後悔はなんだった?

木嶋うめ香

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私が悪かった?6 (グレタ視点)

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「そうよ、お嬢様はパティを実の姉の様に慕っていたのに裏切られてしまったのよ」

 ルーシーは、とてもミルフィーヌ様に同情している様に見える。
 彼女は今までセドリック様付きとしてミルフィーヌ様と接していた。だから、ミルフィーヌ様の孤独の日々を理解していたのかもしれない。
 彼女は私と違いまともな環境で育った令嬢に見える。育ちや教育というのは、本人は隠していても立ち居振る舞いである程度察することは出来るものだ。
 ルーシーを見ていると彼女の育ちの良さがよく分かる。恵まれた環境で、多分家族から愛情もたっぷりと与えられ育ってきた彼女にはミルフィーヌ様の日常は気の毒に思えて仕方がないのかもしれない。
 なにせ、旦那様と奥様は領地に戻っていることも多いし、王都に戻ってきた時ものんびりしていられる時間は少ない。というより多忙だ。
 基本的に上級貴族の子供は使用人と家庭教師に囲まれて育つものだけれど、それでも女の子の場合は母親とほんの僅かな時間だけでも一緒に過
す時間を取り、母親が女主人として使用人へ接する態度や細々とした屋敷の采配を実際に見ながら学んでいく。
 そういうのは、家庭教師だけでは教えるのが難しいから、母親を手本に学ぶのだ。
 でもこの家ではそれがされていない、それはミルフィーヌ様がまだ幼いからという理由ではないと思う。
 そもそもミルフィーヌ様は、奥様と一緒にすごすことがない。奥様は確かに忙しい、王都にいる間は社交の為屋敷を留守にすることが多いし、屋敷にいても礼状を認めるとか家政についての確認仕事や指示とかやらなくてはいけないことがとても多いから、ミルフィーヌ様と過ごす時間が取れないのだと言えないこともないが、それでもセドリック様とお話する時間やお勉強している様子を確認する時間は作っている。
 だけど、ミルフィーヌ様の為にはそういう時間を取ろうとはしていない。
 これが今じゃなく一年半程前なら分かる、奥様はあの頃流産されたばかりで、あまり部屋の外に出ようとされていなかった。あの頃は、セドリック様と最低限のふれあいをしていた程度だった。
 流産で傷付いた体は治癒魔法でも上手く治せないらしく、奥様は二度と子供を望めない体になってしまった。流産の悲しみに加え、もう子供を授かることが出来ないと知った奥様の嘆き様は、傍にいるしか出来ない私達使用人ですら心が苦しくなる程だったのだ。
 あの頃悲しんでいた奥様を慰めたのは、ミルフィーヌ様の家庭教師をしていた子爵夫人だった。
 最近問題を起こして辞めさせられた彼女は、それでも当時の奥様の心の支えだったと思う。

「姉の様に……それ子爵夫人が奥様によく言っていた言葉だわ」
「子爵夫人?」
「ミルフィーヌ様の家庭教師をしてた人よ」

 そう言った瞬間、ルーシーが思い切り顔をしかめてしまった。

「どうしたの?」
「……奥様と仲が良かったの?」
「子爵夫人? ええ、あなたはセドリック様にかかりきりだから知らなかったかしら? 一時期はお時間の許す限り一緒にいたわ。それこそ本当の姉妹の様にね」
「一時期……」
「ほら、奥様が流産された頃よ」

 大きな声では言えないから、ルーシーの耳元にそっと囁く。
 私は子爵夫人が苦手だったから、彼女が奥様の部屋に来た時は、裏方の仕事に逃げ込んでいた。
 奥様付きでは若い方になる私は至らないところが多かったのかもしれないが、子爵夫人によく嫌味を言われていたからなるべく顔を合わせないようにしていたのだ。
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