99 / 164
私が悪かった?4 (グレタ視点)
しおりを挟む
「そんな……お嬢様はまだ三歳なのよ。あんなに幼い方を悪者にしてパティは何がしたいというの」
ルーシーは今にも泣きそうな顔で言うけれど、その反応に随分とミルフィーヌ様に肩入れしたものだと驚いてしまう。
この人は誰にでも優しいし、手抜き仕事をしない真面目な人でもあるけれど、いつも穏やかな笑みを浮かべ感情を表に出さないとても貴族的な女性だと思っていた。
セドリック様付きの使用人は皆、体がとても弱い幼い主に真摯に仕えているけれど、その中でも彼女はとても熱心に仕えているとは思っていた。
でも、ミルフィーヌ様に対してはそういう印象は無かったのに、急にどうしたのだろう。
余程パティのことが目に余ったのだろうか?
それとも他に理由があるのか。
その理由を考えていたら、お菓子を食べていたミルフィーヌ様を思い出した。
小さな体なのに物凄く食べるから驚いて見ていたら、食べたそうにしていると誤解したのか私達にお菓子を取って良いと許可をくれたのだ。
『好きなもの選んで良いの、ミルフィねどれも好きなのよ。この蜂蜜のケーキはケーキの上に沢山蜂蜜が掛かって甘くて美味しいし、ジャムのクッキーはね……』
私達が選びやすいようになのか、一つ一つお菓子の説明をして下さったミルフィーヌ様が一番目と二番目に指さしたのは、パティがミルフィーヌ様が食べ飽きたと言っていると話していたお菓子だった。
だけど飽きたどころか、多分ミルフィーヌ様が大好きなお菓子なのだと思う。
だから私達に最初に説明したし、自分が食べ始める時もこの二つを選んでいた。
蜂蜜のケーキはかなり大きい、パティが持っていた皿にこれは無かった筈だと、私がそれを選んだのはの形を良く見てみようと思ったからだけど、迷宮産の蜂蜜と卵と牛の乳を惜しげもなく使ったケーキは、私が今まで食べていたケーキは何だったのかと思う程、美味し過ぎた。
これは、一度食べたら忘れられなくなるし、何度でも食べたくなるだろう。
目の前で食べているのを見ていたら、羨ましいとちょっと思ってしまうかもしれない。
旦那様達が召し上がらずに厨房に下げられた料理やお菓子を食べさせて貰えることはあっても、料理は冷めているしお菓子は乾燥してパサついていることが多い。
あんな今出来たばかりのお菓子、しかも高級食材ばかりを使ったとびきり美味しいお菓子を好きなだけ召し上がっている主の姿を見ているだけなのは辛いだろう。
でも、それが使用人の役割だし、羨ましい狡いと主を恨むのも悪者にするのも筋違いというものだ。
「パティが何がしたいのか分からないけど、どうせ逆恨みでしょ」
「逆恨み」
「だってパティって男爵家の出でしょ、だったら裕福な商人の方が余程贅沢な暮らししてるわよ。あの子のお父様が生きていた時だって高級なお菓子なんて食べていなかったでしょうし、あんな凄いリボンだって持ってなかった筈。あのリボンより私の私物の靴より高価なんじゃないかしらって思うもの」
いくらジョゼットさんが乳母と侍女兼任して少し高めのお給金を貰っていたとしても、幼い子供もいるから贅沢なものは買えないだろうし、メイド見習いのパティはお気持ち程度の給金だろう。
まあ、見習いがお給金を貰えるだけこの家は凄いけれど、そんなこともパティは考えないだろう。
見習いなんて仕事が満足に出来ない半人前扱いだから、住むところと日々の食事とかお仕着せだとかを与えられるだけでもありがたいだろう扱いされるところが多い。それなのにこの家は、低額とはいえお給金は出るし、年の初めにはお小遣いも頂けるのだから、以前行っていた家ではありえない話だ。
それだけこの家が裕福なのだろうけど、だからこそパティは自分とミルフィーヌ様を比べてしまうのかもしれない。
「そうね。とても高級な品よ。リボンにつけられたレースは熟練の職人が編んだものだと仕立て屋が言っていたわ。リボンもレースも迷宮産の魔絹糸を使われているそうよ」
「たかがリボンの縁飾りにそんな凄い職人が編んだレースを使っているの? しかも魔絹糸! 訂正するわ、私物の靴じゃなく私の夜会用のドレスより高価だわ」
奥様のドレスや宝飾品は高いのは当たり前だとしても、子供用のリボンに魔絹糸を使うなんて。
しかもそれでレースを編むとか聞いたことが無いのだけれど、でもそれならミルフィーヌ様が大切なリボンと言うのも分かる気がする。
「グレタ、高価だからとか、魔絹糸を使っているからとか、そんな事をお嬢様は考えていらっしゃらないわ」
「それは、まだ三歳だもの」
「お嬢様は、大好きなお兄様が自分のために選んでくれたものだから大切なの。セドリック様は沢山のリボンの中から一本一本、お嬢様の髪に当てて一番似合うものを選んだの、それを贈ったの」
私が豪華なリボンだと感心していると、ルーシーはそうではないと首を横に振る。
「例えセドリック様が選んだリボンが私達が使う様な安物だったとしても、きっとお嬢様は何より大切なものだと仰った筈よ」
「安物でも?」
「だってセドリック様が、初めてお嬢様に贈ったものなのよ。お嬢様は勿論沢山リボンを持っていらっしゃるけれど、沢山の中にある一本じゃないの大切な宝物だったのよ」
ルーシーの悲しそうな声に、私は何も言えなくなる。
私はそこまでの話だと考えていなかったのだ。
ルーシーは今にも泣きそうな顔で言うけれど、その反応に随分とミルフィーヌ様に肩入れしたものだと驚いてしまう。
この人は誰にでも優しいし、手抜き仕事をしない真面目な人でもあるけれど、いつも穏やかな笑みを浮かべ感情を表に出さないとても貴族的な女性だと思っていた。
セドリック様付きの使用人は皆、体がとても弱い幼い主に真摯に仕えているけれど、その中でも彼女はとても熱心に仕えているとは思っていた。
でも、ミルフィーヌ様に対してはそういう印象は無かったのに、急にどうしたのだろう。
余程パティのことが目に余ったのだろうか?
それとも他に理由があるのか。
その理由を考えていたら、お菓子を食べていたミルフィーヌ様を思い出した。
小さな体なのに物凄く食べるから驚いて見ていたら、食べたそうにしていると誤解したのか私達にお菓子を取って良いと許可をくれたのだ。
『好きなもの選んで良いの、ミルフィねどれも好きなのよ。この蜂蜜のケーキはケーキの上に沢山蜂蜜が掛かって甘くて美味しいし、ジャムのクッキーはね……』
私達が選びやすいようになのか、一つ一つお菓子の説明をして下さったミルフィーヌ様が一番目と二番目に指さしたのは、パティがミルフィーヌ様が食べ飽きたと言っていると話していたお菓子だった。
だけど飽きたどころか、多分ミルフィーヌ様が大好きなお菓子なのだと思う。
だから私達に最初に説明したし、自分が食べ始める時もこの二つを選んでいた。
蜂蜜のケーキはかなり大きい、パティが持っていた皿にこれは無かった筈だと、私がそれを選んだのはの形を良く見てみようと思ったからだけど、迷宮産の蜂蜜と卵と牛の乳を惜しげもなく使ったケーキは、私が今まで食べていたケーキは何だったのかと思う程、美味し過ぎた。
これは、一度食べたら忘れられなくなるし、何度でも食べたくなるだろう。
目の前で食べているのを見ていたら、羨ましいとちょっと思ってしまうかもしれない。
旦那様達が召し上がらずに厨房に下げられた料理やお菓子を食べさせて貰えることはあっても、料理は冷めているしお菓子は乾燥してパサついていることが多い。
あんな今出来たばかりのお菓子、しかも高級食材ばかりを使ったとびきり美味しいお菓子を好きなだけ召し上がっている主の姿を見ているだけなのは辛いだろう。
でも、それが使用人の役割だし、羨ましい狡いと主を恨むのも悪者にするのも筋違いというものだ。
「パティが何がしたいのか分からないけど、どうせ逆恨みでしょ」
「逆恨み」
「だってパティって男爵家の出でしょ、だったら裕福な商人の方が余程贅沢な暮らししてるわよ。あの子のお父様が生きていた時だって高級なお菓子なんて食べていなかったでしょうし、あんな凄いリボンだって持ってなかった筈。あのリボンより私の私物の靴より高価なんじゃないかしらって思うもの」
いくらジョゼットさんが乳母と侍女兼任して少し高めのお給金を貰っていたとしても、幼い子供もいるから贅沢なものは買えないだろうし、メイド見習いのパティはお気持ち程度の給金だろう。
まあ、見習いがお給金を貰えるだけこの家は凄いけれど、そんなこともパティは考えないだろう。
見習いなんて仕事が満足に出来ない半人前扱いだから、住むところと日々の食事とかお仕着せだとかを与えられるだけでもありがたいだろう扱いされるところが多い。それなのにこの家は、低額とはいえお給金は出るし、年の初めにはお小遣いも頂けるのだから、以前行っていた家ではありえない話だ。
それだけこの家が裕福なのだろうけど、だからこそパティは自分とミルフィーヌ様を比べてしまうのかもしれない。
「そうね。とても高級な品よ。リボンにつけられたレースは熟練の職人が編んだものだと仕立て屋が言っていたわ。リボンもレースも迷宮産の魔絹糸を使われているそうよ」
「たかがリボンの縁飾りにそんな凄い職人が編んだレースを使っているの? しかも魔絹糸! 訂正するわ、私物の靴じゃなく私の夜会用のドレスより高価だわ」
奥様のドレスや宝飾品は高いのは当たり前だとしても、子供用のリボンに魔絹糸を使うなんて。
しかもそれでレースを編むとか聞いたことが無いのだけれど、でもそれならミルフィーヌ様が大切なリボンと言うのも分かる気がする。
「グレタ、高価だからとか、魔絹糸を使っているからとか、そんな事をお嬢様は考えていらっしゃらないわ」
「それは、まだ三歳だもの」
「お嬢様は、大好きなお兄様が自分のために選んでくれたものだから大切なの。セドリック様は沢山のリボンの中から一本一本、お嬢様の髪に当てて一番似合うものを選んだの、それを贈ったの」
私が豪華なリボンだと感心していると、ルーシーはそうではないと首を横に振る。
「例えセドリック様が選んだリボンが私達が使う様な安物だったとしても、きっとお嬢様は何より大切なものだと仰った筈よ」
「安物でも?」
「だってセドリック様が、初めてお嬢様に贈ったものなのよ。お嬢様は勿論沢山リボンを持っていらっしゃるけれど、沢山の中にある一本じゃないの大切な宝物だったのよ」
ルーシーの悲しそうな声に、私は何も言えなくなる。
私はそこまでの話だと考えていなかったのだ。
471
お気に入りに追加
2,036
あなたにおすすめの小説

どんなに私が愛しても
豆狸
恋愛
どんなに遠く離れていても、この想いがけして届かないとわかっていても、私はずっと殿下を愛しています。
これからもずっと貴方の幸せを祈り続けています。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。

家族に裏切られて辺境で幸せを掴む?
しゃーりん
恋愛
婚約者を妹に取られる。
そんな小説みたいなことが本当に起こった。
婚約者が姉から妹に代わるだけ?しかし私はそれを許さず、慰謝料を請求した。
婚約破棄と共に跡継ぎでもなくなったから。
仕事だけをさせようと思っていた父に失望し、伯父のいる辺境に行くことにする。
これからは辺境で仕事に生きよう。そう決めて王都を旅立った。
辺境で新たな出会いがあり、付き合い始めたけど?というお話です。

今日、大好きな婚約者の心を奪われます 【完結済み】
皇 翼
恋愛
昔から、自分や自分の周りについての未来を視てしまう公爵令嬢である少女・ヴィオレッタ。
彼女はある日、ウィステリア王国の第一王子にして大好きな婚約者であるアシュレイが隣国の王女に恋に落ちるという未来を視てしまう。
その日から少女は変わることを決意した。将来、大好きな彼の邪魔をしてしまう位なら、潔く身を引ける女性になろうと。
なろうで投稿している方に話が追いついたら、投稿頻度は下がります。
プロローグはヴィオレッタ視点、act.1は三人称、act.2はアシュレイ視点、act.3はヴィオレッタ視点となります。
繋がりのある作品:「先読みの姫巫女ですが、力を失ったので職を辞したいと思います」
URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/496593841/690369074

妹から私の旦那様と結ばれたと手紙が来ましたが、人違いだったようです
今川幸乃
恋愛
ハワード公爵家の長女クララは半年ほど前にガイラー公爵家の長男アドルフと結婚した。
が、優しく穏やかな性格で領主としての才能もあるアドルフは女性から大人気でクララの妹レイチェルも彼と結ばれたクララをしきりにうらやんでいた。
アドルフが領地に次期当主としての勉強をしに帰ったとき、突然クララにレイチェルから「アドルフと結ばれた」と手紙が来る。
だが、レイチェルは知らなかった。
ガイラー公爵家には冷酷非道で女癖が悪く勘当された、アドルフと瓜二つの長男がいたことを。
※短め。

これでも全属性持ちのチートですが、兄弟からお前など不要だと言われたので冒険者になります。
りまり
恋愛
私の名前はエルムと言います。
伯爵家の長女なのですが……家はかなり落ちぶれています。
それを私が持ち直すのに頑張り、贅沢できるまでになったのに私はいらないから出て行けと言われたので出ていきます。
でも知りませんよ。
私がいるからこの贅沢ができるんですからね!!!!!!

笑わない妻を娶りました
mios
恋愛
伯爵家嫡男であるスタン・タイロンは、伯爵家を継ぐ際に妻を娶ることにした。
同じ伯爵位で、友人であるオリバー・クレンズの従姉妹で笑わないことから氷の女神とも呼ばれているミスティア・ドゥーラ嬢。
彼女は美しく、スタンは一目惚れをし、トントン拍子に婚約・結婚することになったのだが。

恋人が聖女のものになりました
キムラましゅろう
恋愛
「どうして?あんなにお願いしたのに……」
聖騎士の叙任式で聖女の前に跪く恋人ライルの姿に愕然とする主人公ユラル。
それは彼が『聖女の騎士(もの)』になったという証でもあった。
聖女が持つその神聖力によって、徐々に聖女の虜となってゆくように定められた聖騎士たち。
多くの聖騎士達の妻が、恋人が、婚約者が自分を省みなくなった相手を想い、ハンカチを涙で濡らしてきたのだ。
ライルが聖女の騎士になってしまった以上、ユラルもその女性たちの仲間入りをする事となってしまうのか……?
慢性誤字脱字病患者が執筆するお話です。
従って誤字脱字が多く見られ、ご自身で脳内変換して頂く必要がございます。予めご了承下さいませ。
完全ご都合主義、ノーリアリティ、ノークオリティのお話となります。
菩薩の如き広いお心でお読みくださいませ。
小説家になろうさんでも投稿します。

欲しがり病の妹を「わたくしが一度持った物じゃないと欲しくない“かわいそう”な妹」と言って憐れむ(おちょくる)姉の話 [完]
ラララキヲ
恋愛
「お姉様、それ頂戴!!」が口癖で、姉の物を奪う妹とそれを止めない両親。
妹に自分の物を取られた姉は最初こそ悲しんだが……彼女はニッコリと微笑んだ。
「わたくしの物が欲しいのね」
「わたくしの“お古”じゃなきゃ嫌なのね」
「わたくしが一度持った物じゃなきゃ欲しくない“欲しがりマリリン”。貴女はなんて“可愛”そうなのかしら」
姉に憐れまれた妹は怒って姉から奪った物を捨てた。
でも懲りずに今度は姉の婚約者に近付こうとするが…………
色々あったが、それぞれ幸せになる姉妹の話。
((妹の頭がおかしければ姉もそうだろ、みたいな話です))
◇テンプレ屑妹モノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい。
◇なろうにも上げる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる