後悔はなんだった?

木嶋うめ香

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私が悪かった?7 (グレタ視点)

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 子爵夫人と奥様は仲が良かった。とルーシーに告げると、なんとも形容しがたい表情になってしまったから私も戸惑ってしまう。
 怒り? 悲しみ? 驚き? それとも全てなのか、私には判断できそうにない。
 子爵夫人が家庭教師を辞めさせられた。とは聞いているものの詳しい理由までは知らない。
 教師として雇い続けるには問題が出たのだとしか私は聞かされていないからだ。
 旦那様も奥様も子爵夫人をとても信用していたと思うし、特に奥様はご自分が辛い時に寄り添ってくれたことから実の姉のように頼りきっていたように思う。
 だから始め、私は家庭教師を辞めたのは子爵夫人の都合なのだと考えていた。
 まさか辞めさせられたのだとは、思いもしなかったのだ。
 
「もしかして、ルーシーは子爵夫人が辞めさせられた理由をしっているの?」
 
 子爵夫人は、使用人に対して印象が良くない人だった。
 家庭教師も雇われている身ではあるけれど、メイドとは格が違う。
 しかも子爵夫人の場合、奥様の話し相手という意味合いもあったから、使用人として立場はかなり上になるから、ある意味やりたい放題なところはあった。
 私の場合嫌味を言われるというのもあったけれど、それ以外の理由で子爵夫人を苦手としている人はそれなりにいたのだ。

「何を急に」
「問題があったとしか私は知らないから、もしかして旦那様に言い寄ったとかなのかなって」

 子爵夫人はうまく隠していたつもりだろうけれど、旦那様への好意は言葉の端々に透けて見えていた。
 そういう気持ちを察するのが、私は昔から得意な方だと思う。
 何せ父親と愛人のやり取りを嫌になる程見せられていたのだから、敏感にならないほうがおかしい。父親の愛人は、屋敷で働くメイドだった。
 メイドとして働いていて父親に誘われたのか、メイドから誘ったのか分からないけれど、愛人という立場になってもメイドを辞めずに屋敷に居座り続けたのだから、あの女の性根は人として腐りすぎている。
 でもあれを放置していた母も悪い。私が怪しいと思うといくらいっても、そんな筈はないと笑って本気にしないから、夫を寝取られたのだ。

「言い寄るなんてそんな」
「だって、以前から旦那様を狙ってる感じあったでしょ?」
  
 私は怪しいなって思っていた。
 旦那様は子爵夫人を全く相手にしていない感じだったけれど、誰だって魔が差すということはあると思う。

「そんな……嘘よね?」
「旦那様は相手にしてなかったけれどね。もしかして気がついてもいなかったのかも?」

 自分で言って、自信が無くなり首を傾げるけれど、旦那様は貴族とは思えない位に誠実を絵に描いたような方だから、子爵夫人の気持ちに気がついてもいなかったのかもしれない。

「旦那様は相手にされていなかったの?」
「するわけないでしょ、旦那様は奥様一筋って感じがするもの。私、自分の父が酷かったから爵位持ちの男性は妻を蔑ろにして愛人を作るものだと思ってたけれど、旦那様は奥様を大切にされている素晴らしい方だと思うわ。私の父に見習わせたいわ」

 旦那様は奥様と幼い時から婚約していて、奥様一筋で育った方だと以前侍女頭さんから聞いたことがある。
 子爵夫人は侯爵家の隣の領地を治める伯爵家の末娘だったけれど旦那様とは顔見知り程度に過ぎず、旦那様は幼い子供達を集めたお茶会で奥様に一目惚れしてそこから婚約に至ったのだそうだ。
 奥様のご実家は少し離れたところに領地をお持ちだったけれど、週に一度は手紙を送り、季節季節に贈り物を届けに自ら奥様のご実家に通うというのを結婚まで続けたのだそうだ。
 幼い頃からずっと奥様だけを思い続ける旦那様にとって、女性は奥様とそれ以外なのだと思う。
 だから、子爵夫人の横恋慕なんて気がつくわけも無かったのだろう。

「グレタはあの人の気持ちに気がついていたの」
「気がつくというか、疑っていた程度だけ……」

 返事をして、その相手が目の前のルーシーではないと気がつき口を閉じる。
 今の声は?

「それなのに私は信用して、信用しきっていてそのせいであの子を傷つけてしまった。私のせいでミルフィーヌは……」

 慌てて振り返ると、泣き崩れる奥様と奥様に寄り添い慰める侍女頭さんがいたのだ。
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