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駄目な私を慰める人7
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「え、それじゃパティは自分の失敗でお菓子を食べられなくなったのを、お嬢様の我儘のせいにしたっていうことなの?」
メイドは余程驚いたのか、声が大きくなる。
兄様付きの使用人は、ルーシーの様に礼儀作法がしっかり身についている者ばかりだという認識だったが違う者もいるようだ。
お母様はご存知なのだろうか。
「証拠があるわけじゃないから、あなたが私とパティのどちらを信じるか分からないわ。でも、少なくともお嬢様はあの時、癇癪なんて起こしていなかったし、勿論大きな声も聞こえなかったわ」
「ふうん。そうなのかあ」
くすくすとメイドは意地悪く笑う。
「何を笑って……私は真面目に話しているのに」
「ううん、私ルーシーを信じるわ。だってさっきのお嬢様の食べっぷり凄かったもの、あんなに幸せそうに凄い勢いで食べる子が、我儘で作り直しなんて言わないでしょ」
メイドの言葉に、恥ずかしさで顔が熱くなる。
私が我儘を言っていないと信じて貰えたという安堵よりも、食べっぷりが凄いと言われた事に衝撃を受けてしまう。
魔法を使えば使う程空腹になるとはいえ、凄い勢いと言われる程の食べ方は、貴族令嬢として大問題だ。
今はまだ幼いから笑って許されているかもしれないけれど、それだって後数年が限度だろう。
空腹過ぎて周囲を意識する余裕などないのが本音だけれど、それでも私は侯爵家の娘なのだから、日頃から気をつけなければいけないのだ。
量を食べるのは仕方がないとしても、問題は食べ方だ。
「私もさっきはパティの話を聞いてたから、ついお嬢様を試してみたけど、申し訳ない事したわ。これもあれも美味しいって食べながら、私達にも一つずつ下さったでしょ? お嬢様とお話ししたのは初めてだけれど優しい方なのね」
「そうよ、とても優しい方よ」
優しいわけではない。あのメイドが妙に私を見てくるから、食べにくくて一つずつ好きなお菓子を取らせたのだ。
ルーシーはかなり遠慮していたけれど、メイドは遠慮なく一番大きなケーキを取って食べていた。
「パティは私に言ったの。蜂蜜をたっぷり使ったケーキもジャムを挟んだクッキーも、私には贅沢品なのにそれを飽きたと言うなんてってさ。それってさっきお嬢様が大好きって言いながら食べていたものでしょ」
「その二つは特にお嬢様が気に入っていらっしゃるものですからね」
「そうでしょうね、見ていて分かったもの。……でもパティが持っていた皿に、その二つが無かったのよ。だから私、皿に無いものをどうしてお嬢様は飽きたなんて言ったのかしら? ってあの時不思議に感じたのよね」
メイドが言っていたジャムを挟んだクッキーも蜂蜜のケーキも私の好物だけれど、あの時床に落ちたお菓子の中にそれがあったかどうか覚えていない。
「あなたが気が付かなかっただけじゃない?」
「でも、クッキーはともかく蜂蜜のケーキって結構大きいから目立つわよ。私良く見たくてさっき遠慮無くそれを頂いたけれど、あれを見落とすなんてありえないわ」
このメイド、それなりに考えがあっての行動なのか。
でも、皿に無いものを何故パティはわざわざ話に出したのか分からない。
「あなた何が言いたいの?」
「ん? そうねえ、あなたは育ちがいいからそういう使用人っていなかったのかしら」
「どういうこと?」
このメイドの為人が分からないけれど、ルーシーにいちいち嫌味を言わずにいられないのだろうか。
「お部屋から下げられたものって、料理長とかの機嫌にもよるけれど、私達が食べられることがあるわよね」
「手付かずの場合はそうね」
「でも、それを貰えるのって、食べて良いと許可を出す人のお気に入りの人だったり、立場が上の人だったりするじゃない?」
それはそうだ、この屋敷の使用人は多いから、全ての者に行き渡ることは無いだろう。
「食堂からお食事を下げる時は人目も多いから難しいけれど、例えばこういう焼き菓子をお部屋に運んで、食べられずに残ったものを下げる時は大抵は一人で運ぶわよね」
「ええ、そうね。それが?」
メイドが何を言いたいのか分からないが、ルーシーも同じ様だ。
困惑している様に聞こえる。
「料理人は元々余る前提で多めに用意しているけれど、それがどれだけ食べられたのか分からないわ」
「それはそうでしょう」
「それってね、途中でくすねても誰も分からないって事なのよ」
くすね? どういう意味だろう。
意味が分からず首を傾げるけれど、それはルーシーも同じだったようだ。
「くすねて?」
「あぁ、知らない? くすね取る、つまり盗み」
「え?」
「下げたお菓子を運良く自分が貰えるとは限らないでしょ? このお屋敷ではしないけれど日持ちするなら翌日にもう一度出すために残しておくかもしれないし、使用人達で食べるとしても良いものなら上級使用人に渡されちゃうのが普通だもの。だから自分の分を確保するのよ」
「そ、そんなの許されることじゃないわ」
当然の様にメイドは言うけれど、ルーシーはとても驚いているようだった。
メイドは余程驚いたのか、声が大きくなる。
兄様付きの使用人は、ルーシーの様に礼儀作法がしっかり身についている者ばかりだという認識だったが違う者もいるようだ。
お母様はご存知なのだろうか。
「証拠があるわけじゃないから、あなたが私とパティのどちらを信じるか分からないわ。でも、少なくともお嬢様はあの時、癇癪なんて起こしていなかったし、勿論大きな声も聞こえなかったわ」
「ふうん。そうなのかあ」
くすくすとメイドは意地悪く笑う。
「何を笑って……私は真面目に話しているのに」
「ううん、私ルーシーを信じるわ。だってさっきのお嬢様の食べっぷり凄かったもの、あんなに幸せそうに凄い勢いで食べる子が、我儘で作り直しなんて言わないでしょ」
メイドの言葉に、恥ずかしさで顔が熱くなる。
私が我儘を言っていないと信じて貰えたという安堵よりも、食べっぷりが凄いと言われた事に衝撃を受けてしまう。
魔法を使えば使う程空腹になるとはいえ、凄い勢いと言われる程の食べ方は、貴族令嬢として大問題だ。
今はまだ幼いから笑って許されているかもしれないけれど、それだって後数年が限度だろう。
空腹過ぎて周囲を意識する余裕などないのが本音だけれど、それでも私は侯爵家の娘なのだから、日頃から気をつけなければいけないのだ。
量を食べるのは仕方がないとしても、問題は食べ方だ。
「私もさっきはパティの話を聞いてたから、ついお嬢様を試してみたけど、申し訳ない事したわ。これもあれも美味しいって食べながら、私達にも一つずつ下さったでしょ? お嬢様とお話ししたのは初めてだけれど優しい方なのね」
「そうよ、とても優しい方よ」
優しいわけではない。あのメイドが妙に私を見てくるから、食べにくくて一つずつ好きなお菓子を取らせたのだ。
ルーシーはかなり遠慮していたけれど、メイドは遠慮なく一番大きなケーキを取って食べていた。
「パティは私に言ったの。蜂蜜をたっぷり使ったケーキもジャムを挟んだクッキーも、私には贅沢品なのにそれを飽きたと言うなんてってさ。それってさっきお嬢様が大好きって言いながら食べていたものでしょ」
「その二つは特にお嬢様が気に入っていらっしゃるものですからね」
「そうでしょうね、見ていて分かったもの。……でもパティが持っていた皿に、その二つが無かったのよ。だから私、皿に無いものをどうしてお嬢様は飽きたなんて言ったのかしら? ってあの時不思議に感じたのよね」
メイドが言っていたジャムを挟んだクッキーも蜂蜜のケーキも私の好物だけれど、あの時床に落ちたお菓子の中にそれがあったかどうか覚えていない。
「あなたが気が付かなかっただけじゃない?」
「でも、クッキーはともかく蜂蜜のケーキって結構大きいから目立つわよ。私良く見たくてさっき遠慮無くそれを頂いたけれど、あれを見落とすなんてありえないわ」
このメイド、それなりに考えがあっての行動なのか。
でも、皿に無いものを何故パティはわざわざ話に出したのか分からない。
「あなた何が言いたいの?」
「ん? そうねえ、あなたは育ちがいいからそういう使用人っていなかったのかしら」
「どういうこと?」
このメイドの為人が分からないけれど、ルーシーにいちいち嫌味を言わずにいられないのだろうか。
「お部屋から下げられたものって、料理長とかの機嫌にもよるけれど、私達が食べられることがあるわよね」
「手付かずの場合はそうね」
「でも、それを貰えるのって、食べて良いと許可を出す人のお気に入りの人だったり、立場が上の人だったりするじゃない?」
それはそうだ、この屋敷の使用人は多いから、全ての者に行き渡ることは無いだろう。
「食堂からお食事を下げる時は人目も多いから難しいけれど、例えばこういう焼き菓子をお部屋に運んで、食べられずに残ったものを下げる時は大抵は一人で運ぶわよね」
「ええ、そうね。それが?」
メイドが何を言いたいのか分からないが、ルーシーも同じ様だ。
困惑している様に聞こえる。
「料理人は元々余る前提で多めに用意しているけれど、それがどれだけ食べられたのか分からないわ」
「それはそうでしょう」
「それってね、途中でくすねても誰も分からないって事なのよ」
くすね? どういう意味だろう。
意味が分からず首を傾げるけれど、それはルーシーも同じだったようだ。
「くすねて?」
「あぁ、知らない? くすね取る、つまり盗み」
「え?」
「下げたお菓子を運良く自分が貰えるとは限らないでしょ? このお屋敷ではしないけれど日持ちするなら翌日にもう一度出すために残しておくかもしれないし、使用人達で食べるとしても良いものなら上級使用人に渡されちゃうのが普通だもの。だから自分の分を確保するのよ」
「そ、そんなの許されることじゃないわ」
当然の様にメイドは言うけれど、ルーシーはとても驚いているようだった。
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