立っているのを、侯爵夫人はたった今気がついたのか、泣いていたのがきまり悪そうに視線を逸らしながら言った。
「ええ、先ほどメイド長が変なことを聞きに来たもので、つい気になって付いてきてしました」
メイド長はセドリック様の部屋に来るなり「ミルフィーヌ様は、今日はずっとこちらにいらっしゃいましたか? パティはどこに?」と言うからミルフィ様は朝食の後セドリック様と共に部屋に移動したからパティは別行動だったと答えた。
セドリック様に魔法を掛ける話はパティも知っている。ミルフィ様の魔法の事はあまり広めない方が良いから、この件を知る使用人には他言しないという魔法契約をさせているが、それ以外の内緒話をする可能性があるのでパティやジョゼットは魔法を掛ける時は同席させていないのだ。
「気になって?」
「ええ、メイド長が確認しに来た件です」
メイド長は詳しく話さなかったが、パティが執事見習いに嘘を吹き込んでいた。それについて実際はどうだったのかを調べに来たのだろう。
それにしても、よくパティの嘘だと気がついたものだ。
「そうでしたか」
「それで、やはりというのは? そう思う理由が何かあるのですか」
「ミルフィーヌにはそう思われて……」
侯爵夫人は私に視線を合わせることなくそれだけ言うが、ますます理由が分からない。
ミルフィ様が侯爵夫人をそんな風に思うとは考えられないし、そう思う理由もないだろう。
「なぜそんな考えを? 君は侯爵家の女主人として日々忙しくしているのに、それでも精一杯子供達と関わろうとして……」
侯爵は、夫人を慰めようとして途中で言葉を止めてしまった。
「セドリックと共に居るのはよく見ていたが、ミルフィーヌとは……?」
「……ミルフィーヌは私がセドリックばかりを気にしていたから、だから私は……」
「セドリックを気にして? それは心配しているだけだろう? あの子はとても体が弱くて、だから少しの変化も見逃せない。だから私達が側にいなくてもセドリックを見守れる様に、十分すぎる程使用人も付けているのだから」
侯爵の言葉に、それでセドリック様付きの使用人は多いのかと納得する。
嫡男の成長と共に将来嫡男が当主となった時に仕える側付きを育てる為、幼い頃から嫡男の周囲に男性使用人を多く配置するのは上級貴族にはよくある事だとはいえ、まだ幼く他家と交流することが殆どないセドリック様の周囲には過剰と思う人数がいる。
ミルフィ様付きが二人、しかもその内の一人が成人前のメイド見習いという状態を考えるとミルフィ様が侯爵夫妻に蔑ろにされていると見えなくもない。
「……あの、一つ教えて頂いてもいいでしょうか。セドリック様は今ご事情があったのだと分かりましたが、ミルフィ様にジョゼットとパティの二人だけしか付いていないのは何故なのでしょうか」
使用人の配置は女主人が最終的に判断するとはいえ、基本は女性使用人は侍女頭やメイド長、男性使用人は執事長や家令が決めるものだが、この家の場合子供達付きの使用人は侯爵夫妻が決めている様に感じる。
この部屋にいるのは侯爵夫妻と侍女頭とルーシーと私、私以外の人間が私の問いに互いに視線を合わせた後、最後に侯爵夫人に視線を向けた。
「……それはミルフィーヌがいらないと。あの子は人見知りで……だから……だから?」
私の問いに答えた侯爵夫人は、その途中で何か疑問を覚えた様だ。
「ミルフィ様が二人だけで良いと? それはいつですか、ミルフィ様は賢い方だと思いますが彼女はまだ三歳の幼児です。その幼いミルフィ様の希望を受け入れたのですか?」
部屋の掃除等は掃除担当の使用人が行っているだろうが、日々の用事をジョゼットとパティだけで行っているのはいくら何でも無理がある。
「……三歳、いいえもっと以前……? 私それを誰から聞いたのかしら」
侯爵夫人は誰に言うでもなく、ポツリとそう言って考え込んでしまったのだった。
477
お気に入りに追加
2,036
あなたにおすすめの小説

どんなに私が愛しても
豆狸
恋愛
どんなに遠く離れていても、この想いがけして届かないとわかっていても、私はずっと殿下を愛しています。
これからもずっと貴方の幸せを祈り続けています。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。

誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。

家族に裏切られて辺境で幸せを掴む?
しゃーりん
恋愛
婚約者を妹に取られる。
そんな小説みたいなことが本当に起こった。
婚約者が姉から妹に代わるだけ?しかし私はそれを許さず、慰謝料を請求した。
婚約破棄と共に跡継ぎでもなくなったから。
仕事だけをさせようと思っていた父に失望し、伯父のいる辺境に行くことにする。
これからは辺境で仕事に生きよう。そう決めて王都を旅立った。
辺境で新たな出会いがあり、付き合い始めたけど?というお話です。

今日、大好きな婚約者の心を奪われます 【完結済み】
皇 翼
恋愛
昔から、自分や自分の周りについての未来を視てしまう公爵令嬢である少女・ヴィオレッタ。
彼女はある日、ウィステリア王国の第一王子にして大好きな婚約者であるアシュレイが隣国の王女に恋に落ちるという未来を視てしまう。
その日から少女は変わることを決意した。将来、大好きな彼の邪魔をしてしまう位なら、潔く身を引ける女性になろうと。
なろうで投稿している方に話が追いついたら、投稿頻度は下がります。
プロローグはヴィオレッタ視点、act.1は三人称、act.2はアシュレイ視点、act.3はヴィオレッタ視点となります。
繋がりのある作品:「先読みの姫巫女ですが、力を失ったので職を辞したいと思います」
URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/496593841/690369074

これでも全属性持ちのチートですが、兄弟からお前など不要だと言われたので冒険者になります。
りまり
恋愛
私の名前はエルムと言います。
伯爵家の長女なのですが……家はかなり落ちぶれています。
それを私が持ち直すのに頑張り、贅沢できるまでになったのに私はいらないから出て行けと言われたので出ていきます。
でも知りませんよ。
私がいるからこの贅沢ができるんですからね!!!!!!

笑わない妻を娶りました
mios
恋愛
伯爵家嫡男であるスタン・タイロンは、伯爵家を継ぐ際に妻を娶ることにした。
同じ伯爵位で、友人であるオリバー・クレンズの従姉妹で笑わないことから氷の女神とも呼ばれているミスティア・ドゥーラ嬢。
彼女は美しく、スタンは一目惚れをし、トントン拍子に婚約・結婚することになったのだが。

欲しがり病の妹を「わたくしが一度持った物じゃないと欲しくない“かわいそう”な妹」と言って憐れむ(おちょくる)姉の話 [完]
ラララキヲ
恋愛
「お姉様、それ頂戴!!」が口癖で、姉の物を奪う妹とそれを止めない両親。
妹に自分の物を取られた姉は最初こそ悲しんだが……彼女はニッコリと微笑んだ。
「わたくしの物が欲しいのね」
「わたくしの“お古”じゃなきゃ嫌なのね」
「わたくしが一度持った物じゃなきゃ欲しくない“欲しがりマリリン”。貴女はなんて“可愛”そうなのかしら」
姉に憐れまれた妹は怒って姉から奪った物を捨てた。
でも懲りずに今度は姉の婚約者に近付こうとするが…………
色々あったが、それぞれ幸せになる姉妹の話。
((妹の頭がおかしければ姉もそうだろ、みたいな話です))
◇テンプレ屑妹モノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい。
◇なろうにも上げる予定です。

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる