後悔はなんだった?

木嶋うめ香

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それは恋ではなく執着と言う2 (キム先生視点)

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「……やはり私は母親失格、私が頼りないからミルフィーヌは……」

 ポツリと侯爵夫人呟いた、やはりという言葉が気になった。

「夫人、やはりとは?」

 今話さなければいけないのは、パティの嘘についてだというのに、どうしても気になって尋ねてしまう。
 誰かに言われたか、ずっとそう考えてでもいなければ『やはり』なんて言葉は出ては来ないだろう。

「え、あ、キム先生もいらしたのですね」

 私が侯爵の後ろに立っているのを、侯爵夫人はたった今気がついたのか、泣いていたのがきまり悪そうに視線を逸らしながら言った。
 
「ええ、先ほどメイド長が変なことを聞きに来たもので、つい気になって付いてきてしました」

 メイド長はセドリック様の部屋に来るなり「ミルフィーヌ様は、今日はずっとこちらにいらっしゃいましたか? パティはどこに?」と言うからミルフィ様は朝食の後セドリック様と共に部屋に移動したからパティは別行動だったと答えた。
 セドリック様に魔法を掛ける話はパティも知っている。ミルフィ様の魔法の事はあまり広めない方が良いから、この件を知る使用人には他言しないという魔法契約をさせているが、それ以外の内緒話をする可能性があるのでパティやジョゼットは魔法を掛ける時は同席させていないのだ。
  
「気になって?」
「ええ、メイド長が確認しに来た件です」

 メイド長は詳しく話さなかったが、パティが執事見習いに嘘を吹き込んでいた。それについて実際はどうだったのかを調べに来たのだろう。
 それにしても、よくパティの嘘だと気がついたものだ。

「そうでしたか」
「それで、やはりというのは? そう思う理由が何かあるのですか」
「ミルフィーヌにはそう思われて……」

 侯爵夫人は私に視線を合わせることなくそれだけ言うが、ますます理由が分からない。
 ミルフィ様が侯爵夫人をそんな風に思うとは考えられないし、そう思う理由もないだろう。

「なぜそんな考えを? 君は侯爵家の女主人として日々忙しくしているのに、それでも精一杯子供達と関わろうとして……」

 侯爵は、夫人を慰めようとして途中で言葉を止めてしまった。
 
「セドリックと共に居るのはよく見ていたが、ミルフィーヌとは……?」
「……ミルフィーヌは私がセドリックばかりを気にしていたから、だから私は……」
「セドリックを気にして? それは心配しているだけだろう? あの子はとても体が弱くて、だから少しの変化も見逃せない。だから私達が側にいなくてもセドリックを見守れる様に、十分すぎる程使用人も付けているのだから」

 侯爵の言葉に、それでセドリック様付きの使用人は多いのかと納得する。
 嫡男の成長と共に将来嫡男が当主となった時に仕える側付きを育てる為、幼い頃から嫡男の周囲に男性使用人を多く配置するのは上級貴族にはよくある事だとはいえ、まだ幼く他家と交流することが殆どないセドリック様の周囲には過剰と思う人数がいる。
 ミルフィ様付きが二人、しかもその内の一人が成人前のメイド見習いという状態を考えるとミルフィ様が侯爵夫妻に蔑ろにされていると見えなくもない。

「……あの、一つ教えて頂いてもいいでしょうか。セドリック様は今ご事情があったのだと分かりましたが、ミルフィ様にジョゼットとパティの二人だけしか付いていないのは何故なのでしょうか」

 使用人の配置は女主人が最終的に判断するとはいえ、基本は女性使用人は侍女頭やメイド長、男性使用人は執事長や家令が決めるものだが、この家の場合子供達付きの使用人は侯爵夫妻が決めている様に感じる。
 この部屋にいるのは侯爵夫妻と侍女頭とルーシーと私、私以外の人間が私の問いに互いに視線を合わせた後、最後に侯爵夫人に視線を向けた。
 
「……それはミルフィーヌがいらないと。あの子は人見知りで……だから……だから?」

 私の問いに答えた侯爵夫人は、その途中で何か疑問を覚えた様だ。
 
「ミルフィ様が二人だけで良いと? それはいつですか、ミルフィ様は賢い方だと思いますが彼女はまだ三歳の幼児です。その幼いミルフィ様の希望を受け入れたのですか?」

 部屋の掃除等は掃除担当の使用人が行っているだろうが、日々の用事をジョゼットとパティだけで行っているのはいくら何でも無理がある。
 
「……三歳、いいえもっと以前……? 私それを誰から聞いたのかしら」

 侯爵夫人は誰に言うでもなく、ポツリとそう言って考え込んでしまったのだった。 
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