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駄目な私を慰める人8
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「そんな、それじゃパティは?」
大きな声を出したら、何かに襲われでもするかのようにルーシーの声は小さく震えていた。
「あなたはお菓子の皿をパティがひっくり返したのを見たのよね? そして、パティはお嬢様が我儘で別なお菓子が良いと言っていると皆に言った。ここまではいい?」
「……ええ」
「パティは皿に無かったお菓子をお嬢様は飽きたと言ったけれど、私はそれをパティがくすねたんだと思うのよ。お嬢様のお部屋から厨房まではかなりの距離があるし、その途中にパティの部屋があるんだもの。隠すのなんて簡単だから、誰も気が付かないわ。あの子上手いことを考えたわね」
メイドの声は得意そうに聞こえる。
まるで、私が出来損ないだと私に言い続けた子爵夫人の様に、その声は自信と悪意に満ちている。
「お菓子をそのまま下げるために目の前で失敗した振りしてお皿をひっくり返したとしても、幼い優しいお嬢様を騙すのは簡単。申し訳ありませんと涙を浮かべながら謝ればいいだけ。お嬢様のお部屋は掃除が行き届いているから、ほんの少し床に落ちた程度なら私だって、床に落ちたと知っていても食べちゃうわ。だって私達じゃ迷宮産の食材を使った高級品のお菓子なんて絶対に口に出来ないもの」
お父様はその高級品を私の為に沢山用意してくれているのだ、私なんかのために。
それを、パティは私が我儘を言っていると使用人達に広めているのだ。
「パティはお嬢様は我儘で、自分に意地悪をするといつも嘆いていたけれど、きっとそれも嘘なんでしょ? だって本当に意地悪なら一目で高級品だと分かるリボンを使用人にあげたりしないもの」
リボン、私の大切なリボンはパティに盗まれて、私には捨てたと言っていた。
兄様が私にと贈ってくれた、宝物なのに、私はリボン一本すら守れなかった。
「リボン、ねえ、あなたもパティからお嬢様に頂いたと聞いたの?」
「ええ、自慢されたという方が正しいのかも? だってとっても素敵なリボンだったもの。あのリボン一本より私の靴のほうがきっと安いわ。それを頂いたのだから、そりゃ自慢したくなるわ」
違う、あれは私の、私の宝物。
「……お嬢様、パティに汚れたから捨てたと言われたそうよ」
「え?」
「あのリボンは、セドリック様からの贈り物なのにパティはリボンに汚れがついて落ちそうに無かったから捨てたと、お嬢様はそれを聞いてとても悲しんでいらしたのよ」
ヒソヒソと、ルーシーが話す。その声に、メイドが息を呑む。
「それ、お菓子をくすねるどころの騒ぎじゃないじゃない。手癖が悪いにしても限度があるわ」
「手癖って」
「ルーシーはまともな家で育ったから分からないのよね。手癖の悪い使用人は多いのよ。高級な紅茶を仕舞う棚には鍵が掛かっているのが当たり前だしその鍵は執事長と侍女頭しか持ってない。装飾品は何があるか帳面に控えて、勿論棚には鍵が掛けてあるし、下級使用人は奥様や旦那様の部屋に入ることすら出来ない」
それはそうだ、この家だってそれは徹底されている筈だ。
高級な紅茶や香辛料は、一般使用人が触れて良いものじゃないし、お母様の装飾品に触れられるのは限られた使用人だけ。
限られた? 私の装飾品、成人の日の贈り物、婚約が決まった時のお祝い、結婚した時にお母様から受け継いだ侯爵家の女主人が代々受け継いできた首飾り。あれを私はどうした? あの首飾りは……。
「そんなこと当たり前……」
「当たり前だと言えるのは、あなたの育ちがいいからよ。愛人の女が大きな顔で暮らしているような家はね、使用人の質も落ちてしまうの。当然よねご主人様が率先して屋敷の秩序を乱しているんだもの使用人なんて、まともな考えの持ち主は早々と逃げ出すし残るのは手癖の悪い者ばかり」
ふふふっとメイドが笑う。
笑いながら「私の家の話だけどね、そういうところもあるのよ。いい子ちゃんのルーシーには理解出来ないでしょうけれどね」と、言い放った。
大きな声を出したら、何かに襲われでもするかのようにルーシーの声は小さく震えていた。
「あなたはお菓子の皿をパティがひっくり返したのを見たのよね? そして、パティはお嬢様が我儘で別なお菓子が良いと言っていると皆に言った。ここまではいい?」
「……ええ」
「パティは皿に無かったお菓子をお嬢様は飽きたと言ったけれど、私はそれをパティがくすねたんだと思うのよ。お嬢様のお部屋から厨房まではかなりの距離があるし、その途中にパティの部屋があるんだもの。隠すのなんて簡単だから、誰も気が付かないわ。あの子上手いことを考えたわね」
メイドの声は得意そうに聞こえる。
まるで、私が出来損ないだと私に言い続けた子爵夫人の様に、その声は自信と悪意に満ちている。
「お菓子をそのまま下げるために目の前で失敗した振りしてお皿をひっくり返したとしても、幼い優しいお嬢様を騙すのは簡単。申し訳ありませんと涙を浮かべながら謝ればいいだけ。お嬢様のお部屋は掃除が行き届いているから、ほんの少し床に落ちた程度なら私だって、床に落ちたと知っていても食べちゃうわ。だって私達じゃ迷宮産の食材を使った高級品のお菓子なんて絶対に口に出来ないもの」
お父様はその高級品を私の為に沢山用意してくれているのだ、私なんかのために。
それを、パティは私が我儘を言っていると使用人達に広めているのだ。
「パティはお嬢様は我儘で、自分に意地悪をするといつも嘆いていたけれど、きっとそれも嘘なんでしょ? だって本当に意地悪なら一目で高級品だと分かるリボンを使用人にあげたりしないもの」
リボン、私の大切なリボンはパティに盗まれて、私には捨てたと言っていた。
兄様が私にと贈ってくれた、宝物なのに、私はリボン一本すら守れなかった。
「リボン、ねえ、あなたもパティからお嬢様に頂いたと聞いたの?」
「ええ、自慢されたという方が正しいのかも? だってとっても素敵なリボンだったもの。あのリボン一本より私の靴のほうがきっと安いわ。それを頂いたのだから、そりゃ自慢したくなるわ」
違う、あれは私の、私の宝物。
「……お嬢様、パティに汚れたから捨てたと言われたそうよ」
「え?」
「あのリボンは、セドリック様からの贈り物なのにパティはリボンに汚れがついて落ちそうに無かったから捨てたと、お嬢様はそれを聞いてとても悲しんでいらしたのよ」
ヒソヒソと、ルーシーが話す。その声に、メイドが息を呑む。
「それ、お菓子をくすねるどころの騒ぎじゃないじゃない。手癖が悪いにしても限度があるわ」
「手癖って」
「ルーシーはまともな家で育ったから分からないのよね。手癖の悪い使用人は多いのよ。高級な紅茶を仕舞う棚には鍵が掛かっているのが当たり前だしその鍵は執事長と侍女頭しか持ってない。装飾品は何があるか帳面に控えて、勿論棚には鍵が掛けてあるし、下級使用人は奥様や旦那様の部屋に入ることすら出来ない」
それはそうだ、この家だってそれは徹底されている筈だ。
高級な紅茶や香辛料は、一般使用人が触れて良いものじゃないし、お母様の装飾品に触れられるのは限られた使用人だけ。
限られた? 私の装飾品、成人の日の贈り物、婚約が決まった時のお祝い、結婚した時にお母様から受け継いだ侯爵家の女主人が代々受け継いできた首飾り。あれを私はどうした? あの首飾りは……。
「そんなこと当たり前……」
「当たり前だと言えるのは、あなたの育ちがいいからよ。愛人の女が大きな顔で暮らしているような家はね、使用人の質も落ちてしまうの。当然よねご主人様が率先して屋敷の秩序を乱しているんだもの使用人なんて、まともな考えの持ち主は早々と逃げ出すし残るのは手癖の悪い者ばかり」
ふふふっとメイドが笑う。
笑いながら「私の家の話だけどね、そういうところもあるのよ。いい子ちゃんのルーシーには理解出来ないでしょうけれどね」と、言い放った。
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